健康すまいる 2025 vol.36
キーマンコラム
正しく使おうPPE(personal protective equipment)「PPEの選定~素材による違いと規格~」
- 黒須一見
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 第四室 主任研究員(併任)応用疫学研究センター 職業感染制御研究会 監事
※本記事は、「健康すまいる vol.36」(2025年5月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
前回はPPE(個人防護具)の基礎として、PPEの適正使用や使い方の間違いについて解説しました。
第2回はPPEの選定~素材による違いと規格~について解説します。
PPEの選定
皆さまは普段使用している手袋やガウン(エプロン)、マスクといったPPEに、規格があることをご存じでしょうか?「PPEは施設が準備しているからよくわからない」というご意見が多いかもしれません。もし、PPEを選択(選定)できる立場だったら、何を基準に選ぶでしょうか?前回、PPEの使用目的として、福祉(医療)従事者や利用者(患者)を感染から守ることを挙げましたが、目的を達成するためには安心して使用できるPPEを選ぶことが重要です。
PPEの規格と素材
1)手袋について
福祉・医療現場で用いる手袋の種類と用途を表1に示しました。手袋は、手術用手袋、検査・検診用手袋、多用途手袋の3つに分類されます。それぞれ使用目的が異なり、その目的に応じて使い分けます。基本的に手袋は再使用しないことが原則ですが、多用途手袋の場合は、再使用可能な厚手の製品、例えば、清掃や器材の洗浄、汚染物・廃棄物処理用の製品もあり、このような製品は基本的に粘膜や創部には使用しないこととされています。手術用手袋は管理医療機器として認証され、検査・検診用手袋は一般医療機器として届出されています。医療機器は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」により、国・都道府県の承認・許可・登録・監視の下で品質管理や製造販売後の安全管理が実施されています。また、手術用手袋と検査・検診用手袋には国際規格があり、米国のASTM(American Society for Testing and Materials)、欧州のEN(European Norm)、そして日本の日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)があります。
手袋には様々な素材が使用されています。表2に手袋の素材による特性と用途をまとめています。天然ゴムのラテックスや合成ゴムのニトリル、ポリ塩化ビニル製のPVC、ニトリルとPVCからなるハイブリッド、ポリエチレンが代表例です。常に安全性の高い製品を使用できればよいですが、素材により価格が異なります。このため、細かい作業が求められる手技、例えば採血やカテーテル挿入などでは、バリア性やフィット感があり、伸縮性の高い製品を使用し、汚染リスクが少ない短時間の作業では、経済性を考慮した製品にするなど、リスクや作業に応じて使い分けを検討されていることが一般的と思われます。
表3は、日本産業規格(JIS)におけるAQL(AcceptableQuality Level)、受容される不良手袋の割合の上限値を示しています。AQLの値が低いほど、高品質であることを示しています。寸法はどの製品もAQL値は同じですが、水密性(ピンホール)は製品により異なります。ピンホールというのは、針孔という意味で、目視ではわかりにくいほどの小さい穴です。清潔が求められる手術用手袋は厳しい条件(AQL1.5)となっている一方、検査・検診用手袋はAQL2.5であり、出荷された新品の手袋に穴が開いている可能性が高くなります。さらに手袋の素材により、手袋のリーク割合*も異なっており、同じ作業を行った後の手袋のリーク割合は、ラテックス手袋で0~4%、ニトリル手袋で1~3%に対し、PVC手袋は26~61%であることが報告されています3)。手袋を過信せず、手袋を外した後には手指衛生を実施することが必要です。
*手袋のリーク割合とは、同じ作業を行った後の穴あきや破損の発生する割合を指します。
2)ガウン・エプロンについて
日本では医療用ガウン・エプロンに対する規格はありません。このため、ガウンについては米国医療機器振興協会(AAMI:Association for the Advancement of Medical Instrumentation)の液体防御性能基準を参考に製作されています。ガウンには布や不織布、プラスチックなどさまざまな材質があります。不織布やプラスチック製は、撥水・防水効果というメリットがある反面、単回使用のためコストがかかる、防水性の高いタイプは通気性が低く、暑く蒸れるといったデメリットもあります。布製ガウンはこれまで感染対策としては不適でしたが、最近は撥水剤を使用した製品が販売され、主に手術分野などで使用されています。
3)サージカルマスク・N95レスピレータについて
新型コロナウイルス感染症流行(2020年)前はサージカルマスクやN95レスピレータの日本の規格がありませんでした。このため、新型コロナウイルス感染症流行初期にマスク不足となった際、規格を満たしていない製品が多く流通しました。規格が明確でない製品を使用することは、使用者の安全が担保されず、感染リスクを高めることになります。このような現状から2021年6月に、日本産業規格(JIS)においてマスクの規格が制定されました。表4にそれぞれの名称や概要を記載しましたが、JIS T9001は、サージカルマスクや一般用マスクの基準、JIS T9002はN95レスピレータ相当の基準となっています。これらの基準を参考に製品を選択することで安全に製品を使用することが可能となりました。
おわりに
今回はPPEの選定について解説しました。
職場でPPEを選定する際の参考にしていただければと思います。
次回はPPEの使用場面~場面ごとに使用するPPEの種類、注意点~について解説します。
引用・参考文献
1)職業感染制御研究会. 医療従事者のための使い捨て非滅菌手袋の適正使用に関する手引き(初版)2021. http://jrgoicp.umin.ac.jp/ppewg/im/ppeguide_glove_v1.pdf
2)サラヤ株式会社. Medical SARAYA. 各PPEの選定規格基準. https://med.saraya.com/kansen/ppe/kikakukijun/tebukuro.html. 2025年3月7日現在.
3)Rego A, Roley L. In-use barrier integrity of gloves : latex and nitrile superior to vinyl. Am J Infect Control 1999; 27(5): 405-410


