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Supplysm 2023 vol.15 no.2

特集

職業感染と個人防護具(PPE)の適正使用について

黒須 一見
国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター第四室 実地疫学研究センター(併任)主任研究官 感染管理認定看護師

※本記事は、「Supplysm 2023 vol.15 no.2」(2023年8月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

1. はじめに

2019年末に中国浙江省武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、この3年間は感染の大きな波が起こると不要不急な対応で手術が制限されたり、密を避け社会的距離を確保するために対面での研修を実施することができなかったりなど、通常とは異なる体制がとられてきました。COVID-19で個人防護具(Personal Protective Equipment:PPE)を使用する機会が多くなり、PPEの重要性についての認識が高まったものの、感染を恐れて過剰な防護をとっている場面もあります。2023年5月8日よりCOVID-19が5類感染症となり、病院業務も通常体制になりつつあります。中央滅菌材料室(以下、中材)や手術室業務における職業感染の状況と基本を再認識するうえでPPEの適正使用について述べます。

2. 中材、手術業務における職業感染の発生状況

職業感染とは、特定の職場で働くことによって感染症に罹患することを指し、医療従事者は患者や病原体との接触により感染症に罹患するリスクが高い職種といえます。自施設において、どのような場所でどのようなリスクがあるのかを把握し、対策に結び付けることが重要です。一般社団法人職業感染制御研究会では、エピネット日本版サーベイランス(Japan-EPINet Surveillance:JES)を実施しており、針刺し・切創(エピネットAおよびAOR)と皮膚・粘膜曝露(エピネットBおよびBOR)について、参加施設から提出されたJESデータを公開しています1) (ORは手術部門のフォーマット様式を指します)。2004年度から2020年度の公開情報のうち2016〜2020年度の5年間の針刺し・切創状況について、図1と図2に示します。発生部門別では、医師部門が最も多く全体の約4割(37.1〜41.3%)を占め、次いで病棟部門が約3割(32.5〜34.1%)、中材・手術部門は3番目に多く、11.7%(2016年度)〜13.4%(2019年度)でした。職種別では、看護師が全体の約5割(44.9〜48.9%)を占め、次いで医師(24.1〜28%)、レジデント・研修医(12.5〜13.6%)でした。洗浄・滅菌業務担当者(委託作業員含)は、『清掃・洗濯・廃棄等の医療関連サービ44.9〜48.9計されており、1.2〜2.2%と全体に占める割合は少ないですが、『清掃・洗濯・廃棄等の医療関連サービス』の項目をさらに業種別にすると洗浄・滅菌業務担当者の報告が増加していることがわかります(表1、図3)。中材や手術業務では、日常的に鋭利な器械を扱うことや、洗浄等の汚染された器材を扱う業務であることから、針刺しによる血液・体液曝露のリスクが高いといえます。なお、今回は針刺し・切創のデータを紹介しましたが、JESでは、皮膚・粘膜曝露(エピネットBおよびBOR)データも収集しており、皮膚や目などの粘膜への曝露状況の情報を公開しています。

図1 針刺し・切創の部門別発生割合(2016年4月〜2021年3月 n=12,143)

職業感染制御研究会JES公開情報1)の2016〜2020を基に筆者作成

図2 針刺し・切創の職種別発生割合(2016年4月〜2021年3月 n=12,533)

職業感染制御研究会JES公開情報1)の2016〜2020を基に筆者作成

表1 清掃・洗濯・廃棄等の医療関連サービス(委託業者含)の針刺し・切創の内訳

職業感染制御研究会JES公開情報1)の2016〜2020を基に筆者作成
なお、清掃・洗濯・廃棄等の医療関連サービスの内訳の公開は2018年度以降である

図3 清掃・洗濯・廃棄等の医療関連サービスでの針刺し・切創状況(2018年度〜2020年度 n=71)

職業感染制御研究会JES公開情報1)の2018〜2020を基に筆者作成

3. 中材、手術業務における感染対策とPPE

職業感染を防ぐため、医療従事者は適切な予防策を実施し、雇用主は予防策の教育を行うとともに予防設備・器材を提供する必要があります。では、どのような対策を実施すればよいでしょうか?
感染対策の基本は標準予防策です。標準予防策とは、感染症の有無に関わらず、すべての患者のケアに際して普遍的に適用する予防策です。患者の血液、体液(唾液、胸水、腹水、心嚢液、脳脊髄液等すべての体液)、汗を除く分泌物、排泄物、あるいは傷のある皮膚や粘膜を感染の可能性のある物質とみなし対応することで、患者と医療従事者双方における病院感染の危険性を減少させる予防策です2)。中材では、病院内のあらゆる場所で使用した器材を取り扱うこととなり、すべての患者が感染症の有無について検査しているわけではないため、標準予防策に準じて対応することが重要です。手術室では事前に肝炎等の検査が実施されていても、検査で未検出の時期の可能性もあります。検査結果を過信せず、標準予防策に準じて対応します。標準予防策の項目は図4に示す10項目がありますが、今回は標準予防策として用いるPPEについて具体的に解説します。

図4 標準予防策の項目

1)PPEの種類

医療現場で使用されるPPEとしては、手袋、エプロン/ガウン、サージカルマスク、微粒子用マスク(N95マスク)、ゴーグル、アイシールドなどの目の防護具、フェイスシールドがあり、さらに手術室や中材ではキャップが挙げられます。表2にPPEの種類と目的、手術室・中材業務時における交換・脱衣のタイミングを示しました。それぞれのPPEをどのような目的で使用するのか、いつ交換するのか(取り外すのか)も理解しておくことが重要です。
エプロンとガウンのどちらを選ぶかについては、標準予防策において日常の患者ケアではエプロンで対応が可能ですが、手術室や中材の洗浄業務などで広範囲に汚染が飛び散る可能性がある場合はガウンを使用します。また、接触予防策が必要な場面でもガウンを使用します。
COVID-19の世界的な流行で2020年春にはマスクが不足し、規格が不明瞭なマスクが流通するなどの問題が生じました。国内においてはこれまで明確な規格が定まっていませんでしたが、2021年6月にサージカルマスクと微粒子用マスクの2種類について、日本工業規格(JIS)で基準が制定されました(表3)。日常的に多く使用されるサージカルマスクも医療用と一般用について基準が設けられました。なお、サージカルマスクには表裏があります。サージカルマスクの多くは3層構造で、細菌やウイルスを含んだ飛沫等を捕集する役割は主に中間の層が担っており、外側は水分を弾きやすい構造、内側は肌に触れるため肌触りの良い素材を使用する製品が多くなっています。そのためサージカルマスクは表と裏が逆にならないように注意して装着します。なお、マスクの表裏についてはメーカーの推奨に従いましょう。
中材や手術室では、病棟等で使用するイヤーループタイプ(耳掛け式)と手術時用(ひもタイプ)の2種類のサージカルマスクが採用されていることと思います。どちらのマスクも使用後は表面(外側)が汚染されているため、表面に触れないように外し、外した後は手指衛生を行います。それぞれの着脱方法について、図5と図6に示しました。微粒子用マスクは空気予防策として使用されますが、隙間なく着用するためにサイズの選定とトレーニングが必要です。微粒子用マスクのサイズやフィット性を確認するためには、定期的なフィットテストを行います。なお、フィットテストには、定性的(甘味や苦みによる感度をはかるテスト)と定量的(機器により測定する)があり、どちらも専用の機器が必要です。また、着用時は毎回、ユーザーシールチェックを行います4)

表2 PPEの種類と目的と交換のタイミング種類目的手術室

表3 マスクの種類

図5 サージカルマスク(イヤーループタイプ)の着脱方法 3)

図6 手術時用サージカルマスクの着脱方法 3)

2)PPE使用の原則

どのPPEも性能を損なわないために、使用する直前に装着します。また、汚染物を触る際に着用したPPEのまま交換せずに洗浄後の器材や包装材に触れると汚染を拡げることになります。使用後はすみやかに外しましょう。PPEを外したあとには手指衛生を行います。
手袋は手指衛生の代用にはなりません。また、手袋は万能ではありません。なぜなら、手袋にはピンホール(針穴)の可能性があるからです。JIS規格でのピンホール試験では、許容できる不良品率であるAQL(合格品質水準)において、非滅菌の検査・検診手袋では2.5であり(表4)、2~3%は肉眼で確認できないほどの穴が空いている可能性があります。米国の基準であるASTM InternationalのASTMD5151(ピンホール試験)も2.5であり、同じ数値となっています。手袋は、血液や体液、粘膜、傷のある皮膚などに触れるとき、汚染している、あるいは汚染が予測される使用後器具や環境表面に触れるときに着用するため、使用後は表面に汚染が付着しています。汚染した手袋を外す際にも手に汚染が付着する場合もあります。このため、手袋を外した後には手指衛生を行います。

表4 JIS規格におけるAQLおよび検査水準5)

3)手術室、中材におけるPPEの使用場面と組み合わせ

医療器材の洗浄・消毒時には、汚染物の飛散や器材による創傷の危険性があるため、手袋、ガウン、サージカルマスク、目の防護具、キャップを着用します(図7)。
洗浄業務以外の業務、洗浄後の滅菌準備、包装、滅菌、保管等の業務でのPPEについて表5に示します。米国の感染管理疫学専門家協会(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology, Inc:APIC)が公開している周手術期のガイド6)に掲載されているPPEを参考にしていますが、洗浄業務以外の業務では、キャップのみの使用となっています。一番危険である洗浄業務(表5では汚染除去と記載)で使用するPPEに関しては、防水性、頑丈であること(手袋)、耐水性(ガウン、マスク)などの条件も記載されており、参考にできると思います。

図7 中材での器材洗浄時におけるPPE

表5 中材業務でのPPEの例

4)PPEの適切な使用にあたってのステップ

PPEの適切な使用を進めるためには、①選択、②適正な使用、③保守・管理、④教育・訓練のステップが重要です。

①選択:危険要因や有害因子が何かを把握し、その程度についてリスク評価を行います。危険物質からの曝露量と機会を減らすためにどのようなPPEを選択するべきかを検討します。PPEの選択にあたっては、種類と性能についても検討します。価格重視ではなく、信頼できる機関で検査(検定)されたものか、材質に問題はないかについても確認します。
また、寸法・サイズが作業者に合うよう整合性(フィットネス)も検討します。作業者は皆同じサイズではないため、それぞれにフィットするサイズのPPEを整備します。

②適正な使用:職場のPPEのガイドラインやマニュアルにしたがって適正に使用します。適正な使用がされているかについて、職場内でも定期的に確認しましょう。

③保守・管理:PPEは使用に伴い、損傷し磨耗などを伴います。備蓄している場合には、経年変化による劣化など使用期限に限度があるため、適切な保守管理が必要です。湿気による劣化等もあるため、保管場所を含め、管理方法の手順を定め、性能が保持できているか定期的に確認します。使用期限が短い物品を手前に設置し、期限の長い物品を後ろに設置する(先入れ先出し方式)など工夫します。

④教育・訓練:PPE使用の意義、正しい選択、使用(着脱を含む)、保守管理について職員への教育を行います。また、着脱場所には着脱方法の手順を示したポスター等の掲示も有効です。PPEの使用によって行動の自由を束縛されたり、労働の負担(負荷)を強いられたりすることもあります。管理者はPPEを着用してから脱衣するまでの時間を確認する、作業のために長時間PPEを着用し続けている職員がいる場合には、一旦PPEを脱ぎ、休息をとらせることも検討します。PPEを着用したことによる皮膚トラブル(アレルギー症状など)、長時間着用し続けたことによる体調不良が発生した際はすみやかに責任者に連絡することなどについても職員へ教育します。

4. 健康管理

COVID-19の流行で、体調不良時には勤務を見合わせる、業務中に体調不良となった際にはすぐに報告するなど、健康管理が実施されるようになっており、これらの管理体制については継続して実施することが望ましいといえます。医療従事者が健康障害被害を生じる有害要因について表6に挙げました。外来や病棟に勤務する職員であれば、生物的要因がメインとなりますが、中材業務では、生物的要因に加え、エチレンオキサイドやグルタルアルデヒドなどの化学滅菌剤を取り扱うことから、化学的要因も含まれます。このため、取り扱う際には化学薬品使用時の防護具の着用や記録を残すこと、職場で義務付けられている健康診断を受診することも重要です。

表6 医療従事者の健康障害を生じる有害要因

5. おわりに

中材や手術業務に従事される職員の血液・体液曝露リスクやPPE、健康管理について解説しました。標準予防策を遵守することは自分自身だけでなく、患者や同僚などすべての人々を感染から守ることができます。今回は標準予防策の項目のなかで主にPPEを取り上げましたが、実際の業務においては、手指衛生、環境の管理やケアに使用した器材の取り扱い等についても注意が必要です。また、中材や手術室特有の感染対策としては、清潔な環境管理や滅菌プロセスの遵守なども挙げられます。インターネットやSNSなどの普及で様々なガイドラインやエビデンスが瞬時に検索・閲覧できる時代になりました。その一方で情報量の多さや誤った情報を取り込んでしまうという危険性もあります。正しい情報を的確にとらえ日々の業務に役立てていきましょう。

引用・参考文献

1)一般社団法人 職業感染制御研究会. エピネット日本版サーベイランス公開データ(2016-2020).http://jrgoicp.umin.ac.jp/index_jes_reports.html(参照2023-06-5)
2)Siegel JD, et al. Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee 2007 Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in HealthcareSettings, June 2007 https://www.cdc.gov/niosh/docket/archive/pdfs/niosh-219/0219-010107-siegel.pdf
3)一般社団法人 職業感染制御研究会. 感染予防のための個人用防護具(PPE)の基礎知識とカタログ集2022年版.http://jrgoicp.umin.ac.jp/(参照2023-06-5)
4)満田年宏監修. 医療従事者のためのN95マスク適正使用ガイド、2020年10月.http://jrgoicp.umin.ac.jp/rtip/HPM_528_D_N95_users_guide.pdf(参照2023-06-5)
5)日本グローブ工業会ホームページ.https://www.nihonglove.com/medicalTreatment.html(参照2023-06-5)
6)Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology, Inc.:APIC. APIC’s Implementation Guide:Infection Preventionist’s Guide to the OR_2015. (Accessed June5, 2023.)

sup15-2-feature.pdf