健康すまいる

健康すまいる 2024 vol.32

キーマンコラム

感染対策ラウンドで見つけた社会福祉施設のヒヤリ・ハット事例 その1~消毒薬の保管、管理~

四宮 聡
箕面市立病院 感染制御部 副部長/感染管理認定看護師 

※本記事は、「健康すまいる vol.32」(2024年1月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

社会福祉施設に対する感染対策を支援する活動として、直接施設へ赴き、職員とともに施設内を巡回する方法がある。一般的に感染対策ラウンド(以下、ラウンド)と呼ばれるこの活動は、自施設の環境衛生や感染対策に関する種々の活動を客観的な視点で見直すことを目的として行われる。ラウンドでは、専門家と施設内を巡回し、感染リスクにつながりやすい場面を確認することでリスクを認知し、現実的かつ効果的な助言を得ることで改善につなげやすい。当院では、箕面市内の小規模病院や高齢者・障害者施設へ訪問し、主に環境衛生を中心とした改善支援を継続してきた。ここでは、実際のラウンドで見つけた施設のヒヤリ・ハット事例を紹介する。

次亜塩素酸ナトリウムの濃度低下

社会福祉施設で汎用される消毒薬の1つに、感染性胃腸炎を想定した次亜塩素酸ナトリウムがある。訪問先の施設では、流行に先立ち、あらかじめ希釈しておいた次亜塩素酸ナトリウムを保管していた(図1)。これは、速やかな吐物処理を目的とした対策の1つであるが、消毒効果の観点では問題がある。次亜塩素酸ナトリウム希釈液は、市販のペットボトルを転用した容器で保管しており、ラベルは剥がされ、一見すると水のようにも見える。ラウンド時に、有効塩素濃度を確認する目的で簡易試験紙にて濃度を測定したところ、濃度が著しく低下していることがわかった(図2)。通常、ノロウイルスによる感染性胃腸炎を想定した消毒には次亜塩素酸ナトリウムの残留塩素濃度1,000ppm(0.1%)以上が必要とされているが、保管中に経日的な濃度低下が起こっていたと考えられた。
吐物処理を速やかに行うための準備として、施設職員の気持ちは理解できる。しかし、消毒薬の特性を踏まえた管理が二次感染のリスクに直接影響するため、消毒薬はポイントを押さえて管理しておきたい(なお、ラウンドした施設では希釈液の保管は中止し、使用直前の希釈に変更となった)。

図1 透明容器で保管している次亜塩素酸ナトリウム希釈液

図2 濃度が低下している次亜塩素酸ナトリウム

適切に消毒薬を管理するためのポイント

消毒薬の原則として、①汚れを落としてから消毒すること、②3要素(濃度、時間、温度)を守ることが重要とされる。消毒は、目的とする菌やウイルスの量を減らすためのものであることから、事前にその量を減らす「洗浄」が必ず先行する。この原則は、利用者で共用する物品から病院の手術器材まですべてに共通する大原則である。そして、それに続いて重要なことが3要素を守ることとなる。特に施設では、①濃度、②時間、③温度の順で注意していただきたい。これは科学的根拠ではなく、筆者のこれまでの経験から、濃度が適切であれば、その他が不適切であることがほとんどないこと、温度だけが不適切な例は経験がないことが理由である。

【濃度】

社会福祉施設で汎用される消毒薬として、アルコールと次亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。いずれの消毒薬も保管方法が不適切であれば濃度が低下する可能性がある。特に、次亜塩素酸ナトリウムの特性として、光や有機物、温度が濃度に影響を与える。すべての次亜塩素酸ナトリウムのボトルが遮光容器であることからも分かるように、遮光は濃度の安定性に必須の条件である。前述の次亜塩素酸ナトリウム希釈液の保管では、せっかくの準備が、いざ使用する時には「水」に近い状態になっているかもしれない。これでは吐物処理をする職員が二次感染するリスクを高めてしまう。現在使用している消毒薬のボトルについて、保管方法と希釈方法を今一度確認していただき、希釈作業を行う所から見える場所に保管方法と希釈方法を掲示していただきたい。

【時間】

時間は、厳密には「消毒薬と接触している時間」である。日常的な使用後器材に行う消毒と吐物処理のような突発的な場面で行う消毒は、時間管理における工夫が異なる。いずれも厳密な時間を遵守するというよりも、必要な時間を確保することを目的にするような意識が大切である。日常業務では、尿器や経管栄養器材の消毒が多いと考えられる。これらは、比較的時間の余裕があり管理が行いやすい。しかし、消毒する物品が時間的に分散して発生する場合は工夫が必要になる。簡便かつ一般的な方法は、タイマーを用いて行われる。ただし、最初の消毒作業中に他の物品を消毒する必要がある場合は、最初の消毒の終了後に消毒するか、時間をリセットする必要が生じる。吐物処理のような場面での時間管理は、発生するタイミング・状況によって一様ではないため、タイマーの利用も想定しつつ、シミュレーション研修を通して待機すべき時間を体感しておくとよい。

【その他】

温度は、著しく高くなければ通常問題になることは少ないと考えられる。一方、効果以外にも消毒薬の保管・管理で注意すべきこととして、安全面の配慮が必要である。透明容器での消毒薬の保管は、濃度が不明瞭であることに加えて誤飲のリスクもある。アルコール手指消毒薬を誤飲リスクから設置しないことがあるが、次亜塩素酸ナトリウムや第4級アンモニウム塩(ベンザルコニウム塩化物)も同様に保管場所に注意したい。少なくとも、消毒薬のボトルには消毒薬名、濃度、希釈日または使用期限は最低限明記すべきと考えられる。消毒方法では、消毒効果を確実に得るという視点から、噴霧は極力避けるべきである。消毒薬は、あくまでも消毒したい対象(環境表面や器材)と触れることで効果が発揮される。噴霧は、粒子状の点で接触するイメージで、面で接触する拭く消毒と比較して均質さは明らかに差が出る。さらに、陰部洗浄や経管栄養用のボトルが浸漬消毒時に浮いている場面を見たことがある読者も多いと思われる(図3)。これらも不適切な消毒の代表例で、消毒薬と接触していない物品は消毒が始まっていないといえる。

図3 浮いた陰部洗浄用ボトル

まとめ

消毒薬の保管、管理に関するヒヤリ・ハット事例を紹介した。毎日のように行っている消毒であるが、「適切に」となると様々な障壁が存在する。職員と利用者双方にとって安全な環境、器材管理となるよう、課題があれば振り返り、改善につながれば幸いである。

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