感染対策コミュニケーションの場
導入事例
第20回 清潔で安全なディスポーザブル駆血帯の導入
慶應義塾大学病院
- ■住所
- ■〒160-0016
東京都新宿区信濃町35
- ■病床数
- 1,044床
- ■全職員数
- 2,673名(平成26年3月1日現在)
- ■手術件数
- 13,860件(平成26年度)
- ■病院のホームページ
- http://www.hosp.keio.ac.jp/
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慶應義塾大学病院は神宮外苑、神宮球場、新宿御苑などに囲まれ、緑豊かな都心に位置しています。大正9年(1920年)の開院以来、創立者福澤諭吉先生の「独立自尊」、「実学」の精神に基づき、患者さんに優しく患者さんに信頼される患者さん中心の医療を実践されるとともに、特定機能病院として先進医療を提供されています。また、豊かな人間性と深い知性を有する医療人の育成や、人権を尊重した医学と医療を通して人類の福祉に貢献する取り組みを推進されています。
サラヤ ターニケット 導入までの道のり
- サラヤ ターニケットの導入を検討された背景は?
駆血帯は、採血する部位に触れるわけではありませんが、採血時に直接皮膚に触れるため、清潔なものでなければなりません。サラヤ ターニケット導入前は、天然ゴム(アメゴム)またはシリコンのチューブ駆血帯を使用していました。駆血帯の管理は、採血毎にアルコールで清拭消毒を行い、感染症あるいは耐性菌が検出されている患者さんにはその患者さん専用の駆血帯を使用し、明らかに血液が付着している場合には破棄するようにしていました。このように感染伝播予防対策を講じていましたが、採血毎のアルコール清拭消毒は、繁雑な採血業務の中で看護師が行っているため、きちんと消毒できているか疑問でした。そして、チューブ駆血帯は中空のため浮いてしまい、完全に浸漬することができないにも関わらず、病棟によっては、洗浄剤や消毒剤に浸漬していることがありました。さらに、保管されている駆血帯を確認すると消毒後であるにも関わらず血液が付着していることがあり、駆血帯の管理方法に問題を感じていました。また、昨年度の看護部の委員会において、採血トレーの再生処理方法について議論した際、駆血帯の再生処理方法が問題となり、駆血帯はディスポーザブルで使用するのがよいと思われました。
- サラヤ ターニケットの導入
当院で最初にサラヤ ターニケットを導入した部署は、透析室でした。透析室は、感染対策の強化に非常に意欲的に取り組んでいます。清潔と不潔のゾーニングを検討した際、患者に使用し血液汚染した駆血帯をどのように管理するかが問題になり、ディスポーザブルで使用することにしました。始めは、アメゴムチューブをディスポーザブルで使用することを考えましたが、アメゴムチューブを切断して準備することに手間がかかる問題がありました。そこで、ディスポーザブル製品であるサラヤ ターニケットを導入することになりました。その後、病棟で使用している駆血帯においても感染対策上ディスポーザブルにするべきと考え、看護部と業務次長を中心に導入の検討を行いました。最初に、採血業務の多い血液内科病棟で導入し、操作性等を確認しました。その結果、問題はなかったため全病棟に導入することが決定しました。
- 導入の決め手は何でしたか?
サラヤ ターニケットを採用した一番の決め手は、ディスポーザブルであることです。駆血帯は、血液汚染が起こりやすい器材です。また、免疫力の落ちた患者さんに対しては、感染症予防、すなわち患者さんから患者さんへの微生物伝播を防ぐためにとても気を使います。そのような中、患者さん毎に新しい駆血帯を使用できることはとても安心できます。また、チューブ駆血帯は数が多く必要であったため、保管スペースが必要でしたが、サラヤ ターニケットは、リボン状の駆血帯が25本分巻かれて小さな箱に入っているため保管スペースもとらず、衛生的です。
また、以前はラテックスアレルギー患者さんのために、シリコンチューブを用意し、アメゴムチューブと使い分けていた時期もありましたが、サラヤ ターニケットはラテックスフリーであるため、そのような使い分けの必要がないところも考慮しました。
色もピンクでかわいらしく、患者さんに対する印象も良いと思いました。
サラヤ ターニケットの導入後
- サラヤ ターニケットの導入後、スタッフからの評判はいかがですか?
サラヤ ターニケットの導入当初は、駆血帯の形状がチューブからリボン状(幅2.5cm×長さ40cm)に変わったため、患者さんの腕に巻きにくく、縛っている感じかしない、採血がしにくいという意見がありました。また、サラヤ ターニケットは、長さ約10mのリボンに1回分の長さ(40cm)毎にミシン目が入っていて、その部分を手で切って使用しますが、そのミシン目がわかりづらいという意見もありました。しかし、実際はきちんと採血でき、またミシン目も慣れればすぐに発見できるようになり、問題はありませんでした。
何より、ディスポーザブルなので、採血後のエタノール清拭消毒や保管といった業務の負担が減ったことや、患者さんから患者さんへの微生物伝播を確実に防げることが、看護師に受け入れられています。また、患者さんによっては、皮膚の落屑が多い、あるいは軟膏を塗布している方もいるため、使用後の駆血帯の清浄化が行いにくいことがありましたが、ディスポーザブルなので、このような煩わしさもなくなりました。
ただし、唯一の欠点は、小さな子供の採血に用いた場合、サラヤ ターニケットは幅があるため採血部位を被ってしまい使用できないところです。小さな子供用として、幅の細いものがあるとよいと思います。
-サラヤ ターニケットに関する患者さんの反応はいかがですか?
患者さんからは、以前より駆血時に「痛くない」、「楽になった」という意見をいただいています。患者さんの中には、連日採血を受けていたり、採血に恐怖心を感じていたりなど、採血にストレスを感じている方もいます。駆血1つであっても、以前と比べて痛くない、楽になったということは、患者さんのストレスを多少なりとも軽減することになるのではないかと思います。患者さんにとってやさしいということは非常に大きいと思います。
NEXT STEP
-今後の課題や目標をお聞かせください。
諸外国と同じく日本においても個人防護具をはじめとするディスポーザブル製品が増えてきていると思います。しかし、排泄物処理関係の製品は、まだまだ多くのものがリユースされています。例えば、尿器や便器は、英国などでは再生紙などで製造したディスポーザブルの製品とその処理機が販売され、多くの病院で使用されています。これらは、排泄物の計量を行う場合には問題があるかもしれませんが、使用してみたいディスポーザブル製品のひとつです。
また、患者さんが痛さや冷たさを感じないように使用する差し込み便器用のカバーについてもディスポーザブルの必要性を感じています。現在使用している差し込み便器用カバーは、耐熱性がなく熱水処理ができないため器材再生処理の中央化から外れ、病棟で看護助手が手洗いをしています。また、陰部洗浄用ボトルは、現在使用しているものは先が細いチューブになっていて、洗浄や消毒が行い難いタイプです。下痢の患者さんでは、1日に何回も陰部洗浄を行うため、そのたびにボトルの洗浄・消毒を行わなければなりません。陰部洗浄用ボトルもディスポーザブルであればこれらの業務が軽減され、陰部洗浄の遵守も向上すると思っています。
ディスポーザブル製品の導入が進むとごみが増えますが、病院全体、世の中全体で見た時、これらの製品のディスポーザブル化は衛生面、効率面からも優先的に行われるべきであると思います。もしディスポーザブル化よりもリユースを優先するのであれば、簡便で確実なリサイクル方法を考え、対応しなければならないと思います。
今回インタビューさせていただいた方々
高野 八百子様
感染制御センター 課長
感染症看護専門看護師
内田 智栄様
内田様の経歴
- 1994年
- 慶應義塾大学病院 入職
- 2008年4月
- 血液内科、消化器内科混合病棟へ配属
- 2013年8月
- 血液内科メインの病棟となり現在に至る
編集後記
駆血帯は血液や微生物で汚染されることがあり、微生物伝播のリスクとなる可能性があります。実際の採血手順の確認から、駆血帯への血液汚染や感染症リスクを低減するため、そしてスタッフの方の作業効率を検討され、さらに患者さんへの優しさを考えたお話しを伺い、感銘を受けました。特に、「患者さんに優しく患者さんに信頼される患者さん中心の医療」という理念に沿った、「患者さんに優しいということが一番です」という言葉が印象的であり、熱い思いを感じました。
- 取材日
- :2016年1月28日
- インタビュー
- :サラヤ 吉田、遠藤、羽鳥
電話によるお問合せ: 06-4706-3938(受付時間:平日9:00~18:00)