Supplysm

Supplysm 2025 vol.17 no.1

手術室の感染対策

ICTとリンクナースで取り組む手指消毒改善活動〜どのタイミングで必要?手術部での手指消毒場面〜

村田 奈穂
鹿児島大学病院 感染制御部 感染管理認定看護師/副看護師長
有村 尚子
鹿児島大学病院 感染制御部 感染管理認定看護師/副看護師長
小川 みのり
鹿児島大学病院 手術部

※本記事は、「Supplysm 2025 vol.17 no.1」(2025年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

手指消毒は、医療関連感染予防の基本です。しかし、実際の現場では業務の煩雑さや啓発不足等の要因で、手指消毒が思うように徹底されず頭を悩ませている施設も多く存在します。医療を取り巻く環境は、少子高齢化の進展、医療技術の進歩及び医療提供の場の多様化により大きく変わってきています。その中で患者さん・ご家族の医療に対する意識は、安心・安全とともに、量から質の向上をより重視するといった方向へ大きく転換しています。当院では、その期待に応え、医療従事者一人ひとりが医療関連感染を予防した質の高い医療を提供できるよう、手指消毒推進活動に力を入れています。

当院の手指消毒推進活動の紹介

1) 動画教育の導入

WHO手指衛生ガイドラインには、手指衛生の5つのタイミングが提示されています。しかし、現場で働くスタッフからは「5つのタイミングは知っているが、煩雑な業務の中で5つのタイミングを考えながら手指消毒を実施することが難しい。」といった声が聞かれていました。そこで、5つのタイミングを業務に取り入れて理解できるよう、より多くの情報を視覚的に伝えることのできる動画教育を行うことにしました。まずは、病棟で実施する手技として最も感染リスクの高い“点滴注射作製から投与までの手指消毒のタイミング”の動画から作り始めました。感染管理認定看護師(以下、ICN)が看護師役となり、注射作製から投与までの一連の流れを実施し、ICNが実施している手指消毒が5つのタイミングのどの部分に該当するか、動画の左上にテロップで表示しました。この動画は、当院の感染対策マニュアルに掲載しており、院内のスタッフはもちろん、外部からのアクセスでも視聴できるようにしています(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/kyoiku/syushisyoudoku taimingu.pdf)。動画はただ単に視聴学習をするだけでなく、動画視聴前後で手指消毒のタイミングの認識がどのように変化したか、改善するためにはどのようにすれば良いか、というディスカッションにも活用しています。動画を視聴したスタッフからは「日常の業務のどの場面で実施すべきか理解することができた。」「自分が実施している手指消毒のタイミングでは不十分なことに気づくことができた。」という声が聞かれています。5つのタイミングを知識として習得するだけでは不十分で、習得した知識を現場で実践してこそ意味があるのです。動画を通して実際の業務の中で考え、自ら体験することで学びがより深まり実践力の向上につながると考えます。今後も動画教育を充実させ、院内全体の手指消毒遵守率向上を目指します。

2) 手指消毒強化月間

当院では、毎年5月と2月を手指消毒強化月間としています。強化月間には、スタッフの興味を引くデザインや流行の話題、遊び心のあるような啓発ポスター(写真1)を作成し各部署へ配布しています。また、各部署で手指消毒について考える機会とするため、感染リンクナース(以下、リンクナース)だけではなく、病棟医長や看護師長、リンクドクターが協働して手指消毒の直接観察を行い、自部署の手指消毒遵守状況の把握と、スタッフへの指導を行っています。そして、直接観察で見えた課題と改善策を挙げてもらい、何が課題でどのような改善策に取り組む必要があるのか、院内全体で共有することとしています。年に2回の強化月間ですが、この機会を利用し改善策までじっくり検討することで、強化月間に関わらず継続的な推進活動に取り組めることを目指しています。

写真1 手指消毒強化月間 啓発ポスター

感染リンクナースの活動

リンクナースは、臨床現場における感染対策の実践モデルであり、感染対策の課題解決や推進をする重要な役割があります。しかし、私たちICNのリンクナース時代を振り返っても“自部署の感染対策をどのように推進すれば良いのかわからない”と自信を持てず、困難さを抱いていたことを記憶しています。これまで、リンクナース同士の横のつながりは希薄で、部署の感染対策はその部署のリンクナース1人に任されている現状がありました。そのため、リンクナース同士の交流を促進し、感染対策改善活動の知見を深めることを目的に、2つの取り組みを導入することとしました。まず1つ目に“積極的なグループワーク”です。手指消毒遵守率の伸び悩みや、ICTラウンドで繰り返し確認される指摘事項など、改善策をICNが一方的に提示したり、リンクナース1人に考えさせたりせず、“みんなで考える”ことを大切にしています。
2つ目に“活動の見える化”です。“活動の見える化”は、リンクナースが年1個以上自部署の感染対策の問題解決ができることを目標としています。リンクナースは4月に自部署の看護師長や感染係メンバーと話し合い、問題点の抽出と改善に向けた計画書を作成し、立案した計画をリンクナース会で共有しました。リンクナースは、「手指衛生」「環境整備」「個人防護具」「COVID-19対策」等さまざまなテーマで活動に取り組み、ICNが相談窓口となって活動を支援しました。また、“活動の見える化”でもグループワークの時間(写真2)を大切にし、リンクナース同士で活動の進捗状況などの情報交換が行えるようにしました。
「手指衛生」については、患者のケア度に合わせた手指消毒目標回数を自部署のスタッフと一緒に設定することや、録画機能付き監視カメラを活用した手指消毒の自己監査を取り入れるなど、部署の特性を活かした活動が行われました。年度末には活動の成果について発表会(写真3)を行い、リンクナースからは、「目的を持って活動することができた。」「他部署の取り組みを今後の活動に活かしたい。」等の声が聞かれました。終了後は、ICNからリンクナースの頑張りを表彰するメッセージカードを贈りました。また、リンクナースの活動を可視化することは周囲のスタッフから正当な評価を受け、達成感や向上心を得るきっかけにもなったのではないかと思います。
この“活動の見える化”で、手術部のリンクナースが取り組んだ「手指消毒場面の細分化による手術室での手指消毒強化活動」を以下に紹介します。

写真2 活動の見える化におけるグループワークの様子

写真3 活動の見える化における活動発表会の様子

手指消毒場面の細分化による手術室での手指消毒強化活動

手術室は、滅菌物を取り扱う無菌操作や、血液・体液曝露の可能性がある処置を行うため、他部署と比較し手指消毒が必要な場面が多い部署です。当院手術室では、手指消毒薬を個人で携帯し、手指消毒しやすい環境づくりと使用量の評価に努めてきました。しかし、手指消毒薬の使用量は個人差があり、スタッフ全員が正しい認識のもと手指消毒の実施ができるよう改善に取り組む必要があると考えました。そのため、手術部看護師60名を対象に手指消毒に関する意識調査を行いました。「WHO手指衛生ガイドラインの5つのタイミングを知っている」という項目に「はい」と回答した者は72%に対し、「手指消毒のタイミングを理解し実施できているか」という問いに「いつもできている」と回答した者は全体の16%でした(図1)。
WHO手指衛生ガイドラインの5つのタイミングを知っていても、実際の手術室の業務でどの場面に該当するか、という認識が十分でないことが明らかとなり、実施すべき手指消毒場面を手術室の特性に応じて細分化し、適切な場面での実施にむけて強化活動を行ったため報告します。

図1 手術部看護師60名を対象に行った手指消毒に関する意識調査

手術室で実施すべき手指消毒場面の細分化

WHO手指衛生ガイドラインが示す5つのタイミング「患者に触れる前」「清潔/無菌操作の前」「血液・体液等曝露の後」「患者に触れた後」「患者周囲環境に触れた後」を基に、手術室で実施すべき手指消毒場面を細分化しました。「患者入室前」「入室から手術開始」「手術中」「手術終了から患者退室後」と4つの時系列順に手指消毒実施場面を細分化したところ40項目が抽出されました。40項目のうち器械出し介助担当の場合18項目、外回り介助担当の場合38項目に振り分けています(図2)。
当院では器械出し介助を担当する看護師も、手術開始までの麻酔導入時や、手術終了後患者が退室するまでの介助を外回り介助担当の看護師とともに行うため、手術中以外の項目では器械出し介助・外回り介助で手指消毒実施場面に重複する項目が多くなっています。
時系列ごとの詳細は表1~4に示します。「手術中など」の項目では、手袋の着脱前後やパソコンに触れる前など、手術中に限らず全ての時系列の項目で共通するものも含まれます。
今回の活動のきっかけにもなった手指消毒の意識調査結果を踏まえ、40項目に細分化した手指消毒場面を手術部看護師全員へカンファレンス等で共有し、器械出し介助・外回り介助それぞれの手指消毒すべきタイミングの確認を行いました。

図2 手指消毒場面の細分化

表1 患者入室前 手指消毒実施場面

表2 入室~手術開始 手指消毒実施場面

表3 手術中など 手指消毒実施場面

表4 手術終了~患者退室後 手指消毒実施場面

1症例手術での手指消毒回数・使用量の想定

細分化した40項目には、手袋着脱前後・滅菌物提供前・術中の除圧前後など1つの症例の中で複数回の実施があるものがあり、少なくとも器械出し介助は18回、外回り介助は38回以上のタイミングがあることがわかります。当院手術部で多くのスタッフが使用している手指消毒薬の1回適正量は3mLで、1症例における手指消毒薬使用量は器械出し介助で54mL以上、外回り介助で114mL以上です。実際の1症例での使用量となると、手術の内容によっては30分程度で終わる症例もあれば10時間以上の長時間症例もあり、スタッフの手術途中の交代などもあるため一概には言えませんが、今回の結果を踏まえ、現状と本来必要な手指消毒薬使用量を比較し意識変容を促しました。

細分化した手指消毒場面の実施状況

細分化した手指消毒場面の実施状況のアンケート調査を行いました。当院の手術室では個人で携帯している手指消毒薬(250mL)の目標使用本数を月3本以上と設定しており、調査期間に目標使用本数を達成できなかった看護師14名を対象にしています。40項目それぞれ、「できている」2点、「時々できている」1点、「できていない」0点で自己評価を行いました。
集計したところ、「手術時手洗いを実施した後」「手袋着脱前後」などの個人防護具着脱前後が1.93~2.00点と高く、「エネルギーデバイス・タワーモニターのセッティング前後」「パソコンに触る前」などの医療機器や環境への接触前後が0.71~1.07点と低い結果となりました(図3)。

図3 実施状況アンケート結果

患者接触前後の手指消毒実施状況

細分化した40項目から、手術中の除圧や気管内挿管・抜管などの患者に接触する介助前後の場面を取り上げ手指消毒実施状況の確認を行いました。介助前と介助後で比較したところ、8項目中7項目で介助前の実施率が低くなっていることがわかりました(図4)。
介助前の手指消毒実施率が低いのは、医療エリアから患者エリアにうつる前の手指消毒の認識が不十分なこと、手袋を装着することによる安心感が考えられます。一方で、介助後の手指消毒実施率が高いのは、手指消毒は自身を守るものという認識が大きいことが考えられます。今後の課題として、「医療エリアから患者への病原体の伝播を防ぐ」という認識の再確認、手袋装着前の手指消毒の徹底を行っていく必要があります。

図4 患者接触前後の手指消毒実施状況

おわりに

今回の取り組みを行ったことで、手術部の看護師から「自分の手指消毒実施状況を具体的に振り返ることができた。」「改善すべき場面が明確になった。」との声が聞かれました。また、部署の感染対策を推進するリンクナースの立場として、手指消毒実施状況を数値化して評価することは点数の低い手指消毒場面に集中して、効率的に改善活動に取り組む事ができると考えます。
今後も、細分化したリストを用いて、定期的に自己・他者評価を行い、効率的かつ継続的な取り組みを行い、更なる手指消毒推進活動に取り組んでいきます。

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