Supplysm 2023 vol.15 no.1
手術室の感染対策
コロナ禍における手術室の感染対策~これまでとこれから~
- 西嶋 和弘
- 社会福祉法人恩賜財団済生会支部 山口県済生会下関総合病院 副看護師長 手術看護認定看護師
※本記事は、「Supplysm 2023 vol.15 no.1」(2023年2月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
当院の概要
当院は、山口県下関市の郊外に位置し、地域の急性期医療を担う公的総合病院であり、がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、小児救急拠点病院、地域周産期母子医療センター、災害拠点病院としての役割を担っています。また、山口県内のドクターヘリ受け入れ病院として、救急医療にも積極的に取り組んでいます。
病床数373床、手術室は7室(内、バイオクリーンルーム1室、ハイブリッド手術室1室)、麻酔科医師7名、スタッフ29名、年間手術件数は3,597件(2021年度)です。
はじめに
2019年12月に中国武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症は、現在も変異しながら全世界で感染拡大を繰り返しており、医療機関では新型コロナウイルス感染症への対応が続いているのが現状です。新型コロナワクチン接種により医療従事者の罹患も一時的に減少しましたが、ブレイクスルー感染も見られ、多くの医療従事者の新型コロナウイルス感染症の罹患も散見されます。ワクチン接種後に対しては行動制限の緩和も見られる中、医療従事者に対してはワクチン接種後でも、医療を継続する上では、接種前と同様にある程度の行動制限や新型コロナウイルス感染症対策の継続が必要とされています。医療従事者が新型コロナウイルス感染症に感染する類型としては、「①新型コロナウイルス感染症と診断または、疑われている患者を診察して感染」「②新型コロナウイルス感染症と診断または、疑われていない患者からの感染」 「③市中や医療従事者間での感染」1)の3つに分類されます。そのため、手術室で勤務する看護師として、手術患者の安全確保と自分自身の安全確保のため、継続した新型コロナウイルス感染症対策が必要となります。当院の新型コロナウイルス感染症対策について報告します。
標準予防策と個人防護具(PPE)の徹底
感染対策を行う上で最も重要なのは、標準予防策(スタンダードプリコーション)の徹底です。標準予防策は、患者と医療従事者を守るための感染予防策です。手術室は、侵襲的処置が日常的に行われており、血液・体液曝露のリスクも高いため、標準予防策の実践は重要です2)。新型コロナウイルス感染症に限らず、全ての患者に対し自己防御を行う必要があります。そのため、朝のミーティング時に、個人防護具(PPE)(写真1)の着脱の周知徹底を行っています。
手指衛生の徹底
手指衛生は、医療関連感染を予防するためにも行う対策であり、全ての感染対策の基本中の基本です。手指衛生を適切に行うことで、手指を介した交差感染から手術を受ける患者、医療従事者を守ることにつながります。また、アルコール手指消毒薬は、新型コロナウイルス感染症の原因病原体にも有効であるため、WHO手指衛生5つのタイミング(図1)で手指衛生を行っています。
WHO手指衛生5つのタイミングとは、①患者に触れる前②清潔操作・無菌操作の前③体液曝露リスクの後④患者に触れた後⑤患者環境に触れた後となります。手術室看護師として、全ての場面に関わることとなります。そのため、ミーティング時にWHO手指衛生5つのタイミングの復唱を行い、手指衛生に対する意識を高めています。各スタッフが擦式アルコール手指消毒薬を身に付け、毎終業後に手指消毒薬の使用量を測定し、記録しています(写真2)。
環境整備の徹底
手術で患者に直接触れた医療器材(生体モニター、体温計など)や患者に接触後使用する電子カルテ端末のキーボードやマウス、無影灯などは、各手術終了後には除菌クロスを用いて環境整備の徹底を行っています(写真3)。
スタッフの健康チェック
スタッフは、毎朝自宅で体温測定を行い、発熱や呼吸状態などの自覚症状有無を健康チェック票(写真4)に記載します。発熱時や自覚症状がある場合には、症状がいつから出現したのかを電話連絡し、医療機関を受診するようにしています。無理に勤務することで、新型コロナウイルスを他のスタッフや手術を受ける患者へ感染させ、さらにクラスターを起こす可能性があるため、感染を広げないためにも抗原検査で陰性と証明され、さらに自覚症状がなくなるまでは自宅待機としています。
スタッフの休憩
手術室において感染率が高いのは、唯一マスクを外す行為がある食事時間であり、休憩室は密になるため、院内で定められた講堂や会議室を使用し、黙食を行っています。休憩に入る時間は、リーダーが人数制限を行っています。スタッフ一人ひとりが院内感染対策を徹底し、3密を避け、集団で食事をすることは感染のリスクがあることを認識することが重要となります。
手術を受ける患者の健康チェック
当院における通常の待機手術については、入院前日の2週間(14日)の体温測定と自覚症状の有無を健康シートに記入し外来看護師に提出するようにしています。その間、発熱がある場合にはPCR検査または抗原検査を行っています。新型コロナウイルス感染症患者の待機手術では、検査結果が陰性になるまでは手術を延期にしています。
当院は、地域の急性期医療を担う役割を持っているため、発熱患者が受診した結果、緊急手術となる場合もあり、その場合には状況に応じPCR検査、抗原検査を実施しています。新型コロナウイルス感染症を見逃すことで、病棟看護師、手術室スタッフの感染のリスクが高まり、さらに他の入院患者への感染を広げることでクラスターを引き起こす可能性があるためスクリーニングが必要となります。
新型コロナウイルス感染症患者対応マニュアル作成
日本手術看護学会の手術室での新型コロナウイルス感染症対策を参考に、感染管理チーム(ICT)と相談しマニュアルを作成、麻酔科医師とカンファレンスを行いました。
当院は地域周産期母子医療センターの役割を担っており、緊急帝王切開術を行う可能性があるため、麻酔科医師、産婦人科医師、小児科医師、手術室スタッフ、産婦人科病棟看護師の合同シミュレーションを行いました。シミュレーション後、各部門からの意見を交えてマニュアルの修正を行いました。
ハイブリッド手術室における感染対策
当院の手術室は、構造上全ての部屋が陽圧の設定になっています。新型コロナウイルス感染症患者や感染疑いの患者が手術を受ける際には、別のフロアーに増設されたハイブリッド手術室を使用しています。そのため、不潔区域をレッドゾーン、準不潔区域をイエローゾーン、清潔区域をグリーンゾーンとするゾーニングを行いました(写真5)。個人防護具(PPE)で使用する、インナー手袋、ガウン、シューカバー、N95マスク、フェイスシールド、アウター手袋を手術室前室のグリーンゾーンのワゴンの上に準備をしています。外回り看護師・麻酔科医師と執刀医師・器械出し看護師の個人防護具着衣手順はグリーンゾーンの壁に写真を掲示し、実際に行う時には全スタッフが分かるようにしています(写真6)。個人防護具脱衣手順は、レッドゾーンで業務を行ったスタッフが分かるように、イエローゾーンの出入り扉に写真を掲示しています(写真7)。
実際に新型コロナウイルス感染症患者の緊急帝王切開を行った際には、手術が決定してから手術室内の壁やモニター類、麻酔器などをビニールで覆う作業に時間を要しました。日勤帯では、大勢のスタッフがいるため手分けしながら養生することで、短時間で準備ができます。しかし、夜間帯では待機スタッフ3人で手術の準備をすることになり、時間がかかるため、もう1人のスタッフを追加で呼び出す必要があります。そのため、ハイブリッド手術室を使用していない時でも、いつでも新型コロナウイルス感染症患者の手術ができるように、手術室内の壁やモニター類、麻酔器などをビニールで覆い緊急時でも対応できるようにしています(写真8)。
業者への対応
当院では、手術室と中央材料室が隣接しているため多くの業者が出入りをします。新型コロナワクチン接種前は、抗原検査の陰性証明書の提示と、体温表に体温を記入してもらい平熱であることを確認したうえで手術室への入室許可をしていました。ワクチン接種後は、体温の確認と記入のみで入室を許可していますが、自覚症状がある場合や濃厚接触者となった場合には、入室を断っています。業者の方が、新型コロナウイルスへの感染や濃厚接触者となった場合には、当院の感染管理者に報告しています。当院の規定により、新型コロナウイルス感染後は7日間、濃厚接触者となった場合には無症状であっても5日間の期間を空けて入室の許可を行っています。
手術を受ける患者家族への対応
以前は、病棟より患者と家族に一緒に手術室まで来てもらい、家族は手術室の家族控室で待機をしていました。しかし、新型コロナウイルス感染症が拡大する中、入院患者には面会制限があります。また、多くの家族が同じ控室を使用するため密となってしまう恐れがあります。現在は、患者が手術室に入室する前に、少しの間ですが言葉を交わす時間をとり、患者・家族の不安の軽減を図っています。また、家族は病院入り口で、体温測定を行い発熱がない事を確認の上、手術室前の廊下で待機するようにしています。家族が新型コロナウイルス感染症に罹患、もしくは濃厚接触となった場合は来院できません。
当院では、手術開始時と手術終了間際、予定時間が過ぎた時には術中訪問を行い、手術を受ける患者家族へ情報提供をすることで心理的援助を行っています。
スタッフへの周知
院内で定期的に行われている、新型コロナウイルス感染対策会議での決定事項は、翌朝のミーティング時に手術室スタッフへ伝達を行っています。
自己研鑽を作る場の拡大
新型コロナウイルス感染症が拡大する中、学会やセミナーはハイブリッド式が中心となってきています。学会等に現地で参加する場合、スタッフの人数によっては、業務に支障を起こす可能性がありますが、ハイブリッド式で開催されることで、WEBでも参加ができます。そのことにより、手術看護師の自己研鑽の場が拡大している気がします。さらに、WEBで参加したスタッフが得た情報を共有することができ、スタッフのスキルアップにも繋がると思います。
おわりに
新型コロナウイルス感染症は、ウイルス株が変異し続けており現在第8波(12月17日現在)の最中です。感染状況が落ち着いても、ウイルス株は変異し続けるため、Withコロナと考え今後も感染対策の徹底を継続することが大切だと思います。
引用・参考文献
1)手術室での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策ガイド 第4版, 日本手術看護学会, https://www.jona.gr.jp/medical/pdf/COVID-19_4_20211129.pdf.(2022.12.8閲覧)
2)日本手術看護学会監修:手術看護業務基準 第1版第1刷発行, 日本手術看護会, 2017. p12.
3)手術看護エキスパート:第15巻第2号, 日総研, 2021年7月10日発行.

