Supplysm

Supplysm 2024 vol.16 no.2

Technical Report

過酢酸洗浄除菌剤の変更に伴う洗浄効果とコストの検証

清家 聡
医療法人社団やよい会 あやせ駅前腎クリニック 臨床工学技士 主任

※本記事は、「Supplysm 2024 vol.16 no.2」(2024年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

施設紹介

あやせ駅前腎クリニックは東京都足立区にある2005年9月に開院した外来専門の透析クリニックで、2022年1月に近隣へ移転をして、約130名の患者様が通院されています。
コロナ禍の移転であったため個室を設けることが出来、透析病床数は個室1床を含む56床あり、全台が血液透析濾過(I-HDF・O-HDF)対応となっております。月水金は夜間透析を行っているので変則2クール(22時まで)、火木土は2クールで透析治療を行っています。
当院では関連業務としてエコーガイド下穿刺やVA(バスキュラーアクセス)管理に力を入れた取り組みをしており特にエコーガイド下穿刺は、スタッフ全員ができるように教育を行っています。

背景と目的

近年、物価の高騰、診療報酬改定により保険点数が引き下げられている中で、コスト削減は常に考えなければならない。臨床工学技士としてコスト削減に繋がることを模索した結果、透析装置の洗浄剤を見直すことでコスト削減に繋がるのではないかと考えた。これまで使用してきた過酢酸洗浄除菌剤はメーカー推奨の希釈倍率が100~120倍で、当院では110倍希釈にて夜間封入で使用していたが、使用量が多くコストが割高であった。
今回、メーカー推奨の希釈倍率が500~600倍と高希釈で使用できるサラヤ社製の過酢酸洗浄除菌剤サラティブPAを使用することで、使用量の減少による労力の低減およびコスト削減が可能であるか、装置への安全性も含めていくつかの検証を行った。

対象と方法

  1. 過酸化水素の残留:末端3系統(Aライン・Bライン・Cライン)の上流と下流の装置各2台(図1)
    コンソールへの送液配管の3系統それぞれの上流コンソールと、下流コンソールの排液より採液し、パックテストを用いて排液の過酸化水素の残留を経時的に測定

  2. コンソール使用部品への影響:Cライン末端55番装置(図1)
    Oリング及びギアポンプ2カ所(P1:充填ポンプ、P2:移送ポンプ)の目視による確認

  3. エンドトキシン・生菌数:個人機を除く全53台
    (※下流とO-HDF対応装置は毎月、他は年1回実施)
    下流コンソールとO-HDF機全台のETRF(エンドトキシン捕捉フィルタ)前後で採液し検査(図1)

  4. ETRFの目詰まり:洗浄剤変更から使用6カ月後のETRF2本
    ETRFの中空糸膜表面の付着物の有無をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察

  5. 中和剤の使用量
    過酢酸洗浄除菌剤変更前後での中和剤使用量を確認

図1 施設の配管図とコンソール設置箇所

検証期間

2023年9月~2024年3月 7カ月間

中和装置のシステム説明

シリーズ:HMC-50BTS(ゴーダ水処理技研社製)(図2)
透析装置からの排水が中和反応槽に流入し、タンク内にあるpHセンサーが中和を必要と判断した場合に、中和剤の送液ポンプが稼働し下水道基準のpH5~9に調整し放流。

  • アルカリ側を検出した場合:酸性剤として希硫酸を添加

  • 酸性側を検出した場合: アルカリ性剤として苛性ソーダを添加

図2 中和装置

過酢酸洗浄の比較

当院での装置台数で計算すると変更前の過酢酸洗浄除菌剤は1回使用量が7.2L、変更後のサラティブPAでは1.6Lとなり1回使用量が5.6L削減され、水洗時間も30分短縮できることになる(表1)。

表1 過酢酸洗浄除菌剤の比較

洗浄パターン

月・水・金 :酸洗浄(過酢酸)
火・木・土 : 薬洗浄(次亜塩素酸Na12%(ニプロ)400倍希釈)
事後洗浄の洗浄パターンは変更せずに、過酢酸洗浄除菌剤の原液と希釈倍率のみ変更する。

図3 洗浄スケジュール

結果

1)過酸化水素の残留検証

A・Bラインは上流・下流共に30分で0.05mg/L未満となり、配管長が一番長いCラインの下流のみ45分で0.05mg/L未満となった(図4)。3回計測したがすべて同様の結果となった。
※ 当院では、プライミング前に透析液を採液し、残留塩素または残留過酸化水素が検出しないことを確認している。

図4 過酸化水素の残留検証結果

2)コンソール使用部品への影響の検証

シリコン製Oリングなどは過去紙(Supplysm vol.14 no.2参照)で劣化がないことが証明されていた通り、当院のコンソールでも劣化は見受けられなかった。
ギアポンプはP1:充填ポンプ、P2:移送ポンプともにやや錆付が見られたが装置の動作に問題はなかった(図5)。

※ 当院では、RO装置で脱気をしているため、コンソールでは脱気をしておりません。

図5 ギアポンプの検証

3)エンドトキシン・生菌の検証

クリニック移転時よりエンドトキシンは検出感度未満、生菌数も陰性にて推移し、2023年9月のサラティブPA変更後においても同様に推移した(図6)。

図6 エンドトキシン・生菌の検証

4)ETRFの目詰まり

ETRF1stフィルタ、2ndフィルタともに、炭酸カルシウムなどの付着物は観察されなかった(図7)。

図7 ETRFの中空糸膜表面の様子

5)中和剤の使用量の検証

過酢酸洗浄除菌剤変更前後で、中和剤(アルカリ性剤:苛性ソーダ)の使用量は約5.6割削減された(表2)。

表2 中和剤使用量の比較

まとめ

過酢酸洗浄除菌剤の変更により、当院では、1回あたりの使用量が7.2Lから1.6Lとなり約8割削減され、ほとんど毎回であった補充回数が、月に2回となったことで補充する労力が大幅に低減できた。
残留過酸化水素は、すべてのラインにおいて水洗45分以降で0.05mg/L未満であった。
コンソール使用部品に劣化はなく、装置の異常も見られなかった。
ETRFの中空糸膜表面には、炭酸カルシウムなどの付着物は確認されなかった。
透析液中のエンドトキシンと生菌は、過酢酸洗浄除菌剤変更前後とも、超純粋透析液基準を満たしていた。
中和剤の苛性ソーダの1回使用量が、約8Lから4.5Lとなり約4.4割削減され、コストは年間約10万円削減となった。

考察

洗浄剤のコストは参考価格での比較になるが年間約80万円の削減に繋がる可能性が示された。
また、メーカー推奨の60分での残留過酸化水素が認められなかったことにより、水洗時間を現行の90分から60分に短縮することが可能であり、水道光熱費の削減にも繋がると考えられた。水洗時間を変更した場合の水道料金は更に年間約15万円のコスト削減に繋がり、サラティブPAへの変更に伴う水道光熱費の削減は、SDGsの観点からも環境に優しいと考えられる。

使用時の課題

洗浄剤比較にもあるが、サラティブPAの容器がポリタンクなので容易に廃棄することができない(表1)。80Lの医療廃棄物に入れるには2個が限度である(図8)。当院では、医療廃棄物回収業者へ確認をし、針捨てBOXとしての使用を認められた。
また、タンクに注入する際に専用のコックを使用しているが、注入するのに時間がかかる(図9)。
メーカーへの今後の要望として、容易に廃棄できる容器の開発、コックの改良を期待する。

図8 80Lの医療用廃棄物容器とサラティブPA

図9 コックの使用

結語

サラティブPAはこれまで使用してきた過酢酸洗浄除菌剤と同様に透析装置への影響はなく、清浄効果も維持され、労力やコストの削減もでき、SDGsの観点からも有用であると示唆された。

sup16-2-techreport.pdf