健康すまいる 2025 vol.36
施設で気になる感染症のはなし
バイオフィルム~ヌメヌメは微生物の城~
※本記事は、「健康すまいる vol.36」(2025年5月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
風呂場のヌメヌメ汚れ。歯ブラシで取れない歯垢。治りにくい褥瘡。一見、共通点が無さそうですが、これらには微生物の城ともいえる、‟バイオフィルム”が存在している可能性があります。今回は不思議なバイオフィルムの世界を覗いてみましょう!
バイオフィルムとは?
バイオフィルムは、微生物と、微生物が産生する物質(細胞外物質:EPS)により形成された構造体の総称です1-4)。地球上の9割以上の微生物が自然環境中にバイオフィルム状態で存在するともいわれており1)、水分の存在する場所ではバイオフィルムが発生しやすくなります5)。バイオフィルム内では、1つの種類だけでなく、多種類の微生物が共同生活を送っていることがあります6)。
バイオフィルムは、微生物の物質表面への付着、増殖、EPS 産生といった段階を経て徐々に成熟し、成熟の末、崩壊して一部の微生物が脱離します。脱離した微生物は新たな物質表面を探す旅に出て、また付着し、バイオフィルム形成のためせっせと働くのです1, 2, 5, 6)。この付着→成熟→脱離の循環は、バイオフィルムのライフサイクルと呼ばれます1)。
バイオフィルムの構造は、周囲の環境に応じて柔軟に変化し適応します1, 2, 5)。中には空洞があり、これを水路のように利用して、微生物は栄養などの物質循環を行うと考えられています1, 5, 6)。
バイオフィルムの厄介さ
バイオフィルムは福祉・医療現場にとっては厄介者です。例えばバイオフィルムが浴槽やシンクなどの環境表面に発生した場合、それらを利用した人に感染症を拡げる恐れがあります。褥瘡などの創傷に発生した場合、創傷が治りにくくなります4)。口腔内に発生した場合、虫歯や歯周病の原因になります3)。このようにバイオフィルムが様々な問題の原因となる理由は、微生物がバイオフィルムの中に生息することで周辺環境のストレスから身を守り、生存や増殖に適した条件を作るからです6)。バイオフィルムの中にいる微生物は、乾燥に強くなる、消毒薬や界面活性剤、抗菌薬などの薬剤が効きにくくなる、免疫細胞である食細胞が貪食できなくなる(炎症が長引く)といった性質を持つようになります。薬剤に対する抵抗性は、100 倍以上にまで上昇するともいわれています3)。バイオフィルムで守られた環境の中で、微生物は次々と増殖してしまうのです。
バイオフィルムは、「クオラムセンシング」と呼ばれる微生物間の情報伝達機構との関連性が指摘されています。クオラムセンシングは、微生物自身が発する物質(シグナル物質)により周囲の同種菌の密度を感知し、密度が一定のレベルに達すると一斉に特定の遺伝子を発現するというものです5, 6)。バイオフィルム内は微生物が密集しているので、シグナル物質が高濃度に蓄積し、クオラムセンシングが発生する可能性があります5, 6)。それにより、バイオフィルム形成が進行し2)、また病原菌の場合「今なら仲間が沢山いるから大丈夫!」と一斉に毒素を作り出してしまいます1)。
どうすればいいの?
バイオフィルムの除去には、物理的な洗浄と化学的な洗浄が行われています2)。例えば環境表面の場合、直接バイオフィルムに接触できる場合にはブラシ洗浄や高圧洗浄などの物理的な洗浄が行われますが、困難な場合には、高アルカリ性洗浄剤(水酸化ナトリウム水溶液)、次亜塩素酸水溶液などを用いた化学洗浄が行われます。これらの水溶液を浸透させるために界面活性剤と併用する場合もあります。ただし、バイオフィルムは非常に強固なため除去するのが困難で3, 6)、またバイオフィルムも多種多様で、独自の特性があるため処理方法が確立されていません2,5)。そのため、バイオフィルムが成熟する前の段階で微生物などを除去することが重要です。日頃から、適切な洗浄を実施して、清潔を維持することを意識しましょう!
参考文献
1)稲葉知大, 清川達則, 尾花望, 豊福雅典, 八幡穣, 野村暢彦. 集団微生物学のすすめ バイオフィルムとその解析技術. 化学と生物. 2014. 52(9). 594-601.
2)通阪栄一. バイオフィルムの評価と形成抑制・洗浄技術. 日本海水学会誌. 2022. 76(3). 163-169.
3)腸内細菌学会. 用語集 バイオフィルム. https://bifidus-fund.jp/keyword/kw083.shtml: 2025年4月7日現在.
4)創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン策定委員会. 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)-1 創傷一般(第3版). 日皮会誌. 2023. 133(11). 2519-2564.
5)古畑勝則. バイオフィルムを知る―レジオネラバイオフィルムの評価―. 環境バイオテクノロジー学会誌. 2022. 22(1). 23-32.
6)吉田眞一, 柳 雄介, 吉開泰信 編集. 戸田新細菌学 改訂34版. 南山堂. 2015.

