健康すまいる

健康すまいる 2023 vol.31

感染対策インタビュー

「新型コロナウイルス感染症クラスターを経て」 社会福祉法人恩賜財団 済生会支部 山形県済生会 特別養護老人ホームながまち荘

※本記事は、「健康すまいる 増刊号vol.31」(2023年11月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

ながまち荘は済生会グループの特別養護老人ホームで、長期入所、短期入所、デイサービスなどの事業を展開しています。
今回は長期入所担当の職員の方に、新型コロナウイルス感染症クラスターのご経験についてお話を伺いました。
取材日:2023年8月25日

どのような経緯だったのでしょうか?

長岡さん(主任介護職員)
2022年4月25日、施設職員A氏の家族が新型コロナウイルス(以下、コロナ)陽性で、A氏は無症状であったものの検査したところ陽性とのことで、深夜に第一報の連絡が入りました。明け方、長期入居者(B氏)の熱発がありました。A氏とB氏は接触した可能性があったため、B氏の抗原検査を実施したところ、陽性反応がありました。短期入所は新規受け入れをすぐに中止し利用者は全員留め置き対応としましたが、その日中に短期入所者からも陽性者が発生しました。翌日、デイサービスも休止しましたが、その後も感染者が次々と発生し、最終的に利用者・職員合わせて46名が感染し、収束まで36日かかりました。

ゾーニングは?

長岡さん
以前からクラスターが発生した場合のゾーニングを検討しており、陽性者と濃厚接触者は2階の新棟に隔離することを考えていました。B氏の陽性判定時点では、保健所は相談時間外で指示が得られなかったこともあり、当初の予定通り、B氏と同室者3名(陰性)を居室のある、なでしこ棟から新棟に移動し、B氏は空気清浄機を稼働させた陰圧テント内に隔離しました。その後、保健所からの指示で、B氏と同室者3名を元の居室に戻すことになりました。その頃には同棟内の短期入所利用者からも陽性者が出ていたため、なでしこ棟全域をレッドゾーンにして対応しました。その後別の棟(花笠棟)からも陽性者が出たため、なでしこ・花笠両棟をレッドゾーン、事務エリアをグリーンゾーンとしました。
当施設は、浴室は花笠棟に、洗濯場はなでしこ棟にというように、施設内に設備が1つしかないものがあります。そのため、当初なでしこ棟をレッドゾーンにした時に、洗濯物などの物品の移動方法や職員の移動ルートに悩まされた上に、なでしこ棟内の入居者が花笠棟の設備を使用せざるを得ないこともありました。また、この時点で花笠棟はレッドゾーンではなかったため、コロナ対応の個人防護具(以下、PPE)を着用しておらず、花笠棟内の潜伏期間の入居者から職員が感染した可能性もあったと反省しています。物品倉庫はグリーンゾーンの事務エリアにしかないため、レッドゾーンで物品が必要になった際には、グリーンゾーン内勤務の職員がゾーン境界線の限界まで物品を持っていき受け渡しをしていました。

ケアはどのようにされていましたか?

長岡さん
入浴は中止し、身体清拭で対応しました。食事は、容器やスプーンなど入居者が使用するものをディスポーザブルに変更しました。ただし、プラスチックスプーンだと歯で噛みしめてしまったり、開口障害がる方はスプーンが口の中で割れたとの事故報告もあったりしました。食事介助時にはPPEを着用しましたが、入居者の中にはPPEを着用した職員を怖がり、口を開けるのを拒否し食事摂取量が低下してしまう場合がありました。排泄介助は、ディスポーザブルのウェットシートでの清拭に変更しました。排便の時には拭き取りが難しかったのですが、肌の衛生状態を清潔に保たなければ褥瘡発生のリスクもあることから、ウェットシートを何枚も使いながら衛生状態を保てるよう注意していました。入居者の離床制限をかけざるを得ない場合があり、褥瘡発生を危惧しましたが、陰部の清潔維持に加え、予防のために軟膏を使用したり栄養状態に注意を払ったりといった対応で、褥瘡になった方はいらっしゃいませんでした。入居者は1ヶ月以上自室にこもりきりの生活で、ADLが低下される方もいました。そのため、リハビリ職員が各居室を回り、居室の中でできるリハビリ(足組みや立ち上がり動作)をしていました。罹患者へも回復後、できるだけ早期にリハビリや離床時間の確保に取り組みました。

勅使河原さん(介護職員)
排泄介助の時、手袋を着用した状態でウェットシートの蓋を開けると粘着部分に手袋がくっついて取りづらく、またウェットシートはたたまれた状態で出てくるので、広げるのに時間がかかっていました。そのため、予め1人介助分のウェットシートを広げた状態でビニール袋に入れておき、それをタオルウォーマーに保管して、必要時に持ち出すという運用に変更しました。少しでも無駄な時間を減らしたいという思いがあり、また入居者からしても汚染したままの状態が続くと気持ち悪いと思うので、できるだけ素早く対応できるように日々工夫を重ねていました。

クラスター対応で大変だったことは?

勅使河原さん
入居者の中にはPPEで職員の顔が見えないために不穏になる方や、1日中ベッドにいる状態で昼夜逆転する方、精神的に不安定になる方がいて、通常時より配慮が必要でした。また、職員もレッドゾーンでPPEを着用しながら勤務するため、蒸し暑くてTシャツの替えが必要になるほど汗をかき、手袋を外すと入浴後のように手がシワシワになっており、フェイスシールドは曇って見えづらく、N95マスクは呼吸がしづらい上に針金やゴムが痛くて頭痛に悩まされました。職員は家族との接触を避ける必要があり、仕事で疲れて帰っても家族に会えないので、心が折れそうになったこともあります。人によっては、自宅に帰らずホテル暮らしをしていました。夜勤の場合は仕事の終了時間が10時頃で、ホテルのチェックイン時刻(14時頃)まで風呂に入れず寝ることもできず、車の中で休んでいました。また、夜勤の勤務体制も通常時は長期入居と短期入所を併せた約100床を4人で対応していましたが、クラスター中は各棟を行き来しないよう棟毎に職員を配置し、40床を2人で対応する体制に変更しました。普段よりは少ない人数の担当ではありましたが、1人が休憩中は1人で入居者を見なければならず、水分補給やトイレ休憩もままなりませんでした。
今となっては正しく感染対策をしていれば感染しないという自信があるのですが、当時は感染対策の知識も浅く、ウイルスが目に見えないことも相まって、感染してしまう恐怖の感情が強かったです。陽性者の居室には「感染して家族に会えなくなるかもしれない」と覚悟を決めて入っていました。レッドゾーン内には無症状の利用者もいたので、自分がウイルスの媒介者になってしまうのではという恐怖もありました。収束の兆しが見えない中、皆、精神的にも身体的にも相当きつい状況でした。

金澤さん(看護師)
トイレに行くときはPPEを全て脱ぎレッドゾーンから出て、戻るときには新しいPPEを着用しなおさなければなりません。慣れるまではPPEの着用に10分ほどかかっており、その手間を考えると、トイレに行かなくてもいいようにと水分補給を躊躇したほどです。認知症のコロナ感染者が自由に動く場合など、入居者それぞれに合わせた対応も必要で、介護職員と連携を取りながら対応方法を日々試行錯誤していました。他には、保健所と連絡を取るまでの間の健康管理や、その後の保健所への陽性者数の連絡、有症状者の検査、薬の仕分け、陽性者が入院する場合のレッドゾーンから車までの移動ルートの確保と病院への連絡など、大変だったことは数え切れません。病院搬送時は、病院に到着するまでは車の窓を開けて換気が出来ますが、病院に到着してからは病院側の感染対策のため窓を閉める必要があり、車内での感染防止にも注意を払わなければなりませんでした。また、シルバー人材職員は休んでもらったので、普段シルバー人材職員が実施していた洗濯業務を職員が代わりに行わなければなりませんでした。

佐藤さん(管理栄養士)
クラスター発生中、食事提供はディスポーザブル容器(以下、ディスポ容器)での提供に切り替えました。元々災害発生時用にディスポ容器を3日分備蓄していたため、始めはそれを使用しましたが、すぐに底をつきました。クラスターの時期がゴールデンウィークと重なり、どこのメーカーも製造を止めていて、在庫がない、配送できないと言われ、食事提供を継続するためにディスポ容器集めに山形県内を奔走しました。また、ディスポ容器では提供する食事量が通常よりも少なくなってしまったので、足りない栄養価を栄養補助食品で補う必要がありました。しかし、栄養補助食品も当時在庫が少なかったので、色々な業者に頼み込みました。
当施設では、2022年2月に厨房運営をクックサーブ※1からニュークックチル※2システムに切り替えていましたが、クラスター発生中はディスポ容器で提供するために一部クックサーブに戻さなければならず、作業工程の大幅な変更と作業台の配置換えを行いました。ニュークックチルでは調理済みの食事が業者から届くので調理が不要で、さらに前倒しで盛り付け作業が可能なため朝は配膳だけで済んでいましたが、一部クックサーブに変更したことで食事提供時間に合わせた盛り付けとなり人員確保が必要でした。また、調理時の衛生管理に気を配らなければなりませんでした。
あとは、厨房職員が感染すれば食事提供が出来なくなるという不安に駆られました。日々感染対策に尽力し、厨房職員と施設職員の通用口は分けて交わらないようにしていました。
※1 厨房で調理・盛り付けし、すぐ提供するシステム。
※2 調理済みの食事をチルド状態で食器に盛り付けて保管。その後食事をトレーに乗せ、再加熱カートにセットすると、設定した時間に自動で加熱されるシステム。

クラスターでの損失額

長岡さん
損失額は約2,440万円です。まさかここまでの額になっているとは思っておらず、非常に驚きました。一番の損失は、短期入所・長期入居の受け入れ停止や入院患者発生での空床による損失で、約1,360万円でした。また、物品購入費や時間外手当等の掛かり増し経費で約1,080万円かかってしまいました。うち約640万円は物品購入費で、PPEを大量に使用したことや、PPEやアルコールなどの感染対策物品の値段が高騰していたこと、追加で熱中症予防の水分補給用品や身体清拭用のウェットシート、食事のディスポ容器と栄養補助食品といった物品の購入が必要になったことが影響しています。感染した職員も多く、また厨房ではシステム切り替えで人員確保が必要だったため、時間外手当も通常より大幅に発生しました。ホテル暮らしの職員への、1日上限5千円の宿泊補助費も発生しました。

その後、クラスターは発生しましたか?

金澤さん
2023年8月に2回目のクラスターが発生しましたが、感染者は入居者5名のみでした。初日に2名、翌日に3名、食事席の近い人と自分で動く人の中で感染者が出ましたが、それ以降は発生せず、短期間で収束できました。職員が1人も感染しなかったのは、1回目の経験を活かしてPPEの着脱方法や手指衛生、ゾーニングなどの感染対策を改善でき、1回目を経験していない新入職員にも先輩職員がきちんと指導できたからだと感じています。ゾーニングについては、1回目の反省(潜伏期間者からの感染の可能性)を活かし、2回目では最初から事務エリアを除く全棟をレッドゾーンとして対応し、1週間感染者が出なければグリーンゾーンを増やす対応に変更しました。そのような対応の効果もあって感染が拡がらなかったのだと思います。

勅使河原さん
夜勤で入居者の対応をしていた時、コロナを疑うような咳をしていることに気づきました。抗原検査をしたところ陽性で、すぐに現場判断で陽性者対応に切り替えました。クラスターを一度経験しているため、素早く初動対応を行うことができ、コロナに対してそこまで怖いイメージを抱くこともありませんでした。各居室の担当職員を決めて勤務したため、陽性者の居室に入るときには気を引き締めて感染対策ができたので、1回目のクラスターでは検査の度に陽性反応が出るかもと不安でしたが、今回は感染していない自信がありました。

佐藤さん
食事提供に関しては、1回目のクラスター収束後にディスポ容器の備蓄数を増やし、さらにクックサーブに戻した場合の対応マニュアルを作成しました。2回目では再度ニュークックチルからクックサーブに戻す必要がありましたが、これらの事前準備を行っていたおかげでスムーズに切り替えられました。

長岡さん
感染者が1人で収まらなかったのは、トイレの環境表面が原因と考えています。職員の付き添い無しでトイレを使用される入居者がおり、そのような場合にはよく触れる環境表面を都度消毒出来ていたわけではありません。入居者が1人でトイレを使用した場合にも入居者自身で消毒できる環境を整え、衛生的な環境を維持していかなければならないな、というのが2回目の反省です。

同職種の方に一言

佐藤さん
クラスターが発生しても、日頃と同じように食・栄養を確保し、安心安全な食事提供ができるように、どの施設でも事前に準備をしていただければと思います。

金澤さん
施設は生活の場であるため、感染対策を完璧に実施することが難しく、出来ることと出来ないことがあります。生活の場と感染対策を両立できるギリギリのラインをどこに引くかを、施設内でよく協議することが必要だと考えます。介護施設で働く人間だということを忘れずに日頃から気を引き締めて、自身の健康状態にも気を使い感染症と戦う力を蓄えながら、皆で頑張りましょう。

勅使河原さん
入居者に対して、何か変だ、いつもと違うと気付けるのが介護職で、異変を察知したらすぐ報告をして対応し、併せて入居者の不安を和らげるのが役割だと思います。クラスターが発生しても、感染対策をしながら、介護職として自信を持っていつも通りの仕事をしようと伝えたいです。

長岡さん
介護職は入居者を感染症から守るだけではなく、転倒や転落からも守らなくてはなりません。そのためとっさの対応で適切な感染対策を行えない場合もあり、困惑することもあると思います。ただ、常日頃からできる限りの範囲での感染対策を継続し、クラスターを発生させない、発生させても最小限に抑えることが大事だと伝えたいです。

編集部のあとがき

ながまち荘は、クラスターのご経験を(一社)山形県地域包括支援センター等協議会主催の講習会で発表されています。他施設で参考になる情報を考えられた結果、損失額までオープンにすることを決められたとのことで、今回の取材も快くお引き受け頂きました。サラヤとしても一刻も早くこの情報を他のご施設にお届けしたいと思い、今回増刊号を発行する運びとなりました。今回の取材でもクラスターのご経験について率直にお聞かせいただいて、心より感謝しています。コロナを含めた様々な病原体は、わずかな抜け道を見つけ出して感染症を引き起こしてしまうので、感染を完全に防ぐことは、どのご施設でも至難の業だと感じます。そんな中でもサラヤが少しでもお役に立てるよう、今後も情報提供に努めて参ります。

社会福祉法人恩賜財団 済生会支部 山形県済生会
特別養護老人ホーム ながまち荘

〒990-0811 山形県山形市長町751番地
TEL 023-684-2391

https://www.yamagata-saiseikai.org/nagamachiso/

職員数 : 約130名
利用者数 : <長期入所>80名(個室8室、2人部屋4室、4人部屋16室)
<短期入所>20名(4人部屋5室)
<デイサービス>30名

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