Supplysm 2026 vol.18 no.1最新号
Technical Report
内視鏡診療におけるリスクアセスメントと感染管理の実践
- 豊留 有香
- 名古屋大学医学部附属病院 看護部(感染対策)/中央感染制御部 看護師長
※本記事は、「Supplysm 2026 vol.18 no.1」(2026年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
私は内視鏡の業務経験も、洗浄業務の経験もありません。いわば内視鏡の業務は専門外です。しかし、当院で内視鏡検査・治療を受ける患者さんに、安全な医療を提供するための感染管理を担わなければなりません。
安全な医療を提供する、すなわち患者安全(Patient Safety)とは、「患者に対する予防可能な害の不在と、医療に関連する不必要な害のリスクを許容できる最小限に低減すること」1)と世界保健機関(World Health Organization:WHO)は定義しています。この“害”には、医療関連感染症も含まれます。
「苦手だから」「専門外だから」関わらなくてもよい、ということにはなりません。感染管理の担当者は、内視鏡に関連した業務の全体を俯瞰し、工程間のリスクアセスメントをすることができる立場にあると考えています。
今回は、内視鏡に専門的な経験を持たない感染管理担当者が、どのように内視鏡診療における患者安全を確保するための感染管理を実践しているのか、当院での取り組みをご紹介いたします。
内視鏡に関連した医療関連感染症のリスク
内視鏡は体腔内に挿入される医療器材でありセミクリティカル器材に分類されます。適切な洗浄・消毒が実施されなければ、表1のような病原体によって医療関連感染症の媒介となるリスクがある2)、とされています。
使用用途によってさまざまな構造の内視鏡があり、非常に複雑な内部構造をしています。国内外において再生処理不備による内視鏡関連感染症が複数報告3,4)されており、感染対策上の課題として注目されています。
国内においては、「内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(第2版)」5)や「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド(改訂版)」6)などが策定されており、内視鏡洗浄の標準化と安全管理の徹底が求められています。
加えて、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)からも、2023年3月に「消化器内視鏡等の洗浄・消毒における注意点について」7)が発行されています。PMDAは、さまざまな工程において、専門的な留意点が存在していることを注意喚起しています。
複雑な構造を持つ内視鏡では、洗浄・消毒の工程にさまざまなリスクが潜在しています。感染予防管理の観点から、これらの工程を確認・評価することは、安全な内視鏡診療の担保につながります。
評価項目には、用手洗浄が適切に実施されているかの手技確認や、内視鏡自動洗浄機で使用する消毒薬の品質確認などが含まれます。各内視鏡の使用から洗浄・消毒までを履歴として追跡できるトレーサビリティの確立も、万一の事態に備えるために推奨8)されており、体制の整備が求められています。
内視鏡再生処理の評価方法:培養検査とATPふき取り検査
内視鏡再生処理の評価には、工程の直接観察に頼らない客観的な方法として、培養検査やATP(アデノシン三リン酸)ふき取り検査などがあります。両者はいずれも評価に用いられますが、表2にまとめたように、目的が異なるため同義ではありません。
培養検査は微生物学的な清浄度を確認する方法であり9)、ATPふき取り検査は洗浄工程における有機物残存の有無を迅速に評価する補助的手段です。
ATPふき取り検査は、測定器と試薬があれば比較的簡便で、結果をすぐに数値で確認できます。一方、培養検査はATPふき取り検査と比べると材料費や人件費の負担が大きいことに加え、結果判定まで数日を要するため、国内では実施のハードルが高い現状が報告9)されています。しかし、簡便だからといってATPふき取り検査で培養検査を代用することはできません。両者の目的は異なり、患者安全の観点から、組織としてどの評価方法を採用するか検討することが、安全な医療提供につながります。
内視鏡診療に関連した業務全体を俯瞰してみると見えるリスク
感染予防対策チームでは、環境ラウンドを実施し、清潔・不潔のゾーニングや清掃状況などを確認しています。さらに、内視鏡診療の場面においても交差感染防止のために手指衛生が必要となるため、図1のタイミングで手指衛生を実施しているか確認を行います。図3に示すように、手指衛生の実施が不十分である場合、患者への病原微生物の伝播リスクは高まります10,11)。不適切な環境の管理や行動があると、洗浄・消毒が適切に行われていたとしても、感染リスクが発生してしまうことになります。
内視鏡診療に関連する業務において、各現場で専門性の高い技術を十分に発揮し、その成果が安全な医療として患者に届けられることが重要です。感染管理者は、現場間の調整を行い、それぞれの高い専門性が患者に提供される医療につながるような活動が求められます。
当院の内視鏡に関連した取り組み紹介
当院では、内視鏡の管理を中央化し、臨床工学技士が中心となって運用しています。臨床工学技士は、内視鏡診療が円滑に行われるよう、履歴管理、診療準備、診療支援、使用後の洗浄・消毒、さらに機器トラブル対応まで幅広く担当しています。診療は医師と看護師が担い、終了後には看護師と看護補助者が決められた清掃ルールに基づき環境清掃を行います。
使用後の内視鏡は、まずベッドサイドで吸引処理や表面の拭き取りを行った後に、洗浄室へ運搬されます。使用後の内視鏡と洗浄・消毒済みの内視鏡が交差しないように、運搬ワゴンの色分けや、一方向に動く動線などのルールがあります(図2)。洗浄は中央化しているため委託業者職員が担当し、用手洗浄後に自動洗浄機で処理します。洗浄後は清潔に取り出し、拭き上げなどの工程を経て保管庫に収容しています。
中央管理のメリットは、一元化による履歴追跡や、トラブル発生時の迅速な介入・指導が可能になる点があります。内視鏡は複雑な構造を持つため、洗浄担当者の知識と技術も重要です。しかし、中央管理にはデメリットもあります。診療現場で洗浄を行わないため、診療に支障が出ないよう十分な本数の内視鏡を確保する必要があり、これにより費用がかさみます。また、委託業者の対応時間外では速やかな洗浄が困難です。当院は職員の入れ替わりが多い施設であるため、多数の職員に均一な技術を求めるのは難しく、現状ではベッドサイド吸引と表面拭き取りのみ行い、業者稼働時間に洗浄を依頼しており、これは検討課題の一つです。
内視鏡洗浄は、用手洗浄、自動洗浄、拭き取り、保管と複数工程を経ます。中央管理のデメリットなども考慮したうえで当院が保有する200本の内視鏡の品質を評価するために、内視鏡培養検査を毎月2回、年間計画に基づき実施しています。対象の選定では、構造や挿入部位のリスクを考慮し、毎年必ず検査するものと無作為抽出を組み合わせ、3年かけて保有しているすべての内視鏡が対象となるようにしています(図3)。
培養検査は品質保証の一環ですが、結果の解釈には注意が必要です。培養検査は計画されたタイミングで提出された内視鏡の結果に過ぎず、「陰性だから大丈夫」「基準値以下だから問題ない」ではなく、丁寧な評価が必要であると考えています。
例えば過去に、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase-Negative Staphylococc:i CNS)が外装部分から検出されたことがありました。洗浄後の拭き上げや運搬時の手指衛生を重点的に確認しました。その結果から改善策を提案し、現場が適切に管理できる環境を整え、教育の再実施と注意喚起の掲示物を作成しました(図4)。
管理状況を確認していく過程で、内視鏡保管庫の清掃ルールが不明確となってしまっているケースもありました。清掃ルールの見直しや再周知を行い、内視鏡を保管している部署においても、安全な管理を行うことの重要性を見直すきっかけとなりました。
一方、管路内から腸管内に生息する微生物(腸内細菌目細菌など)が検出された場合は、用手洗浄の不備や洗浄機の不具合を疑います。技術不足や業務の繁忙など、履歴管理で背景要因を分析することもあります。ベッドサイド吸引不足が原因となっていたケースや、管路内の傷が判明し修理対応が必要となったケースもありました。
内視鏡培養は、すべての内視鏡を毎日検査しているわけではないため、確率論的な側面があります。重要なことは、微生物が検出された際に、どのようにリスクアセスメントを行い、原因の分析と再発防止につなげるかということです。
当院では、内視鏡洗浄会議を毎月実施しており、臨床工学技士、光学診療医療部の看護管理者、委託業者、事務(調達係)と感染管理担当者が連携し、内視鏡培養の結果などを共有しています(図5)。内視鏡の構造や微生物の特徴を踏まえた結果の解釈と対応策の実施を行い、安全な内視鏡診療の継続を目指しています。内視鏡洗浄会議においては、内視鏡培養の結果共有のみではなく、用手洗浄に使用するブラシや洗剤の検討なども行い、よりよい管理を目指しています。
そして、管理された内視鏡を使用する際の感染対策については、現場で活躍する感染対策担当者と連携して医療関連感染症のリスク低減を目指しています。手指衛生や環境整備が不十分な状況となれば、せっかく清潔に管理していた内視鏡であっても、患者にとってはリスクが高い状態で使用されることになります。当院では、光学医療診療部に所属する感染対策リンクナースが、手指衛生を改善して医療関連感染症のリスクを低減させるための教材を作成し、多職種に向けて教育活動を行いました(図6)。内視鏡診療に関わる職種が一丸となって感染対策に取り組むためには、医療関連感染症のリスクを低減させていくという組織文化の醸成が必要となるため、現在も取り組みを継続しています。
おわりに
内視鏡診療における医療関連感染症のリスクを評価し、低減策を講じることは、患者に安全な医療を提供することにつながります。そのためには、工程全体を俯瞰し、専門職が連携して取り組むことが不可欠です。感染管理担当者は、単なる監視役ではなく、医師・看護師・臨床工学技士・委託業者など多職種間の調整役として機能し、情報共有や改善策の実行を支援します。こうした調整により、現場の専門性が最大限に発揮され、患者安全を確保する組織文化の醸成につながります。今後も、感染管理担当者としてこの役割を果たし、継続的な改善に努めていきたいと思います。
参考文献
1)World Health Organization. Patient safety. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/ patient-safety(最終閲覧日:2025年11月29日)
2)赤松泰次,内視鏡診療における感染症対策. 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 63(4), Apr. 2021.
3)Kovaleva J, et al. Transmission of infection by flexible gastrointestinal endoscopy and bronchoscopy.Clin Microbiol Rev 2013. 26:231-254
4)日本環境感染学会. 教育ツールVer.4教材スライド. 内視鏡の感染対策. http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-2_26.pdf(最終閲覧日:2025年11月29日)
5)日本消化器内視鏡技師会安全管理委員会. 内視鏡の洗浄・消毒に関するガイドライン(第2版)
6)日本環境感染学会. 日本消化器内視鏡学会. 日本消化器内視鏡技師会. 消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド(改訂版). 2013.
7)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構. PMDA医療安全情報 No.64. 消化器内視鏡の洗浄・消毒における注意点について. https://www.pmda.go.jp/files/000251411.pdf(最終閲覧日:2025年11月29日)
8)日本消化器内視鏡学会. 消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン. Gastroenterol Endosc. 2018;60(7)
9)日本消化器内視鏡技師会内視鏡安全管理委員会編. 内視鏡定期培養検査プロトコール. 日本消化器内視鏡技師会会報. 第48号別刷. 2011.
10)World Health Organization. WHO guidelines on hand hygiene in health care 2009.
11)TTT Japan(編).手指衛生「5つの瞬間」サポートブック 第2版.日本環境感染学会;2025.

