Supplysm 2026 vol.18 no.2最新号
Technical Report
過酢酸系洗浄除菌剤の変更による性能比較
- 髙橋 遼太郎
- 上尾中央医科グループ 八潮中央総合病院 臨床工学科
※本記事は、「Supplysm 2026 vol.18 no.2」(2026年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
1. はじめに
透析医療において、透析装置の洗浄・消毒は安全な治療を継続するうえで重要な業務です。洗浄不良は、装置内部の汚染や部品劣化につながる可能性があり、安定した装置管理のためには、洗浄剤の選定だけでなく、適切な使用条件の設定も重要です。
当院では、多人数用透析装置および個人用透析装置を用いて透析業務を行っており、装置の洗浄工程についても継続的に見直しを行ってきました。そのなかで、洗浄性能のみならず、部品への影響、経済性を含めて総合的に評価する必要があると考えました。
そこで今回、透析装置専用 過酢酸系洗浄除菌剤サラティブPA-V(以下、サラティブPA-V)を使用し、多人数用透析装置および個人用透析装置における使用状況を確認するとともに、希釈濃度や注入量の見直しを行い、その実用性について検討しました。
2. 背景と目的
透析装置の洗浄業務は日常的に繰り返されるため、洗浄性能が十分であることに加えて、現場で継続しやすい運用であることが求められます。特に、装置の種類や構造によって適した洗浄条件は異なるため、各施設の実情に応じた条件設定が必要です。
当院は従来よりA社過酢酸系洗浄剤を用いて透析装置の洗浄業務を大きな問題なく実施していましたが、日常的に継続する業務である以上、費用面の見直しは重要な課題でした。洗浄剤の変更によって同等の洗浄力を維持したままコスト削減が可能であれば、現場運用上の利点は大きいと考えられます。そこで、今回サラティブPA-Vを導入し、A社過酢酸系洗浄剤との比較を行いました。
本検討の目的は、当院で使用していたA社過酢酸系洗浄剤をサラティブPA-Vへ変更した際に、洗浄力を維持できるか、コスト削減が可能か、また運用上問題なく使用できるかを明らかにすることです(図1)。
3.対象と方法
対象は、当院で使用している多人数用透析装置および個人用透析装置としました。対象装置のメーカー名および機種名、運用台数・洗浄スケジュールについて右記に示します(図2、3)。
評価期間は2024年12月から2025年12月までとし、評価項目は、洗浄力、コスト面、運用上の問題の有無、部品への影響としました。
多人数用透析装置では、サラティブPA-Vへ変更した際に、洗浄剤の希釈濃度を100倍希釈から200倍希釈へ変更し(図4)、条件変更後の洗浄状態、水質の清浄性、装置運用への影響、部品状態を確認しました。個人用透析装置では、注入量を15mLから10mLへ変更し、同様に評価しました(図5)。
評価対象部品は、複式ポンプ、加圧ポンプ、脱気ポンプ、ポペットバルブ、送液系チューブなど、洗浄剤の影響を受けやすい部品としました。
洗浄性能については、条件変更後に明らかな汚染残存や洗浄不足を疑う所見がないかを中心に、エンドトキシン(ET)値と生菌数についても確認しました。部品への影響については、点検時の変形、劣化、変色に着目しました。作業性については、日常業務のなかで手順変更の有無や負担感の変化を確認しました。コストについては、洗浄剤使用量の変化から運用上の影響を評価しました。
4. 結果
当院で使用していたA社過酢酸系洗浄剤をサラティブPA-Vへ変更した結果、洗浄力については、日常運用の範囲で目視による明らかな洗浄不足や汚染残存は認められませんでした。また、評価期間内でET値と生菌数も基準値をクリアしており、A社過酢酸系洗浄剤と同等の洗浄性能が維持されました(図6、7)。多人数用透析装置および個人用透析装置のいずれにおいても、通常の洗浄業務に支障なく使用可能でした。
部品への影響については、複式ポンプ、加圧ポンプ、脱気ポンプ、ポペットバルブ、送液系チューブなどを確認した範囲で、条件変更に起因すると考えられる著明な異常は認めませんでした(図8、9)。評価期間内では、明らかな劣化の増加や交換頻度の上昇も認めませんでした。ただし、部品の材質や使用年数によって影響の受け方が異なる可能性があるため、この点は継続観察が必要と考えられました。
作業性については、希釈濃度および注入量の見直し後も、洗浄工程そのものに大幅な手順変更はなく、現場スタッフは大きな混乱なく対応可能でした。業務負担の増加も限定的で、日常業務の流れのなかで継続可能な使用条件であると考えられました。
コスト面では、サラティブPA-V導入後に使用条件を見直した結果、洗浄剤使用量の適正化が可能となり、A社過酢酸系洗浄剤使用時と比較して費用の削減につながり、洗浄力を維持したままコスト削減が可能であることが確認できました(図10)。
5. 考察
今回の検討では、サラティブPA-Vを用いた透析装置洗浄において、多人数用透析装置の希釈濃度を100倍希釈から200倍希釈へ、個人用透析装置の注入量を15mLから10mLへ変更しても、日常運用の範囲では大きな問題なく使用できる可能性が示されました。
透析装置の洗浄条件を検討するうえでは、洗浄性能のみを指標とするのでは不十分であり、現場では洗浄剤使用量、業務負担、部品保全、コストなどを総合的に考える必要があります。洗浄剤を多く使用すれば安心感は得られやすい一方で、必ずしもそれが最適条件であるとは限りません。反対に、使用量を減らしても洗浄性能が維持されるのであれば、現場にとっては実用性の高い運用につながります。
今回、使用条件見直し後も明らかな洗浄性能の低下が認められなかったことは、当院の装置構成や運用状況において、一定の条件緩和が可能であることを示す結果と考えられました。また、部品への影響についても短期的には大きな差が認められず、保守管理の面からも受け入れ可能な範囲であると考えられました。作業手順の大きな変更を伴わなかった点は、現場導入のしやすさという意味でも重要です。
さらに、今回の重要性は、洗浄力を維持したままコスト削減が得られた点にあります。透析装置洗浄は日常的に継続する業務であり、1回ごとの差が小さくても、長期的には施設運営に与える影響は少なくありません。そのため、洗浄剤使用量を適正化し、ランニングコストを抑えられることは、現場にとって大きな利点でありサラティブPA-Vは当院において、洗浄力、経済性、運用性のバランスが良好であったと考えられました。一方で、本検討は単施設における使用経験であり、装置構成や運用条件が異なる施設では結果が異なる可能性があります。また、部品への影響については短期間で評価できる範囲に限界があり、今後も継続した観察が必要です。そのため、本結果は当院における一例として位置づけ、今後も長期的な評価を重ねることが望ましいと考えられました。透析装置洗浄においては、各施設が自施設の実情に応じて洗浄条件を検討し、洗浄性能、保守性、経済性のバランスをとることが重要であると考えます。
6. 今後の課題
今後は、評価期間を延長し、ポンプ類、バルブなどの部品に対する中長期的影響を継続して確認する必要があります。また、洗浄性能についても、目視確認に加え、より客観的な評価指標を取り入れ、検討の精度を高めていきたいと考えています。
7. まとめ
今回、当院においてサラティブPA-Vを用いた透析装置洗浄業務を検討した結果、洗浄力は維持され、コスト削減が可能であり、運用上も問題なく使用できました。サラティブPA-Vは、当院の透析装置洗浄業務において、洗浄性能と経済性の両面から有用な洗浄除菌剤であると考えられました。

