Supplysm 2023 vol.15 no.1
Technical Report
手術支援ロボットDa Vinciとhinotoriの器材運用について
- 吉松 由香里
- 広島大学病院 SPDセンター 滅菌器材管理室 感染管理認定看護師・第1種滅菌技師
- 清河 瞳
- 広島大学病院 SPDセンター 滅菌器材管理室 第1種滅菌技師
- 河野 雅江
- 広島大学病院 SPDセンター 滅菌器材管理室 第1種滅菌技師
※本記事は、「Supplysm 2023 vol.15 no.1」(2023年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
ロボット手術の保険適応術式の増加とともに、手術支援ロボットを導入する医療機関が増えてきました。広島大学病院(以下、当院)では2010年にDa Vinci Si、2017年にDa Vinci Xi、2022年3月にhinotoriを用いた手術を開始しました。現在では5診療科により毎日手術が行われ、手術件数は年々増加しています(図1)。また、当院では2013年9月の診療棟開院と同時に、院内の洗浄・滅菌業務を全て中央化し、滅菌器材管理室(以下、当部署)で実施しています。
当部署に求められる役割は、再使用可能医療機器(reusable medical device 以下、RMD)の洗浄・滅菌の質を担保し、安全そして安定的に供給することです。今回、ロボット手術器材の洗浄の質担保における感染対策と、器材の安定供給における運用の視点から当部署での取り組みを報告します。
再生処理について
日本医療機器学会の「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」では、洗浄後のRMDの品質を可能な限り一定とし、作業者が直接的に汚染物に接触する機会を最小限とするため1)に、RMDの洗浄について機械洗浄法の選択を行うよう述べています。また、滅菌についてはRMDメーカーの再生処理に関する添付文書に基づき、滅菌条件を設定するよう2)記載されています。
当部署では、新規RMDの運用開始時にRMDメーカーと添付文書を確認しながら再生処理方法を検討し、必要時洗浄器メーカーや滅菌器メーカーとも協議を行っています。さらに、添付文書に記載されている再生処理方法が当部署で日常的に対応できうる方法であること、洗浄・滅菌の質保証が担保され製品適格性が確保されたRMDの供給を診療に影響が及ばない体制で実施できること、そして当部署職員の負担にならないことがポイントとなります。その上で、試行し再生処理方法を決定しています。その後、再生処理に関する手順を可視化(マニュアルやリーフレットの作成)し、手順通りに作業ができるよう職員の教育を行っています。
ロボット手術器材の再生処理での留意点
当部署でロボット手術器材を洗浄・滅菌・安定供給するにあたり、ロボット手術用鉗子およびスコープなどの特徴である以下の4点が問題となりました。
内腔を有する複雑な構造で分解洗浄できない
メーカーの推奨する洗浄工程が複雑である
使用回数制限がある
一般的な腹腔鏡手術器材に比べて大型である(図2)
ロボット手術の鉗子やスコープは、シャフト部分が長い構造となっており、洗浄評価において、当院独自の基準を設け実施しています。
また、器材はどれも高額なため、再生処理を行う上でプレッシャーとなることから、必要な設備や作業スペースを整えるとともに、作業を行う職員の教育やマニュアル整備を行いました。
実際の取り組み
1. 再生処理について
1)Da Vinci鉗子の再生処理
当院ではDa Vinci SiとXiの2台を所有しており、Si、Xiの専用洗浄ラックを1台ずつ使用しています。導入時にRMDメーカーから用手による前洗浄について説明を受け、RMDメーカー、洗浄器メーカーとともに、洗浄ラックへのセット方法、洗浄工程、特に乾燥工程の時間配分について検討を重ねました。さらに、洗浄工程(表1)決定後は、作業のポイントを記したリーフレットの作成や、浸漬時間が遵守できるよう専用のタイマーを設置しました。専用ラックを用いてウォッシャーディスインフェクター(washer-disinfector 以下、WD)で乾燥工程を含む洗浄を行っていますが、内腔の完全な乾燥は時間を要するため、WDによる工程終了後は乾燥機に入れて乾燥を促し、組立は翌日以降としています。
また、洗浄エリアでは専用のシンクや浸漬槽がないため、その他の器材処理との兼ね合いが必要で、洗浄室リーダーが全体の進捗状況を考えながら作業を行っていました。そこで、hinotori運用開始を機に専用の可動式シンクを導入し、ロボット手術鉗子専用の浸漬槽としました。その結果、専用シンクの導入により効率的な業務の運用が図れるようになりました。
次に、組立エリアの作業ですが、鉗子はシャフト部分が長く、他の器材との接触や落下のリスクが高い形状のため、専用の保管かごを作成し、保管場所も定位置を決めて運用しています。メンテナンスは、拡大鏡を使用し先端部の汚染や破損の有無を確認、ディスクを回し作動確認と注油を行います(図3)。当部署では、日々使用した器材を翌日に全て組立、滅菌することはできない現状であり、優先順位をつけて器材の組立・滅菌を行っています。作業担当者は他の手術器材の組立も行うため、組立や滅菌の調整が必要となります。そのため、手術部と器材の調整を行う担当者が手術予定や器材の在庫数を日々確認しながら、診療に影響を及ぼさないよう組立・滅菌の指示を行っています。
2)hinotori鉗子の再生処理
RMDメーカー推奨の洗浄方法では、鉗子洗浄時に使用するウォーターガンの水圧が当時使用していたものと異なっていたため、新たなウォーターガンを設置しました。鉗子の洗浄では一部超音波洗浄機を使用しますが、用手で行う工程が多いため(表2)、常に適切な洗浄が行えるように専任の洗浄担当者の育成を行いました。第1種滅菌技師とともにRMDメーカーから洗浄方法の説明を受けトレーニングを行い、安定したRMD器材の供給体制を目指しました。また、当部署の用手洗浄の最終すすぎはRO水を使用すると取り決めていますが、RMDメーカー推奨の洗浄方法は、最終すすぎは水道水となっていました。そのため、当部署で手術当日に洗浄した鉗子及び手術翌日に洗浄した鉗子の8症例について、ヘモグロビン定性試験と残留蛋白質量について検証しました。結果は、全ての鉗子においてヘモグロビン定性試験は陰性であり、残留蛋白質量は基準値の200㎍/RMD未満でした。水道水で最終すすぎを実施した場合と変化はないため、当部署ではRO水で実施することとしました。さらに、当院では洗浄の質保証として、厚生労働省の再製造単回使用医療機器に係る事業者向けの洗浄ガイドライン3)を基に、エンドトキシン等および細菌培養検査を行っています。
用手洗浄がメインとなる洗浄方法は、1症例で使用した鉗子を処理するのに最低でも2時間30分を要しています。専任者を育成しましたが、人員の増加はないためhinotoriの手術がある場合、業務調整を行っています。今後、症例数が増えることが想定されるため、新たな担当者の育成を行う予定です。また、Da Vinciの鉗子と同様に内腔を有するため、乾燥機を使用した乾燥を行い、メンテナンスとして専用オイルを用いた注油、汚染や破損がないか確認を行います。RMDメーカーからのメンテナンス用リーフレットや独自に作成した組立マニュアル(図4)を用いて組立業務が適切に行えるよう工夫しています。
2. 鉗子の運用について
当院ではロボット手術実施時にバックアップ用の鉗子を準備するため、1症例につき2セット分の鉗子を必要とします。安全な手術医療の実践と適正な物品管理のために、医療器材は物品管理システムを構築し運用しています4)。先述したように、ロボット手術器材は高額であるため、手術部や診療科、事務と情報を共有しながら、適正数の把握と在庫管理を行っています。なお、手術のスケジュールは、ロボット手術を実施する診療科や手術部など関連部署で共有しているネットワーク上のタイムツリーで確認しています。タイムツリーは、2週間前に手術予定を確定する運用となっており、緊急の手術については管理者に直接連絡するように取り決め、器材が安定供給できるシステムを構築しています。
Da Vinciとhinotori鉗子には製品ごとに使用回数が制限されています。使用回数のカウントはロボット本体のモニターで確認するため、当部署だけでの把握は困難です。そこで、使用毎に鉗子に直接正の字を記入することを手術部と取り決め、回数を把握しています。常に新品洗浄済の鉗子の予備を1本保有し、使用制限回数に達した鉗子との交換を行っています。
Da Vinciの鉗子は現在多くの種類を使用しており、Xiの鉗子は使用制限回数が製品により異なります。当院では二次元バーコードを利用した管理を行っており、Da Vinci鉗子は滅菌バッグにバーコード付ラベルを貼用し運用を行っています。貼り間違い防止のために鉗子にナンバリングと使用制限回数を表記したテープを貼付することで区別しています(図5)。
hinotoriの鉗子は、導入当初は鉗子をセット化し滅菌ケースを使用した運用をしていました。内容がわかるように器材の写真を添付したメニュー表を作成しました。現在は滅菌バッグによる個包装で単品運用しています。また、hinotoriの鉗子は黒色のため、ハウジング部分に白テープを貼り、そこに正の字を記載してもらうよう手術部と取り決めました(図6)。
3. スコープについて
図7のとおりDa Vinci Xiとhinotoriについては大型で、取り扱いには細心の注意を必要とするため、全ての工程で作業者を限定しています。当部署では、Da Vinci Xiのスコープは用手洗浄を行っており、シャフトが長いことで起こりうる作業中の周囲環境への接触などによる破損や洗浄不良のリスクを考慮して、洗浄室リーダーのみが行う業務としています。
hinotoriのスコープは、機械洗浄可能なため、ケースにセッティングしてからWDで洗浄を行います。滅菌用ケースが洗浄用ケースも兼ねていますが、ケース内で器材が重なることによる洗浄不良を防止するために、ライトケーブルの部分はケース外に取り出した状態にしてWD洗浄しています。洗浄前に器材の仕分けを必ず行うため、破損やコネクター紛失の有無、前洗浄実施の判断まで一連の流れとして実施しており、洗浄後の作業がスムーズに行えています。
課題と展望
今後、ロボット手術はさらに増加すると言われています。しかし、高額であるロボット手術器材を潤沢に在庫できる施設は少ないと思われます。さらに、当院のように複数の手術支援ロボットを所有した場合、互換性がない現状では再生処理に係る時間や人の確保は大きな課題です。
2022年5月に日本医療機器学会より「医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール(Ver.1.0)」5)が発行されました。そこでは、滅菌供給部門(central sterile supply department 以下、CSSD)の適正人員の把握について述べられています。引き続き、業務量に応じた人員の配置について検討されることが望まれます。
さらに、ロボット手術用鉗子の再生処理について、メーカー推奨の洗浄方法を行っても残留物が推奨許容値を超えたという報告6)もあり、自施設の再生処理方法は問題ないのかと疑問に思ったことはないでしょうか。複雑な構造で分解洗浄ができず、内腔のブラシ洗浄や目視確認ができないため、当部署でも独自の洗浄評価基準を設けていますが、あくまでもローカルルールであるため、洗浄の質について漠然と不安に思うことがあります。現在、ロボット支援手術機器ツール部の洗浄処理に関する開発WGが発足し、「ロボット手術器具の洗浄プロセスに関する開発ガイドライン(案)」7)が公表され、具体的な洗浄評価法の確立に向け取り組まれています。再生処理を行う上で、客観的指標で評価できることは作業者のみならず使用者の安心にもつながると考えます。
終わりに
これからも新たな手術支援ロボットの開発が予想されます。CSSDの使命として安全で安定的に器材を供給できるよう、メーカーおよび多職種で運用を検討して情報共有し、計画的に必要な設備準備や職員教育を行っていきたいと考えます。
引用・参考文献
1)池田誠ほか:2.医療現場における洗浄 医療現場における滅菌保証のガイドライン2021, 一般社団法人日本医療機器学会, P42, 2021.
2)高橋治:1.滅菌供給業務の総合的管理 医療現場における滅菌保証のガイドライン2021, 一般社団法人日本医療機器学会, P11-12, 2021.
3)厚生労働省:再製造単回使用医療機器に係る事業者向けの洗浄ガイドライン, 2019, 2022年10月29日閲覧, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4335&dataType=1&pageNo=1
4)臼杵尚志:第12章 物品管理 手術医療の実践ガイドライン(改訂第三版),日本手術医学会, P153-165, 2019.
5)深柄和彦:医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール Ver.1.0, 一般社団法人日本医療機器学会, 2022, 2022年10月25日閲覧, https://www.jsmi.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2022/05/Facilities-evaluation-tool-for-sterility-asssurance_ver.1.01r.pdf
6)齋藤祐平:手術支援ロボット用鉗子の再生処理における課題, 日本外科感染症学会雑誌, 16巻6号, P611-614, 2019.
7)令和3年度ロボット支援手術機器ツール部の洗浄処理に関する開発WG:ロボット手術器具の洗浄プロセスに関する開発ガイドライン(手引き)(案),2022, 2022年10月25日閲覧, https://md-guidelines.pj.aist.go.jp/wpcontent/uploads/2022/08/66_guideline_draft.pdf

