目次
滅菌の概要と種類
滅菌処理により微生物は指数関数的に減少しますが、厳密には微生物の生存確率を完全にゼロにすることはできません。そのため、国際的な滅菌状態の基準として、無菌性保証水準(SAL:sterility assurance level)=10-6が設定されています。
無菌性保証水準(SAL:sterility assurance level)
医療器材における「滅菌」とは、滅菌処理後の器材に微生物が生存する確率が10-6すなわち1/1,000,000(100万分の1)以下である状態と定義されています。これを無菌性保証水準(SAL)と呼び、100万個の滅菌器材の中に微生物が生存しているものが1個以下であるという極めて高い安全水準です。
滅菌前の洗浄が重要な理由
下図に示す通り、滅菌前の汚染微生物(バイオバーデン)数が少ないほど、SAL=10-6すなわち1/1,000,000(100万分の1)に達するまでの時間は短縮されます。逆に、洗浄が不十分でバイオバーデンが多い状態では、既定の滅菌時間内では目標とするSALを達成できず、滅菌不良を招くリスクが高まります。このことから、滅菌前の洗浄が非常に重要であることがわかります。

D値(D-value)の概念
D値とは滅菌物に付着している微生物数を1/10に減少させるのに必要な時間を指し、滅菌効率を測る指標として用いられます。D値が大きいほど、その微生物の滅菌抵抗性が高いことを示しています。
滅菌の種類と特徴
滅菌法 | 原理 | 利点 | 欠点 | |
|---|---|---|---|---|
一定の温度と圧力を加えた飽和水蒸気を加熱することにより微生物の蛋白質を変性させて微生物を殺滅する | ・短時間で確実な滅菌が可能 ・残留毒性がなく安全で経済的 | ・非耐熱性の器材や無水油、粉末は滅菌不可 ・ゴムやセルロース類(紙、リネン等)は酸化が進む可能性 | ||
低温滅菌 | 酸化エチレンガス(EOG)滅菌 | 酸化エチレンガスによる蛋白質のアルキル化で微生物を殺滅する | ・非耐熱性の器材も滅菌可能
| ・液体は滅菌不可 ・残毒性があるためエアレーションが必要 ・長い滅菌時間 ・発癌性があり、特定化学物質障害予防規則(特化則)による規制対象 |
過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌 | 過酸化水素に高周波やマイクロ波などのエネルギーを与え、プラズマ化し、生成されたフリーラジカルにより微生物を死滅する | ・非耐熱性の器材も滅菌可能 ・短時間で滅菌可能 ・残留毒性がなくエアレーションが不要 ・蒸気、排気などの設備が不要でどこでも設置可能 | ・粉体、液体、セルロース類(紙、リネン等)は滅菌不可 ・浸透性がないため、規定数値以上の管状器材にはブースターが必要 | |
過酸化水素ガス低温滅菌 | 過酸化水素ガスの酸化作用で微生物を殺滅する | ・粉体、液体、セルロース類(紙、リネン類)は滅菌不可 | ||
低温蒸気ホルムアルデヒドガス(LTSF)滅菌 | 低温飽和水蒸気とホルムアルデヒドの相乗効果で蛋白質のアルキル化を促進し、微生物を殺滅する | ・非耐熱性の器材も滅菌できる | ・液体は滅菌不可 ・毒性があり、取扱いには注意が必要(特化則による規制一部対象外) | |
その他:乾熱滅菌、ガンマ滅菌、電子線滅菌、濾過滅菌、化学滅菌などがあります。
滅菌の確認方法
確実に滅菌された医療器材を供給するためには、適切な滅菌条件が達成されたことを客観的な根拠に基づいて確認することが不可欠です。無菌性を保証するためには、以下の3つの指標を使用します。
1.物理的パラメータ
滅菌器運転毎に物理的パラメータを確認し、記録を保存します。
物理的パラメータとは、滅菌器本体に付属する計測器に表示・記録される、滅菌プロセスで必要な条件(重要プロセス変数)を指します。高圧蒸気滅菌の場合、温度・時間・圧力が該当します。
これにより滅菌器の運転状況をリアルタイムで監視することが可能です。ただし、個々の滅菌物の滅菌条件の達成を直接確認することはできません。

2.化学的インジケータ(Chemical Indicator:CI)
CIは、設定された温度または滅菌剤濃度などによって時間の経過や変化に応じて段階的に変色します。この特性を利用して、滅菌物が滅菌工程を通過したかどうかや、滅菌物の包装内部まで滅菌剤が到達したかを確認する目的で使用します。
ただし、CIはあくまで規定のプロセスを通過したかを確認するためのものであり、無菌性を保証するものではありません。
インジケータの形状は多様で、変色するインクがテープ、ラベル、カード、あるいは包装材に直接印刷されているものがあります。
CIはISO11140-1により用途、性能別に6つのタイプに分類されています。

化学的インジケータの分類
分類 | 名称 | 用途・特徴 | 製品 |
|---|---|---|---|
タイプ1 | プロセス・インジケータ | ・滅菌工程を通過したか否かを確認するためのインジケータ ・インジケータテープ、滅菌バッグに直接印刷されたインクなど、滅菌物外側から目視確認するために使用する | |
タイプ2 | 特定の試験のためのインジケータ | 真空式蒸気滅菌器の空気排除の適格性を確認するためのインジケータ(ボウィー・ディック(BD)テスト※) | |
タイプ3 | シングルバリアブル・インジケータ | 1つの重要プロセス変数にのみ反応するように設計されたインジケータ | |
タイプ4 | マルチバリアブル・インジケータ | ・2つ以上の重要プロセス変数に反応するように設計されたインジケータ | |
タイプ5 | インテグレーティング・インジケータ | ・すべての重要プロセス変数に反応するように設計されたインジケータ ・指標菌のD値と関連した反応をする | |
タイプ6 | エミュレーティング・インジケータ | ・すべての重要プロセス変数に反応するように設計されたインジケータ ・条件幅が最も狭く、最も精度が高い |
※ボウィー・ディック(BD)テスト
真空式蒸気滅菌器内の空気除去の完全性や蒸気の浸透性が十分に確保されていることを確認するためのテストで、滅菌器が一定の蒸気浸透能力を維持していることを評価するために実施する必要があります。
実施方法としては、滅菌器の暖機運転の後、最も滅菌条件の悪い場所(コールドスポット)である排気口上方にテストパックを設置し、134℃・3.5分間(30秒単位での設定ができない場合は4分間)、滅菌処理します。
日本医療機器学会で推奨されているCIの使用頻度
用途 | 頻度 |
|---|---|
外部用 | ・すべての包装に必ず使用する ・ただし、内部用が外部より視認可能で滅菌物と未滅菌物の識別が容易に可能な場合には、必ずしも使用しなくてもよい |
内部用 | ・すべての包装に使用することが望ましい ・フラッシュ滅菌で処理する包装に必ず使用する ・要求されているバリデーションに基づいた妥当性確認ができている場合、確認済みの包装については除外できる |
BDテスト | ・真空式蒸気滅菌器に対して、必ず毎日の運転開始前に行い、合格することを確認する ・真空式蒸気滅菌器に対して、滅菌器の移設、修理、故障、滅菌不良の際には3回連続で行い、合格することを確認する |
3.生物学的インジケータ(Biological Indicator:BI)
BIは各滅菌法に対して抵抗性を持つ細菌芽胞を指標菌とし、その指標菌の生死によって無菌性を直接的に保証する目的で使用します。判定には培地が必要であり、一般的には培地一体型のBIが使用されます。
滅菌後の指標菌の培養結果(陽性/陰性)をもとに、滅菌工程の適否を判定します。
BIを使用する際には、適切なプロセスチャレンジデバイス(process challenge device:PCD)に挿入し、滅菌器内の最も滅菌条件の悪いコールドスポットに置きます。
PCDとは実際の滅菌物の包装形態よりもさらに抵抗性を付与した試験用具を指します。これにより、滅菌プロセスの信頼性を評価します。

日本医療機器学会で推奨されているBIの使用頻度
・同一滅菌器で複数のプログラムを使用している場合、滅菌プログラムごとにBIを使用する ・滅菌法に関わらずBIを毎回使用し、判定結果を確認してから滅菌物の払い出しを行う ・医療機関におけるリコールリスクなどを考慮し、使用頻度を含めた品質保証体制を構築する |

