健康すまいる

健康すまいる 2026 vol.39最新号

キーマンコラム

ケアの手で、笑顔を守るーケア場面に応じた手指衛生のタイミングー

黒木 利恵
神奈川県立保健福祉大学 実践教育センター 感染管理認定看護師教育課程 専任教員

※本記事は、「健康すまいる vol.39」(2026年1月発行)に掲載した内容です。記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

高齢者施設や障がい者支援施設などの福祉の現場では、多職種が連携し、利用者の日々の生活が成り立っています。食事の提供、排泄支援、清掃など、手を使う場面が圧倒的に多く、皆様の手によって利用者の生活が支えられているといえます。一方で、感染症の媒介になりやすいのも「手」です。
手指衛生は「時間がない」「手荒れがつらい」「アルコールのにおいが苦手」などの理由で、定着しづらいという声も聞かれます。しかし、福祉施設での感染症は利用者の命に直結し、職員の健康にも影響します。
本稿では、WHO(世界保健機関)の「手指衛生の5つの瞬間」をもとに、福祉施設のケア場面に応じた手指衛生の考え方と実践しやすくなる工夫を紹介します。

Ⅰ なぜ手指衛生が重要か

感染症の多くは手を介して広がります。福祉施設では、入浴介助、食事介助、排泄支援、口腔ケアなど、利用者の皮膚や粘膜、分泌物に触れる機会が多く、手から病原体が伝播するリスクがあります。インフルエンザやノロウイルス感染症、疥癬、食中毒は、福祉施設で集団感染を起こしやすい代表的な感染症です。さらに、高齢者や基礎疾患を持つ利用者は免疫力が低下しており、同じ病原体でも重症化しやすい傾向にあります。
手洗い・手指消毒を適切に行うことは、①自分を守る、②利用者を守る、③職場全体を守るという意味を持ち、最も基本であり、最も効果が高い感染対策です。

Ⅱ 手洗いと手指消毒の使い分け

手洗いと手指消毒の使い分けを表1に示しました。手洗いも手指消毒も、手のひら、手の甲、指の間、親指など、手全体をまんべんなく擦ることが大事になります。

表1 手指衛生の種類

Ⅲ ケア場面に応じた手指衛生のタイミング

WHOが示す「手指衛生の5つの瞬間」1)は、福祉の現場にも十分に応用できます。「いつ」「なぜ」「手指衛生の種類」に分けて表2に整理しました。

表2 ケア場面に応じた手指衛生のタイミング

★ポイント:人はみんな”自分の菌”を持っている
人はそれぞれ、自分自身の皮膚や体内に固有の微生物を持っています。その中には、時に病原性を持つものも含まれます。福祉施設のように多くの人が生活を共にする環境では、誰かが保有する微生物が別の人へと移り、感染症を引き起こす可能性があります。しかし、どの人がどんな微生物を持っているかは目に見えません。だからこそ、互いに不用意に微生物を広げないため、日頃から確実な手指衛生を行うことが重要になります。

Ⅳ 利用者が行う手指衛生

利用者自身が手指衛生を行うことも、感染症予防に効果があります。WHOは家庭や生活場面における重要な5つの手指衛生のタイミングを示しています2)
【手指衛生を実践する重要な5つのタイミング(家庭や生活場面)】
1)食品を準備する前
2)食事の前、または食事介助や授乳をする前
3)トイレを使用した後、または排泄物を扱った後
4)咳、くしゃみ、鼻をかんだ後
5)手が目に見えて汚れているとき
利用者が行う手指衛生の方法は、流水と石けんによる手洗いが一般的ですが、手が目に見えて汚れていない場合は、手指消毒剤を用いてもかまいません。
利用者が手指衛生を行うことで、食中毒や感染性胃腸炎、呼吸器感染症などの手を介した感染を予防することができます。

Ⅴ 手指衛生をしやすい環境づくり

手指衛生は「やる人の意識」も大切ですが、環境整備によって定着します。以下に環境整備の例を示します。

1. 手洗いしやすい物品の整備

  • 泡立ちやすい、または、泡タイプの石けん

  • ペーパータオルを設置

  • タオルやハンカチを使用する場合は、他者と共有しない

2. 手指消毒剤の配置の工夫

  • 各ケアの場所・動線上に手指消毒剤を配置

  • 個人で手指消毒剤を携帯する

3. 手洗いや手指消毒を思い起こさせるポスター掲示(リマインダー)

  • 手洗いや手指消毒の手順を掲示

  • トイレの洗面台、食事場所、部屋の入口にポスターを掲示

  • ポスターは半年ごとに貼り替える

4. ハンドケア

  • 保湿クリームや低濃度アルコール手指消毒剤を施設で準備する

  • 手洗い時の流水の温度管理(皮膚の温度程度)

Ⅵ まとめ

手指衛生は最も基本的で、最も効果の高い感染対策です。福祉施設では、医療の現場よりも多様なケアと生活支援が行われるため、「ケアに合わせたタイミングで、負担なく実施できる仕組み」が求められます。職員一人ひとりの手から、利用者の健康と笑顔を守り、明日の安心につなげましょう。

引用・参考文献

1)日本環境感染学会教育委員会 TTT-Japan 手指衛生教育用資料,”手指衛生 なぜ?どのように?いつ?” http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/how_to_hand_hygiene02.pdf, 2025年11月4日現在.
2)World Health Organization, unicef, “Guidelines on Hand Hygiene in Community Settings”, https://cdn.who.int/media/docs/default-source/wash-documents/251015-uniceff_who_guidelines_on_hand_hygiene_15-oct_launch-version.pdf?sfvrsn=e9eaa4a2_1&download=true, 2025年11月4日現在.

kenko39-column.pdf