Supplysm

Supplysm 2026 vol.18 no.2最新号

手術室の感染対策

高度急性期病院を支える滅菌供給部門の管理体制再構築~CSSDを病院の安全基盤へ転換した取り組み~

田中 拓子
高知県・高知市企業団立高知医療センター 看護局 看護専門官・第一種滅菌技師

※本記事は、「Supplysm 2026 vol.18 no.2」(2026年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

病院紹介

高知医療センター(以下、当院)は、県立中央病院と高知市民病院が統合して誕生し、今年で開院20年目を迎える高度急性期病院です。命を救う「最後の砦」として高度な専門治療を提供するため、救命救急センター、循環器病センター、がんセンター、総合周産期母子医療センター、こころのサポートセンター、地域医療センターの6つのセンター機能を有し、36診療科・620床を備えています。
「医療の主人公は患者さん」を理念に掲げ、患者一人ひとりに向き合う医療と寄り添うケアの提供を大切にしています(図1)。当院の診療ニーズは手術件数の多さにも表れており、年間5,000件以上の手術を実施しています(図2)。11室の手術室では、ロボット支援手術、腹腔鏡手術、心臓血管外科手術、ハイブリッド手術、外傷手術、人工インプラント手術など、多様な高難度・低侵襲手術を日々円滑に実施しています(図3、4)。医療制度の構造変化、超高齢化、地域包括ケアの進展など、地域の高度急性期病院が直面する課題は大きく、当院も例外ではありません。高度な専門医療へのニーズは今後も増加し続けることが予想され、当院はこれからも地域の中核として、高度急性期医療を継続的に提供し続ける役割を担っていきます。

図1 高知医療センター

図2 手術件数・全身麻酔件数推移

図3 ロボット支援手術件数推移

図4 業者貸出器械(LI)使用手術件数年度比較

滅菌供給部門の紹介

当院の滅菌供給部門(Central Sterile Supply Department:以下、CSSD)は、「今と未来の患者さん、医療者に安全・安心を届ける」ことを約束しています(図5)。再使用可能医療機器(Reusable Medical Device:以下、RMD)の再生処理は、院内滅菌委託と一部外部委託を組み合わせた体制を採用しています。当院職員は3名(運営管理責任者である筆者、滅菌室専従の臨床工学技士、手術室兼務の看護師)で構成され、院内滅菌委託業者(総勢30名)と連携しながら業務を展開しています。当院職員は主に、RMD再生処理に関わる品質管理・品質保証を担い、院内全体を対象に滅菌物の適正管理や教育活動を行うなど、組織横断的な役割を果たしています。院内滅菌委託については、2024年に委託業者が変更となり、現在はエア・ウォーター西日本株式会社が手術器械および院内器械の洗浄・消毒・滅菌、内視鏡スコープ洗浄、手術室の清掃・補助業務を担当しています。新体制のもと、センターが目指す「より確かな品質の消毒・滅菌物の提供」に向けて、協働して取り組みを進めています。
CSSDは再生処理業務の最適化に継続的に取り組み、品質向上と改善活動が高く評価され、2024年の病院機能評価更新受審ではS評価を獲得しました。さらに、2025年1月には滅菌管理システムを導入し、DXによる標準化を推進することで、安全性・効率性・品質保証のさらなる向上を図っています。
本稿では筆者がCSSDの兼務管理を命じられた2014年からの取り組みについて紹介させていただきます。

図5 運営理念

委託任せの滅菌業務から組織的品質保証体制への転換

開院から9年が経過した2014年、滅菌業務とその品質管理を目的に、手術室の看護管理者である筆者が「滅菌管理担当」を命じられました。その後、9年間の兼務管理を経て専従管理者となり、2025年の定年退職まで滅菌室の管理に携わりました。現在は看護専門官としてCSSD管理者を担っています。兼務管理者となった当時、滅菌室の管理は委託契約に基づき事務局担当者が形式的に行っているだけで、実質的な品質管理を担う者はいませんでした。病院が高度急性期として成長する一方で、滅菌室の整備や精度管理は後回しとなり、滅菌業務は「委託に任せきり」の状態でした。
手術件数の増加や高難度・低侵襲手術の拡大により、器械の物量や複雑性は急速に増大しました。その結果、委託業務は混乱し、日々の再生処理をこなすだけで精一杯の状況となっていました。業務は属人化し、再生処理方法の不適切さや工程の不可視化が常態化し、安全性・効率性・経済性を損なう要因となっていました。一方、滅菌物を使用する側にも問題がありました。滅菌物の適正使用や管理に関する規定やマニュアルが存在せず、28部署がそれぞれ独自のハウスルールで運用していました。滅菌物に対する職員の意識は低く、それが使用後の器械の状態不良や紛失の多さとして表れ、安全面・経営面のリスクとなっていました。さらに兼務管理を命じられて間もない頃、数名の患者の健康観察が必要となるリコール事象が発生しました。組織的な対応体制が整っていなかったため、情報整理・相談・報告・判断に苦慮し、危機管理体制の整備が急務であることを痛感しました(図6)。

図6 CSSD管理者が捉えた現状課題

課題解決に向けた組織横断的アプローチ

これらの課題を解決するためには、CSSDだけではなく、組織横断的な取り組みが不可欠でした。そこでまず、滅菌管理担当者の役割・責務・活動範囲を職務記述書に明確化し、正式な権限と位置づけを得たうえで活動を広げていきました(図7)。
当時、筆者が所属していた看護局協議会の支援を得るため、部署のActionプランに改善活動を組み込み、他部署と課題を共有しました。これにより、他部署からの協力や支援が得られ、改善活動を着実に進めることができました。さらに、専従管理者となったタイミングで、滅菌室は中央手術センター直属の部門へと再編されました。滅菌室の課題は手術室の効率性にも直結するため、病院経営計画のActionプランにも滅菌室の管理体制整備を課題に位置づけ、解決に向けた戦略を組織的に講じることが可能となりました。

図7 滅菌管理担当者の役割

1. RMD 再生処理方法の適性化と標準化

RMDの中には、製品情報が不足していたり、情報収集が不十分であったりしたために、「無難な方法」として用手洗浄やEOG滅菌が選択されている状況が見られました。そこで、対象となるRMDの製品情報を収集し、適応可能な洗浄・滅菌プログラムの設定や変更に伴う製品適格性の確認を行いました。その結果、用手洗浄は激減し、EOG滅菌外注も大幅に削減できました(図8)。洗浄・乾燥後のRMDについては、工程別に4つのエリアを設け、作業の標準化を図りました(図9)。メンテナンスの不十分さは手術進行への影響が高く、正常性を担保するために性能確認や注油などのケアを重視します。また滅菌不良につながる乾燥状態や残汚染の確認を行ったうえで次の工程に移動する仕組みとし、確認体制を強化しました。さらに導入から2年目となる滅菌管理システムは、経験知に依存しない作業標準化を可能にし、形骸化していたダブルチェックを不要にしました。これにより、品質向上だけでなく、作業の安全性と効率性の向上にも大きく寄与しています。

図8 EOG外部委託費用推移

図9 洗浄済み器械の工程フロー

2. 第三者評価による品質保証レベルの向上

日本医療機器学会の「医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール」は、当院CSSDの課題を客観的に可視化し、改善の強力な推進力となりました。洗浄・組立・設備における具体的な問題点が明確となり、現場へ改善の必要性を示す根拠として活用できました。これを受け、作業内容や運用方法の見直しを段階的に実施しました。初回評価では84.85ポイント(B評価)でしたが、改善後の再評価では88.57ポイント(A評価)を獲得し、評価ランクの向上を実現しました。外部評価ツールは、CSSDの品質保証レベルを客観的に示すだけでなく、改善の方向性を明確にし、スタッフの成長と組織の成熟を後押しする有効な手段であることが確認できました。

3. 定数滅菌物の適性化による業務効率化と品質安定化

品質の安定化には業務量の増加や再生処理の複雑化によって混乱していた委託滅菌業務の負担の緩和が不可欠でした。委託スタッフの業務量調査の結果、洗浄・組立業務に次いで、定数・期限チェックや、期限切迫による回収器械のリパックに多くの時間が割かれていることが明らかになりました。そこで、28部署に配置されている定数滅菌物に着目し、その妥当性を精査したうえで新たな定数を設定する見直しを実施しました。その結果、外来と病棟で計1,105本、約30%の定数削減を達成し、定数・期限チェックにかかる時間と業務量を大幅に低減しました。さらに定数確認を各部署へシフトした運用変更やシステムによる期限管理の運用は、負担が大きい定数・期限チェック作業を大幅に縮減し、不要な再生処理のリピートによる器械寿命への影響緩和やリパックにかかるコスト削減につながっています。

4. 滅菌物管理の標準化と運用体制の整備による安全性と経済性の向上化

滅菌物の適正な取り扱いと費用の適性化を促すため、「滅菌物の管理マニュアル」を作成しました。使用済み器械の回収から消毒・滅菌後の供給までの運用、滅菌物の使用・保管方法、紛失や破損時の対応、定数変更や鋼製小物器械の購入依頼の手順を明確化し、院内ルールとして定めました。特に、供給後の滅菌物の運用管理については、患者の安全確保の観点から「部署が責任を担う」ことを原則とし、各部署に「滅菌係」を設置し、定数管理など部署運営に必要な係活動として位置づけてもらいました。その結果、部署定数滅菌物の紛失率は大きく改善しました(図10)。また、部署ごとに自由に行われていた鋼製小物器械の購入を止め、購入申請窓口を滅菌室に一元化しました。申請には滅菌室の在庫活用や代用品の提案を行うことで、2013年まで年間150万円ほどかかっていた購入費用を2021年までに約80%削減することができました。

図10 部署の定数滅菌物の紛失率推移

5. 院内教育による滅菌物取り扱いの適性化と安全文化の醸成

縫合針やメス刃が混入した部署の回収器械、使用後器械に見られる汚染の固着、紛失頻度の高い部署の管理状況などは、医療安全・感染対策・院内資産管理の観点から深刻な問題でした。これらの課題に対し、職種を問わず滅菌物に触れる機会のあるスタッフを対象に、滅菌物の正しい取り扱いと管理に関する研修を実施しました。研修では、滅菌物使用前の確認方法、適切な保管、各種滅菌包装の展開方法、使用後器械の保湿(予備洗浄スプレーの噴霧)の重要性、針刺し事故防止策、RMD廃棄防止策、そして病院の財産であるRMDを大切に扱う意識の必要性について伝えています(図11)。滅菌室が主体となって取り組む院内教育の効果は、滅菌物に対する職員の意識向上として現れ、部署ごとの定数管理や使用状況、回収器械の汚染状態の改善につながっています。

図11 院内で開催するCSSD主催の研修

6. CSSDにおける安全性・信頼性を高めるためのリスクマネジメント体制の構築

品質管理の取り組みに加えて、ヒューマンエラー防止対策、トレーサビリティの確保、作業環境の整備にも力を注いできました。作業手順書の視覚化や形骸化していた確認手順の見直しを進める中で、「滅菌管理システム」の導入が実現しました。このシステムにより、洗浄・組立・包装・滅菌の各工程が可視化され、手順統一、誤認防止、責任の明確化が可能となり、ヒューマンエラー防止に大きく寄与しています。作業環境の整備については、滅菌不良の要因である残汚染排除の確実性を求め、メンテナンス用テーブルすべてに拡大鏡付きライトとワークチェアを導入しました。これにより視認性が高まり、作業性が向上したことで、これまで見逃されがちだった汚れや不具合の発見率が向上しました。また、リコールの対応体制については、組織的に対応できる仕組みの構築を目指し、関係組織の役割や行動をフロー図にまとめ、有事の際には患者安全を最優先に考え、迅速な対応ができるリコール対応マニュアルを整備しました。このマニュアルは中央手術センターや感染対策委員会の承認を得て、病院の安全管理体制の中に位置づけることとなりました。

おわりに

CSSDは、作業の属人化、工程の不可視化、教育不足、危機対応の欠如といった構造的な課題を段階的に解消し、品質管理・教育・危機管理・組織運営の4つを統合した持続可能な管理基盤を構築しました。これらの取り組みは、長年にわたる改善の積み重ねとして病院機能評価においても高く評価されています(図12)。その結果、CSSDは医療安全、医療の持続性、医療の信頼性を成立させる医療提供体制に不可欠なインフラとしての役割を確立しました。かつての「作業中心の部門」から“病院全体の安全と品質を支える基盤部門”へと進化したことは改善の大きな成果です。そして今後も、残された課題に真摯に向き合い、体制の強化と品質のさらなる向上を通じて、医療安全文化の深化に貢献し続けることを誓います。

図12 病院機能評価S評価の理由

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