Supplysm

Supplysm 2025 vol.17 no.1

特集

CSSDの、世界・ふしぎ発見!!

齋藤 篤
大阪大学医学部附属病院 材料部 副部長

※本記事は、「Supplysm 2025 vol.17 no.1」(2025年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

1. CSSDの日常

我々の仕事場にはたくさんの人が働いています。労働時間が終わるのを待つ人、私はとても頑張っていると胸を張る人、様々です。心の中はいろいろで、それは誰にもわかりませんし、何も考えていないかもしれません。CSSD(Central Sterile Supply Department:滅菌供給部門)の仕事では、このようなやる気が有るか無いかには意味がなく、その工程、作業に価値があったかどうかが全てになります。口を汚くするならば、「頑張っている」が美徳として扱われ、頑張っているだけで働いたような気になるのは悪習です。ダラダラしていようが、張り切っていようが、正しい作業をしていれば何の問題もありません。ダラダラは、周囲からの冷ややかな視線が消えないでしょうけれども。
私はCSSDの現場監督、いや、工場長のような立場です。決してイケイケドンドンな野郎ではなく、頭の中ではどこか最悪の状況を想定ばかりしている後ろ向きなヤツかもしれません。せっかく手順を定めても、実際には想定していたシチュエーションとはちょっと違う、そんな場面がCSSDでは日常茶飯事。今まで見てきたいくつかのピンチは、先述の、現場の最前線で働く人たちによって支えられてきました。彼ら、彼女らが遭遇した様々な状況への対応が経験となり、そしてその内容を管理者が記録して評価することで自施設のCSSDが発展していくのでしょう。記録と評価をしなければ、未来で同じピンチを迎えるかもしれませんから。
そして、そのピンチは我々の想像を超えるものもいくつかありました。汚染物の回収ボックスを開けると洗浄物が消えていたり、滅菌バッグをヒートシールせずに滅菌して供給したり。再現不可能なものから、そうきたかー!と唸るものまであり、不思議なものです。このような不思議な体験は、もしかすると世界中のCSSDで起こっていて、それが世界中で議論されたり、研究されたりすることで、様々な機器の開発につながり、結果として自施設に還元されているのかもしれません。

写真1 手術器材回収の一幕。段取りが命!

2. 海外への第一歩

大学病院、さらにガイドラインを先導する病院で勤務していると、時に海外からのお客さんが私たちのCSSDへやってきます。当たり前ですが英語での会話です。私は英語がまったくダメで、そのダメの程度も他の人がいうダメよりもダメでした。まあいっか、という気持ちと、なんだか理解できればウチにとって得がある話をしていたような気がする、といった感覚を覚える、なんともいえない時間です。特に、2012年に大阪で開催されたWFHSS(WorldFederation for Hospital Sterilization Sciences) in Osakaの期間中は、本院のCSSDは連日海外からのお客さんであふれていました。海外のCSSD職員、CSSDに関係する企業からの見学対応に明け暮れていると、ある国からやってきたCSSD関係者、おそらく病院職員の方から質問がありました。当時、我々が使っていたPCD(Process Challenge Device)に興味を示したのです。そのPCDは蒸気滅菌のモニタリングに使用していた市販されている筒のようなものでした。
『これは何のために使うんだ?』
「蒸気滅菌のモニタリングに使っている」
『何をモニタリングしている?』
「工程をモニタリングしている」
『蒸気滅菌しているどの滅菌物をモニタリングしている?』
私はうまく答えられませんでした。私がオドオドしているのを通訳の方が察知して会話を中断してくださり、その会話は終了して見学が再開されましたが、CSSDのアテンドを続けながら、私はなんだかモヤモヤとしていました。そしてその海外からのお客さん一行が見学を終えたので一息ついていたら、現場のスタッフが私のところに駆け込んできました。
『PCDが1本ありません!』(笑)。

話は変わって2015年、スウェーデンおよびデンマークのCSSDへ見学に行く機会に恵まれました。恥ずかしながら私は海外旅行すら行ったことがなく、英語が相変わらずダメに加え、今となっては随分と慣れましたが飛行機にもビビッていたのです。単純に高所が怖いし、お腹を突き上げてくるような感じも嫌いだし、遊園地でジェットコースターなんかあり得ない!という始末だったので、海外旅行なんて眼中にありませんでした。ただ、2012年のモヤモヤがなければ行きたくないが勝ったのでしょうけど、自分でも知らぬ間に、「行きたい!」と返事していました。半年ほど駅前留学し、結果、外国人講師に人見知りしている間に終了、いよいよスウェーデン、デンマークに向けて旅立ちました。
初めて訪れた海外のCSSDはとにかくオシャレ!でした。職場はせかせかする雰囲気もなく穏やかです。
特に目を引いたのはいわゆる組立室です。日本では洗浄後に作業するエリアを組立室と表現することが多いですが、彼らは組み立てることが目的というよりも検査を重要視していました。目視で洗浄後の汚れを観察するための、検査と包装をする部屋で、WHOのガイドライン1)ではIAP room(Inspection, Assembly and Packagingroom)と呼ばれています(写真3)。IAPルーム内で余分な水滴を発見すれば、騒音に配慮してエアーをかける作業エリアがありました(写真4)。
日本だと、エアーをかける前に「エアーかけまーす!」と掛け声をする、もしくはエアーの音ぐらいは堪える、が多いかもしれません。ですが、彼らはエアーガンの音によって働いている自分が不快になる謂れはない、自分の機嫌は自分で取るといわんばかりです。ちょっと、深読みが過ぎるかもしれませんが、彼らの考えは自らを大事にしているようにみえました。
ここまで書くと、十分な面積を持ち、優雅に仕事をしとるだけやないかい!こっちは狭くて暗くて汚いCSSDで何年もやっとんねん!とお怒りになる読者もおられるでしょう。怒りを鎮めてください。彼らは自分たちの課題が何であるか?どうやったら克服できるか?を計画し、実行して評価し、その進捗を共有しているのです(写真5)。
狭くて暗くて汚いなら、何から手をつけて改善すれば良いかを考えるべきでしょう。自分たちの行っていることが正しいというならば、前からやっていたから、とは口に出さず、正しいといえる根拠と取り組みが必要です。

写真2 丁寧に整理された器材庫。整理、整頓は、再生処理作業の一丁目一番地に行うべきでしょう。

写真3 パッキングテーブルでの検査。

写真4 エアーガンシステムとでも呼ぶのでしょうか。エアーをかけるときはボックス内に洗浄物をセットし、ヘッドホンを装着します。

写真5 プロセスごとにチームを組んだPDCAサイクル。こういった取り組みを先導する管理者のリーダーシップが重要です。

3. 遂にやってきた、WFHSS ドイツBonnにて

2017年にドイツ、Bonnで開催のWFHSSに参加しました。このときは海外学会に参加するぞー!が目的ではなく、こっそりとポスター演題をこしらえ、ちゃっかり演題登録までしていたのです。先のスウェーデンのCSSD見学ですっかり気を良くしたから、ではなく、当時、私の直属の上司と同僚からの声かけによるものでした。
『せっかくスウェーデンにも行ったんやし、ドイツの学会にも行ってきいや』
『で、せっかく行くんやったらタダではアレやから、ポスター発表でもしてきいや』
『ええやんええやん、そうしぃ』
何がええやん、なのでしょうか。アレとは何なんでしょうか。関西人の悪いノリに乗っかってしまい、アレヨアレヨという間にポスターを作成し、ドイツに向かいました(写真6, 7)。
興味深かったのは、国内の学会では講師はマイクの前で立ったままが多いですが、彼らは講演中、会場を所狭しと動きまわります。まさに、俺の話を聞けー!です。このスタイルが良いか悪いかは個人の好みが関係するかもしれませんが、彼らは自らが準備したスライドで研究や信念を伝えたいという気持ちが上回るのでしょう。また、展示会場では国内でお目にかかったことのない医療機器にも出会えました(写真8)。

写真6 WFHSS ドイツBonn会場の様子。iPhoneの新作発表会のような会場でスピーチが続きます。

写真7 ポスターは紙ではなく電子ポスター。ちゃんと仕事も果たしてきました。

写真8 ラップ自動包装ロボットとでも呼ぶのでしょうか。休みなく包んでくれます。日本のスタッフが見たら私の方が絶対速い!といいそうですが、ロボット君は休まず働いてくれます。

4. 二度目の挑戦 WFHSS オランダHaagにて

ドイツの学会で、ポスターの出来栄えを評価して順位がつけられることを知りました。その発表には作成者はもちろん、各国の参加者が自国の応援にかけつけ、表彰のアナウンスがあれば大騒ぎ!ドイツのWFHSS参加は自ら積極的に参加したというには不十分でしたので、二度目のヨーロッパの学会参加に挑戦して爪痕を残せたら、とほんの少し野望を抱いていました(写真9)。
結果は惜しくもなんともなくダメでした。このとき、そりゃ世界学会だし、と片づけたら気は楽だったのだと思います。ですが、当時の私は身の程知らずに次は取ったる!と決意したものでした。2019年のオランダ、Haagで行われたWFHSSから5年経ちました。あの時の気持ちはどこへやら?ですが、本原稿を書くうち、この始末はいつかつけなければと思いだされました。
さて。このような研究発表以外にもWFHSSでは新しい医療機器を拝めるチャンスがあります(写真10)
世界中のCSSDに関係する企業では、移り行く時流に合わせて必要な機器が開発されています。その姿はCSSDの仕事と似ているような気さえします。我々の仕事は定めた手順を粛々と実行するだけですが、定めた手順には無い新しい品目を加えることがあります。普段使っている洗浄器、滅菌器が故障することだってあるでしょう。このような変化への対応は業務の範疇です。目的である滅菌物を製造するためには柔軟性を欠いてはいけませんし、組織が硬直化してはいけません。同じように、医療機器も必要に応じて需要となり、我々の目の前に形となって現れます。そんな医療機器を目にできることは学会の楽しみの一つであるのは間違いありません。
学会の夜、WFHSSではGala dinnerと称した、いわゆる懇親会があります(写真11)。各国のCSSD関係者と仲良くなれるチャンスです。というと、英語しゃべられへんかったんちゃうの?とお怒りになる読者もおられるでしょう。怒りを鎮めてください。もちろん、今でも話せませんが、こういうときは関西人のノリでカバーです。

写真9  電子ポスター二度目の挑戦。ポスター前に立っていると声をかけられることも。もちろん片言の英語と身振り手振りで対応。

写真10 モバイルCSSD。災害等には緊急的に設置できます。

写真11 Gala dinnerの様子。生バンドの演奏で知らない人同士でも踊りまくり!筆者は決して得意ではないが乱入しました。郷に入っては郷に従え、は日本のこと わざです。

5. 上司から聞いたヨーロッパの最新情報とちょっとした余談

以上、2019年までの私の海外体験記でした。皆さんご存知のように、この後はコロナ禍で海外渡航から足が遠のきました。2023年、ベルギーのブリュッセルで開催されたWFHSSには参加できなかったのですが、私の上司から拝借したいくつかの写真を掲載します(写真12,13)。
世界の最先端は自動化とサステナブルだったようです。労働人口が確保困難となってきたからといってCSSDの仕事が縮小されるわけではありません。むしろ、すでにいくつかの日本の施設で運用されているように、ロボット支援手術が多様化していくなど複雑化する傾向があり、CSSDにとって仕事の難易度が上がります。手順も設備も作業スペースにもその影響があります。よって、今後、再生処理の現場は可能な限り機械による標準化を目指さなければなりません。手始めに着手できるとすれば、用手洗浄を徹底的に減らしていくことでしょうか。
話は変わって、このコロナ禍で自施設にとって大きな成果がありました。2023年6月、阪大病院材料部ではISO13485:20162)の認証を取得したのです(写真14)。
なんのこっちゃ?自慢なん?とお怒りになる読者もおられるでしょう。怒りを鎮めてください。はい、ちょっと自慢です。国内初ですから、これもひとつのブランディングでしょう。
ISO13485:2016とは、医療機器メーカーが製造する医療材料について、その品質における保証をあの手この手で駆使するのですが、こうやったらいいんだよと定めたQMS(品質マネジメントシステム)の国際規格になります。このように書くと大変親切な国際規格のようですが、その実は抜け目のないように基準、根拠、手順、記録を積み重ねる品質管理の論理が詰まったものです。我々が馴染みやすいところでいえば、本邦の医療現場における滅菌保証のガイドライン2021の第1章に記載されている内容がQMSであり、ISO13485:2016の重要項目を摘まんだのがガイドラインです。大変、難解です。阪大病院材料部として本規格認証はまさに雲の上の存在でした。医療機器を製造する企業はQMS省令といわれる法律に則り、現実的にはISO13485:2016への準拠が求められます。我々は法律で求められていたわけではありませんが、再生処理の品質保証を使命と考え、企業レベルの品質を目指してきました。実はずいぶん前から企んでいた本規格への挑戦ですが、2023年6月に正式に認証取得の運びとなりました。
イギリスやドイツのCSSDでは自国のルールとしてこのISO13485:2016を取得し、QMSを利用したCSSD運営を行っているようです。

写真14 ISO13485:2016の認証。実は電子データが送ら れてきたものを印刷して額縁に納めたもの。味わいは大事。

図1 本院QMSを俯瞰するための図。緑色をCSSDとして管理し、橙色を顧客と捉え、継続的に組織が改善できる体質とする。紺色は特に関わりが重要且つ影響がある院内組織。

6. ちょっと覗き見に、お隣の韓国へ

私の海外経験はヨーロッパばかりだったのですが、2024年、韓国のCSSDを見学する機会を得て大きな大学病院を見学してきました。日本とよく似ている印象で、蒸気滅菌ではインジケータモニタリングによるリリースで、バリデーションが不十分な実態でした。
日本の医療機器学会にあたる韓国の学会関係者と話したところ、韓国内で活用しているガイドラインの遵守率の低さに嘆いておられました。韓国のガイドラインを読んだわけではありませんが、日本のガイドラインに書かれているのは推奨事項というより要求事項です。ガイドラインに応じないのであれば、再生処理に必要な勧告が示され、それらを遵守しない、またはできない場合のリスクに備えておかねばなりません。ガイドラインはガイドラインだから、と投げやりになって放置するのは簡単ですが、その分のリスクを抱えた状態であることを我々は決して忘れてはなりません。

写真15 多くのものをラップ材で包装。こんなことを日本のスタッフに進言すると怒られるのは明らか。

7. 10年後、20年後の未来

我々の日常は、ともすれば同じことの繰り返しで単調に感じるかもしれません。ただ、私が見てきたヨーロッパのCSSDや学会での経験では、いわゆるCSSD先進国として我々の一歩、二歩先をいっていたように思います。それは、日本の10年後なのか20年後なのかわかりませんが、同じ人間、同じ動物ですから、同じ道を辿る可能性があります。将来、ヨーロッパのようにCSSDの品質に国としての関与があれば劇的に変わるでしょう。その波に乗れないCSSDは潰れて、その病院は近隣のCSSDにお願いすることになるかもしれません。そんな予想が当たろうが当たるまいが、CSSDの日常にはなんでそんなことやってんねん?があふれています。疑問を持ち、理由がなければそこには課題があるのですから、その課題解決がピンチを事前に回避することにつながります。そのときの知恵や知識の一つに、海外の情報を積極的に取得するのは効率が良い手法だと私は考えます。

文献

1) WHO. Decontamination and Reprocessing of Medical Devices for Health-care Facilities. 2016.
2) ISO13485:2016 医療機器-品質マネジメントシステム-規制目的のための要求事項

sup17-1-feature.pdf