健康すまいる 2026 vol.41最新号
キーマンコラム
あなたの施設ならどう始める?手指衛生の見える化 ―「質」と「量」を見直し、疑問に向き合う―
- 黒木 利恵
- 神奈川県立保健福祉大学 実践教育センター 感染管理認定看護師教育課程 専任教員
※本記事は、「健康すまいる vol.41」(2026年9月発行)に掲載した内容です。記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
Ⅰ はじめに
これまで、福祉施設における感染対策の基本として、「手指衛生を行うタイミング」や「手指衛生を続けるための工夫(MMIS※)」についてお伝えしてきました。手指衛生は感染対策の中でもっとも基本的で、効果が高く、誰でも取り組みやすい方法です。しかし、「大切だとわかっている」ことと、「実際にできている」ことには差があります。忙しい現場では、つい忘れてしまったり、「このくらいなら大丈夫」と省略してしまったりすることがあります。特に福祉施設では、介護や生活支援が中心となり、感染対策にまで意識が向かない場面もあります。
だからこそ大切なのは、「今、自分たちがどのくらいできているか」を知ることです。そのために役立つのが「見える化」です。見える化することで、感覚ではなく事実として現状を知ることができ、その結果を職員同士で共有することで改善につなげることができます。手指衛生の見える化には、「質」と「量」の二つの視点があります。
また、実際に手指衛生に取り組む中では、「手袋をしていれば手指衛生は必要ないのか」「利用者さんが手洗いや手指消毒を嫌がる」など、現場ならではの疑問や困りごとも出てきます。こうした悩みに向き合いながら、自分たちの施設に合った方法を見つけることも大切です。
今回は、手指衛生の「質」と「量」の見える化、そして現場でよくある疑問や困りごとへの対応について考えてみましょう。
※ MMIS:Multimodal Hand Hygiene Improvement Strategy(手指衛生多角的戦略)
Ⅱ 手指衛生の見える化
1.質の見える化 -手指衛生の観察-
手指衛生の「質」とは、必要なタイミングで、適切に行えているかということです。
例えば、「利用者に触れる前」「利用者に触れた後」「食事介助の前後」「排泄介助の前後」「手袋を外した後」、こうした場面で手指衛生ができているかを確認します。医療機関では「直接観察法」といって、感染対策担当者などが手指衛生の実施状況を確認する方法があります。しかし福祉施設では、毎回担当者が観察することは現実的ではないかもしれません。
そこでおすすめしたいのが、「今日はお互いに見てみる日」をつくることです。例えば、「今日は食事介助時の手指衛生を見てみよう」「今日は排泄介助の後の手指衛生を意識して見てみよう」、このようにテーマを決めて、職員同士でお互いの手指衛生を見てみます。全部を見る必要はありません。短時間でもよいのです。実際に見てみることで、「この場面、忘れやすいな」「ここに手指消毒剤があったらやりやすいな」「手袋を外した後が抜けやすいな」といった気づきが生まれます。
大切なのは、できていないことを責めないことです。「なぜ難しかったのか?」「どうしたらやりやすくなるか?」を一緒に考えることが大切です。手指衛生の観察は、評価のためではなく、気づき合うためのものです。「今日はお互いに見てみる日」をつくることは、手指衛生を意識するきっかけになり、習慣づくりにつながります。
手指衛生のタイミングは、健康すまいる vol.39をCheck!
健康すまいる 2026 vol.39 キーマンコラム
「ケアの手で、笑顔を守るーケア場面に応じた手指衛生のタイミングー」はこちら
2.量の見える化 ー手指消毒剤の使用量を測るー
もうひとつの見える化が、「量」です。これは、手指消毒剤がどれくらい使われているかを見る方法です。量を見ることで、「どれくらい手指衛生が実践されているか」の目安になります。量を確認する方法は様々であり、施設に合った方法を選ぶことが大切です。
① 空ボトルを数える方法
例えば500mLボトルを1か月で8本使った場合、使用量は500mL×8本=4,000mLとなります。特別な準備がいらず、すぐに始められる手軽な方法です。
② ボトルの重量を測る方法
定期的にボトルの重さを測り、残量を確認する方法です。空ボトルと満量時の重さを最初に測っておけば、どれくらい使われたかがわかります。少し手間はかかりますが、実際の使用量に近い数字を把握できます。
③ 払い出し量を数える方法
倉庫から各ユニットへ払い出した量を記録する方法です。在庫管理がある施設では取り組みやすい方法です。ユニットごとの違いを見ることもできます。

どの方法でもよいので、まずはひとつ選んで実践してみましょう。大切なのは、「続けられる方法」を選ぶことです。
3 見える化した結果を活かす
見える化は、確認して終わりではありません。結果を振り返ることが大切です。例えば、質の見える化の場合「利用者に触れる前の手指衛生がなかなかできていない」、量の見える化の場合「今月は使用量が増えた」「このユニットは少ない」「感染症流行時に増えていた」といった変化を見ることで、現場の状況がわかります。月ごとにグラフにして掲示したり、職員会議で共有したりするのもよい方法です。
結果は評価のためではなく、改善のために使います。「なぜこのタイミングでできないのか?」「なぜ増えたのか?」「なぜ減ったのか?」をみんなで考えることが、次の行動につながります。
Ⅲ まとめ
手指衛生を続けていくためには、「質」と「量」の両方を見える化し、自分たちの施設の現状を知ることが大切です。必要なタイミングで適切に手指衛生ができているか、そしてどれくらい実践されているかを確認することで、「できていること」と「足りないこと」が見えてきて、それを職員同士で共有しながら次の改善につなげることができます。
大切なのは、最初から完璧を目指すことではなく、自分たちの施設で無理なく続けられる方法を見つけることです。まずは「今日はお互いに見てみる日」をつくってみる、空ボトルを数えてみる、そんな小さな一歩から始めれば十分です。たとえ途中でうまくいかなかったとしても、またやり直しながら続けていくことが、利用者と職員を守る感染対策につながります。ぜひチャレンジしてみてください。
福祉施設の現場の疑問や困りごと
Q 面会者も手指衛生は必要?
A はい、必要です。
施設内に感染症を持ち込まないためにも、面会時の手指衛生をお願いすることが大切です。
入口に手指消毒剤を置き、わかりやすく案内しましょう。
Q 石けんとアルコール手指消毒剤、どう使い分ける?
A 目に見える汚れがある時は石けんと流水で手洗いをします。汚れがない時はアルコール手指消毒剤でよい場合が多いです。
なお、感染性胃腸炎の場合は、ノロウイルスが原因であることも多いため、嘔吐や下痢の利用者さんのケア後は、手洗いをしましょう。
Q 利用者さんが手指消毒や手洗いを嫌がる時は?
A 無理に行う必要はありません。
食事前など生活の流れに合わせると受け入れられやすくなります。「一緒にきれいにしましょう」と声をかけるのも効果的です。代わりにアルコール含有ウェットティッシュをお手拭きとして、手指をまんべんなく拭いてもよいでしょう。
Q 手袋をしているから手指衛生は不要?
A いいえ、必要です。
手袋には小さな穴が空くことがあり、手袋を外す時に手が汚染されることもあります。
着ける前と外した後には手指衛生を行いましょう。
Q 手荒れと感染対策は関係ない?
A 手荒れは、手指衛生を避けたくなる原因になります。
保湿剤を使い、手を守ることも感染対策のひとつです。

