目次
物理的消毒法(熱水消毒)
消毒法は、物理的な作用を利用した物理的消毒法と、薬剤の化学的作用を利用した化学的消毒法に大別されます。
物理的消毒法では、紫外線や湿熱などがあります。その中でも湿熱を用いた熱水消毒は、消毒薬の残留リスクがなく、安全かつ確実に微生物を殺滅できるため、耐熱性のある器材においては第一選択とされる方法です。一般的に、80℃・10分の処理によって、芽胞を除く一般細菌やウイルスなどの微生物を感染不可能な水準まで殺滅または不活化することができます。
A0値(Aノート値)による熱水消毒の管理・評価
熱水消毒の処理温度と時間を設定・評価する指標として、A₀値という概念が用いられます。A₀値は、2006年にWDに関する国際規格(ISO15883)において導入された指標です。この値はさまざまな熱水消毒条件を対数死滅則に基づいて換算したもので、80℃の熱水消毒における等価消毒時間(秒)を示します。
A0値換算表
A0値 | 温度(℃) | 時間 |
|---|---|---|
60 | 70 | 10分 |
80 | 1分 | |
90 | 6秒 | |
600 | 70 | 100分 |
80 | 10分 | |
90 | 1分 | |
3000 | 80 | 50分 |
90 | 5分 | |
12000 | 93 | 10分 |
国内外における運用基準
日本において医療器材の処理に必要なA0値の規定はなく、多くの医療機関のWDの熱水消毒工程では90~93℃で5~10分間(A0値3000~12000)が広く用いられています。これは器材の消毒に対する十分な効果を確保するために設定された条件です。
一方、海外では規定が多岐にわたります。その中でも国際規格であるISO15883では、手術器械の消毒に最低限必要な水準としてA0値600、手術器械に用いるWDの性能試験においてはA0値3000以上を達成できることが求められています。
化学的消毒法
化学的消毒法は、消毒薬を使用して微生物を不活化する方法です。消毒薬にはそれぞれ異なる特性があるため、その特性を十分理解した上で、対象となる医療器材や設備環境に応じて適切な消毒薬を選択し、効果的に使用することが重要です。
主な消毒薬の抗菌スペクトル
分類 | 消毒薬一般名 | 一般細菌 | 酵母様真菌 | 糸状真菌 | 結核菌 | 芽胞 | ウイルス | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
エンベロープなし | エンベロープあり | |||||||
化学的滅菌 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
グルタラール | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
高水準消毒 | 過酢酸 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
グルタラール | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
フタラール | ○ | ○ | ○ | ○ | ○* | ○ | ○ | |
中水準消毒 | 次亜塩素酸ナトリウム | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
ポビドンヨード | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ | ○ | |
消毒用エタノール | ○ | ○ | ○ | ○ | × | △ | ○ | |
低水準消毒 | 第四級アンモニウム塩 | ○ | ○ | × | × | × | × | ○ |
クロルヘキシジングルコン酸塩 | ○ | ○ | × | × | × | × | ○ | |
ベンザルコニウム塩化物 | ○ | ○ | × | × | × | × | ○ | |
両性界面活性剤 | ○ | ○ | × | △ | × | × | ○ | |
○:有効 △:限定的 ×:無効
*バチルス属の芽胞を除いて有効
消毒薬使用上の留意点
消毒薬の効果は、以下の3つの要素によって規定されます。
1.使用濃度
有効濃度範囲は消毒薬の種類によって異なる
有機物や酸素、紫外線などの影響により濃度が低下するため、続けての使用には注意が必要
2.接触時間
消毒効果を発揮するためには微生物との一定の接触時間が必要
微生物の残存菌数は、必ずしも正確な対数減少を示さない場合もあるため、余裕をもった消毒時間の設定が重要
3.温度
温度が高いほど殺菌効果が強くなるが、その程度は消毒薬の種類によって異なる
高温での使用は消毒薬の分解促進が懸念される
一般的には20℃以上での使用を推奨
消毒の効果を最大化するためには、消毒対象物の物理的特性や構造的特性も考慮する必要があります。
消毒薬使用時の主な注意事項
前洗浄の徹底(最重要)
消毒対象物に血液などの有機物が付着していると消毒薬の効果が減弱します。
また、消毒薬の蛋白凝固作用により血液などが固着してしまうことがあるため、事前に十分な洗浄が必要です。
適切な容器の選択
消毒薬に耐える素材の容器を使用し、清潔に保つことが求められます。
消毒対象物の大きさや量に見合ったサイズで、消毒薬の蒸発を防ぐために蓋付きの容器を使用します。
希釈水
水道水中に含まれる各種イオンが消毒効果に影響を与えるため、原則として精製水の使用が望ましく、滅菌精製水の使用が最良です。なお、滅菌水精製装置は定期的な点検が必要です。
濃度調製
希釈の際は有効濃度の範囲内で調製することが基本です。
低濃度では殺菌効果が期待できず、濃度が高すぎる場合は人体への副作用リスクがあり、過剰な使用は経済的負担を招きます。
調製管理と保管
消毒薬は化学的に不安定なため、保存により効果が減弱するため、使用の都度、必要な量を調製することが原則です。大量調製による長期間保管や継ぎ足しは濃度低下だけでなく、汚染の原因となる可能性があります。
指定された保管方法を守り、使用期限を過ぎた消毒薬は廃棄することが重要です。
表示の徹底
事故防止や他の製剤と区別するため、容器には薬剤名称や濃度、調製日時、使用期限などをわかりやすく表示して誤用を防止する必要があります。
適切な廃棄
排水処理設備や環境に与える影響を考慮し、各施設や自治体の既定に従って適切に廃棄する必要があります(参考:アセサイド廃液処理の手引き)。
作業者の安全面への配慮
消毒作業を行う際は、消毒薬の飛散や揮発から身を守るため、適切なPPEを着用し、十分な換気下で作業を行うなど、安全対策を講じることが必要です。


