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Supplysm 2024 vol.16 no.2

手術室の感染対策

SSI予防のための周術期管理について

木村 綾乃
福岡県済生会福岡総合病院 中央手術部 手術看護認定看護師 特定行為看護師(術中麻酔管理領域)

※本記事は、「Supplysm 2024 vol.16 no.2」(2024年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

病院の概要

当院は、福岡市の中心に位置する3次救急医療機関で、救命センターとしての大きな役割を担っています。それに伴う緊急手術も増加の一途をたどっており、24時間365日緊急手術に対応しています。また、感染制御チームを備え、SSI(Surgical site infection:手術部位感染)サーベイランスを実施しています。
病床数は380床で、福岡地区3次救急医療機関(救命救急センター)、地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、福岡県災害拠点病院となっています。

手術室概要

手術室は9室あり、13診療科の手術が年間3,800~4,000症例行われ、手術室稼働率は約80%と高くなっています。難易度が高く他院で断られた重症合併症を有するハイリスク患者の手術、心臓血管外科手術、バイオクリーンルームでの人工関節手術、ロボット支援下手術などが行われています。スタッフは、麻酔科医は常勤8名・非常勤5名、手術室看護師42名(うち手術看護認定看護師、特定行為看護師2名)で、手術室看護師の勤務体制は2交代制です。

はじめに ~手術室における感染対策の重要性~

手術室看護師は、手術という生命の危機的状況にある患者に対して、より専門性の高い知識と技術を用いた看護実践を行わなければなりません。手術に伴う侵襲が最小限にとどまり、心身共に回復過程を促進するように関わる必要があります。SSIが発症すると、回復過程が遅延して心身共に患者にダメージを与えるとともに、入院期間や医療費もかさみ経済的負担も多くなります。よって、専門性の高い手術看護において、感染予防の知識・技術及び教育の重要度は極めて高く、手術室看護師の使命であるといっても過言ではありません。
手術を受ける患者は、皮膚を切開し無菌組織を外部に露出することになり、SSIを発症する可能性があります。そのため、標準予防策と無菌操作の徹底、手術創の汚染レベルや手術患者個々に対応した感染予防対策を行わなければなりません(図1)。

図1 SSI予防の基本的な考え方

1. 感染防止対策の実践と教育

筆者は、中央手術部で手術看護認定看護師、特定行為看護師(術中麻酔管理領域)として勤務しており、周術期の患者に対し感染予防対策を実践・教育しています。
SSI予防は、医療従事者の手指衛生の徹底、適切な手術時手洗い、抗菌薬の適正使用、適切な消毒方法、手術室の環境管理などを総合的に行う必要があります。感染対策もチームで行うことが重要で、感染予防対策の教育は手術室看護師のみならず、周術期管理に携わる外来・病棟看護師、医師(新研修医)を対象としています。

1 手術室看護師の実践・教育

以下の項目について、最新のエビデンスレベルと共に教育し、根拠をもちSSI予防策を行えるようにしています。教育に関しては、手術室新人看護師に対し入職時と入職6か月後の勉強会、手術室看護師(新人以外)に対し手術部内勉強会(1回/年)を実施しています。

(1)普遍的な推奨事項

CDC(米国疾病管理予防センター)手術部位感染予防のためのガイドライン2017では既に常識であるとして改訂されていませんが、手術室の環境管理、服装、消毒と無菌などについては手術室での感染管理の基本とされています(図2)。

図2 ガイドラインでは既に常識であるとして改訂されていない推奨事項

(2)術前

①栄養状態の評価

低栄養の場合、血清蛋白量の減少による感染防御能の低下が生じ感染のリスクとなるため、手術チームで共有し、標準予防策を基本にSSI予防策を徹底します。

②肥満

肥満の場合、術野の確保が困難で手術時間が延長します。また脂肪細胞が肥大化し、その結果、アディポネクチン(脂肪細胞から分泌されるホルモン)が低下し、免疫機能の低下、血液前駆細胞がうまく機能しなくなることによりSSI発症及び感染症の重症化リスクとなります。よって、少しでもBMI25未満の適正体重に近づけるように指導する必要があります。

③糖尿病の有無の確認とコントロール状態

高血糖患者は、好中球機能が低下しています。また、血流障害が生じ局所組織が虚血状態となり白血球の殺菌能の低下・抗菌薬の吸収の低下・感染防御能の低下が生じます。術前血糖はHBA1c7%未満1)に低下させるように適切な管理が望まれるため、主治医、麻酔科医と情報共有し、当該科へコンサルトしています。場合によっては、手術を延期し血糖コントロール目的で入院加療することになっています。周術期の血糖値は200mg/dl未満1-2,4)を目標に管理しています。

④喫煙

ニコチンが血管を収縮させて組織への酸素供給を減少させることで創治癒が遅延することから、喫煙はSSIの危険因子となります。周術期の心血管系・呼吸器系の合併症のリスクとなりうることからも、手術の30日前2)、手術の4~6週間前1)には禁煙するように各種ガイドラインで推奨されています。当院では、外来看護師、手術室看護師、麻酔科医による禁煙指導を徹底しています。

(3)術中

①標準予防策の徹底

②術前剃毛

除毛は行わないか、行う場合はクリッパーを用いる2)、手術野の支障にならなければ行わない1)、必要な場合は電気クリッパーや除毛クリームで直前に実施する2)、とされています。当院では、手術室の各部屋に電気クリッパーを常備し、必要時手術直前に剃毛しています。

③術前皮膚消毒

WHOやACS & SISのガイドラインでは術前皮膚消毒はCHG(クロルヘキシジングルコン酸塩)アルコールを推奨しています3,4)。CDCのガイドラインでは禁忌がなければアルコール含有製剤の使用を推奨しています2)。当院では、ポビドンヨードを使用していますが、CHGアルコールに変更することを検討中です。

④手術時手洗い

持続活性のあるアルコールベースの手術時手指消毒薬の使用が推奨されており、1%CHGアルコールによるラビング法の効果についても言及されているため2)、当院では、1%CHGアルコールによるラビング法を採用しています。CHG又はアルコールにアレルギーがある場合は、ブラシを使用しない7.5%ポビドンヨードによるツーステージ法としています。

⑤予防抗菌薬

予防抗菌薬は、公開されているクリニカル・プラクティスガイドラインに基づいた適用のときのみに投与します。そして、切開されたときに、血清および組織における抗菌薬の殺菌濃度が確保されるタイミングで投与します5)。当院では、手術開始前までに予防抗菌薬の投与を終了し、術中再投与は抗菌薬及び患者の個別性に応じて実施しています。

⑥体温管理

周術期の正常体温を維持します2)。当院では、周術期の体温管理の勉強会を手術室看護師、病棟看護師向けに行い、周術期の質の高い体温管理を実践できるようにしています(図3、4)。

図3 全身麻酔中の中枢温低下と体温管理

図4 体温管理

⑦抗菌縫合糸

CDCのガイドラインとWHOのガイドラインでは、トリクロサンコーティング縫合糸を弱く推奨しており(中等度の根拠)2,3)、SSIの予防を目的とするトリクロサン抗菌縫合糸の使用を考慮するとしています2)。ACS & SISのガイドラインでは、トリクロサンコーティング縫合糸の使用を推奨しています4)。当院では、整形外科手術、心臓血管外科手術、消化器外科手術、婦人科手術及びSSI高リスク症例で使用しています(図5)。

図5 当院におけるトリクロサンコーティング縫合糸使用場面

⑧手術器具の交換、術中の不潔操作

消化管の吻合操作が終わった時点で、術野周囲のドレープ、手術器具、ガウン、手袋などの交換を推奨しています6)。開腹大腸手術では手袋及び器具の交換を推奨しています3)。当院では、不潔操作時の器械の分別を実施しています(図6、7)。

図6 術中の不潔操作の実際(器具・材料、洗浄、閉創、ドレーン)

図7 術中の不潔操作

⑨術中操作(ポビドンヨード溶液の洗浄)

CDCのガイドラインでは、ポビドンヨード溶液の洗浄は予防効果があり、弱く推奨(中等度の根拠)しています。SSIの予防のためにヨードホール水溶液にて深部もしくは皮下組織を術中に洗浄することを考慮に入れ、不潔もしくは汚染の腹部手術においてヨードホール水溶液での術中洗浄は必要ない2)としています。当院では、整形外科手術で実施しています。

⑩滅菌手袋

開腹結腸直腸手術の閉創前で手袋交換、二重手袋を推奨しています3)。当院では、全症例で3時間に1回(2~3時間後ピンホールが増えてくる時期)手袋交換しています。また、心臓血管外科手術、整形外科手術でチーム全員二重手袋装着としています。消化器外科手術では閉創前に手袋を交換しています。

⑪その他

  • 創縁保護具

準清潔・汚染・感染手術で使用(条件付き、とても低いエビデンス)3)、開腹、特に結腸・胆道系では有効性が高い4)とされています。当院では、消化器外科手術、呼吸器外科手術で使用しています。

  • スペーススーツ

人工関節手術における効果と害が不明で未解決2)となっています。当院では、整形外科の人工関節手術で実施しています。

(4)術後

①酸素化

補助酸素FiO₂80%とFiO₂30%を比較すると、FiO₂80%の方がSSIを軽減するとされ、全身麻酔下手術の手術中および手術直後に酸素補充療法が推奨1)されています。
全身麻酔の正常肺機能の患者は手術中および手術直後の抜管の後はFiO₂を増加して投与し、組織酸素添加を最適化するため、周術期の正常体温および十分な補液を維持する2-4)とされています。挿管して全身麻酔を受ける成人患者の術中はFiO₂80%の投与を推奨し手術直後の2~6時間も投与2-4)とされています。一方で、高濃度酸素投与の有害な点についての検討が不十分で安全性が保障されていないのではないかという意見も一部あるため、今後の動向を見ていく必要があります。

2 外来・病棟看護師への教育

多くの因子が手術創傷治癒に影響を与えており、また、感染の温床になりうることが分かっています。これらの因子は、主に患者に起因する因子と、手術に起因する因子に分けることができます(図8)。加齢や性別などの避けようのない因子もありますが(図9)、SSIを防止するために術前に評価すべきことに関しては、手術や麻酔に関する説明を実施する外来部門(当院では「入院支援センター」)の外来看護師への教育も必要となります。

図8 SSIの発症要因

図9 高齢者の特徴とSSIによる影響

(1)外来看護師への教育内容

当院では、外来部門の入院支援センターにて、麻酔科術前診察及び外来看護師・手術室看護師より麻酔・周術期の注意事項・入院に関する説明を、手術2~4週間前に行うシステムになっています。従って、周術期の患者評価・指導に関して院内研修を実施し、以下の項目でスタッフが統一した知識のもと評価、指導できるようにしています。指導時は、術前説明パンフレット(図10)を用いて説明しています。

図10 術前説明パンフレット(一部抜粋)

① 栄養状態の評価

低栄養の場合、血清蛋白量の減少による感染防御能の低下が生じるため、感染のリスクとなります。主治医、麻酔科医、栄養部、手術室看護師と低栄養に関する情報共有をしています。

② 肥満

前記、手術室看護師の実践・教育(2)-②参照。

③ 糖尿病の有無の確認とコントロール状態

前記、手術室看護師の実践・教育(2)-③参照。

④ 喫煙

前記、手術室看護師の実践・教育(2)-④参照。

(2) 病棟看護師への教育内容

病棟看護師に対する教育は前項の外来看護師に対する教育(1)-①②③④に加え、最新のエビデンスをもとに以下の項目でスタッフが統一した知識のもと評価、指導できるようにしています。

① 術前剃毛

前記、手術室看護師の実践・教育(3)-②参照。

② 術前入浴

少なくとも手術前日には石鹸(抗菌性 or 非抗菌性)または消毒薬を用いたシャワーや入浴を推奨。石鹼でも消毒薬でもどちらでもよいとされています2,3)

③術後酸素化

前記、手術室看護師の実践・教育(4)-①参照。

3 医師(臨床研修医)への教育

SSIを減少させるためには、SSI予防抗菌薬の適切な使用のみならず、医療従事者の手指衛生の徹底、患者の合併症のコントロール、消毒方法、手術室の適切な環境保持など、総合的な管理が必要になります。そのためには、手術を行う医師が最新のエビデンスに応じたSSI予防策への理解と行動をする必要があります。特に、1年目研修医は、大学在学中の実習施設毎の知識のみを習得しており、入職時約半数が手術時手洗いやガウンテクニック、手術室の環境等に関して、基本教育を受けることができていない現状が多くあります。よって当院では、臨床研修部及び手術部部長(麻酔科部長)の方針で研修医に対するSSI予防策の教育を手術看護認定看護師と手術室看護師が担当しています。前記の手術室看護師へと同様、普遍的な推奨事項や標準予防策、術前剃毛、術前皮膚消毒、手術時手洗い、滅菌手袋、予防抗菌薬、体温管理、抗菌縫合糸、術中の不潔操作の教育を行っています。特に、手術時手洗い、滅菌手袋装着に関しては、入職時に演習を実施しています。

2. 継続教育と院内の連携

1 手術室看護師

手術室看護師は、その専門性から他部署の看護師と比較し、感染管理の知識と技術の習得の優先度及び感染予防策の教育の重要性が高いといえます。

①手術室新人看護師

入職時、手術看護の基本について約3日間かけてオリエンテーションを実施しています。内容は、手術看護総論、手術室における感染管理、手術医療看護における医療安全管理、ME機器の取り扱い、手術体位総論、滅菌物の取り扱い、手術看護倫理となっています。手術看護における感染管理においては、オリエンテーションの中でも比較的時間をかけて実施しています。さらに入職6か月後、ある程度器械出し看護・外回り看護を経験した頃に、知識と技術の定着を目的に再度勉強会を実施しています。

②手術室看護師(新人看護師以外)

感染対策の知識や技術において個人や組織の慣習を防ぐために、最新のエビデンスを取り入れた「手術看護における感染管理」の勉強会(1回/年)を実施しています。その際、日頃の感染管理に関したKYT(危険予知トレーニング)を取り入れ、自身の感染対策の行動について振り返る機会としています。

2 感染管理認定看護師、感染管理対策委員会

当院では、感染管理認定看護師(ICN)がSSIサーベイランスを通して、問題を明確化し、周術期を通して他部門、多職種と協働してSSI予防策を実践できる体制を調整しています。そして予防策実践後の評価と新たな改善策導入というPDCAサイクルを回しています。その中で、感染管理認定看護師と手術看護認定看護師が連携し、SSI発生の傾向と改善策を考察した結果を、手術室全スタッフに伝達しています。
また、感染管理対策委員会主催の全職員を対象としたSSI予防策の院内研修(1回/年)を手術看護認定看護師が主催することにより、栄養部、薬剤部、診療部などSSI予防に関連する他部門の知識向上に努めています。

3 臨床研修教育部門

かつて、臨床研修医の入職時の教育導入前は、手術時手洗い、ガウンテクニック・滅菌手袋装着、手術室環境保持等への理解度が低い状態でした。そこで、前記の医師(臨床研修医)への教育に記したように、臨床教育部及び手術部部長の方針により臨床研修医に対するSSI予防策の教育を、手術看護認定看護師と手術室看護師が担当し、入職時のOFF-JT及び手術室での演習を実施しています。

4 看護部教育委員会

院内の看護部研修を看護部教育委員会が統括しています。筆者は、手術看護認定看護師として、周術期看護研修(2回/年)を担当しています。SSI予防策は、術前・術後看護を実践する、外来・病棟看護師の知識と行動が必須であることから、研修テーマに採用し、院内研修会「周術期看護研修~SSI予防策~」を実施しています。

3. まとめ

手術を受ける患者は、手術時の侵襲に加えて複数のカテーテルやドレーンの留置などの処置が伴い、感染のリスクを多く抱えています。また、近年手術件数そのものの増加に加え、高齢者や合併症併存患者の手術が増加し、手術手技の高度化・複雑化など、手術を取り巻く環境はハイリスク化しています。SSI予防策は様々なガイドラインが改訂されており、個人や組織の慣習を防ぐために組織内でのアップデートが必要となります。しかし、統計学的有意差があるといっても、全手術・全患者に有益というわけではありません。院内感染管理対策委員会と連携し、SSIサーベイランスや病院経営などを考慮した上で、エビデンスの正しい理解の上、個々の患者にとって有益になる方法を取捨選択して実践する必要があります。
また、手術室看護師に対する感染予防対策の教育も重要です。目的と根拠の理解を助け、日々の看護の中で個々が意識的に行動できるよう継続的に教育していくことが大切です。

参考文献

1)SHEA(米国医療疫学学会)手術部位感染予防のためのガイドライン,2017.
2)CDC(米国疾病管理予防センター)手術部位感染予防のためのガイドライン,2017.
3)WHO(世界保健機関)手術部位感染予防のためのガイドライン,2016.
4)ACS & SIS(米国外科学会&米国外科感染症学会)手術部位感染ガイドライン,2017.
5)術後感染予防抗菌薬適正使用に関するガイドライン作成員会:術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン,公益社団法人日本化学療法学会/一般社団法人日本外科感染症学会,2018.
6)AORN (アメリカ周術期看護学会) ⑦周術期実践のためのゴールドスタンダード,2022.
7)臨床ですぐ使える感染対策,メディカ出版,インフェクションコントロール,2010.
8)矢野邦夫:手術医療の感染対策がわかる本,ヴァンメディカル,2018.
9)中田精三:手術室看護の知識と実際,メディカ出版,2009.

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