目次
洗浄方法
洗浄とは、対象物に付着した有機物(血液・体液等)や無機物(塩類・薬剤等)などの汚染物を除去することをいいます。
洗浄工程では、「洗浄剤の化学的作用」と、用手洗浄(ブラッシング)や超音波洗浄機、ウォッシャーディスインフェクター(WD)などの「物理的な力」を併用することで効果が得られます。
洗浄が不十分で汚染物が残留していると、洗浄後の消毒や滅菌の効果が十分に得られません。そのため、器材の構造や材質に応じて適切な洗浄剤と洗浄方法を選択することが重要です。また、その洗浄の質を担保するために、洗浄工程の適切な管理と評価を行う必要があります。
洗浄の種類と特徴
種類 | 方法 | 主な特徴・留意点など | |
用手洗浄 | ブラシやスポンジを使用して物理的に汚れを除去する方法 | 機械洗浄ができない繊細な器材に適している。飛散による曝露に注意が必要 | |
浸漬洗浄 | 対象物全体を洗浄液中に一定条件で浸し、主に洗浄剤の化学的作用(分解・膨潤)により汚れを除去する方法 | 用手・機械洗浄の前処理として実施されることが多い | |
機械洗浄 | 超音波洗浄機 | 装置内でキャビテーション*を発生させ、対象物に物理的な力を与えることにより汚れを剥離する方法 | 複雑な構造や器材の入り組んだ部分(ボックスロックなど)の洗浄に適している。ゴムやシリコンはキャビテーション効果を減弱させるため注意が必要 |
洗浄やすすぎ、熱水消毒、乾燥などの工程を全自動で行う機械による洗浄方法 | 処理の標準化が可能。洗浄、すすぎ、熱水消毒、乾燥が自動で行えるため、スタッフの安全性が高い | ||
減圧沸騰式洗浄機 | 減圧による沸騰や突沸現象を利用し、汚れを除去する洗浄方法 | 内腔構造を持つ器材の洗浄に優れている | |
*キャビテーション:超音波の振動により水中に小さな真空の空洞が発生する現象のこと。超音波洗浄機ではこの空洞が破裂する際に発生するエネルギーを利用しています。
洗浄剤
洗浄剤は、一般的には水溶液のpH(ピーエイチ)により分類されます。pHとは水溶液中の水素イオンの濃度を表す指標で、酸性やアルカリ性の度合い(強さ)を示します。pHは0~14の範囲で表され、pH7は中性を示し、7よりも数値が小さいほど酸性が強く、数値が大きいほどアルカリ性が強くなります。洗浄剤はpHによって汚れへのアプローチや材質への影響が異なるため、汚れの種類や器材の材質に応じて適切に選択される必要があります。
洗浄剤の種類と特徴
洗浄における水質(硬度)の重要性
洗浄効果を最大限に引き出すためには、使用する水の質も重要な要素となります。
水道水に含まれる硬度成分(マグネシウム、カルシウムなど)は、洗浄剤の成分と反応してその活性を阻害し、洗浄効果を低下させる原因となります。また、器材表面にスケール(白い斑点)が残る原因にもなります。
洗浄に使用する水は、硬度成分の含有量が少ない軟水を使用することが推奨されます。日本では一般的に硬度 100mg/L以下が軟水とされています。
すすぎ
すすぎは、洗浄工程により遊離・分解された汚染物や洗浄剤成分を洗い流すことを目的としています。
不十分なすすぎは、器材に汚染物や洗浄剤成分が残留させ、熱ヤケや錆の原因となるだけでなく、残留物質が患者の生体反応を引き起こすなど重大な医療事故につながる恐れがあります。そのため、すすぎは医療器材再生処理において重要な工程とされています。
すすぎの適正評価の方法(例)
洗浄剤成分の検出:洗浄後の器材表面に残留している特定の洗浄剤成分を化学的に検出する方法
導電率(電気伝導率)の測定:すすぎ前後の水を採取し、各々の導電率(電気伝導率)を比較する方法
※残留物(不純物)が多いほど導電率は高くなる
すすぎに適した水
水道水に含まれる硬度成分(マグネシウム、カルシウムなど)や塩化物イオンは、スケール*や孔食の原因となる可能性があります。このようなリスクを避けるため、すすぎには、水中の不純物が取り除かれた脱イオン水(イオン交換水、RO水、蒸留水など)を使用することが推奨されます。
特に最終のすすぎ工程では、脱イオン水を使用することで、器材トラブルの軽減に大きく寄与し、器材の長期的な使用と安全性の確保につながります。
*スケールとは
水中に含まれるマグネシウムイオンやケイ酸塩などが原因でできるシミ状の付着物です。衛生上のリスクはありません。最終すすぎ工程で使用する水の水質を見直すことで、発生の抑制・改善が見込まれます。
洗浄評価
洗浄の質を客観的に保証するためには、バリデーションの一環として定期的な洗浄評価を実施する必要があります。
バリデーションとは、特定の工程が実施された際に、その効果が根拠をもって再現可能であることを確立する手順のことです。洗浄プロセスにおいては、設定した手順通りに実施すれば、常に器材の汚染が適切に除去されることを確認・記録する作業を指します。
洗浄バリデーションを構成する3つの工程
据付時適格性確認(Installation Qualification:IQ)
装置が仕様通りに設置されていることを確認し記録すること
運転時適格性確認(Operational Qualification:OQ)
据え付けられた装置が予め定められた通り作動することを確認し記録すること
稼働性能適格性確認(Performance Qualification:PQ)
実際に汚染された器材を用いて装置を作動させた際に、基準に従って稼働し、期待される効果が得られることを確認し記録すること
これら一連のプロセスを記録し、管理することで、洗浄の質の維持と向上を図ります。
洗浄評価の方法とタイミング
洗浄評価方法 | 内容 | 実施頻度 | |
目視法 | 器材に残存する汚染物を肉眼で判定する方法 | 日常監視 | |
器材に残存する蛋白質を試薬で染色して判定する方法 | 日常監視を含め必要に応じて実施 | ||
器材に残存する指標物質を拭き取り、付着した指標物質を試薬と反応させて判定する方法 | |||
抽出定量法 | テストデバイスを用いた方法 | テストデバイスに残存する蛋白質をアルカリ性溶液などで溶出させた後、試薬と反応させて定量化する方法 | ・日常監視を含め必要に応じて実施(年1回以上) ・OQ、PQおよび適格性再確認を行うとき |
臨床使用された器材を用いた方法 | 器材に残存する蛋白質をアルカリ性溶液などで溶出させ、試薬と反応させて定量化する方法 | ・PQおよび適格性再確認を行うとき(年1回以上) ・プロセスの有効性に影響を与える変更が生じた時(洗浄条件、新規洗浄物の導入、修理など) | |
疑似汚染物を塗布したインジケータを器材と一緒に洗浄し、洗浄後の塗布物残存量を肉眼で判定する方法 インジケータのコンセプトはメーカーによって異なる | 特性を十分理解した上で日常的に実施(各サイクルなど) | ||
WDで洗浄された医療器材の管理と残留蛋白質基準値
WDで洗浄された器材は日常的な点検に加え、少なくとも年1回以上、抽出定量法を用いた洗浄評価を実施する必要があります。さらに、洗浄条件の変更や新規医療器材の導入、修理を含む復旧など、洗浄プロセスに影響を与える変更が発生した場合にも、追加で評価を実施することが求められます。
抽出定量法では、OPA変法、BCA法、CBB法などの方法が用いられます。これらの方法により残留蛋白質を測定し、その残留量がRMD※の単位面積あたり6.4μg/cm²未満であることを確認する必要があります。もし残留蛋白質量が6.4μg/cm²を超えた場合は、不適合と判定し、直ちに原因(洗浄剤の不足、温度、スプレーアーム、プログラムの設定など)を調査し、適切な対策を講じなければなりません。
*RMD:Reusable Medical Device=再使用可能医療機器


