Supplysm 2023 vol.15 no.1
特集
CSSDの素晴らしいところを言えますか?~施設評価ツールを使ってみた件~
- 齋藤 篤
- 大阪大学医学部附属病院 材料部 副部長
※本記事は、「Supplysm 2023 vol.15 no.1」(2023年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
1. はじめに
正式名称は「医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール」(図1)。これはとても長いので、本稿では「評価ツール」と以下記載します。おそらく皆さんが声に出すときにも「評価ツール」と呼ぶことになるでしょう。
さて、まずはこの「評価ツール」の自己紹介から始めましょうか。この「評価ツール」は日本医療機器学会滅菌管理業務検討委員会の事業として、2022年5月に公開されました。正式名称が示すように、医療施設内で再生処理する部門の品質を測定する、そのものです。将来的にはサーベイヤーが訪れて第三者的な評価を目論んでいますが、現段階ではセルフチェックに使用することを想定しています。同学会からその前年に発行された「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」(図2)ともちろんリンクしてきます。この「評価ツール」は、現場の人間がガイドラインを読み、実践し、その上で評価することを意図して作成されました。私自身のことを申せば、この「評価ツール」の作成に関わった一人です。「評価ツール」が世に出て、「うわっ、また仕事が増えるやんか!」とか、「そっとしといて欲しかったのに」とか、「質が見えない方が気が楽だわ」といった印象をお持ちの方からすると、「評価ツール」を作成した悪党に映るかもしれません。もしかしたらそういった面を持ち合わせているかもしれませんが、いえいえ、言い訳をさせてください。今ある仕事を見直すことで仕事がスマートになるかもしれない。注目を浴びるとお仕事便利グッズを買ってもらえるかもしれない。見える化されることで素敵な出会いがあるかもしれない。要は、希望を持って「評価ツール」は創られたのです。そして、希望だけではありません。滅菌供給部門で働く皆さんから応援され、成長していきます。応援?なんのこっちゃ?と思われるかもしれませんが、構成メンバーからメイキングまで何でも透明性が求められる時代です。問い合わせ先を検索しようと思えば、Googleなどで簡単に検索できますし、直接声に出さなくても文字で伝えることができるようなご時世です。受け身ではなく、全ての人がクリエイターになれる可能性があります。いえ、作り手にならなくても、自らが働く世界と関わりを持ち、「評価ツール」の使い方をアップデートする後押しだってできるわけです。
今まで誰からも評価されることのなかった再生処理の品質が明るみになり、やがてこの「評価ツール」の評価項目についても注目を浴びるでしょう。まだまだ産まれたばかりの初版ですから、これから改善していくのは再生処理業務に関わる全ての人になります。本稿では、そこまで言うならまずは阪大病院でやってみたら、と試してみました。どうぞお付き合いくださいませ。
2. 本論を語る前のひとこと
ガイドラインがあるべき姿を映し出す理想とするならば、「評価ツール」は現在値を測る物差しです。物差しの役割にわかりにくさがあってはなりませんから、滅菌管理業務検討委員会の委員長は方針として、わかりやすいものしか勝たん!の精神を強く打ち出されていました。
私が作成に携わったのは再生処理に関する項目です。具体的には、【洗浄業務】【組立業務】【滅菌業務】【蒸気滅菌のモニタリング】【低温滅菌のモニタリング】【滅菌モニタリング(共通)】【バリデーション】【洗浄のバリデーション】【蒸気滅菌のバリデーション】【低温滅菌のバリデーション】。あとは一部、【他部署とのコミュニケーション】です。初版の完成まではおよそ3年を要しましたが、最も時間を費やしたのがわかりやすさ、でした。どのくらいわかりやすくできたか?究極は自分のオカンでもわかる!を目指したかったのですが、それは志半ばだったかもしれません。ちなみに、「オカン」とは母親のことであり、親しみがこもったときに発する呼び方になります。
3. お気に入りのポイント
最終的に数値化はしますが、実は点数をはじくわけではありません。各施設においては該当しない設問も想定されますので、該当なしは該当なしとして扱います。つまり、該当する項目での満点を分母とし、その上での得点を分子とする、達成率で数値化しているのです(図3)。このようにして、どの規模の施設でも平等に評価するのではなく、どの施設に対しても公平なツールとなっています。
4. 注意するポイント
本来、CSSD(滅菌供給する院内の部署をこのように表します)のような再生処理する工場=製造業の品質は、決められたことを毎日同じように継続していることに価値があります。継続の困難さの壁に、実際はイレギュラーが重なれば同じように継続していたことが破綻します。あるいは、イレギュラーが起こらなくともミスが起こるかもしれません。その工程における何かが欠落しているからです。
頑張った状態を評価するのではなく、日常を評価してみてください。今の品質がいったいどの状態にあるのか。第三者的な観察をするには、チェック者は普段の姿を捉えることが肝要です。
5. 阪大病院のホントのところ
さて、そろそろ本稿のメインのお話にうつりましょう。この「評価ツール」を本院で実際にトライしてみました。以下、少々クセのあるポイントを解説していきます。
【洗浄業務】
洗剤の使用方法に含まれる内容として、解説には当然のことながらRMD(再使用している滅菌物をこのように表します)への適合が挙げられています。その他、適正な温度や希釈率がある中、保管方法に着目してみました。以下の写真では、〈保管上の注意〉として、「直射日光を避けなるべく涼しい場所で保管する」とあります(図4)。別の洗剤では、「施錠できる場所に保管すること」とありました(図5)。
このように、洗剤によって保管方法が異なります。これは、洗剤の安全な取り扱いを示す安全データシート上の記載内容=ラベルではなく、企業によって抜粋内容が異なるためです。我々はラベルに書かれている内容と実際を合致させるか、あるいは、合致しないのであれば合致しなくても良い理由を見つけなければなりません。洗剤の適正保管に関する保証は医療施設のお仕事ではないからです。メーカーの指示する通り保管することで品質が保証されます。判断に迷う場合は洗剤メーカーへの問い合わせが必要です。
【組立業務】
実は、CSSDの業務の中で最も力を注ぐべきポイントかもしれません。洗浄が終了し、人間が目視検査によって滅菌する素材にOKを出すのですから、ゾーニングによって間違いを減らすのはもちろんのこと、作業者がしっかりと力を発揮しなければなりません(図6)。
【滅菌業務】
滅菌器を使うための諸条件を明確にしなければなりません。蒸気滅菌器を例にすると、新規に設置してからずっと元気でいるはずがなく、人間と同じように経年劣化します。高額な機器ですから、使い捨てなどできようはずがありません。であれば、メーカーによるメンテナンスで面倒を見て調子を伺うのは当然の関わりです。
【蒸気滅菌のモニタリング】
何と言っても注目はパラメトリックリリースでしょう。「医療現場における滅菌保証のガイドライン2015」から触れられていたこのモニタリング方法は、ストレートな解釈をすれば、物理的なパラメーター、いわゆる記録紙だけを眺めてリリースするものと捉えがちです。毎回の蒸気滅菌工程が問題なかったと判断するために、現在ではBI(生物学的インジケーター)を用いる方法、物理的パラメーターで判断する方法があります。BIを使う場合でも物理的なパラメーターは確認するとされていますが、パラメトリックリリースにおいてはBI を使いません。コストと手間を避けた最短の手法のように思われますが、いずれの方法においてもバリデーションが必須です。滅菌条件を達成している工程を保証している場合のみ、CSSDからのリリースが許されるのです(図7)。
1. 意図したプログラムを選択
2. プレバキュームにおいて圧力基準値をクリアー
3. 滅菌温度、コンタクトタイムがクリアー
4. エラーが無く、いつもと変わらない波形
【低温滅菌のモニタリング】
「とある滅菌法では包装内部用CIを使っているが、とある滅菌法では使っていない。使っていないのはワケがある(図8、図9)。」ような事例であれば、「はい」を選ぼうが「該当なし」を選ぼうが得点率に影響はありません。複数ある滅菌法の内、一つでも要件を満たしていないときは、思い切って点数が低くなる「いいえ」で採点してみてください。要件を満たしていない理由にも因りますが、コスト面で節約を強いられているならば、「評価ツール」のせいにして購入をお願いするのも手段のつです。
バリデーションの結果、外部PCDと包装内部CIの変色に相関があったことから、日常的には滅菌物包装内部にはCIを用いず、外部PCDのみの運用をしています。
【滅菌モニタリング(共通)】
物理的なパラメーターの読み方はどこまで押さえていればOKなのか?これも迷うポイントです。滅菌器メーカーごとに表示が違ってくるわけですから、その読み取り方の具体的な方法も変わってきます。当院の場合、例えば過酸化水素ガスプラズマ滅菌器では、滅菌物に合わせて選択したプログラムが正しかったこと、工程がエラーなく終了したことを確認します(図10)。また、滅菌剤の濃度は滅菌物の積載量やその素材によって変動します。一定の濃度をキープするように滅菌剤が追加供給されるのではなく、1回の運転で定量が供給されることから、滅菌物に吸着し、滅菌チャンバーの空間における濃度が下がるわけです。ただし、どこまでも下がるはずもなく、当然下限値が設定されているため、その下限値を下回らずにゴールまで行けたことを確認します。
【バリデーション】
バリデーションという言葉を当たり前に耳にするようになりました。ここで大切なことは、その組織がどれくらい自分たちの品質に興味を持っているか?関わっているか?に尽きます。その組織で再生処理業務を行っているのがアウトソーシング、滅菌器などのメンテナンスを行っているのがメーカーのサービスマンだとしても、その管理責任は医療施設ですから、バリデーションの内容は医療施設の管理者が全て承認している内容でなければなりません。
【洗浄のバリデーション】
滅菌のバリデーションのためにはRMDのバイオバーデン管理が必須です。つまり、滅菌する前に微生物が可能な限り付いていないかどうか?ですが、微生物の数を数えることは中々ハードルが高いです。それを、最新のガイドラインでは洗浄のバリデーションをもって代替する、としました。洗浄ができているということは、微生物を取り除けるだけ取り除いているのだ、という解釈です。
ですので、洗浄バリデーションは必須です。バリデーションにおいては、製品ファミリーの設定、さらにその中からマスター製品の選定が必要です(図11、図12)。
左上から時計まわりに、代表的な鋼製小物の洗浄プロセス、ロボット支援手術器械の洗浄プロセス、歯科用のハンドピースの洗浄プロセス、ガーグルベースンなどの洗浄プロセスです。専用のプログラム、アクセサリー、予備洗浄の有無などによって同じ洗浄工程で処理する塊を製品ファミリーと称します。
ボックスロック部(赤丸箇所)が汚染され、乾燥していることが条件です。WD洗浄では洗浄中に開閉作業ができないこと(RMDの構造上の問題)、固着した汚染は除去が困難であり、製品ファミリーの中でも最も洗浄が困難であるマスター製品として認定した根拠になります。
【蒸気滅菌のバリデーション】
もっとも優先すべきは滅菌物の品温が滅菌条件に達している、且つ、その許容範囲内であることです。一般鋼製小物の滅菌中の温度測定部位の例を図13に示します。データロガー先端が測温部であり、本ロガーは3チャンネルを有しています。患者に触れる部分(a)、間隙部(b)、術者の持ち手(c)と3点にわけ、温度上昇に差がないことを確認します。RMDメーカーから、そのRMDにおける最も温度上昇が悪い部位の指定があれば、そちらを優先して測定ください。測定対象物は滅菌ラック内におけるコールドスポットへの積載がワーストケースになります(図14)。コールドスポットにマスター製品を積載し、問題のないことを確認するのがPQ(稼働時適格性確認)です。
データロガーで測定した結果、全ての測定点で滅菌条件を達成していることを確認します(図15)。
滅菌器のメンテナンス、製品ファミリーにおける滅菌条件の設定、その達成の確認、これらが自施設の品質管理に繋がります。
ただし、品温測定が困難な場合、BIを用いた無菌性保証水準を満たしていることの担保は、CSSDにとって最低限行うべき品質管理でしょう。バリデーションを実施せずに何かしら感染事故が起きたとして、CSSDが疑われると言い訳のしようがありません。日常のモニタリングにBIやCIを使用するのはあくまで普段と変わらない!を訴えるだけのインジケーターに過ぎません。いつものプロセスが本当に滅菌できているのか?インジケーターに確かな意義を持たせるためにも、実際に滅菌しているものが滅菌できている証拠を作りましょう。
図15 データロガーの結果
測定点における温度推移は圧力から計算される理論飽和蒸気とほぼ同じ動きを示し、滅菌温度帯を保持しています。また、規定した滅菌時間をクリアーしていることから、滅菌条件が達成されたと判断します。
【低温滅菌のバリデーション】
基本は蒸気滅菌のバリデーションの考え方と変わりありません。バリデーションの実施が困難な施設にとって、最初に取り組むのは蒸気滅菌で、そこから次のステップで低温滅菌に進むのでは?と予想して、敢えて滅菌法が区別されました。とっかかりでいえば、もしかしたら低温滅菌の方がやりやすいかもしれません。LTSF滅菌を除き、PQではハーフサイクルで無菌性保証水準の達成を確認できるのでとてもシンプルです。
【標準作業手順書】
標準的にみんなが同じ作業をするために、手順書はとても大事です。それをマニュアルと呼ぼうが、チェックリストと呼ぼうが、この際、関係ありません。昔からマニュアルと呼んできたものが手順書の役割を果たしているならそれは構わない、としたわけです。手順書の役割は「その順番通りに作業する」、とそのままですが、そこは医療現場の難しいところで、全ての状況が均一であるなどあり得ません。ポイントは、その標準作業手順書に、「ここだけはあなたの判断で勝手に変えてはいけませんよ」と強調されていることでしょう。本当はマッシュルームを入れるところ品切れしているからエノキで、といったことはしてはいけないのです。それは、完成品がエノキで良いという根拠がないからです。架空の料理の例えが出てきて混乱されるかもしれませんが、マッシュルームでバリデーションされているなら、マッシュルームとエノキが同等であることを証明しなければなりません。
話を元に戻しましょう。手術で使用されたRMD、いつもなら恒温槽でブラシを使って汚れを落とすのですが中々落ちない。そこで、ここぞというときに使う必殺の金ブラシを使用する。金属のブラシなので強固な汚れもなんとか落とせたものの、そのRMDは金ブラシ非推奨だったため、RMDの表面まで傷つけてしまった。このような苦い経験とならないように、手順書の存在はもちろん、リスクに応じてポイントを押さえておくことが実践的です。
【他部署とのコミュニケーション】
企業とは違い、CSSDには一見、お客様といえる存在が見つからないかもしれません。特にお金のやりとりもありません。ですが、院内を見渡したとき、我々は院内の全ての部署にサービスを提供しているはずです。つまり、供給先である手術部や病棟、外来は院内顧客です。顧客を優先するというより、重要視したサービスが円滑な再生処理に結び付きます。重要視するためにはコミュニケーションを持つことです。定期的にコミュニケーションを取るためのミーティング、定期的とは言わないまでも相互解決の仕組みを有することが望まれます。
また、対外的活動とは逆に、己を見つめ直すために、今一度業務量とは何か?に頭を悩ませましょう。洗浄器や滅菌器の稼働回数が全てではないはずです。目を向けるべきは、CSSDとして何に労力を割いているのか?です。
【施設および設備】
我々が働く環境に目を向けると不備ばかりが目立ちます。一方で、その環境で過ごす時間が長くなると何が正しいのかを見失う恐れさえあります。例えば、高水準消毒薬を使用する部屋に局所排気装置(図16)は設置されていますか?ぜひ、少しではありますがその答え合わせの一環としてご使用ください。
6. さて、結果は?
ご覧の通り、S判定には及びませんでした(図17)。この「評価ツール」はCSSDの品質を測定するものであって、「評価ツール」で採点したからといってCSSDの品質が上がるわけではありません。目的はあくまでCSSDの品質向上ですので、この結果からどのように改善していくかが重要になるわけです。そのためには追加で購入しないといけないものが発生するかもしれませんし、さらなるマンパワーが必要になるかもしれません。ちょっとした工夫で賄えることもあるでしょう。それらの変更を管理し、記録を残すことで次の改善に繋がっていきます。なんでこんなことになったんだー?と未来の後輩に恨まれないように、爪痕をしっかり残しておくのも重要な仕事です。
7. 結語
今のところセルフチェックですが、「ええカッコ」しなければ、客観的に自施設を評価できることがわかりました。「ええカッコ」とは自らを誇張する、とても柔らかい表現です。普段の仕事に対して自己満足に終わってはいけません。反対に、承認欲求が強すぎると息苦しいですし、CSSDだけが自己犠牲になるような時代ではありません。業務レベルを正当に判定し、証拠を残し、日々あっさりと再生処理し続ける姿が理想でしょう。「評価ツール」を明るく使う目的は、自施設の品質を認識することに他なりません。そうして良い結果が得られれば、仕事中に院内顧客から何か言われても、「我々はバリデーションによる工程保証を実践し、供給物に対しては日々のモニタリングを欠かすことはありませんけど、何か?」と過信ではなく、自信を持って言い返せる日が来るかもしれません!

