Supplysm 2024 vol.16 no.1
特集
災害に対する準備、できていますか?~滅菌供給部門におけるBCP~
- 江島 豊
- 東北大学病院 手術部・材料部 部長
※本記事は、「Supplysm 2024 vol.16 no.1」(2024年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
令和6年能登半島地震でお亡くなりになられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。また、被災地で救護活動に尽力されている皆様に深く敬意を表します。被災地の皆様の安全と一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。
本稿では、様々な災害に対する滅菌供給部門における備えや現状について概説します。
1. BCPとは
筆者が災害に関する講演をする場合、その冒頭では災害はいつやってくるかわからないことを強調して話を進めていました。昔のTVコマーシャルで「天災は忘れたころにやってくる」(寺田寅彦の名言の引用)をモチーフにした湿布の宣伝と同じ手法ですが、最近では「天災は忘れる前にやってくる」と言う人もいるように、常に災害に備えた準備が必要な時代になってしまっています。即ちBCPが必要な時代というわけです。BCPは、もう普及した言葉で今更解説も不要かもしれませんが、業務継続計画;Business Continuity Plan(ning)の頭文字です。ところで表題の「災害に対する準備、できていますか?」ですが、皆様のご施設、皆様の部署、そして皆様自身、災害への備え、できていますか? 例えば巨大地震が発生したことを想定し、予め自宅の耐震補強をする、本棚は倒れた際に扉の開閉が不能になる位置に配置しない、飲料水や湯煎で食べられるご飯などを備蓄しておくなど、災害が生じた時にいかに普段通りの生活や業務を実施できるかを準備計画することが即ちBCPです。「災害マニュアルとBCPと何が違うんだ」という質問もよく伺いますが、マニュアルは災害が生じた時の対応手順のこと、BCPは災害に対する備えとその計画であり、災害マニュアルはBCPに含まれます(図1)1)。
◦ 災害マニュアルは、初動対応などの「現場」の行動手順を記したもの
→災害の種類によって異なる
→想定されない災害へのマニュアルは作成不能
◦BCPは、災害時に病院機能を継続するための準備を「管理」の立場から考える
↓
自施設の脆弱な点(ボトルネック)を洗い出し備える
*CBRNE:Chemical(化学)・Biological(生物)・Radiological(放射性物質)・Nuclear(核)・Explosive(爆発)の頭文字を取ったもの。これらによる災害をCBRNE災害という
2. 滅菌保証に関する実態調査報告書 6からの報告
滅菌供給部門(CSSD)における災害に対する対応状況について、日本医療機器学会が2022年に調査を実施しました2)。不肖ながら筆者も共著者として本調査に参画しています。本論文自体には災害関連の調査もありますが、CSSD業務全般についてアンケート調査しており、現時点におけるCSSDのベンチマークを調査した論文です。皆様ご一読をお薦めいたします。本調査では、全国1,722の医療施設へアンケート調査を依頼しました。本読者のご施設にも依頼があったかもしれません。そのうち468の施設からご回答をいただきました。質問項目が多く、また容易に回答できない項目もあったため大変な作業であったと思いますが、それにもかかわらずご協力いただきましたご施設の皆様に御礼申し上げます。このアンケートは、1998年以来過去6回実施されてきましたが、今回初めて病床数別に調査結果を検討し、そして災害に関するアンケートを加えました。ここからは、その結果を元に話を進めていきます。アンケート項目を表1に示しました。
1)災害対策マニュアル
600床以上の施設のうち、CSSDの災害対策マニュアルを備えていないのは24%に上りました。これらの病院の多くは災害拠点病院でしたので、災害拠点病院ですらCSSDの災害対策マニュアルが備わっていないことがわかりました。これには少し驚きました。上述しましたように災害対策マニュアルとBCPは別物ですので、マニュアルが無くとも業務継続は可能でしょう。重要なことは災害時でも災害拠点病院として業務が継続できることです。一方、現場のスタッフはマニュアルが必要と考えているがその作り方がわからないのであれば、それは問題です。筆者までご連絡下さい。お手伝いができるかもしれません。さて災害には様々な災害がありますが、どの災害に対するマニュアルを備えているのでしょうか? アンケートでは、地震に対するものは全体の54%、火災に対しては40%の施設で作成されていました。近年多発している水害に対するマニュアルは8.6%とまだまだ少数でした(図2)。
2)災害訓練
次に災害訓練についてです。病院規模によらず病院全体での訓練を約80%の施設が行っていました。主な訓練対象は地震または火災です(図3)。一方CSSD独自の災害訓練は、地震・火災の両者に対しても10〜13%程度とまだまだ低い状況でした。CSSDを構成する職員が様々であると、CSSD単独での災害訓練を実施するのに困難が伴うかもしれません。病院全体の災害訓練時に、CSSD独自の災害訓練を重ねても良いでしょう。地震を想定した訓練をするのであれば、非常停止ボタンを押す真似をする、ストッパーをかける、器材の散乱を防ぎかつ埃がかぶらないように組立中の機器に覆布をする、などの初期対応訓練の他に、RO水や蒸気が停止した事態を想定した対応訓練をするのも一案です。
3)機器の固定
保管棚の固定は66%の施設で行われており、キャスターは79%の施設で通常ロックして使用されていました(図4)。機器の固定やキャスターロックは、大がかりな予算を組む必要もなく明日にでも実施可能な地震対策です。保管棚の固定が早期に100%になることを期待しています。
4)BCP
1. BCP
病院BCPは75%の施設で策定されていました。その一方でCSSDに関するBCPは半数以下の36%とかなり低い状況でした。CSSDスタッフがBCP委員会などの委員会に参加している施設は25%に留まっていることは、CSSDのBCPが計画されていない要因かもしれません(図5)。
左上段:病院全体のBCPの有無
右上段: 病院BCPにCSSDに関する記載の有無またはCSSD独自のBCPの有無
下段:CSSDスタッフが災害対策委員会などの委員となっているか
2. インフラ(非常電源・水・蒸気)
非常電源
CSSDのBCPがないことを反映しているのかもしれませんが、ほとんどの機器を非常電源に接続している施設は全体の50%未満で、非常電源が作動してもCSSD業務は不能である施設が多くあることが判明しました(図6)。非常電源へ接続している機器の中で唯一50%を超えた機器は過酸化水素ガス(プラズマ)滅菌器でした。水や蒸気が不要であるこの滅菌器は、非常電源さえ稼働すれば使用できる災害に強い滅菌器です。CSSDに非常電源の回路があるのであれば、過酸化水素ガス(プラズマ)滅菌器は接続したいところです。肝心の非常電源ですが、非常電源がないとの回答は30施設のみで、ほとんどの施設では非常電源設備を完備していました。
WD:ウォッシャーディスインフェクター
AC:高圧蒸気滅菌器
EO:エチレンオキサイド滅菌器
LTSF:低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌器
*過酸化水素: 過酸化水素ガスプラズマ滅菌器と過酸化水素ガス滅菌器の両者を含む
水
CSSDでの業務に水は毎日どの程度使っているでしょうか。洗浄はもちろんのこと滅菌にも多くの水を使っています。筆者が勤務している東北大学病院(以下:当院)のウォッシャーディスインフェクター(WD)と高圧蒸気滅菌器(AC)(1,500L程度)をそれぞれ1回稼働させるのには、225Lと500Lもの水を必要とします。手洗い用の恒温槽は60L程度です。おおよそですが1日40m3(40,000L)の水を使用しています。因みに当院の総使用量は1日600m3です。それに対して水の備えはどの程度でしょうか。災害拠点病院指定要件では、「少なくとも3日分の容量の受水槽を保有しておくこと」となっています3)。災害拠点病院であれば災害初期は受水槽の水で賄えるでしょう。そしてそれ以降は井戸水または給水車による補給となります。給水車1台当たりの給水量は4m3すなわち4,000L程度に留まり、給水車による供給では病院業務は高度に制限されることがわかります。水の備蓄量への回答は、65%近くの施設が不明または無回答という結果でした。上述したようにCSSDは水を大量に使用する部門ですので、CSSDの管理者は、通常使用で何日程度水が使用できるかを把握しておくことが望ましいと考えられます。
蒸気
では蒸気はどうでしょう。多くのご施設では、蒸気を屋上や別の棟より配管を通じてCSSDへ供給していると思われます。蒸気は気体ですので、地震の揺れや配管の経年劣化による僅かな継手のずれや緩みによって漏れ、その上複数箇所の漏れがあることもあり、かつ配管が天井裏などを通るため漏れの発見が難しく、筆者の経験ではその修復には1〜2週間程度要します。また日常業務でも当院ではボイラーの故障やボイラーからの水漏れのために、洗浄滅菌業務に支障を来す経験をしています。一般に外部からの蒸気はそのまま滅菌に使用するのではなく熱源として利用されています。そこで、熱源を外部からの蒸気によらず自機自身で暖めることが可能なWDやACがあると良いでしょう。WDでは43%の施設で、ACでは14%の施設でヒーターが搭載された機器を備えていました。ヒーターを搭載したACは、構造上滅菌チャンバーの容量に制限があり小型〜中型の機器のみであるため、日常業務を考えると導入が難しいと思われます。最近ではヒーター付きでも容量が1,000LサイズのACもあるようですので一考に値すると思われます4)。
3. スタッフ
災害時はスタッフが揃わない状況で業務に追われる場合や逆に帰宅困難になることも予想されます。そこでスタッフが長時間院内に滞在することを想定し、飲料や軽食の備蓄や簡易的に宿泊できる場所を検討する必要があります。アンケート結果では飲料・食料の備蓄をしていない施設は24%でしたが、半数弱の48%の施設で3日分の備蓄をしていました(図7)。災害拠点病院の指定要件に「食料、飲料水、医薬品等について、流通を通じて適切に供給されるまでに必要な量として、3日分程度を備蓄しておくこと。」となっていることが大きな要因と思われます5)。事実、2016年の熊本地震では発災から3日後から食料の供給が始まっています5)。最近では大災害時には供給に1週間程度かかるといわれており、政府をはじめ県や市など行政は1週間分の備蓄を推奨しています。そこで、備蓄のない施設はまずは3日分を、既に3日分備蓄をしている施設は5日分を、と最終的には1週間分の備蓄を目指すと良いでしょう。また68%の施設で宿泊可能であるとの回答でした。数字だけ見ると宿泊不能な32%は、病床数が少ない小規模病院だからと思われるかもしれません。しかし、宿泊不能な施設と可能な施設で病床数に差があるかを調べたところ、どちらも同じように幅広く分布しており病床数に差は認められませんでした。災害拠点病院のように多数の傷病者の対応が必要だと予想される病院ではCSSDの活躍は不可欠です。休憩室で何人宿泊できるか、ディスポシーツを床に敷き仮眠をとることが可能なのかなど、日常からどのように宿泊するか計画しておくと良いでしょう。
さて当院では、震度6で自主登院となっていますが、皆様のご施設ではそのようなルールはありますか。アンケートでは、病院職員の災害時の出勤ルールは86%の施設でありましたが、委託職員に関しては回答があった施設の52%でルールがあるという結果でした(図8)。今回のアンケートをご回答いただきました46%のご施設で委託職員が働かれているようですので、およそ全国25%の施設では災害時に委託職員が勤務しない事態が生じるかもしれません。因みに当院の仕様書(業務内容を記述した募集要項)では「大規模な地震が発生した場合は、本院が定める災害対策マニュアルに沿って登院し行動すること。また、災害後の業務体制については材料部と協議のうえ決定する。」としています。実効性がどの程度あるかは不明ですが、興味深いことに野口の報告によれば、実際の業務委託者は、29%が「自分の意思で駆けつける」、38%が「会社から依頼があれば駆けつけると思う」、19%が「病院から依頼があれば駆けつけると思う」と全体の86%が出勤するとしています6)。このことから、病院スタッフと委託者との関係が良好であれば、災害時に進んで出勤していただける可能性があります。
4. 備蓄
COVID-19の流行以後、皆様のご施設でも物品の供給が突然止まり代替品を探す、または業務が一時的に滞るなどを経験されていると思います。その影響からか、かなりの備蓄をされていることがアンケート結果からわかりました(図9)。それぞれの中央値は、PPE(個人防護具)で10日間、滅菌バッグ25日間、洗浄剤と過酸化水素カセットがそれぞれ14日間、BI(生物学的インジケーター)20日間、CI(化学的インジケーター)30日間でした。備蓄量としてはまず問題ない量と考えます。一方で備蓄0との回答もありました。備蓄したくとも保管場所がないなどご施設の事情もあるでしょう。その場合の強い味方は流通在庫です。流通在庫とは、業者さんの倉庫にある在庫のことで、日常から欠品しないようある程度の在庫を持っています。宮城県の医療機器販売業協会によれば、1週間から10日間分の流通在庫があるとのことです7)。ただしCOVID-19時の欠品の際には、日常から取引のない施設への余分な在庫はほぼないことがわかっています。
×:平均値
箱の下端〜上端:四分位範囲の25〜75%、
エラーバー:四分位範囲の1.5倍
箱の中線:中央値
CIは中央値と四分位範囲の75%が同じ値のため箱の中に中央線が引かれていない
PPE:個人防護具、BI:生物学的インジケーター、CI:化学的インジケーター
5. 連携と提携
日常でも困った時に頼りになるのが、関連施設や常に取引のあるメーカー、そして販売業者の方々でしょう。皆様も業務に関する相談、機器の借用や機器の修理、代替品の供給など様々な時に素早く対応していただいて助かった経験をお持ちではないでしょうか。かくいう筆者も日常はもちろんのこと東日本大震災で、近隣の病院や販売業者さん、機器メーカーの方に大いに助けていただきました。残念ながらそれは、災害時の契約や連携を締結していたからではなく、ボランティアによる援助でした。偶然に頼らず組織だった災害時の連携が必要であることを痛感しました。アンケート結果からは、委託業者とは26%、関連施設とは16%、機器メーカーとは8%、販売業者とは11%の施設で災害時の契約または協定を結んでいるとのことでした(図10)。具体的内容を表2に示しました。委託業者との連携で多かったのは、災害時のバックアップ体制(委託業者内での滅菌実施を含む)でした。またグループ病院同士での連携も比較的多く記載されていました。
3. CSSDのBCP
災害によって、病院需要は大きく増大する一方で病院機能は低下する、もしくは需要が病院キャパシティを大きく凌駕することを私たちは経験済みです。こういった病院の脆弱性に対してレジリエンス(回復力・復元力)を強化することがBCPです。BCPは文字通り、事業を継続する計画の略ですので、元来企業が災害などによって被害を受けた場合に、業務規模は縮小しても継続する、被害からの回復を促進させることを念頭に置き立てられた計画のことです。
発災すると、スタッフが働けなくなる・ライフラインが途絶する・設備が使用できなくなる・医療材料の供給が減少するなどの「供給減少型災害」、テロ災害や今回のCOVID-19のような「需要増大型災害」、それらをmixした大規模地震災害のような「混合型災害」に分けるとその対応を考えやすいでしょう(表3)。また発災後の時間軸は、発災〜72時間の初期対応期、72時間〜7日の急性期、7〜30日の回復期の3時相に分けて考える長期間にわたった視点で対応を考えると良いでしょう(図11)7)。では、CSSDにおけるBCPは、どのようなことを準備・計画しておけば良いのでしょうか。それが実は上述してきたアンケート項目なのです。供給減少型災害や需要増大型災害で目標とする自施設のCSSDの業務量を想定します。そしてその業務量を継続するにはどのような設備・機器・消耗品が必要か、スタッフは何人必要なのか、外部との連携が必要かを考えます。そして、必要なインフラや機器を準備し、災害時のスタッフの出勤計画をたて、委託業者との連携を締結する計画をたてて実施することがBCPなのです。一つ大きな問題があります。上述した災害時に想定される業務量に100%対応することは難しいでしょう。強調したいことは、BCPを立案する上で全く業務が不能にならないように、まずは少しでも業務を継続できるよう立案することです。そして災害訓練を実践することで、Plan-Do-Check-Act(PDCA)サイクルから計画の抜けや新たなボトルネックを発見し、BCPを改定することです。訓練を行うことで、改定することができます。パーフェクトな計画を初めからたてることは困難でしょう。いつまでたっても完成形はできないかもしれませんが、継続してBCPを改定していくことが重要と考えます。
最後になりましたが、「滅菌保証に関する実態調査報告書 6」の実施・取りまとめにご尽力を賜りました、千船病院の水谷光先生、株式会社3Mの木村登様、久保木修様に、あらためまして感謝申し上げます。
文献
1)江島豊. BCP、BCMとは 病院BCPと手術部BCP. 手術医学2021;42(3):228-233.
2)水谷光,江島豊,木村登,久保木修. 滅菌保証に関する実態調査報告書 6 医療機器学2023;93(4):523-545.
3)厚生労働省:災害拠点病院指定要件の一部改正について2023年2月28日.https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001064197.pdf(accessed 2023-11-27)
4)ウドノ医機:蒸気滅菌装置 熱源ハイブリッド型. https://www.udono.com/article.php/20160514092244179_ja(accessed 2023-10-15)
5)内閣府:防災情報のページ 熊本県熊本地方を震源とする地震に係る被害状況等について. https://www.bousai.go.jp/updates/h280414jishin/h28kumamoto/pdf/h280623_1.pdf(accessed 2023-10-15)
6)野口悟司. 災害時における医療機関とアウトソーシングの関係についての一考察. 手術医学 2021;42:200-204.
7) 江島豊. 災害医療における消毒と滅菌ー東日本大震災の経験から. 救急医学 2022;46:71-80.

