健康すまいる 2026 vol.39最新号
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知っておきたい!IDA(失禁関連皮膚炎)
※本記事は、「健康すまいる vol.39(2026年1月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
失禁関連皮膚炎(Incontinence-Associated Dermatitis:IAD)は、失禁のある人にとって深刻な問題の1つです。疼痛や痒みなどによる苦痛は大きく、不快感や自尊心の低下などQOLに影響します。また、IADの治療には時間と費用を要するため、適切な予防と管理が重要です。
IADとは
IADは、尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することで生じる皮膚障害です1-3)。好発部位は、尿や便が付着しやすい肛門周囲や臀裂部、臀部、性器部、鼠径部、下腹部、恥骨部、大腿部です(図1)。主な皮疹は紅斑やびらん、潰瘍で、患部に不快感や疼痛、灼熱感、痒み、刺痛などの自覚症状をもたらします。
皮膚の構造と役割(図2)
皮膚は外側の表皮とその下の真皮からなる二層構造です4)。表皮は主に角化細胞で構成され、これらの細胞は成熟しながら上層に移行し、死んで角質細胞となり角層を形成します。角層では角質細胞間脂質が細胞のすき間を埋め、角層下では角化細胞同士が強固に結合しているため、過剰な水分の蒸散や異物(細菌や刺激物など)の侵入を阻害します。このように、表皮は「皮膚バリア機能」としての役割を担っています。
発生メカニズム(図3)
皮膚浸軟による皮膚バリア機能の破綻
便や尿(以下、排泄物)が長時間皮膚に接触すると、排泄物の水分により角質細胞が膨らみ、角質細胞間脂質が減少し、角化細胞の隙間が拡がります。さらに便中のリパーゼ(脂質分解酵素)により角質細胞間脂質が分解され、「皮膚浸軟(ふやけ)」が発生します1-4)。浸軟した皮膚は皮膚バリア機能が低下し、細菌や消化酵素などの異物が皮膚内部に侵入しやすくなります2-4)。また、摩擦に弱くなるため、衣類や失禁用パッドなどとの接触で表皮が損傷しやすくなります2, 3)。
消化酵素や細菌の侵入による皮膚内部の傷害
皮膚浸軟による皮膚バリア機能の低下により、便中の消化酵素や細菌が皮膚内部に侵入し、次のような傷害が起こります1, 4)。
① 消化酵素による組織内出血
便中のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が皮膚内部に侵入すると、細胞間の結合や細胞自体を破壊して、皮膚バリア機能のさらなる低下を招きます。また、毛細血管壁を分解するため、組織内で出血が生じ、皮膚表面の欠損を伴わない軽微な発赤が発生します。
② 細菌による真皮組織の傷害
皮膚浸軟およびプロテアーゼによる皮膚バリア機能の低下により、細菌が能動的に皮膚内部へ侵入・増殖し、凝集塊を形成して真皮を傷害します。その結果、わずかな力が加わるだけで、真皮が剥離しやすくなり、水疱やびらんが発生します。
補足POINT
排泄物の複合的影響
ウレアーゼ(尿素分解酵素)産生菌や便中の消化酵素によって、尿に含まれる尿素はアンモニアと二酸化炭素に分解されます1-3)。通常、皮膚のpHは弱酸性ですが、アルカリ性であるアンモニアの影響でpHが上昇して微生物が増殖しやすくなり、IAD発生リスクが高まります。また、pHの上昇は消化酵素の活性を促進するため、皮膚損傷リスクがさらに高くなります3)。加えて、液状便は消化酵素の含有量が多いため、固形便よりも皮膚損傷性が高いことが示されています2, 3)。
発生リスクとアセスメント
IAD発生リスクは皮膚に付着する排泄物の性状によって異なり、強い臭気を伴う尿では約5.5倍、軟便および水様便では約9.7倍、これらの要因がない場合と比較してIADを起こしやすいと報告されています5)。そのため、IADの予防・管理には、排泄物のアセスメントが重要です。
尿のアセスメント
尿のアセスメントでは「強い臭気(アンモニア臭)を伴う尿」の有無を確認します1, 2)。正常な尿は強い臭気を伴いませんが、ウレアーゼ産生菌に感染していると、この細菌によるアンモニア生成により特有の強い臭気を発します。よって、強い臭気を伴う尿が確認された場合は、IAD発生リスクが高いと判断します。
便のアセスメント
IAD発生リスクが高い「軟便および水様便」は、便の状態を客観的かつ統一的に評価するために、ブリストルスケールの使用が推奨されています(図4)1, 2)。ブリストルスケールは便の形状をタイプ1~7に分類しており、タイプ5および6が「軟便」、タイプ7が「水様便」に該当します。
予防・管理のためのスキンケア
IADの予防・管理の基本(標準的スキンケア)は、「清拭・洗浄」と「保湿」です1)。皮膚に付着する排泄物が有形便か正常な尿の場合は標準的スキンケアを実施します。なお、軟便か水様便、強い臭気を伴う尿の場合は標準的スキンケアに「保護(撥水)」を追加します。
清拭
清拭は排泄(失禁)ごとに行い、ウェットワイプまたは皮膚清拭剤で排泄物を拭き取ります。
皮膚への機械的刺激を抑えるため、タオルの使用は控え、強く擦らないようにします。
ウェットワイプで排泄物の除去が困難な場合は、皮膚清拭剤を使用します。
ウェットワイプや皮膚清拭剤は滑りがよく、皮膚への機械的刺激の軽減が期待できる、オイル等が含有された製品が望ましいです。
清拭のみで排泄物の除去が困難な場合は、微温湯で洗い流します。
洗浄
1日1回、皮膚洗浄剤を用いて排泄物や垢を洗い流します。
※1日に何度も洗浄すると、皮膚への刺激が増大するため、排尿・排便回数が多い場合も、皮膚洗浄剤の使用は1日1回とします。皮膚への刺激を抑えるため、皮膚のpHに近い弱酸性(pH5.5~7.0)の皮膚洗浄剤を使用します。
皮膚への機械的刺激を抑えるため、スポンジやナイロンタオルの使用は控え、強く擦らないよう泡を用いて手指で優しく洗います。
皮膚洗浄剤が残らないよう微温湯で十分に洗い流します。
洗浄後は擦らず押さえ拭きをします。
保湿
1日1回以上(洗浄により皮脂が洗い流されるため、洗浄後または入浴後に)、保湿剤を塗布します。
角質細胞間脂質を補強し、皮膚からの水分蒸散を抑えるエモリエント成分( ワセリン、ミネラルオイルなど)が主な保湿剤を使用します。
皮膚バリア機能の向上と修復作用があるセラミドや天然保湿因子を含む保湿剤が有効です。
浸軟がある皮膚に対しては、水分を与えるヒューメクタント成分(グリセリン、尿素など)を多く含む保湿剤の使用は控えます。
保湿剤は排泄物が付着しうる部位すべての範囲に使用します。
保護(撥水)
使用頻度とタイミングは、原則として製造元の指示に従いますが、撥水の程度を確認し判断します。
皮膚への排泄物付着を防ぐために、ワセリンやジメチコンなどを含有する撥水性皮膚保護剤を塗布します。
褥瘡などでドレッシング剤の固定が必要な場合は、皮膚保護剤の上から粘着製品は使用できないため、アクリル系共重合体などを含有する皮膚被膜剤を使用します。
皮膚保護剤は排泄物が付着する可能性のある部位すべての範囲に使用します。
参考文献
1)一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会 編. IADベストプラクティス. 株式会社 照林社. 2019. https://jwocm.org/wp-content/uploads/2021/01/IADベストプラクティス.pdf: 2025年12月1日現在.
2)一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会 編. スキンケアガイドブック. 株式会社 照林社. 2017.
3)国際IAD専門家委員会. ベストプラクティス原則 失禁関連皮膚炎:予防を促進する. Wounds International. https://woundsasia.com/wpcontent/uploads/2023/02/cf3e7076cc5d3f19e27226b925149e8e.pdf: 2025年12月1日現在.
4)峰松健夫, 他. 発赤を見たときにはもう遅い! IADで知っておきたい新しい「発生メカニズム」. エキスパートナース. 2017; 33(15): 65-73.
5)Ichikawa-Shigeta Y, et al. Risk assessment tool for incontinence-associated dermatitis in elderly patients combining tissue tolerance and perineal environment predictors: a prospective clinical study. Chronic Wound Care Management and Research. 2014; 1: 41-47.

