HosCom 2024 vol.21 no.2
特集
医療・介護・福祉現場における水回り環境の微生物汚染リスクと管理のポイント
- 笹原 鉄平
- 自治医科大学附属病院 感染制御部長
※本記事は、「HosCom 2024 vol.21 no.2(2024年7月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
水回りと微生物には、どのような関係がありますか?
医療・介護・福祉現場では、様々な場面で水を使用するため(表1)、通常の生活環境に比べて水回りの多い条件下にあります。これらの「水回り環境」は常に多湿であり、有機物などが付着していることもあります。そのため、多くの微生物(特に細菌)にとって住み心地の良い環境となってしまっています。「水回り」を特に好む細菌は様々いますが、ヒトに病気を起こすものとしてはレジオネラ属菌・非結核性抗酸菌・緑膿菌・アシネトバクター属菌・セラチア菌・エンテロバクター属・セパシア菌・ステノトロホモナス属などが有名です1)。最近では、抗菌薬の効かない多剤耐性グラム陰性菌が水回り環境に定着してしまい、「微生物の住み家(リザーバー)」になってしまっているというケースが報告されるようになり、大きな問題となっています2,3)。
では、これらの「水回り」に存在する微生物は、単にそこにいるだけなのでしょうか?それとも我々にとって有害なのでしょうか?これらの微生物は、施設内で感染症を起こす原因となることが知られています。したがって、免疫が抑制された方がいる施設では十分に注意する必要があります。
水回り環境にいる微生物を減らす工夫はありますか?
ここでは、水回り環境にいる微生物を増やさない・できる限り減らす全般的な工夫について触れていきます。水回り環境のうち、洗える場所については洗剤を用いて毎日清掃を行うことで、微生物汚染が軽減されることが期待されます。特にヌメリが見られやすい場所、水垢(正体は微生物とその産生物)が発生しやすい部分は、微生物が好む場所でもあるため、忘れずにきれいにしましょう。ただし、物品等の表面を擦りすぎて傷つけてしまうと、かえって微生物が付着しやすくなってしまうことがあるため、清掃用具の種類や擦り方には注意しましょう。また、細菌は乾燥が苦手なため、濡れている箇所を可能な限り拭き取るなどして、水回り環境をしっかり乾かす時間帯を作るように工夫すると良いでしょう。一方、配管や蛇口、シャワーヘッド内の水については、停留している時間が長いほど微生物が増殖するリスクが高くなります。
病院の水道水は清潔と考えて良いでしょうか?
本来、患者さんに提供・使用される水が清潔であることが望ましいことは、いうまでもありません。しかし、給水系配管・蛇口などの設備は水を好む微生物に(程度の差はあれ)汚染されています。これが臨床現場でどの程度問題になるかは、汚染している微生物の種類や菌量、曝露されるヒトの条件等によって異なります。レジオネラ属菌や非結核性抗酸菌による給水系の汚染によって起こる感染者の集団発生(アウトブレイク)は、しばしば国内外でも報告されており注意が必要です4)。また、蛇口やシャワーヘッド等の射出部分は外部に開放されている構造上、外からの水の跳ね返り等による汚染をどうしても受けてしまいます。緑膿菌などのブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌をはじめとして、様々な微生物が蛇口(とくにエアレーターや整流器※)やシャワーヘッドを汚染しています5-8)。筆者の経験上、目に見える汚れが付着しているケース(図1-3)も珍しくありません。日常の巡視ではあまり注目しない箇所かもしれませんが、是非確認してみて下さい。こういった給水系・蛇口等の微生物汚染は、清潔度を要求しない日常的な使用において大きな問題は起こらないと考えられるものの、微生物へのバリア機能が低下した部位への使用(例えば熱傷部位の洗浄)や、免疫不全患者に対する使用によって、アウトブレイクが発生する可能性があります。清潔度が要求される蛇口は、特に注意して管理を行う必要があるでしょう。
※エアレーター、整流器:エアレーターは水の流れを制御するために蛇口の先に取付ける金具。整流器は蛇口から水がまっすぐに出るように調整する金具。
シンクはどのように管理すれば良いですか?
シンクが微生物に汚染されていることは、皆さんも何となくイメージできると思います。特に排水口・排水配管内は、豊富に存在する栄養分と湿潤状態により、様々な微生物が多量に生存してリザーバーを形成しています。緑膿菌のほか、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌やカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)、カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)など、抗菌薬に抵抗性を示す細菌で汚染されることもあり、施設内感染の原因となることが推測されています9-11)。シンクの適切な管理方法については、現在のところ確立されたものはありません。オゾン水・酢酸などによる洗浄、シンク表面の紫外線照射、配管の加熱、プラスチック製の排水口カバーの使用など、汚染除去方法が検討されていますが、コストや管理の面などから発展途上の段階です。一般的には、洗剤を用いて毎日清掃し、よく乾燥させる時間帯を設けることが最低限必要です。シンクは清潔な場所ではないという認識を共有し、不必要なものを置かないようにします。また、シンクの水の跳ね返りによって、周辺にも微生物が拡散する恐れがあることから、その周辺に清潔物品がないか日頃から注意しましょう(図4)。
ところで、シンクでよく見かけるものとして「スポンジ」があります。スポンジもまた微生物の汚染を受けやすく、リザーバーの一つとして有名です。使用後にしっかり洗浄する、交換頻度を決めるなどして、可能な限りきれいに管理するようにします。筆者の施設では、大きなスポンジを小さく切断し、1日ごとに廃棄するようにしています。これにより、不潔になりやすいスポンジ置き場をなくすことが可能となりました。
浴室・シャワー室では、やはりレジオネラ属菌がリスクとなるのでしょうか?
レジオネラ属菌以外にも非結核性抗酸菌、緑膿菌、アシネトバクター属菌、その他のブドウ糖非発酵グラム陰性菌なども浴室・シャワー室に生息している可能性があります。これらの微生物は、施設内感染症の原因となるため、問題となります12)。
入浴を重要な文化・習慣として持つ日本では、浴室やシャワー室は医療・介護・福祉施設においても欠かせない設備です。いうまでもなく、浴室・シャワー室は高温多湿な環境かつ有機物による豊富な栄養の存在により、微生物汚染が発生しやすい環境です。しばしば公衆浴場等で問題となるレジオネラ属菌による被害は、医療・介護・福祉施設でも同様に報告されています13)。レジオネラ防止対策については既に様々なものがまとめられていますが、遊離残留塩素濃度の管理については、少し注意が必要です。例えば、浴室・シャワー室で適温のお湯を出した際に、水のみを出した場合よりも塩素濃度が低下する施設などもあります。また、水の遊離塩素濃度が要求基準以上であっても、配管などの設備が汚染された場合には、解決が難しいケースも少なくないようです。自施設のみで思うようにいかない場合には、レジオネラ対策の専門家に早めに相談することも検討しましょう。レジオネラ属菌による汚染は、古い施設だけでなく、新築でも発生する可能性があることにも注意しましょう14)。
また、レジオネラ属菌といえば循環式浴槽や24時間浴槽などが有名ですが、これらの設備は配管などのメンテナンスがきちんと行われているかに注意が必要です。ジャグジー機能などを備えた浴槽や、自立して入浴できない方に使用する機械浴槽・シャワーベッドのように、一旦使用された水が内部の配管を通るような構造であれば、微生物汚染されやすいと考えます。残念ながら、これらの浴槽の多くは微生物汚染予防を考慮された設計とはなっておらず、リザーバーとなるリスクがあります。例えば、熱傷患者さんの創部を洗浄するために機械浴槽を使用していた結果、浴槽が多剤耐性アシネトバクター属菌に汚染されて施設内アウトブレイクを起こした事例などがあります15)。これらの設備についても、衛生的なメンテナンス方法について販売メーカーによく確認しておくことが大切です。清潔な管理を考慮して設計されたシャワーベッド(図5)なども登場してきているので、新規に探す場合には、メンテナンス性もよく考慮して選択すると良いでしょう。
浴槽だけでなく、シャワーヘッド・シャワーホースなどのシャワー設備についても注意が必要です。シャワー設備は、材質や水の流量、温度などの条件によって微生物が生存しやすい環境となっています。またシャワー設備が汚染されていた場合、シャワーの構造上どうしても使用時に周囲に汚染微生物をまき散らすことになってしまいます。レジオネラ属菌等による問題が解決できない場合、コストはかかりますが、微生物を除去できるフィルターを内蔵したシャワーヘッドなどの使用についても検討余地があるでしょう16)。
微生物汚染を防ぐための浴室の具体的な管理方法はどのようなものですか?
年に2回以上、浴槽水等について水質検査(レジオネラ属菌汚染調査)を実施し、基準(10CFU/100mL未満)を超えたら利用を中止します。清掃消毒等の対策を行った後、再度確認を行います。
日常的な管理としては、毎日清掃を行い、十分な換気をして浴室内を乾燥させる時間を作ることが大切です。浴槽は可能な限り毎日完全に排水し、集毛器などを含めてよく洗いましょう。循環型浴槽では週1回以上、ろ過器の逆洗浄を行います。人が直接触れる表面や物品も毎日洗剤を用いてよく洗い、乾燥させましょう。椅子の座面・マットなどのスポンジ様構造(多孔性構造)の物品は微生物に汚染されやすいため、スポンジ素材の物品の使用は必要最小限とします(図6)。使用する場合にも毎日汚れ等を確認し、外せるものは時々外してしっかり洗いましょう。これらの物品もよく乾燥させることが重要です。石けん入れ、シャンプーボトルなどの底面も汚染されやすい場所です。置きっぱなしにすると乾燥されないので、筆者の施設ではボディケア物品等を使用後に浴室外に出すようにしています。
排水溝は、様々な微生物のリザーバーになりやすく注意が必要です。毎日、汚れやヌメリが残らないように洗浄しましょう。排水溝の清掃には、ペーパーや割りばしなど使い捨てにできるものを上手に利用して、排水溝に使用した用具が他の場所に使用されることがないように注意しましょう。
浴室内のカビ発生防止のための対策は、家庭で実施するのと同様に市販の浴室用防カビ剤などを利用して定期的に行います。換気扇や窓の汚れの確認なども実施します。年に1回は、浴槽・循環ろ過器・配管設備などの点検・整備、貯湯タンクの点検・洗浄を実施しましょう。シャワーヘッドとシャワーホースの汚染状況も時々チェックするようにし、綿棒等で内部を擦って確認し、汚れやヌメリが目立つ場合には交換を検討しましょう。
清掃用具も使用後によく洗い、十分な乾燥が必要です。清掃や介助に使用する職員用の長靴については、浴室内に置きっぱなしにすると底面にカビなどが発生します(図7)。浴室外で保管するか、底面が乾燥できるような工夫をしましょう(図8)。防水エプロンも微生物が繁殖しやすいので、ハンガーなどにかけてしっかりと広げて干し、よく乾燥させましょう。
多剤耐性菌の保菌/感染者の使用後の浴室は消毒する必要がありますか?
熱傷や広い創部のある方など、微生物を環境中に拡散させる可能性の高い場合を除いて、直接触れる場所の清掃がしっかりと行えれば(血液や体液による汚染がない限り)日常的な消毒は必要ないと考えられます。心配であれば、接触した物品等について、通常の清掃後に500〜1,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム、または市販の浴室用防カビ剤で処理するのも一つの方法です(感染症の有無に関わらず、血液や体液で汚染された場所は、同様の処理が必要です)。溝や窪みなど、リザーバーができやすい場所についても、次亜塩素酸ナトリウムで処理すると良いでしょう。
まとめ
水回り環境は、微生物汚染が発生しやすい。
水回り環境にいる微生物が、施設内感染を起こすことがある。
水回り環境の微生物汚染を減らすためには、毎日の清掃・洗浄に加え、しっかりと乾燥させることが重要である。
浴室はとくにレジオネラ属菌などに汚染されやすく、日常的な管理が必要である。
微生物に汚染されにくい、または清潔なメンテナンスを考慮した物品を選んでいくことも大切である。
参考文献
1)笹原鉄平. 水回りの管理に関連する最新情報と使い方.INFECTION CONTROL. 2020. 29. 1210-1214.
2)梅澤和夫, ほか. シンクとリザーバー 確認ポイント3.INFECTION CONTROL. 2020. 28. 554-558.
3)島崎信夫. 水道設備とリザーバー 確認ポイント3.INFECTION CONTROL. 2020. 28. 559-564.
4)Rosendahl Madsen AM, et al. Whole-genome sequencing for identification of the source in hospital acquired Legionnaires' disease. J Hosp Infect. 2017.96. 392-395.
5)Tang W, et al. Prevalence of Opportunistic Pathogens and Diversity of Microbial Communities in the Water System of a Pulmonary Hospital. Biomed Environ Sci. 2020. 33. 248-259.
6)Garvey MI, et al. Continued transmission of Pseudomonas aeruginosa from a wash hand basin tap in a critical care unit. J Hosp Infect. 2016. 94. 8-12.
7)Hutchins CF, et al. Contamination of hospital tap water: the survival and persistence of Pseudomonas aeruginosa on conventional and 'antimicrobial' outlet fittings. J Hosp Infect. 2017. 97. 156-161.
8)Takajo I, et al. Pseudo-outbreak of Mycobacterium paragordonae in a hospital: possible role of the aerator/rectifier connected to the faucet of the water supply system. J Hosp Infect. 2020. 104. 545-551.
9)Kizny Gordon AE, et al. The Hospital Water Environment as a Reservoir for Carbapenem-Resistant Organisms Causing Hospital-Acquired Infections-A Systematic Review of the Literature. Clin Infect Dis. 2017. 64.1435-1444.
10)Salm F, et al. Prolonged outbreak of clonal MDR Pseudomonas aeruginosa on an intensive care unit: contaminated sinks and contamination of ultra-filtrate bags as possible route of transmission?. Antimicrob Resist Infect Control. 2016. 5. 53.
11)Leitner E, et al. Contaminated handwashing sinks as the source of a clonal outbreak of KPC-2-producing Klebsiella oxytoca on a hematology ward. Antimicrob Agents Chemother. 2015. 59. 714-716.
12)笹原鉄平. 水回りの感染制御の実践 知っておきたいピットフォールとその対策 病院・療養型施設・高齢者施設における浴室・シャワー室の管理 浴室用具の管理を含めて. 感染対策ICTジャーナル. 2020. 15(4). 318-323.
13)Fujimura S, Oka T, Tooi O, et al. Detection of Legionella pneumophila serogroup 7 strain from bathwater samples in a Japanese hospital. J Infect Chemother 12(2). 105-8, 2006.
14)Nakamura I, et al. The Legionella contamination of tap water in a brand-new hospital in Japan before patients move in. Infect Control Hosp Epidemiol. 2020. 41: 998-999.
15)吉村章、ほか. 自治医科大学付属病院における多剤耐性アシネトバクター感染に対する調査と対策. 日本環境感染学会誌. 2009. 24(別冊). 270.
16)Sasahara T, et al. Efficacy and Effectiveness of Showerheads Attached with Point-of-use (POU) Filter Capsules in Preventing Waterborne Diseases in a Japanese Hospital. Biocontrol Sci. 2020. 25. 223-230

