健康すまいる 2026 vol.40最新号
施設で気になる感染症のはなし
RSウイルス感染症
※本記事は、「健康すまいる vol.40」(2026年5月発行)に掲載した内容です。記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
RSウイルス感染症は乳幼児を中心に流行する感染症として知られていますが、高齢者や基礎疾患のある人が感染して重症化するケースも報告されており1-3)、特に長期療養施設内での集団発生が問題となっています1,4)。
本記事では、RSウイルス感染症の特徴や感染対策のポイントについて解説します。
RSウイルスとは?
RSウイルスは、エンベロープ(脂質の膜)を持つRNAウイルスです1,5,6)。感染した細胞同士が融合して1つの大きなかたまり(合胞体:Syncytium)を形成するという特徴があります5,6)。この特徴から、Respiratory SyncytialVirus:呼吸器合胞体ウイルス(RSウイル)という名称が付けられました2,5)。

RSウイルスはA型とB型の2種類に分類され、流行期には両方の型がみられますが、地域や季節などによってその比率はさまざまです。一般的にA型の方が重症化しやすいといわれています1,2)。
RSウイルス感染症の特徴
特徴
RSウイルス感染症は、RSウイルスによる急性の呼吸器感染症です7)。かつて日本では、11~1月頃の冬季に流行のピークがみられましたが、2016年以降は流行時期が早まり、さらに新型コロナウイルス流行後は夏季にピークを迎える年も報告されています6)。生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%の乳幼児が少なくとも一度は感染するとされています7)。乳幼児だけが感染すると思われがちですが、RSウイルスは感染後の免疫が長期間持続しにくく、年齢を問わず何度も再感染します1,7)。さらに、前回の感染から数週間以内という短い間隔で再感染が起こることもあります6-8)。
症状
RSウイルスに感染して2~8日後に発熱、鼻汁、咳などの軽い上気道症状(かぜ症状)が現れ、その後気管支炎、肺炎、呼吸困難、喘鳴(ゼーゼーと呼吸しにくくなること)などの下気道症状が出現する場合があります1,2,6,7)。特に乳幼児や高齢者では重症化しやすいため注意が必要です1)。
乳幼児
乳幼児の肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%はRSウイルスが原因であると推定されています1,2)。RSウイルスに初めて感染した乳幼児の約7割は軽症で数日のうちに軽快しますが、約3割は中等症~重症へ進行します。特に生後6ヶ月以内に初感染した場合は、重症化リスクが高いとされています1,6,7,9)。
一般的に、早産児や基礎疾患のある乳児は重症化しやすいとされていますが、日本ではRSウイルスにより毎年少なくとも数千人規模の乳児が入院しており、その多くは基礎疾患がないと報告されています6)。
また、生後数週間以内の乳児では、呼吸器症状を示さず無呼吸発作を起こし、突然死することがあります1,2,6)。
高齢者
高齢者の再感染における下気道症状では、6~30%に喘鳴を合併することが知られています2,7)。米国の研究によると、介護施設入居者は地域で暮らす同年代の高齢者と比較して感染リスクや重症化率が非常に高く、致死率は最大で23.1%(非入居者の約3~4倍)に達することが示されました3)。特に慢性心不全や糖尿病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの基礎疾患を持つ入居者は重症化リスクが高く、入院や死亡に至る危険性が高いと報告されています3)。
成人
成人は感染してもほとんどの場合は軽いかぜ症状を起こすのみです。しかし、RSウイルスに初感染した乳幼児はウイルス排出量が多く、それらの児の看護等の際に大量のウイルスに曝露された場合、気管支炎やインフルエンザ様症状をきたし重症化することがあるため注意が必要です1)。
感染経路
主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、ウイルスが付着した手指や物品などを介した接触感染です1,6-9)。乳幼児への感染は家庭内感染が主な感染経路と報告されています。例えば、RSウイルスに感染している兄弟の上の子や大人が軽い症状または無症状の場合、気づかないうちに乳幼児へ感染させてしまうことがあるため、注意が必要です1,2,6)。

治療
RSウイルスには抗ウイルス薬はなく、酸素投与、輸液、呼吸管理など、症状に応じた治療 (対症療法) を行います1,6,7)。
抗ウイルス薬がないため、感染予防が非常に重要です。
感染対策のポイント
施設内での感染は、主に飛沫感染や接触感染により広がります。そのため日常的な予防としては標準予防策を徹底し、感染者が発生した場合に感染経路別予防策(飛沫予防策、接触予防策)を追加します1,10)。また、RSウイルス流行期の保育所では、0歳児と1歳児以上のクラスを互いに接触しないように離して配置し、交流を制限します9)。特に、呼吸器症状がある年長児が乳児に接触することは避けましょう。
日常的な感染対策

手に目に見える汚れがない場合にはアルコール手指消毒剤で手指消毒、目に見える汚れがある場合は石けんと流水による手洗いを行います7,10)。また、WHOが推奨する患者・利用者ケア時に手指衛生が必要な5つのタイミング(図1)などを参考に、適切な場面で実施することが大切です10)。
感染者が発生した場合の対策(日常的な感染対策に追加して実施)
感染または感染が疑われる利用者は、可能な限り個室管理とし、難しい場合はコホート(同じ症状の利用者を同室に隔離)を行います10)。
PPE
RSウイルス感染症患者の居室に入室する際は、入室前に必要なPPE(手袋、マスク、ガウンまたはエプロンなど)を着用し、患者ケア後は居室を出る前に脱ぎます10)。
さらにRSウイルスは粘膜(鼻・眼)からの感染も報告されているため、必要に応じてフェイスシールドやゴーグルなど眼の防護具も着用しましょう1)。
環境整備
RSウイルスはプラスチックやガラス表面で6~12時間感染性を保持するとされています6)。RSウイルスはエンベロープウイルスであり、消毒薬に対する抵抗性は低いため、界面活性剤やアルコール、次亜塩素酸ナトリウムなどが有効です1,2,11)。RSウイルスで汚染されたと考えられる箇所(患者病室の高頻度接触表面など)は、これらの消毒薬でこまめに消毒しましょう7,10)。
ワクチン
RSウイルスの予防方法のひとつにワクチン接種があります4,12)。今回は、2024年に日本で承認された高齢者と妊婦向けのワクチン(ファイザー社アブリスボ)についてご紹介します6)。
60歳以上の高齢者
高齢者は特に重症化や死亡リスクが高いため、下気道症状の予防を目的として任意でワクチン接種を受けることができます13,14)。60歳以上を対象とした臨床試験では、ワクチン接種後1回目のRSウイルス流行期で、下気道症状に対する有効率は85.7%であり、接種後から2回目の流行期終了時までの有効率は81.5%という高い有効性が示されています4)。一方、2024年の調査では60歳以上の接種率はわずか4.2%と報告されています13)。
妊婦(母子免疫ワクチン)
妊娠中の母親に接種することで、母体で作られた抗体が胎盤を通じて胎児へ移行し(図2)6,12)、重症化しやすい新生児・乳児の発症予防に寄与します。日本では、2026年4月より定期接種に組み込まれ6,14)、妊娠24~36週の妊婦で接種が可能ですが、臨床試験では28週~36週での接種でより高い有効性が認められています6)。
図2.母子免疫ワクチンによる抗体移行のイメージ1,2)
参考文献
1)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト: RSウイルス感染症 (詳細版) :
https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/respiratory-syncytial-virus-infection/detail/index.html: 2026年3月25日現在.2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト: RSウイルスの臨床ウイルス学: 2014年6月:
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/4707-dj4121.html: 2026年3月25日現在.3)Osei-Yeboah R, Amankwah S, Begier E, Adedze M, Nyanzu F, Appiah P, et al.: Burden of Respiratory Syncytial Virus (RSV) Infection Among Adults in Nursing and Care Homes: A Systematic Review. Influenza Other Respir Viruses. 2024 Sep; 18(9): e70008.
4)一般社団法人日本感染症学会,一般社団法人日本呼吸器学会, 日本ワクチン学会: 成人のRSウイルスワクチンに関する見解. 2025年12月9日.
https://www.jsvac.jp/pdfs/20251209.pdf: 2026年3月25日現在.5)山形県衛生研究所: RSウイルスによる細胞変性効果: 2024年3月5日公開:
https://www.eiken.yamagata.yamagata.jp/biseibutsu/CPE/RSV_CPE.html: 2026年3月25日現在.6)国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所: RS ウイルス母子免疫ワクチンと抗体製剤ファクトシート: 2025年10月22日:
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001583668.pdf: 2026年3月25日現在.7)厚生労働省: RSウイルス感染症 (五類・定点):
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rsv.html: 2026年3月25日現在.8)Kaler J, Hussain A, Patel K, Hernandez T, Ray S.: Respiratory Syncytial Virus: A Comprehensive Review of Transmission, Pathophysiology, and Manifestation. Cureus. 2023 Mar 18;15(3): e36342.
9)こども家庭庁: 保育所における感染症対策ガイドライン (2018年改訂版): 2018年3月 (2023年5月一部改訂).
10)厚生労働省老健局: 介護現場における感染対策の手引き 第3版: 2023年9月.
11)大久保憲, 尾家重治, 金光敬二 編. 2025年版 消毒と滅菌のガイドライン. 第5版. へるす出版.
12)厚生労働省: 組換えRSウイルスワクチン アブリスボ筋注用 臨床試験成績等の概要: 第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会: 2024年9月4日: https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001312048.pdf: 2026年3月25日現在.
13)Noguchi S, Ishimaru T, Yatera K, Machida M, Furuse Y, Fujino Y, et al.: Factors associated with respiratory syncytial virus vaccination among Japanese adults aged 60 years and older: an internet-based cross-sectional study. Vaccine. 2026 Jan 25;71:128114.
14)厚生労働省: 令和7年度第4回予防接種に係る自治体向け説明会資料: 2026年1月30日:https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001646610.pdf: 2026年3月25日現在.


