水回りの湿潤環境は、微生物が増殖しやすい条件(水・栄養分)が揃っており、特に緑膿菌やレジオネラ属菌などのグラム陰性菌が生息しやすい環境です。これらの微生物はバイオフィルム(生体膜)を形成し、環境中で長期間生存する可能性があります。

水回りの管理
水回りは、カビや微生物汚染が生じないよう、日常的に除菌洗浄剤を用いて十分な清掃を行うことに加えて、乾燥させることと余計な物品を置かないことが重要です。
バイオフィルム(生体膜)とは
微生物(主に細菌)や、微生物が産生した物質(菌体外多糖体)により形成された複合体です。シンクのヌメリや歯垢(プラーク)などは、身近にあるバイオフィルムの典型例です。
バイオフィルム内の微生物は、乾燥や消毒薬、界面活性剤、抗菌薬などに対して非常に強い抵抗性(薬剤に対する抵抗性は100倍以上ともいわれる)を持ちます。
水回り各箇所の清掃ポイント
シンク
シンクは手指衛生や器具の洗浄を行う場所ですが、不適切な管理は逆に周囲を汚染させる原因となるため、適切な管理が必要です。
用途に応じたシンクの使い分け
微生物汚染や交差汚染を防止するため、設置目的に応じてシンクを使い分けることが重要です。手洗い専用シンクは手指衛生のみに使用し、汚染された器具の洗浄や飲み残しや栄養剤の廃棄などには使用しないようにします。
水の跳ね返り(スプラッシュバック)対策
シンクの表面や排水口に付着した微生物は、水の跳ね返り(スプラッシュバック)によって手指や周囲の環境、物品などへ飛散するリスクがあります。水の跳ね返りの程度は、シンクの形状や蛇口、排水口の位置などに影響されるため、シンクを新たに設置する際には、十分な深さを備え、排水口に直接吐水しない構造など、水の跳ね返りを軽減する工夫が施されたシンクが望まれます。
排水管からの微生物伝播対策
シンク下の排水管(トラップ)内は微生物の温床となりやすく、実際に排水管が原因と考えられる薬剤耐性菌のアウトブレイクも発生しています。
ある研究では、排水管内に付着させた大腸菌を含むバイオフィルムが7日間で約20 cm上の排水口フィルター部分まで伸長し(這い上がり)、水を流すことで大腸菌がシンク周辺に飛散したと報告されています。また、配管を共有するシンク間で大腸菌の伝播も確認されています。
シンクからの微生物の伝播を防ぐためには、毎日のシンク清掃はもちろん、排水管内の微生物増殖やバイオフィルムの成熟を防ぐための日常的なアプローチが望まれます。
浴室
浴室は長時間にわたって湿潤環境になりやすく、入浴者の角質や皮脂などの有機物が豊富に存在するため、微生物が増殖しやすい環境です。感染リスク低減のためには、毎日の清掃と、換気による十分な乾燥が重要です。
備品・物品の管理
浴用椅子やストレッチャーなどで見られるスポンジ状の材質は、細かい穴に水分や汚れが入り込みやすい構造となっています(多孔性構造)。また、洗浄剤や消毒剤が十分に行き届きにくく、微生物の温床となりやすいため、これらの使用は必要最小限に留めることが望まれます。
人の皮膚が直接接触する箇所や物品は毎日清掃し、その他の物品についても定期的に汚染状況を確認し、適切に管理します。
シャワーヘッドのメンテナンス
シャワーヘッドの汚染にも注意が必要です。内部に水垢(スケール)やバイオフィルムが蓄積するため、1年に1回以上はシャワーヘッドを取り外して分解し、内部の汚れとスケールを洗浄、消毒することが推奨されています。
循環式浴槽とレジオネラ対策
浴槽水を濾過器等で循環させる構造の浴槽(循環式浴槽)は特に注意が必要です。濾過器や配管の内壁などにバイオフィルムが形成されやすく、重篤な肺炎を引き起こすレジオネラ属菌が定着・増殖するリスクが高まります。厚生労働省の「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」などを参考にし、換水、配管洗浄、消毒(塩素濃度管理等)などを行い、適切に管理します。
厚生労働省レジオネラ対策のページはこちらからご確認いただけます。
トイレ
排泄物には多量の微生物が含まれている可能性があり、不特定多数が利用する共有トイレは汚染されるリスクが高い場所です。実際に、汚染された温水洗浄便座(特にノズル)が原因と推定される薬剤耐性緑膿菌のアウトブレイク事例も報告されており、日常清掃の徹底と適切な管理が求められます。
トイレおよびその周囲は1日1回以上清掃を行います。なお、トイレ内には、排泄物が直接触れる箇所(便座裏面、便器リム部・内側、ノズルなど)と、手や皮膚が触れるものの排泄物は直接触れない箇所(便座表面、洗浄レバー、手すり、ドアノブ、ペーパーホルダー、スイッチなど)があります。汚染を拡散させないために、これらの箇所は必ず区別して清掃し、清掃用具も区別します。
参考
1)柳雄介, 林哲也, 山﨑晶 編集, 戸田新細菌学 改訂35版, 南山堂, 東京, 2025.
2)腸内細菌学会:用語集 バイオフィルム:https://bifidus-fund.jp/keyword/kw083.shtml
3)CDC: Considerations for Reducing Risk: Water in Healthcare Facilities: https://www.cdc.gov/healthcare-associated-infections/php/toolkit/water-management.html
4)中村造. 病院におけるWater Hygiene管理. 環境感染誌2019; 34(6): 271-276.
5)Kotay SM, Parikh HI, Barry K, et al.: Nutrients influence the dynamics of Klebsiella pneumoniae carbapenemase producing enterobacterales in transplanted hospital sinks. Water Res. 2020; 176: 115707.
6)Tsukada M, Miyazaki T, Aoki K, et al.: The outbreak of multispecies carbapenemase-producing Enterobacterales associated with pediatric ward sinks: IncM1 plasmids act as vehicles for cross-species transmission. Am J Infect Control. 2024; 52(7): 801-806.
7)Kotay S, Chai W, Guilford W, et al.: Spread from the Sink to the Patient: In Situ Study Using Green Fluorescent Protein (GFP)-Expressing Escherichia coli To Model Bacterial Dispersion from Hand-Washing Sink-Trap Reservoirs. Appl Environ Microbiol. 2017; 83(8): e03327-16.
8)笹原鉄平. 医療・介護・福祉現場における水回り環境の微生物汚染リスクと管理のポイント. HosCom 2024; 21(2): 1-6.
9)厚生労働省:入浴施設の衛生管理の手引き:2022年5月13日:https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001401967.pdf
10)厚生省生活衛生局長通知:公衆浴場における衛生等管理要領等について:健生発 0311 第1号:2025年3月11日:https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001401962.pdf
11)林三千雄, 中井依砂子, 藤原広子,他. 温水洗浄便座汚染が伝播の一因と考えられたmetallo-β-lactamase産生緑膿菌集団感染事例の検討. 環境感染誌2015; 20(5): 317-324.
12)CDC: Global Cleaning in Healthcare: Environmental Cleaning Procedures: https://www.cdc.gov/healthcare-associated-infections/hcp/cleaning-global/procedures.html
13)菅原えりさ 監修, 医療機関におけるトイレ清掃マニュアル作成のための手引き, 日本レストルーム工業会, 2021年.

