健康すまいる 2025 vol.38
キーマンコラム
正しく使おうPPE(personal protective equipment)「PPEの使用場面~場面ごとに使用するPPEの種類、注意点~」
- 黒須 一見
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS) 国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 第四室 主任研究員(併任)応用疫学研究センター 職業感染制御研究会 監事
※本記事は、「健康すまいる vol.38」(2025年9月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
これまでの2回でPPE(個人防護具)の基礎や選定について解説しました。第3回はPPEの使用場面について解説します。
PPEの使用場面
PPEの使用場面について表1にまとめました。標準予防策では、血液や体液、粘膜などの湿性生体物質に接触する可能性がある場合にPPEを使用します。ここでのPPEは手袋、サージカルマスク、ガウン/エプロン、フェイスシールド、目の保護具です。一方、感染経路別予防策では、標準予防策だけでは感染経路の遮断が不可能な場合、あるいは感染経路が明らかになっている感染症患者に対応する場合に経路を遮断する目的でPPEを使用します。感染経路別予防策でのPPEは、空気予防策ではN95レスピレータ(以下、N95)、飛沫予防策ではサージカルマスク、接触予防策では手袋、ガウン/エプロンが該当します。感染経路別予防策は単独で実施する場合もありますが、複数の感染経路を有する感染症(例:季節性インフルエンザなど)では、複数の感染経路別予防策を組み合わせて実施します1)。
PPEの着脱順序
各PPEの着脱順序2)を図1に示します。
着用時は最初に手指衛生を行い、ガウンやエプロンを着用、その後、N95やサージカルマスク、フェイスシールドや目の保護具、最後に手袋を着けます。着けるときは、清潔に取り扱うこと、性能を保持できるようにすることが重要です。
脱衣では一番汚染している手袋から外します。手袋を外す際に手が汚染される可能性があるため、手袋を外した後には手指衛生を行います。その後、フェイスシールドや目の保護具、ガウンやエプロンを外し、手指衛生をした後、N95やサージカルマスクを外します。PPEを外した後は目に見えない汚染がある可能性が高いため、最終的に手指衛生を行うようにしましょう。
「PPEを着用し、ベッドサイドでケアを実施しようと思ったら忘れものに気づいた」あるいは、「ケアの途中で物品が不足したもののベッドサイドや居室内にない」という状況に遭遇することもあるでしょう。その際、PPEはどうしていますか?ケアをする前であればPPEを着用したまま物品置き場へ行ってもよいでしょうか?
一度着用したPPEは、利用者のベッドサイドあるいは居室から離れる場合には外します。未使用なのにもったいないと思われるかもしれませんが、既に環境などから汚染を受けている可能性があります。未使用のPPEを無駄にしないためにも、ケアの前に物品の確認作業は確実に行いましょう。また、ケア時に物品の不足があった際には、ベッドサイドを離れず、応援を呼び、物品を届けてもらうことも一案です。
各介護場面でのPPE
介護の現場で行われる配膳、食事介助、口腔ケア、オムツ交換の4つの場面について、標準予防策で必要なPPEを考えてみましょう。
Q1.配膳で必要なPPEはどれでしょうか?
①手袋、②マスク、③PPEは不要
通常、配膳のみであれば③PPEは不要です。利用者に触れたり、テーブルセッティングで環境に触れたりした際には手指衛生を行います。ただし、利用者の病状に応じて必要なPPEを選択します。例えば利用者が咳をしており、相手がマスクを着用できないといった場面では、1m以内に近づく際にマスクを着用するなどPPEを追加します。
Q2.食事介助で必要なPPEはどれでしょうか?
①マスク、②手袋とマスク、③手袋とマスクとガウン/エプロン
対応する相手の状況にもよりますが、食事介助では、利用者がマスクをしない状況で1m以内の近距離に接近し、介助を行います。近距離で会話をしたり、食べこぼしを受けたりする可能性がある場合は、②の手袋とマスクを着用します。なお、見守りのみで直接の介助が不要で、咳やむせこみがない場合には、手袋やマスクは不要です。
Q3.口腔ケアで必要なPPEはどれでしょうか?
①マスク、②手袋とマスクとガウン/エプロン、③手袋とマスクと目の保護具とガウン/エプロン
口腔ケアでは、③の手袋とマスクと目の保護具とガウン/エプロンを使用します。歯磨きやうがいの際に細かい飛沫が飛散することから、目や鼻、口の粘膜、衣服の保護のためにこれらを使用します。
Q4.尿のオムツ交換で必要なPPEはどれでしょうか?
①手袋とマスク、②手袋とガウン/エプロン、③手袋とマスクと目の保護具とガウン/エプロン
尿のオムツ交換では、②の手袋とガウン/エプロンを使用します。尿のみの場合は陰部洗浄を行わないため、接触する手と衣服を守る、この2つのPPEを使用します。便の場合や陰部洗浄を伴うオムツ交換の場合は、飛沫による曝露リスクを考慮し、手袋とガウン/エプロンの他に、マスクと目の保護具を追加します。
普段、実施しているケアでのPPEはいかがだったでしょうか?過剰にしていなかったか、あるいは不足したPPEはなかったか、確認してみてください。
PPE適正使用のモニタリング
これまでPPEの使用目的、種類、使用場面など基本的な知識について理解されたと思いますが、現場で適正な使用ができているか評価することも重要です。職業感染制御研究会では、PPEを適切に着用することにより、効果的に感染症から医療従事者を守ることを目的に、個人防護具適正使用チェックリストを作成し公開しています3)(筆者も作成に関わりました)。病院だけでなく福祉施設でも活用できるよう、各PPE別、場面別のチェックリストとなっています。また、チェックリストを使用する際の手引きもありますので、すぐに活用できます。チェックを行い数値化してフィードバックすることで遵守状況の評価が可能です。皆様の施設でぜひご活用ください。
おわりに
「正しく使おうPPE」として3回にわたりPPEの基礎、選定、使用場面について解説しました。PPEは様々な種類があり、介護の場面でも広く使用されています。3回シリーズのまとめとしては、①感染対策の基本は標準予防策である、②状況に応じて、感染経路別予防策を追加する、③PPEは性能を保持できるように着用し、汚染を拡げないように脱衣することが挙げられます。PPEの規格や性能を理解して正しく選定し、使用場面に応じて適切にPPEを選択・着用することで感染対策が強化できることを期待しています。今回でPPEに関するシリーズは最終回となります。これまでご覧いただき、ありがとうございました。
引用・参考文献
1)CDC. Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings 2007.
https://www.cdc.gov/infection-control/media/pdfs/Guideline-Isolation-H.pdf
2)職業感染制御研究会. 感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識2022年版.
http://jrgoicp.umin.ac.jp/related/ppe_2022/【 テキスト単体版】感染予防のための個人防護具(PPE)の基礎知識.pdf
3)職業感染制御研究会. 【福祉施設用】個人防護具適正使用チェックリスト. 2025年6月30日現在.
http://jrgoicp.umin.ac.jp/index_ppewg_ppe_usage.html

