第7回 多角的取り組みによるラビング法の導入
岐阜大学医学部附属病院
- ■住所
- 〒501-1194
岐阜県岐阜市柳戸1番1
- ■病床数
- 606床
- ■全職員数
- 1,170名(平成23年9月1日現在)
- ■手術件数
- 4,868件(平成22年度)
- ■病院のホームページ
- http://hosp.gifu-u.ac.jp/
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岐阜大学医学部附属病院の歴史は古く、明治時代初期より地域の中核病院として医療を提供されています。
現在は、難病疾患の拠点病院、都道府県がん診療連携拠点病院、高度救命救急センターに指定され、高度な手術治療などを実施されると同時に、患者さんの身体的・精神的苦痛に対して緩和ケアなども実施されています。
また、人材育成に努力されており、医療の質の向上、医療安全の確保、チーム医療を推進されています。
手術部は、特定機能病院かつ急性期病院の中央診療施設の一部門として、手術を受けるすべての患者さんが、安全で標準的・効率的な質の高い周術期医療を、予定・緊急に拘わらず安心して受けられる環境を提供することを理念とされています。
では、岐阜大学医学部附属病院手術部が実施された「ラビング法の導入」について紹介します。
導入製品
速乾性手指消毒剤(手指消毒用速乾性アルコールローション)
ヒビスコール液A
製品情報はこちら
ラビング法導入までの道のり
- 手術時手指消毒にラビング法の導入を検討された背景は?
2006年にラビング法の有用性について情報収集していた手術部看護師の感染対策委員から当院でもラビング法を導入したい、という意見が挙がりました。そこで、毎月開催している手術部看護師のカンファレンスで、ラビング法へ移行しつつある流れやラビング法の利点・欠点について、看護師に説明しました。その後、実際にラビング法を看護師全員に体験してもらい、理解を得た上でポスターを手洗い場に貼付してラビング法をスタートしました。
アルコール過敏症の人は従来通りスクラブ法を実施しましたが、それ以外の看護師は全員ラビング法を導入しました。医師については、手術部運営委員会で説明したところ、2つの診療科以外は賛同を得、導入にあたり市販のビデオを配布しました。しかし、ラビング法への統一を強制はせず、それぞれの医師がスクラブ法とラビング法を選択できるようにしたため、ラビング法を医師へ広く浸透させることができませんでした。
- 医師を含め、全科全職員でのラビング法導入に至った経緯は?
村瀬手術部看護師長
2009年に手術部位感染(SSI)が複数例発生したことがきっかけとなりました。
その際、国立大学附属病院感染対策協議会の改善支援ラウンドを実施していただきました。指導ポイントの1つに、手術時手洗い法がラビング法とスクラブ法が混在している運用のため、混乱を招いていることで適切な手術時手洗いを行えていないスタッフがいるという指摘を受けました。
それを機にICTと手術部で、全診療科の医師に統一してラビング法を導入することを検討しました。
- 医師へのラビング法導入はスムーズでしたか?
複数例のSSI発生後、ICTと手術部で対策を検討する中で、上記指摘も踏まえ病院として手術時手洗い法をラビング法へ統一することを決定し、中央診療部門や各診療科の病棟医長が出席する手術部運営委員会において、全職種がラビング法で手術時手洗いを行うことの承認を得ました。それに加え、当院で全職員を対象として年2回実施している医療安全・感染対策セミナーにおいて、手術部位感染対策や手術時手洗いについて、ICNから講義を行い、手術時手洗いをラビング法へ統一することによるメリット、実際の手順などを説明し、医師を含め全職員への周知ができ、導入をスムーズにできました。
- アルコール過敏症の方への対応は?
アルコール過敏症の職員にはスクラブ法専用の手洗い場を確保しています。また、適切にスクラブ法が実施できるように指導しています。スクラブ剤はクロルヘキシジングルコン酸塩製剤とポビドンヨード製剤の両方を用意し、どちらでも使えるよう環境を整えています。
手術室の手洗い場
清潔に維持されたシンク、手順ポスター、手指消毒剤があり、適切に手術時手指衛生が実施できる環境が整えられている。
全科におけるラビング法導入後
- ラビング法の手順の周知、実施の徹底はどのようにされましたか?
ラビング法への統一を病院の決定事項とし、全職員を対象にしたセミナーで、ラビング法の効果や手順などの説明を受けたり、ラビング法の手順ポスターとDVDを作成し、各診療科に配布して教育に活用してもらったりしました。
にもかかわらず導入1ヶ月程の時点で浸透度が悪かったため、手術時手洗い実施時にもすぐにラビング法の手順を確認できるように手術室の手洗い場にパソコンを1台設置し、常時DVDを流すよう工夫しました。
また、手洗い場ではリーダー看護師が術者の手術用ガウン着用を介助しているので、その際にラビング法を実施しているか、手順・手指消毒剤の量は適切かを医師に確認するようにしました。
当初、医師におけるラビング法導入の目標は医師全体の80%としていましたが、病院全体でSSI減少に取り組んだこともあり、医師もその後協力的ムードが高まり、全診療科におけるラビング法導入決定3ヶ月後には、目標の医師80%、看護師100%を達成しました。
手術室の手洗い場で常時流されるDVD
ラビング法の手順がいつでも確認でき、適切な手指衛生実施の喚起となっている。
- DVDの作成のきっかけは?
ICTと手術部のミーティングで、交代の多い医師や学生を含めどのようにしたら手順を徹底できるかを話し合いました。様々なアイデアの中で、手順を可視化してしっかり理解できるとともに、手軽に配布でき、また自分にあったタイミングで視聴できるDVD活用の提案があり、その作成を決定することになりました。
DVDを作成するにあたっては「標準化」と「最適化」に心がけました。「標準化」とは、一般的に妥当性が明らかで誰もが実施可能な手順、「最適化」とは、スタッフの入れ替わりが多く、学生が多数出入りする大学病院手術部の特性を配慮し、視聴した者がラビング法を容易に実施できるようわかりやすく、また実践しやすいように映像作製に工夫を加えました。
作成は外部に委託せず、手術部の講師である医師にモデルになってもらい、撮影・編集は副部長の医師が行いました。外科医・看護師・研修医のみならず学生も加え、手術部を利用する全スタッフに見てもらいラビング法を徹底したいという熱い思いから、日ごろ手術部で一緒に働いているスタッフで作り上げました。
- 手術部の手洗い場でDVDを常時流すことの効果はどうでしたか?
ポスターは写真と文字だけなので方法や手順、所要時間が分かりにくいのですが、DVDは実際の手順スピードで撮影していますので、DVDのとおりに実施すれば適切な手洗いを実践することが可能です。手術時手指衛生を実施するスタッフの数は多く、医師や学生など交代も多い中、口頭伝達の教育では不十分になる部分をDVDで補えていると実感しています。
なお、このDVDは医学部の教育でも参考にしていただけるようYouTubeでも公開しています。
- ラビング法導入により何か変化はありましたか?
全科でのラビング法の導入に至ったきっかけとなったSSIは、それ以降、発生していません。
コストに関しては具体的な試算はまだしていませんが、石けんは非抗菌性のものを使用し、ペーパータオルは未滅菌に変更しましたので、1回の手指衛生にかかるコストは下がっていると思います。
実際にラビング法を実施していただきました。
予備洗い普通石けんを適量取り、指先から肘まで洗い、流水で流します。
手指消毒速乾性手指消毒剤を適量取り、途中で適宜追加しながらアルコールが乾くまでしっかり擦り込みます。
- ラビング法以外にSSI対策として何か取り組まれましたか?
垣見看護師
手術時手洗いをラビング法へ統一することが主な対策でしたが、手術室のICTラウンドを実施して頂き、様々な指摘事項を改善しました。例えば、空調の排気孔前に物品を置かないよう徹底したり、手術中の扉の開閉を最小限にしたり、手袋交換を定期的(3時間ごと)に行うようにしました。
手袋交換に関してはシールドが破綻し不潔になるのでは、という医師からの反対意見もありましたが、長時間手袋をしたままのリスク(常在菌の増殖)、手袋交換の利点など、文献に基づく科学的根拠を説明し、理解を得ました。
SSIを減らしたいという思いは医師も看護師も同じですので、両者が話し合い、例えば、術中骨に触れた後、インプラント挿入前、不潔操作終了時など、定期的交換以外で手袋を交換すべきタイミングについても統一しマニュアル化しました。
NEXT STEP
- 今後の課題についてお聞かせください。
導入したラビング法の実施率・遵守率を維持・向上させ、さらに全職種で100%統一して実施するということが大切だと考えています。
また、現在のところラビング法に移行したことによる評価を十分行えていませんので、今後、細菌学的データやコスト分析などを行い、科学的根拠を示していきたいと考えています。
ラビング法の徹底以外にも、清潔な環境の維持や、患者さんを介助する際、手袋を外した後など適切なタイミングでの手指衛生を徹底させることも継続的な課題であると考えています。