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Supplysm 2026 vol.18 no.1最新号

特集

業者貸出手術器械を各施設で洗浄してから滅菌・供給していますか?

小久保 安朗
福井大学医学部附属病院 手術部・滅菌管理部 准教授

※本記事は、「Supplysm 2026 vol.18 no.1」(2026年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

整形外科手術は、骨、関節、筋、腱、脊椎といった無菌組織を扱うため、術野からの経路で手術部位感染(Surgical Site Infection:SSI)が発症する場合、浮遊物、落下物、外科医の手、ガーゼ、手術器械など手術部位に直接触れるものが原因である。また、整形外科手術の多くは、機能再建を目的に行われるため、術前よりも機能を低下させるSSIは、最も避けなければならない合併症の一つである。一方、整形外科医のほとんどは、滅菌に関する知識をほとんど持っていない。感染にはうるさい整形外科医であるが、たとえ手術器械が汚染されていても、滅菌工程を経た手術器械は全て滅菌保証されていると考えている。滅菌器を通せば滅菌されると考えているため、急いで手術を開始したい整形外科医は、それ以外の洗浄工程、生物学的インジケータ(Biological Indicator:BI)の判定時間は、無駄な時間と考えてしまう。業者貸出手術器械(Loan Instruments:LI)の洗浄工程は、特にその傾向が強く、滅菌供給部門(Central Sterile SupplyDepartment:CSSD)では大きな問題として話題にあがっている。本稿では、LIの洗浄に関する問題点と、解決のためのヒントについて述べる。

整形外科のSSI対策

人工関節置換術後にSSIが発生すると、抗菌薬の投与では容易に治療することができない。また、膿瘍を形成し、重篤な敗血症を発症することも少なからず存在する。感染が起こるとインプラントに定着した細菌がバイオフィルムを形成するため、手術で掻爬・洗浄を行っても治癒しないことが多い。このため、人工関節を抜去し、関節の持続洗浄などを行い、感染が沈静化した数か月後に再び人工関節を挿入する手術を行う必要があり、何度も大きな手術を繰り返すことになる。また、再置換術での感染率は、初回手術よりもずっと高く、再置換できたとしても感染が再燃する可能性もある。さらに、人工関節手術は高齢者に行うことが多いため、若年者よりも感染率が高い。
人工関節置換術を行うと、変形性関節症による痛みがなくなり、下肢の人工関節置換術では手術の翌日からすぐに歩行練習を始め、術後2週間で自宅に戻って生活ができるようになる。しかし、SSIが発症するとその生活は一変する。何度も手術が必要になり、再置換するまで歩行できなくなり、入院期間も短くても半年は必要になる。
このような事態を避けるために、整形外科医はSSI対策をかなり厳しく行っている。例えば、人工関節手術はバイオクリーンルームで行い、宇宙服のようなヘルメットを装着し、術者から術野に埃が落下付着しないように注意している。落下細菌を少しでも減らすために、手術室への入室人数を制限し、扉の開閉を極力減らし、清潔領域の上の空間に不潔な物が通過することを許さない。術野および清潔区域に外回りのスタッフが近づくことにさえ神経を尖らせている。患者側からの感染リスクを軽減するため、手術前日には手術部位を石けんで洗い、必要に応じて除毛し、口腔内からの血行性感染を防ぐために口腔ケアを行い、手術直前に皮膚消毒を入念に行っている。これ以外にも、SSI対策を厳重に施している。

整形外科医の滅菌に対する意識

SSIにこれほど神経を使っているにもかかわらず、提供される手術器械に関しては何の疑いもなく手術を行っている。それどころか、以下のようなCSSDの立場からすれば考えられないことが日常的に見られる。
・術中に不潔になった手術器械を再度滅菌する時間が待てずにポビドンヨードに浸して使用する
・滅菌済みのセットの中にセメントが付着した器械があった場合、看護師がそれは滅菌不良なので使えないと説明しても、「滅菌されているから大丈夫」といって使用する
・再生処理時間を短縮するためにLIを洗浄せずに滅菌器で滅菌工程にかけさせる
そして、「滅菌器を通過したものは全て滅菌保証されている」と考えている。

業者貸出手術器械(LI)

LIは、人工関節手術、脊椎手術、骨折手術などインプラントを使用する手術において必要不可欠の手術器械である。特に人工関節手術のLIは、人工関節のサイズごとに準備される器械があるため品目数が多く、形状が複雑であることが特徴である。インプラントを設置する際に、インプラントの設置位置あるいは設置角度は臨床成績に大きく影響を及ぼすが、LIを用いると正確に骨切りでき、インプラントを理想的な位置に設置できるように設計されている。このため、LIなしでは手術ができない。同じメーカーでも、インプラントの機種ごとにLIは準備されている。つまり、1機種に対して1種類のLIが用意されている。そして、インプラントが改良され形状が変わるとLIも変更される。人工関節のLIは非常に高価で、1セット購入しようとすると一千万円は必要である。これらの理由から、買い取りは想定されておらず、貸出で行われている。手術の際にインプラントの発注が遅れると、配送が遅延し、このことは再使用可能医療機器(Reusable Medical Device:RMD)の再生処理において最も重要な工程である洗浄に悪影響を及ぼす。すなわち洗浄工程が省かれることになる。複雑な構造をしているLIは、破片や微生物の汚れが付着しやすく、感染性物質の伝播のリスクが高いにもかかわらず、洗浄工程が省かれると、LI自体がSSIの原因になってしまう。

業者貸出手術器械(LI)が原因となるSSI

SSIは重篤な術後合併症であり、黄色ブドウ球菌はSSIからしばしば分離される。黄色ブドウ球菌をはじめ、いくつかの細菌種は、抗菌薬耐性を獲得し、バイオフィルムを形成することが知られている。インプラント表面にバイオフィルムが形成されると、バイオフィルムは抗菌薬に耐性を示すため治療が困難であり、長期にわたり感染が持続する。
LIは複雑な構造を有し、洗浄中にブラッシングが困難あるいは不可能な部分があると、洗浄が不十分になりがちであり、洗浄不良によりバイオフィルムが形成される1)。術後に回収されるRMDに付着する微生物のほとんどは80℃で不活化する栄養型細菌であるが、バイオフィルム内に保護された微生物は殺菌が困難であり、121℃で30分間の蒸気滅菌処理では、バイオフィルム中の黄色ブドウ球菌を殺菌できなかったとの報告がある2)。さらに、キャニュレイテッド・スクリュー挿入時に使用する中空ドリルを用いた実験で、蒸気滅菌後にドリルの残渣中から細菌が検出されたとの報告も存在する3)。不適切な再生処理サイクルを複数回繰り返すと、RMD表面に残留物や微生物が蓄積し、バイオフィルム形成を促進するといわれている4)。病院到着までに管理が不十分なLIおよび用手洗浄を行って再生処理したLIは汚染されている可能性が高く、LIの製造、規制、管理、CSSD、外科医の専門家による集学的アプローチにより、LIの形状改善や完全な除染が可能となり、手術患者にとって安全な手術が実現できるといった報告もみられる5)

洗浄評価

洗浄評価方法は、抽出法、色素染色法、拭き取り法があるが、抽出法により残留蛋白質量を測定することで、自施設の洗浄について客観的に評価することができる。第53回北海道中材業務研究会において、人工膝関節置換術で使用するLIを、予備洗浄スプレーを使用しウォッシャー・ディスインフェクター(WasherDisinfector:WD)で洗浄した後に残留蛋白質量を測定した結果について報告があったが、WDで洗浄後のLIの残留蛋白質量が230μgであった(図1)。ここで報告者の川口は、予備洗浄スプレー後のWDによる洗浄では不十分であり、WDによる洗浄前に浸漬洗浄を行う必要があると述べている。ここで残留蛋白質量測定に使用されたデバイスは骨切りの際に使用する器械で、実際の手術ではスリットの間をボーン・ソーのブレードが高速で動く(図2)。その際、摩擦熱が発生するが、ブレードを手で触ると熱傷を起こす温度になっている。骨切りの際には、血液、骨片がスリットに容易に入り込むため、これらが熱で変性して汚れが固着する。さらに、このようなデバイスは、金属表面にたくさんの傷がついている。高速で動くブレードがデバイスに接触することでこのような傷ができることは容易に想像できる。目に見える部分の傷以外に、スリットの表面にも多数の傷がついていることが推測される。これらの理由により、洗浄は非常に困難になる。WDで洗浄しても十分に洗浄できない可能性があるRMDを、未洗浄で提供すれば、このRMDが感染の原因となることは明白である。

図1 人工膝関節置換術で使用するLIのウォッシャー・ディスインフェクターによる洗浄後の残留蛋白質量の測定結果。いずれも基準値の200μgを越えている。(医療法人回生会大西病院 川口祐司氏提供資料より一部改変)

図2 人工膝関節置換術で大腿骨遠位にカッティングガイドを装着しボーン・ソーで骨切りしているところ。スリットの間を高速でブレードが動き、血液、骨片が摩擦熱で変性・固着する。LIの表面は傷が無数にみられ、スリット部にも同様の傷が多数あることが推測される。これらはいずれも洗浄不良の原因となり得る。

整形外科医が求める滅菌管理

ある整形外科医から、「滅菌物が原因で感染が起こることはあるか?」と質問を受けた。著者は、「もし、術中に提供される器械に血液が付着していることが何度かあれば、洗浄・滅菌業務のレベルがかなり低く、感染の原因になっている可能性は十分にある」と返答した。血液が付着した状態の器械を提供することは、日常の業務において洗浄後の目視確認が行われていないこと、さらにはそのような施設では残留蛋白質量測定やすすぎ性の検査が行われているとはとても考えにくく、ひょっとすると滅菌器のバリデーションも行われていない可能性すらある。
いくつかの病院でCSSDのサーベイを行った経験から、稼働性能適格性確認(Performance Qualification:PQ)までバリデーションを行っている施設は、それほど多くないのではないかと考えるようになった。大規模病院のサーベイしか行ったことはないが、ガイドラインに沿ってバリデーションを行っている施設はそれほど多くない。洗浄評価、すすぎ性の検査が行われていない施設は少なくない。滅菌器においても、バリデーションを行わずに滅菌器を動かしたところで、滅菌保証はできない。BI、化学的インジケータ(ChemicalIndicator:CI)が陰性であっても、物理的インジケータ(Physical Indicator:PI)の信憑性がなく、そもそもBI、CIは滅菌条件を達成していなくても陰性になる可能性があるため、この二つだけでは滅菌保証はできない。整形外科手術では、かなり重量の大きい器械、内腔が存在する器械が多くある。蒸気滅菌器で滅菌する場合、最大積載と最小積載の条件で手術器械の表面温度測定を行い、134℃ 3分以上経過しているかをあらかじめ確認しなければならず、それを行わずして滅菌器の温度計が134℃を3分以上指しているからといって、滅菌器に入れられている個々の手術器械が滅菌条件を満たしているかどうかは分からない。すなわち、バリデーション、あるいは被滅菌物が大きく変更された際に再バリデーションを行っていなければ、滅菌保証などできないのである。PQは実際の手術で用いる器械を使用して行うが、洗浄器あるいは滅菌器に入れる手術器械の組合せは毎回変化するため、産業用滅菌のように被滅菌物が一定の量、大きさ、重量であることはない。全ての組合せで再バリデーションを行い変更管理することは不可能であるため、PI、BIをCSSDで確認し、使用直前に手術室看護師がCIを確認して、全て合格であって初めて滅菌保証ができるのである。
CSSDで働く人にとって、そんなことは当たり前であるが、整形外科医が、この事実を知るとどうなるであろうか。本当にバリデーションが行われているか、それ以前に洗浄後に残留蛋白質量の評価しているのか、日々それに基づいて確認し滅菌保証しているのか、気になって仕方がないはずである。医師が無茶なことを要求してきた際に、CSSDにとっては当たり前の「その方法で滅菌器に入れてスイッチを押しても、滅菌保証はできません」と返答しているであろうか。手術時間ギリギリにLIが到着して、「洗浄しないで滅菌器に入れたところで、滅菌保証はできない」と説明しているであろうか。「患者を待たせないため」と医師にいわれても、「洗浄しないで滅菌器に入れると、患者が感染してしまう危険が高くなる」ことを説明しているであろうか。医師は、滅菌保証のできない手術器械を使いたいとは全く思っていない。ただ、滅菌に対する知識がないだけである。普段から、医師に洗浄・滅菌について知識を与え、知ってもらうことが、当たり前の洗浄・滅菌業務を遂行する上で大切なことではないかと考える。普段から、医師とコミュニケーションを取り、正しいことを知ってもらうと、CSSDの強い味方になる。バリデーションの予算が取れない、洗浄・滅菌器の更新が必要だがいつになっても買ってもらえないといった際にも、病院執行部に意見を述べてくれるようになる。

LIの洗浄・滅菌の質を高め維持するには

これまでに述べたように、LIは非常に複雑な構造をしているものが多く、手術で傷がつきやすく、器械によっては摩擦熱で高温になり、血液、骨片が固着しやすい。LIの洗浄に関する問題点について、それぞれの立場から考えてみる。CSSD側の問題として、施設によって洗浄レベルのばらつきがあることがあげられる。これは、病院によって感染リスクに差が出る可能性があることを意味する。LIの供給側、すなわちメーカー側の問題としては、LIを病院に搬入した後に器械の確認を行うことが多く、その際に手の汚れがRMDに付着してしまうことが考えられる。また、医師側の問題としては、インプラントは滅菌済みの状態で到着するが、LIは未滅菌の状態で到着し、発注が遅れてもインプラントの到着を見込んで手術時間を調整することがよくあり、そのため洗浄・滅菌にかけられる時間がなく、搬入前に洗浄してあることを理由に、洗浄工程を省くよう依頼することがあげられる。これらの問題を個々に解決していけば、何の問題もないが、それほど上手くいくとは考えにくい。
洗浄・滅菌分野で進歩しているヨーロッパでは、各病院で洗浄・滅菌をせずに、院外洗浄・滅菌センターで再生処理を行い、病院に供給する仕組みが発達している。日本が今後どのような方向に進むかは定かではないが、この方式も一つの解決法になると考えられる。LIは、メーカー側が搬送する仕組みを有しているため、LIを院外洗浄・滅菌センターで再生処理し、滅菌保証されたLIをそのまま手術室まで供給する仕組み(図3)を作ることができれば、多くの問題は解決すると考える。現在、各病院のCSSDスタッフ、洗浄・滅菌業務の委託会社のスタッフともに、人材確保が困難な状況にある。LIには多くの複雑なRMDがあり、それを各病院で処理するよりも、再生処理の質が担保された院外施設で行うようになると、優秀な人材を集中して集めることができ、再生処理の質が担保され、各病院でこれまで行っていた洗浄・滅菌の時間が省略できて、すぐに手術が開始できるようになるため、外科医にとっても大きなメリットとなる。

図3 院外洗浄・滅菌センター業者貸出手術器械を各病院で洗浄・滅菌するのではなく、管理された院外洗浄・滅菌センターで洗浄・滅菌を行い、それを直接手術 に提供する仕組み。

おわりに

未洗浄のLIの使用は、極めて感染リスクが高い。LIの洗浄を妨げる要因の一つは、整形外科医が洗浄時間を短縮して手術までの時間を短くしようとすることであるが、整形外科医は未洗浄のLIを使用することが、感染の原因になるとは全く考えていない。したがって、CSSD側としては、その危険性について医師に科学的根拠に基づいて説明する必要がある。過去の英文での報告や自施設のデータなどを蓄積し、論理的に説明すれば、洗浄・滅菌の重要性について医師は理解するはずである。そのためには、まずCSSDにおける洗浄評価が適切に行われているか、すなわちバリデーションと日常管理、変更管理が適切に行われているかを見直し、残留蛋白質量を測定し、自施設の状況を把握して、自施設の再生処理の水準を高めていく必要がある。そして、メーカー側もLIの感染リスクを認識し、医師が使いやすい環境を整備していく必要がある。LIはなくなることはなく、今後更に複雑な形状の器械が出てくることも予想される。各施設のレベルアップはもちろんだが、集学的に社会全体でこの問題を解決する必要性があると考える。

文献

1)Vickery K, Ngo Q-D, Zou J, et al. The effect of multiple cycles of contamination, detergent washing, and disinfection on the development of biofilm in endoscope tubing. Am J Infect Control 2009;37:470-5.
2)Almatroudi A, Tahir S, Hu H, et al. Staphylococcus aureus dry-surface biofilms are more resistant to heat treatment than traditional hydrated biofilms. J Hosp Infect 2018; 98:161-7.
3) Smith K, Araoye I, Gilbert S, et al. Is retained bone debris in cannulated orthopedic instruments sterile after autoclaving? Am J Infect Control 2018;46:1009-13.
4)LopesLKO, Costa DM, Tipple AFV, et al. Complex design of surgical instruments as barrier for cleaning effectiveness, favouring biofilm formation. J Hosp Infect. 2019 Sep;103(1):e53-e60.
5) Tipple AFV, Costa DM, Lopes LKO, et al. Reprocessing of loaned surgical instruments/implants in Australia and Brazil: A survey of those at the coalface. Infect Dis Health. 2022 Feb;27(1):23-30.

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