Supplysm

Supplysm 2025 vol.17 no.2

手術室の感染対策

災害時でも医療を止めないために~材料部では何ができるか~

彦坂 宗平
浜松医科大学医学部附属病院 材料部 副看護師長

※本記事は、「Supplysm 2025 vol.17 no.2」(2025年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

1. はじめに

2025年1月に政府の地震調査委員会は、今後30年以内に南海トラフ地震が発生する確率について、これまでの「70~80%」から「80%程度」に引き上げました1)。日本海溝・千島海溝などでも発生確率が少しずつ高くなっていると公表しており、地震発生の危険性が高まっているのは南海トラフ地震だけではない状況です。また3月には南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループから新たな被害想定として最大で29万8,000人が死亡するとした数字が出ています2)。前回2013年の被害想定が32万3,000人でしたので、8%程度しか減少していません。北日本を除く40都府県におけるライフライン被害については、停電は地震発生直後2,950万戸に発生し、上下水道の断水は3,500万人以上に影響があるとされています。ここでいう南海トラフ巨大地震は南海トラフ地震とは区別され、科学的に想定されている最大クラスの南海トラフ地震を指し、発生確率は極めて低いとされています。しかし発生した場合はこれまで経験したことが無い広範囲で甚大な被害となります。
地震災害では多数の傷病者が発生すると予想され、多くの医療処置が必要となります。医療処置を行う場合、鑷子や剪刀などの医療器材を使用しますが、一度使用した医療器材は感染予防の為に滅菌(再生処理)を行わないと次の傷病者に使用することはできません。そのため地震災害発生時の滅菌供給部門の役割は非常に重要です。停電や滅菌装置の故障などにより再生処理機能が喪失した場合、医療器材が再使用できず医療継続が困難となることが想定されます。これまで地震災害における重傷者対策は、非被災地への広域搬送や域内搬送が重要視されていました。しかし南海トラフ地震では想定される被害範囲が広く、非被災地への搬送について、搬送手段や引き受ける医療施設の不足のために搬送可能な人数に限りがあることが明らかになっています3)。また人員や医療資機材の外部からの支援についても速やかに行われない可能性があり、「地域で何とか対処しなければならない状況」が予測されます。このように公助が期待できない可能性があるため、これまで以上に自助と共助の重要性が高まっています。
本稿では災害時でも地域医療を止めない為に滅菌供給部門で何ができるのか、DMAT(災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Team)看護師でもある筆者の視点と当院の取り組みを合わせてご紹介いたします。自施設の防災・減災について考えるきっかけになれば幸いです。

図1 南海トラフ巨大地震による想定震度分布 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ報告書概要より

2. 自助

2-1 BCP

BCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)は、自然災害や多数傷病者発生事案、システム障害などの危機的な状況になった時に、被害を最小限にとどめて重要な業務を継続させ、被害を受けた場合でも可能な限り早期復旧を図ることを目的としています。
当院のBCPでは大規模地震をリスク対象として扱っています。災害時における病院機能は、「入院患者への対応」と「救急患者への対応」の2つの機能が中心となります。
電力については3日間連続運転が可能な燃料を確保しています。上水道については災害時1日当たりの想定使用量の3日分を確保しています。近年注目されているのは受水槽の種類です。維持管理の容易さや建設期間の短さなどからステンレスパネルタンクが多くの施設で設置されていますが、東日本大震災や熊本地震、能登半島地震においてもパネルタンクの被害が多く報告されています4)。スロッシング(長周期地震動により、受水槽の上面で破損が生じる)やバルジング(短周期地震動により、タンク側面の中央部から下部で破損が生じる)と言われる現象による被害とされていますが、それらの現象の解明はまだ進んでいないのが現状です。当院の受水槽もステンレスパネルタンクです。皆様の施設の受水槽の種類はどのようになっているでしょうか。
滅菌供給部門で重要な蒸気系統については、当院では震度6強程度で都市ガス供給が停止し蒸気ボイラーが止まると想定されているため、災害時に滅菌供給部門で使用する蒸気については電気式ボイラーで対応していく予定です。滅菌供給部門の非常電源は他部門と比較して非常に多くの装置に供給できるようになっており、高圧蒸気滅菌装置1台、過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置2台、ウォッシャーディスインフェクター2台、超音波洗浄器1台、恒温槽1台、シーラー1台、電気式ボイラー、コンプレッサー、RO水製造装置の他、洗浄室の乾燥機や滅菌室の送風機も自家発電装置で稼働可能となっています。
当院のBCPでは「滅菌・洗浄の継続」は「目標開始時間:6時間以内」の災害発生時優先業務となっています。滅菌保証に関する実態調査報告書5)によれば滅菌供給部門に関するBCPがある施設は36%でした。滅菌供給部門で自助を考える際には、滅菌供給部門のBCPへの規定、ボトルネック評価、対策立案と実施が必要です。しかし滅菌供給部門に関するBCPが無い場合は、先ずは「滅菌供給部門に目を向けさせる事」が重要と考えます。

2-2 防災訓練

当院では多職種での病院防災訓練を2016年に初めて実施し、以降継続しています。滅菌供給部門のスタッフも過去に搬送要員などの役割で防災訓練に参加していましたが、滅菌供給部門としての災害時初動行動訓練の必要性を感じて専用のアクションカードを追加作成し、2022年から病院防災訓練に合わせて実施しています。参加者全員でアクションカードを一つ一つ確認しながら行動してみる事から始めており、毎回新しい発見があります。例えば、洗浄室では「洗浄前の多くの鋭利器材からどのように身を守り、落下した器材の一時片付けはどうするか」、「各装置はどのように停止させ、再起動時にはどこを観察し再起動可能と判断するか」、「トリアージの赤エリア・黄色エリアなどへの器材の供給・回収をどのようにするか」などです。これらの様々な気付きをアクションカードの修正や新規の手順書作成につなげています。
アクションカードは、自身の身を守ることから始まり、リーダー宣言や役割分担、スタッフや活動場所の安全確認、トランシーバー使用やクロノロジー(経時的記録)の記載・掲示、洗浄・滅菌機能の評価など、災害医療の基本的な枠組みであるCSCATTTの中のCSCAに沿って行動できるように作成しました(図2)。滅菌供給部門の実践的なアクションカードがない、滅菌供給部門の防災訓練ができていない、やり方がわからないという施設もあるかと思います。その時は自施設のDMATに相談してください。自施設にDMATがいない場合は近隣の災害拠点病院のDMATに相談してみてください。きっと快く協力してくれるはずです。

図2 災害医療の基本(CSCATTT)

2-3 災害時の器材供給

赤エリアや黄色エリアなど通常とは異なる場所、異なる頻度で器材が使用される状況を想定した供給・回収フローの必要性を感じています。また、「災害時縫合セット」など必要最低限の器材で構成されるセットを事前に決定しておくことで、災害時の円滑な器材供給を目指します。災害時に必要となる器材は、津波被害や建物倒壊被害など、災害の種類により異なってくることも考慮する必要があります。

3. 共助

3-1 地域の滅菌供給部門情報共有システム

静岡県西部地域では災害時に地域の病院滅菌供給部門が協力する必要性を感じ、2012年に静岡県西部病院材料部連絡協議会(以下、連絡協議会)を設立しました。災害時には電気や蒸気、水、装置、洗剤、滅菌剤、建物、スタッフなどが欠けることで洗浄・滅菌ができない状況になり得ます。複数の施設で残存する機能を融通し合う事ができれば一施設ではできなかったことが可能となり、地域の医療継続に資すると考えています。
連絡協議会では「安否確認サービス」を活用し、災害が起きた際に気象庁の「地震/津波/特別警報」情報と連動して、設定した震度に応じて安否確認の通知を登録連絡先に自動で送信するよう設定しました。具体的には、連絡協議会に参加する12病院に対して震度5弱以上の地震発生時に被害状況設問フォームが自動的に送られるよう設定し、設問内容は設備倒壊の有無、ライフラインの状況、装置の稼働状況、滅菌剤・洗剤の在庫状況、他施設からの器材受け入れの可否としました。自動集計された回答結果を互いに閲覧可能とすることで、各施設がそれぞれで地域の被害状況を確認し、施設間での滅菌剤等の融通や滅菌依頼などの調整を行うことが可能な状況となっています。当初は被災状況報告書をFAXで集める体制を整えていました。しかし、それでは災害時に誰かが情報を取りまとめ、マッチングをしないと解決できないと考え、2024年からこれまでのFAXを用いた形式から、「安否確認サービス」を活用する方式に変更しています。
システム導入については、浜松市に地域の滅菌供給部門の連携について相談したところ、浜松市がすでに使用している当サービスに参加させていただくことができたため、費用は発生していません。共助については近隣の医療施設だけではなく、市町村に協力をお願いすることもご検討されてはいかがでしょうか。元々、浜松市は病院・透析・周産期などの医療機関を対象にLINE WORKSを活用した災害医療情報ネットワークを構築し、2018年の台風24号による大規模停電時などで成果を上げていました。市においても地域の医療継続に関する情報共有が可能なので、お互いにメリットがあると感じています。

3-2 地域の滅菌供給部門管理者の顔の見える関係作り

災害時にはメーカーや代理店、修理業者と連絡がつかない場合も想定されます。学会や都道府県単位の顔の見える関係も大切ですが「地域で何とか対処しなければならない状況」が生じた時には、近隣病院の滅菌供給部門管理者とも顔が見える関係が有効であると考えています。当院ではまだまだできておらず対策検討中です。なお、先述の浜松市に地域連携の協力をいただいたきっかけは、もともと防災関係で市の担当者と顔の見える関係ができていたことに起因します。

4. 新たな技術の活用

4-1 電気自動車(EV)による滅菌装置稼働実証実験6)

浜松市では大地震災害発生時に地域の中学校などに医療救護所が設置されることになっています。医療救護所で軽症者対応を行うことで、重傷者対応を行う病院への傷病者の集中を防止して病院機能の維持を図る計画となっています。救護所で必要となる医療器材は、救護所または保健所で備蓄保管されたものが供給されますが数に限りがあります。そこにEVと過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置があれば滅菌が可能なのではないかと考えて実証実験を行ってみました。
実験装置には、EV(日産リーフ)、外部給電器(HONDA power exporter 9000)、過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置(ASP Japan ステラッドNX)、滅菌物を用いました(図3)。EVには蓄電能力あるいは発電能力があります。外部給電器はそれらの車と接続し、「直流」を「交流」に変換して最大9000Wの大出力電源として様々な電気機器の利用を可能にします。EVは浜松の日産自動車ディーラーに、外部給電器は浜松市にお借りしました。滅菌物はアドソン鑷子、モスキート鉗子、外科剪刀、ヘガール持針器各1本を「縫合セット」として滅菌バッグで包装し、1度に6セット滅菌しました。実験は2023年8月(天気は雨のち曇り、気温25度)に雨を避けるため屋外の建物の軒下で行いました。結果、EVと外部給電器から問題なく電気が供給され、滅菌中の装置のアラームが発生することなく工程が完了し、一緒に設置していた化学的・生物学的インジケータともに良好な結果を示しました。また、今回使用した40kWhのバッテリー容量を持つEVであれば77回程度滅菌ができることもわかりました。
この結果から救護所だけでなく、停電や装置の破損により滅菌機能を喪失した医療機関や、飛行場、自衛隊基地等に設置される医療搬送拠点など、様々な場所で滅菌できる可能性が示唆されました。充電設備のある自動車ディーラーに滅菌装置を集約して、地域の滅菌センターとして構築することも可能かもしれません。

図3 実際の実験の様子

4-2 電気自動車(EV)の電力で医療器材を洗浄から滅菌まで行うことが可能かを確かめる実証実験

先述の実験を行った際には滅菌装置の稼働は可能でしたが、滅菌前の洗浄が課題として挙がりました。そこで翌年の2024年9月、EVの電力とプールの水を使用して、医療器材を洗浄から滅菌まで処理が可能か否か検証しました。
方法は、EV(日産アリア)から外部給電器( HONDA power exporter 9000)を経由して、医療用洗浄水精製装置(NCC PureMed Aqua-R)・超音波洗浄器(NCC Elmasonic Easy)・乾燥用コンプレッサー/エアーガン・過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置(ASP Japan ステラッドNX)に給電し、疑似血液を付着させた医療器材をプールサイドで洗浄・滅菌しました(図4、5)。結果、医療用洗浄水精製装置はトラブルなくプールの水を浄水し、超音波洗浄後の器材から抽出した残留蛋白質の測定結果(NCC Pro1Micro:2μg以上で洗浄に問題ありとみなす)は、全て2μg未満でした。一連の浄水・洗浄・滅菌工程1回で0.66kWhの電力を使用し今回使用した66kWhバッテリーEVでは最大100回の洗浄・滅菌が可能であることがわかりました。医療用洗浄水精製装置はリアカー搭載サイズで、卓上超音波洗浄器、過酸化水素ガスプラズマ滅菌装置とともに中型トラック搭載可能サイズであり、様々な場所に移動することが可能です。医療用洗浄水精製装置は貯水池、川、池などにも対応しており、電気と水インフラが停止した場所において再生処理が可能です。

図4 実際の実験の様子

図5 実験装置の模式図

4-3 災害対策は一つでも多い方が良い

停電は地震や台風、大雪など様々な災害に付随して発生しています。規模の小さな医療機関では自家発電装置を持たない施設がありますし、自家発電装置を持っていても燃料の確保困難や容量不足、メンテナンス不足などで十分に機能しないといった状況も報告されています7)。近年災害時に避難所や自宅などにおいて医療機器に対するEVからの給電需要の高まりがあり、2022年3月に国土交通省から災害時における電動車から医療機器への給電活用マニュアル8)が出され、人工呼吸器や酸素濃縮器、吸引器を主な対象としてEVから安全に給電するための注意点が示されています。EVの普及が進み、施設スタッフ所有物や地域の自動車販売店の展示車あるいは在庫として身近に存在するようになりました。地域に存在するEVを小さなインフラととらえることが出来れば、これまでにない防災・減災対策が生まれるかもしれません。また近年大容量ポータブル電源が家電量販店などで購入できるようになっていることをうけ、2025年4月にJEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会ヘルスケアインダストリ部会)から、災害時における医療機器の安全利用に関する調査報告書9)の中でポータブル電源と医療機器の安全利用に関する調査の報告が発表されています。様々な技術革新により新しいツールが身の回りに登場しています。これら新しいツールの災害時の活用について想像力を働かせ、検証しておくことは有意義と思われます。

5. まとめ

南海トラフ地震、南海トラフ巨大地震はいつ発生するかわかりません。災害時でも地域医療を止めない為に「小さくても先ずは一歩」と考えて活動しています。滅菌供給部門における災害関連情報は少なく、阪神・淡路大震災や東日本大震災など過去の大地震発生時の再生処理の状況はよくわかっていません。滅菌供給部門に関連する皆様には、地震や台風、大雪などで困った経験や自施設で行っている防災・減災対応、現在抱えている災害に関する不安や心配などを発信していただき、全国の滅菌供給部門で情報共有することで次の一歩へ繋がっていくことを期待します。

文献

1)文部科学省地震調査研究推進本部「長期評価による地震発生確率値の更新について」https://www.static.jishin.go.jp/resource/evaluation/long_term_evaluation/updates/prob2025.pdf(2025年5月8日最終確認)
2)内閣府 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について【定量的な被害量】https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg_02/pdf/saidai_01.pdf(2025年6月5日最終確認)
3)Anan H, Kondo H Akasaka O, et al:Investigation of Japan Disaster Medical Assistance Team response guidelines assuming catastrophic damage from a Nankai Trough earthquake. Acute Med Surg. 2017; 4: 300-305.
4)貯水タンクを地震から守れ 中央大学平野研究室 https://hirano.r.chuo-u.ac.jp/sloshing/(2025年4月20日最終確認)
5)水谷光,江島豊,木村登,久保木修. 滅菌保証に関する実態調査報告書6医療機器学. 2023; 93(4): 523-545.
6)彦坂宗平, 吉野篤人, 齊藤岳児. 電気自動車による滅菌装置稼働実証実験. J.J.Disast. Med. 2025; 30(1): 23-27.
7)彦坂宗平, 片山はるみ, 吉野篤人. 2018年台風24号がもたらした大規模停電による静岡県西部地域医療機関の被害状況と対応. J.J.Disast.Med. 2022; 27(1): 55-64.
8)国土交通省. 災害時における電動車から医療機器への給電活用マニュアル. https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001617494.pdf(2025年7月14日最終確認)
9)一般社団法人電子情報技術産業協会 ヘルスケアインダストリ部会.災害時における医療機器の安全利用に関する調査報告書. https://home.jeita.or.jp/upload_file/20250408152212_BNmRejSLCl.pdf(2025年7月14日最終確認)

sup17-2-ope.pdf