健康すまいる

健康すまいる 2025 vol.35

キーマンコラム

正しく使おうPPE(personal protective equipment)第1回「PPEの基礎~適正使用、使い方の間違い~」

黒須一見
国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター第四室 主任研究官 (併任)実地疫学研究センター第一室 職業感染制御研究会 監事

※本記事は、「健康すまいる vol.35(2025年1月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

PPEとは、personal protective equipmentの略称で日本語では個人防護具といいます。PPEは感染対策のツールの1つですが、誤った使用により本来の目的が達成できなくなってしまいます。読者の皆さまも2020年以降はCOVID-19対応で苦慮されたと思いますが、COVID-19の流行は、PPEの普及、特にPPEをなかなか使用できなかった福祉施設等では様々なPPEを導入できる機会となりました。一方で、PPEを着用し続けた状態で利用者間のケアを実施するなど、働く人を守るための目的のみに使用されていた場面もありました。
PPEを適正に使用することを目的に、「正しく使おうPPE」として3回のコラムを企画しました。今回はPPEの基礎として、PPEの適正使用や使い方の間違いについて解説します。

PPEの適正使用について

皆さまは米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)の隔離予防策のガイドライン1)をご覧になったことはありますか?このガイドラインには、今では普通に実施されている標準予防策や感染経路別予防策について記載されています。1996年に最初の隔離予防策のガイドラインが発出され、2007年に改訂されています。標準予防策は、湿性生体物質(血液・汗を除く体液・分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜)に触れる際、感染性の病原体を含む可能性を考慮し、手指衛生を行うとともに適切なPPEを着用し、確実な交差感染対策と職業感染対策を行うことを目的としています。近年では、介護士や保育士などの福祉従事者や医療従事者の感染症が利用者や患者に伝播するリスクも指摘されていることもあり、より一層の感染対策の遵守および実施が求められています。表1に標準予防策の項目を挙げました。
PPEの目的は2つあり、1つめは、湿性生体物質による汚染から福祉(医療)従事者を守ること、2つめは、湿性生体物質による汚染から利用者(患者)や物品を守ることです。これらの目的を達成するために、目的に応じてPPEを選び、適切に使用する必要があります。福祉施設の現場で使用する主なPPEを図1に示しました。手袋、ガウン/エプロン、サージカルマスク、N95レスピレータ、目の保護具(ゴーグルなど)、フェイスシールドなどがあります。ちなみにキャップは手術室の清潔の保持など、シューカバーはガウンより下の部分に大量の血液や体液、洗浄液などがかかり汚染される場合に使用するため、福祉施設で使用する場面は限定されます。
これらの各種PPEを使用する目的を表2に示しました。手袋の目的は手を守るといったように非常にシンプルで、それぞれの状況に応じて、PPEを選択します。
PPEを使用する際、いくつか注意点があります。着用前の注意点としては、着用前に手指衛生をすること、PPEに破損や汚染がないか目視で確認すること、PPEの上下・表裏を確認することが挙げられます。この理由としては、PPE使用前にPPEが汚染されないようにする、使用中にPPEの性能を保持できるようにするためです。使用後の注意点は、手袋やガウン/エプロンは中表(表面部分を内側)にして外し、廃棄容器にいれることです。PPEは汚染を受ける場面で使用するため、使用後のPPEの表面は汚染されています。これらの汚染を拡げないために、適切に脱衣し処理することが望まれます。また、脱衣時に汚染を受ける可能性があるため、脱衣後は手指衛生を必ず行いましょう。

表1 標準予防策の項目

図1 個人防護具の種類

表2 各種PPEの使用目的

PPEの間違った使用

ここからはPPEの間違った使用について解説します。
皆さまは、手袋はどのように取り出しますか?手袋は両手につけるので、おそらく1回のケアに2枚使用すると思いますが、使用する枚数を一度に取り出していませんか?手袋は使用する枚数を一度に取り出さず、1枚ずつ取り出します。まず、1枚取り出し、手袋を着用した手でもう1枚を取り出します。手袋が取り出し口から複数枚出てしまうことがあるかと思いますが、手袋を着用していれば、清潔な手で箱に戻すことができます。1枚ずつ取り出すことで手袋を清潔に管理し、性能を保持することが可能となります。手袋の箱の置き方は取り出し口を上にして置くのではなく、横向きに置くと一度に何枚もつかんでしまうことがなく、1枚ずつ取り出しやすくなります。図2のようなラックを使用し保管することで、使用時にすぐ取り出すことができ、清潔に管理もできます。
ケアに使用する手袋が破れやすいので二重手袋にしてもよいか?あるいは、おむつ交換などの時に毎回手袋を交換するのが大変なので、何枚か重ねておき、汚染したら1枚ずつ取る方法でもよいか?という質問を受けることがあります。非滅菌手袋は一重で装着し、汚染を受けた際には毎回交換が原則となります。手術用の滅菌手袋は二重手袋が推奨されていますが、非滅菌手袋については、二重手袋は原則推奨されていません。日本国内での最近の研究で、非滅菌手袋を一重で使用した場合の手袋脱衣後の素手より、二重で使用した場合の外手袋脱衣後の内手袋のほうが汚染度は高い4)ことが報告されています。なお、COVID-19流行後、米国CDCではCOVID-19の診療場面において、非滅菌使い捨て医療用手袋の二重使用は推奨しない5)と述べています。また、事務作業や受付業務などの場面に手袋装着は不要であり推奨されないこと、不適切な着用は却って感染リスクを高める可能性があることが国内の文献6)で明記されています。必要な場面で適切に使用し、不適切な着用を減らすことは、経済性を考える上でも重要です。
では、サージカルマスクには表裏があるでしょうか?実はサージカルマスクには表と裏があります。サージカルマスクの多くは3層構造になっており、細菌やウイルスを含んだ飛沫や花粉等を捕集する役割は、主に中間の層が担っています(図3)。外側の層(利用者から見える面)は水分を弾きやすい構造、内側の層は肌に触れるため、肌触りの良い素材を使用するなど、工夫されています。そのため、表と裏を逆に装着すると、防御性能や快適性に悪い影響が出る可能性があります。表裏の見分け方ですが、両面とも同じ色の場合、見分けがつかないことがあります。プリーツの向きによって、表裏が異なる場合もあるため、製造販売元が提供する取扱方法や表裏の判別方法を確認して正しく装着しましょう。

図3 サージカルマスクの3層構造(断面写真)

おわりに

今回は福祉施設の現場で使用されるPPEの基礎について解説しました。次回はPPEの選定~素材による違い~について解説します。

引用・参考文献

1)CDC. Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007. 2024年9月更新.https://www.cdc.gov/infection-control/media/pdfs/guideline-isolation-h.pdf?CDC_AAref_Val=https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/Isolation-guidelines-H.pdf; 2024年11月6日現在.
2)日本環境感染学会. 教育ツールVer.4. 2024年10月17日更新. http://www.kankyokansen.org/modules/education/index.php?content_id=5; 2024年11月6日現在.
3)職業感染制御研究会. 感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識とカタログ集 2022年版. 2022年4月. http://jrgoicp.umin.ac.jp/related/ppe_2022/【合体版】感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識とカタログ集_forWEB.pdf; 2024年11月6日現在.
4)青木香澄、五十嵐有三、小松崎未歩、上甲芽衣、徳永奈々美、村田真奈巳他. 手袋交換における汚染および時間の観点からみた適切な手袋の使用方法の検討 : 二重手袋と一重手袋の比較から. 看護技術. 2020;66(7):97-103.
5)CDC. Strategies for Optimizing the Supply of Disposable Medical Gloves 2020.
6)職業感染制御研究会. 医療従事者のための使い捨て非滅菌手袋の適正使用に関する手引き(初版)2021.

kenko35-column.pdf