Supplysm 2025 vol.17 no.2
Technical Report
医療材料の洗浄品質向上に向けた取り組み
- 前田 延子
- 鳥取大学医学部附属病院 手術部・材料部
※本記事は、「Supplysm 2025 vol.17 no.2」(2025年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
鳥取大学医学部附属病院は、「地域と歩む高度医療の実践」を理念に掲げ、山陰地方の特定機能病院として、先進的な医療の提供と地域医療への貢献、そして地域医療の最後の砦としての役割を担っています。材料部では、「患者に対して安全な医療材料を提供する」「病院の健全な経営に貢献する」「院内感染対策に貢献する」ことを使命に、安全で確実な医療材料の供給に努めています。本報告では、滅菌効果に大きく影響する洗浄品質の向上に向けた取り組みについて紹介します。
ロボット手術器具の洗浄度向上への取り組み
材料部では、外部委託職員がロボット手術器具の再生処理を担当し、手術部門に提供しています。ロボット手術器具の洗浄は製造販売業者により規定されており、従来の手術器具と比較して洗浄方法が複雑です(図1)。医療機器を介した交差感染や手術部位感染を防ぐには、滅菌前の確実な洗浄が必須です。しかし当院では、外部委託職員の洗浄精度やロボット手術器具の洗浄度を十分に評価できていないことが課題となっていました。そこで、外部委託業者と連携して洗浄トレーニングと洗浄評価を実施し、洗浄度の向上を図る取り組みを行いました。
1. 方法
対象者:外部委託職員5名(平均年齢53歳)
評価者:材料部担当看護師(第2種滅菌技士)
対象器械:da Vinci EndoWrist®インストゥルメント(以下、インストゥルメント)
実施期間:2023年5月~2024年1月
洗浄トレーニング手順
①評価者は、洗浄トレーニングの合格基準を「チェックリストの全15項目を正確に実施できること」と設定し、取扱説明書に基づいてチェックリスト(表1)を作成
②最初に評価者自身がチェックリストに従ってインストゥルメントを洗浄し、残留蛋白質量が評価基準(200μg/RMD以下)1)を満たし、チェックリストに不備がないことを確認
③確認後、評価者は対象者に対し、ロボット手術器具の洗浄方法を指導
④対象者は、評価者が合格と判断するまで洗浄トレーニングを繰り返し実施
⑤合格後、対象者が洗浄したインストゥルメントの残留蛋白質量を測定
⑥測定結果が評価基準を合格した対象者に、資格認定証を授与
2. 結果
洗浄トレーニングの実施状況(図2)
合格までのトレーニング実施回数は平均5.2回でしたが、1~11回とばらつきがありました。洗浄評価結果(表2)
外部委託職員が洗浄したインストゥルメントの残留蛋白質量は、全例で200μg/RMD以下を達成しました。
3. 考察
洗浄トレーニングについて
外部委託職員は、チェックリストを用いて繰り返し洗浄トレーニングを受けることで、ロボット手術器具の洗浄方法を確実に習得できたと考えます。また、洗浄評価によって洗浄度が可視化されたことは、自身の洗浄作業が適切に行われているという認識の向上につながったと推察されます。洗浄評価について(図3)
当院の洗浄評価結果は評価基準をクリアし、必要な洗浄度を満たしていました。これにより、患者に安全に使用できる水準の洗浄品質が確保されていると考えます。また、多施設の洗浄評価結果の平均値と比較しても良好な結果であり、当院の洗浄プロセスの高い品質が示唆されました。
今回は5本のインストゥルメントのみを対象に評価を実施したため、今後も定期的な洗浄評価を継続し、品質の維持に努める必要があります。さらに、新たに採用された外部委託職員に対しても、材料部担当看護師による継続的な洗浄トレーニングを実施し、洗浄・滅菌プロセスの安定した品質確保に向けた教育体制の構築が重要です。
ウォッシャーディスインフェクター(以下、WD)の熱水消毒工程における品温測定
WDによる熱水消毒工程は、院内感染防止において重要な役割を担っています。しかし、被洗浄物の多様性により、熱水消毒工程で至適温度に達しているかを目視で判断することは困難です。そこで今回、ワイヤレスデータロガーを使用してWDの熱水消毒工程における品温測定を行いました。
1. 当院のWDについて(表3)
当院ではWDを4台設置し、年4回の点検を実施しています。このうち2台は2009年に納入され、15年以上使用しています。
2. 方法
熱水消毒の達成条件を設定(表4)
最終すすぎ「RO水90℃5分」を設定品温測定対象の手術器械の選定(図4)
材質や形状が異なる4種類の手術器械を選定計測方法(図5)
①ワイヤレスデータロガーのセンサー部を器械に貼付し、WD庫内の温度上昇が最も遅い位置に設置
②ワイヤレスデータロガーをWDの底部にも設置し、庫内温度を計測データ解析(図6)
WDの熱水消毒工程終了後、回収したデータを解析
3. 結果
WDの熱水消毒条件の達成状況について(図7)
すべてのWDで90℃以上5分間の条件を達成しました。熱水消毒工程中のWD槽内の温度について(図8)
庫内温度はすべて90℃以上に達し、2号機・3号機では95℃以上に上昇しました。選定した手術器械の表面温度について(図9)
選定したすべての手術器械の表面温度は90℃以上に達し、器械間の温度差は認められませんでした。
4. 考察
熱水消毒工程においては、設定された時間および温度の条件が適切に満たされていることを確認しました。これにより、材質や形状にかかわらず、当院で使用しているWDが十分な熱水消毒性能を有していることが示されました。
今回の検証では、導入から10年以上が経過したWDであっても、消毒に必要な温度および時間に異常は見られませんでした。この結果を踏まえ、定期的な点検と品温測定を継続的に実施していく必要があると考えます。
おわりに
材料部が担う滅菌供給業務は、医療関連感染の制御において極めて重要な役割を果たしています。その重要性を踏まえ、以下のような取り組みを継続的に実施していく必要があります。
1.器械・器材の破損確認
2.洗浄品質の向上
3.滅菌精度の保証
さらに、外部委託職員に対する教育については、すべてを業者任せにするのではなく、委託業者と病院職員が密接に連携しながら、洗浄・滅菌業務に従事する職員の技術水準と意識の向上を図る必要があります。
これらの取り組みを通じて、滅菌供給業務全体の質の向上を目指します。今後も、効率性と信頼性を両立した滅菌供給業務の実現を目指し、業務の質的向上に一層努めてまいります。
文献
1)一般社団法人日本医療機器学会.(2021):医療現場における滅菌保証のガイドライン2021.

