健康すまいる

健康すまいる 2026 vol.41最新号

施設で気になる感染症のはなし

誤嚥性肺炎

※本記事は、「健康すまいる vol.41」(2026年9月発行)に掲載した内容です。記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

2024年の人口動態統計(確定数)によると、誤嚥性肺炎の死亡者数は年間6万人を超え、日本人の死因の第6位となっています1)。誤嚥性肺炎による死亡者の約99%は、65歳以上の高齢者であることが分かっており、誤嚥性肺炎は高齢者にとって身近な疾患です。本記事では、誤嚥性肺炎のメカニズムや予防のポイントについて解説します。

嚥下とは?

嚥下とは、食物・液体・唾液(以下、口腔内容物と記載)を「ごっくん」と飲み込み、食道から胃へ送り込む一連の流れを指します2)。口、鼻、喉の構造は図1の通りです。私たちが食物を摂取する際、食物を咀嚼して唾液と混ぜ合わせ、飲み込みやすい形(食塊)にします。食塊が形成され、喉に到達すると、嚥下反射が起こります。嚥下反射が起こると、軟口蓋と呼ばれる口の天井の軟らかい部分が上がり、食物の鼻への流入を防ぎます。その後、喉仏である喉頭が顎の方に持ち上がり、喉頭蓋が倒れ込むことで気管の入り口を覆います。それと同時に普段は閉じている食道入口部が開き、食物が嚥下されます。これらの一連の動作が生じることで、気管に食物が流入することなく、食道に送られます。

図1:嚥下のメカニズム

誤嚥とは?

誤嚥とは、本来食道に入っていくべき口腔内容物が誤って気管に入ってしまうことを指します3)。誤嚥は顕性誤嚥と不顕性誤嚥に分類されます4)。顕性誤嚥は明らかにむせる誤嚥のことで、これは気管に入った口腔内容物を体の外に吐き出そうとして咳をする反射(咳反射)により起こります。一方で不顕性誤嚥は、咳反射が低下することで生じるむせない誤嚥のことです。睡眠中など無意識のうちに唾液が気管に流れ込んで誤嚥することも不顕性誤嚥に含まれます。誤嚥性肺炎の多くは後者の不顕性誤嚥によって生じるといわれています。

誤嚥性肺炎とは?

誤嚥性肺炎とは、誤嚥により口腔内細菌を含む口腔内容物が気管・肺に流入することで引き起こされる肺炎を指します(図2)5)。また、逆流した胃の内容物や嘔吐した際の嘔吐物を誤嚥して発症する場合もあります3)。誤嚥性肺炎は、嚥下機能の低下や脳血管疾患の罹患、寝たきり、認知症、低栄養などの状態で多く発生するといわれています4,5)。これらの状態は、加齢によって引き起こされることが多いため、誤嚥性肺炎は高齢者に多くみられます。
通常、肺炎では発熱や咳、粘り気のある痰などの症状がみられることが多いですが、誤嚥性肺炎ではこれらの典型的な症状がなく、なんとなく元気がない、食欲がない、意識がぼんやりするといった症状のみの場合があるのが特徴です5)。誤嚥性肺炎の治療は、抗菌薬投与が基本です。呼吸状態や全身状態が不良な場合は入院して治療を行います。誤嚥性肺炎は、治療後も発症を繰り返す可能性が高いとされています4)。そのため、治療後であっても誤嚥性肺炎を予防するためのケアを継続して行うことが重要です。

図2:誤嚥性肺炎発症のメカニズム

誤嚥性肺炎の原因菌は?

誤嚥性肺炎は、口腔内に存在する菌が原因となって引き起こされると考えられています。最近の研究によると、日本における誤嚥性肺炎の原因菌として最も多く検出された細菌は、肺炎球菌であることが分かっています(11.7%)6)。肺炎球菌は、鼻や喉に常在する細菌であり、高齢者の約5~10%が保菌しているといわれています7)。肺炎球菌の他にも、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌が原因菌として多く検出されることが示されています6)。

予防のポイント

誤嚥性肺炎を防止するためには、「誤嚥リスク」および「感染リスク」の両方を減らすことが重要です。「誤嚥リスク」を減らすためには、食形態や摂食時の姿勢などに気を付ける、「感染リスク」を減らすためには、口腔ケアを実施することなどが予防のポイントとして挙げられます。

食形態

嚥下しやすい飲食物にはいくつか特徴があり、まとまりが良くバラバラになりにくいもの、やわらかいもの、べたつかず喉の粘膜にくっつかないもの、大きさや形、軟らかさが均一であるものが挙げられます3,8)。嚥下しやすい飲食物の具体例として、ゼリーや刺身をたたいたもの、ヨーグルト、絹ごし豆腐、プリンなどがあります。一方、嚥下しにくい飲食物の特徴としては、水分(サラサラした液体)、パサパサしてまとまりがないもの、喉に張り付きやすいもの、大きさや形、軟らかさが均一でないものが挙げられます。水分は喉に流れ込む速度が速いため、嚥下反射が追い付かず誤嚥が起こりやすいとされています2)。嚥下しにくい飲食物の具体例として、水やせんべい、パン、生野菜、もち、ウエハース、海苔、具入りの味噌汁などがあります。ただし、嚥下しにくい飲食物であっても、とろみ剤などを用いてとろみをつける、餡をかけるなどの調理方法の工夫や交互嚥下(食物と水分を交互に摂取してもらうことで口腔内の残渣物を除去し、誤嚥を防ぐ方法)を行うことで食べやすくなります3)。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021』9)などを参考にしながら、個人の嚥下機能に合わせた食形態やとろみの程度を選択する必要があります。

摂食時の姿勢 

誤嚥しにくい姿勢で食べることで、誤嚥の防止につながります。座って食事が摂れる方は、椅子に深く腰掛け、足底全体をしっかり床につけるようにします(図3)8)。テーブルの高さは肘が自然につく高さにし、体とテーブルとの距離はこぶし1つ分ほどあけます。
ベッド上で食事を摂る方は上体を30度(自力摂取の場合は45~60度)起こした状態で、首は軽くうなずくような姿勢(図4)をとるのが良いといわれています。

図3:摂食時の姿勢(座位)

また、食事介助を行う際は、介助者の姿勢にも注意が必要です。介助者が立ったまま食事介助をすると、喫食者が介助者を見ようとして顎が上がってしまうため、誤嚥のリスクが高まります。そのため、介助者は座って介助します。さらに、食後の姿勢にも注意が必要です。食後すぐに横になるのは避け、30分から1時間程度は、座位もしくは45度以上リクライニングした姿勢を保つようにすることで、胃からの逆流や嘔吐による誤嚥のリスクを低減させることができます10)。

図4:摂食時の姿勢(リクライニング位)

口腔ケア

口腔ケアを実施することで口腔内の細菌数を減らし、誤嚥性肺炎を予防できるといわれています。日本の高齢者施設に入所している高齢者を対象とした研究では、口腔ケアを実施した群では、非実施の群と比較して、肺炎での入院者数および死亡者数が有意に減少したことが報告されています11)。 歯や義歯に付着する細菌の塊(バイオフィルム)は、うがいだけでは取り除くことができないため、歯ブラシや義歯ブラシを用いてこすり取る必要があります4)。また、歯だけでなく舌や口腔内の粘膜にも細菌が付着しているため、舌ブラシや粘膜ブラシ、スポンジブラシなどを用いて除去した後、うがいによって口腔外に吐き出すようにします。嚥下機能が低下し、うがいが困難な方の場合は、口腔ケアシートや吸引器などを用いて、口腔外に排出するようにします。口腔ケアを行っている最中は、顎が上っていないかなど、誤嚥しにくい姿勢か確認することも重要です。

誤嚥性肺炎では様々な治療やケアを行う必要があるため、介護士や看護師、ケアマネジャー、医師、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士など多職種で連携することが重要です。

参考文献

1)厚生労働省. 令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei24/index.html: 2026年6月26日現在)

2)日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. 嚥下障害 嚥下障害の症状と原因、そして対応と治療について. https://www.jibika.or.jp/owned/contents6.html: 2026年6月26日現在.

3)藤谷 順子. 摂食嚥下過程と誤嚥の関係. 日本調理科学会誌. 2018. 51(1). 1-6.

4)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社. 2024.

5)日本呼吸器学会. 誤嚥性肺炎. https://www.jrs.or.jp/file/disease_a12.pdf: 2026年6月26日現在.

6)Noguchi S, et al. Microbiological etiology of aspiration pneumonia in Japan: Insights from a systematic review and meta-analysis. Respir Investig. 2025 Jul;63(4):510-516. doi:10.1016/j.resinv.2025.04.010. Epub 2025 Apr 21. PMID: 40267524.

7)厚生労働省. 高齢者の肺炎球菌ワクチン.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/pneumococcus-senior/index.html: 2026年6月26日現在.

8)藤島 一郎監修. 青木 智恵子. Dr・歯科医師・Ns・ST・PT・OT・PHN・管理栄養士みんなで考えた高齢者の楽しい摂食・嚥下リハビリ&レク. 黎明書房. 2009.

9)栢下 淳, 他. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021. 日摂食嚥下リハ会誌. 2021. 25(2). 135‒149.

10)日本摂食嚥下リハビリテーション学会 医療検討委員会. 摂食嚥下障害の評価 2019. https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/assessment2019-announce.pdf:

2026年6月26日現在.

11)Yoneyama T, et al; Oral Care Working Group. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002 Mar;50(3):430-3. doi:10.1046/j.1532-5415.2002.50106.x. PMID: 11943036.

kenko41-infection_1.pdf