健康すまいる 2023 vol.29
施設で気になる感染症のはなし
めざせ、ぴかぴかトイレマスター!
※本記事は、「健康すまいる vol.29」(2023年5月発行)に掲載した内容です。所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
排泄物には、ノロウイルスやクロストリディオイデス・ディフィシル、ESBL産生菌などの福祉施設でも問題になる様々な微生物が潜んでいる可能性があります。共用のトイレは不特定多数の人が頻回に利用するため汚染されやすく1)、感染拡大の原因となる可能性も…。感染を防ぐためにトイレ使用後の手指衛生が重要なのは言うまでもありませんが、例えばノロウイルス感染者の糞便1g中に1万個以上のウイルスがいるとされていることから1)、トイレ清掃を適切に行い、感染リスクを低減することも重要です。お食事中の方以外は、ご施設のトイレをイメージしながら清掃のポイントを振り返っていただければと思います。
トイレ清掃のピットフォール
種類によって差はありますが、トイレは勢いよく水が流れることから、周囲への水の飛び散りを考慮しなければなりません2)。蓋のない便器で水を流したところ、飛沫やエアロゾルが発生し8秒以内に1.5mの高さに達したとの実験報告もあります3)。蓋のない便器を使用している場合は周囲への水の飛び散りを意識して環境整備を行いましょう。蓋がある場合は水洗時に閉じることで周囲への水の飛び散りを低減できると考えられますが、センサー付きの自動開閉式でない限り利用ごとに開閉で人の手が頻繁に触れることにも注意してください。
また、便器は勿論のこと、手が触れる可能性のある環境表面(手すり、前方ボード、緊急ブザー、スイッチ、トイレットペーパーホルダー、ドアノブ等)も微生物で汚染されていることを考慮する必要があります1)。交差感染リスクが高い、手すり等の手が頻繁に触れる部分は、通常清掃後に必要に応じてエタノールで消毒することが勧められています4)。スイッチなど凸凹構造の場合は、しっかり拭いたつもりでも微生物が残存している可能性もあることから、溝や隙間に注意して清掃しましょう。なお、ノロウイルス流行時は次亜塩素酸ナトリウム等を用いて便座や手が触れる部分を消毒するなど、流行している感染症によっては、通常清掃に加えてその病原体に応じた消毒を行う必要があります4,5)。
温水洗浄便座のノズルは、使用時に汚染されるほか、ノズル収納口にカバーが無いタイプは排泄時に汚染を受けやすいです6)。ノズルが一因と考えられた薬剤耐性菌の伝播事例も報告されている7)ことから、日々の清掃を怠らないようにしましょう。
また、各パーツのつなぎ目や便座と便器の間にも汚れが入り込んでいることがあります6)。隠れたところの汚染をそのままにすると悪臭の原因にもなるため、定期的に清掃しましょう。
日常のトイレ清掃実践
図の青色の箇所は手や皮膚が触れる場所(清潔箇所)、紫色の箇所は汚物が直接触れる箇所(不潔箇所)です。トイレの清掃は、清潔箇所と不潔箇所を必ず区別して行い、清掃用具も分ける必要があります2,8)。また、基本的に「きれい→汚い」「上→下」の順序で清掃します。使用後の清掃用具は毎日洗浄・漂白し乾燥させます2)。
清掃を行う際は、手袋、マスク、エプロンを着用します5)。手袋は、使い捨ての場合は汚物に触れた都度交換し、厚手ゴム手袋を使用する場合はスタッフごとの個人専用とし、毎日洗浄・乾燥させ、清潔用と不潔用を区別して管理します5, 8)。
参考文献
1)雪田智子. トイレ. 渋谷智恵 編. INFECTION CONTROL 2018年夏季増刊 環境整備ICTマニュアル. メディカ出版. 2018.
2)日本レストルーム工業会. 感染制御の専門家に訊く 病院・医療機関でのトイレの清掃管理・消毒の基本と注意. https://www.sanitary-net.com/trend/expert/study03-1.html. 2023年4月7日現在.
3)Crimaldi JP, et al. Commercial toilets emit energetic and rapidly spreading aerosol plumes. Sci Rep. 2022;12(1):20493.
4)厚生労働省老健局. 介護現場における感染対策の手引き 第2版. 2021年3月. https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000814179.pdf. 2023年4月7日現在.
5)笹原鉄平 他. 入居型高齢者施設における日常的な入居者介助のための感染対策手順書 日常清掃・環境整備(第1版). 2020年.
6)鳴美英智. トイレ. INFECTION CONTROL 2020. 29(12). 40-4.
7)林 三千雄 他. 温水洗浄便座汚染が伝播の一因と考えられたmetallo-β-lactamase産生緑膿菌集団感染事例の検討. 環境感染誌 2015. 30(5). 317-24.
8)菅原えりさ 監修. 医療機関におけるトイレ清掃マニュアル作成のための手引き. 日本レストルーム工業会. 2021年.

