健康すまいる

健康すまいる 2024 vol.34

施設で気になる感染症のはなし

劇症型溶血性レンサ球菌感染症

※本記事は、「健康すまいる vol.34」(2024年9月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

人食いバクテリアと呼ばれることもある、レンサ球菌が原因の「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」。最近感染者が多いようなので、深堀りしてみましょう。
執筆:2024年8月23日

レンサ球菌とは?

レンサ球菌はその名の通り、鎖状に連なる(連鎖状)球菌です(グラム陽性)。細胞分裂時に分裂面が平行で、分裂により生じる細胞がしばらく分離しないことから連鎖状になります1, 2)。レンサ球菌属には約90菌種が属し、ランスフィールドという分類法でA~V群(I、Jは除く)に分類されます1)。このなかでSTSSの原因となるのは主にA群レンサ球菌です2)。A群レンサ球菌は、菌の侵入部位・組織によって様々な症状を引き起こします3)。代表的な症状は主に子供が罹る咽頭炎です1-3)

A群レンサ球菌の病原因子

A群レンサ球菌には多種多様な病原因子が存在しています3)。大きく分けると①菌の定着に関わる②蛋白質の分解に関わる③細胞膜に障害を与える(孔をあける)④DNAを分解する⑤免疫系を攪乱(免疫回避)する⑥宿主蛋白質と交差反応をするものがあります。これらの病原因子の協働によって様々な病態が現れると考えられていますが、未だ不明な点が多く3)、重症化するメカニズムも解明されていません4)。病原因子の具体例としては、白血球が炎症部位に向かうこと(白血球走化性)を抑制する物質や、沢山のT細胞を活性化し炎症やショックを引き起こす物質(スーパー抗原)等があります1)。なお、菌の定着等に関わる病原因子として、菌の表面にある「M蛋白質」があります1-3)。このM蛋白質の型によりA群レンサ球菌はさらに分類され、日本で多い株は「M1型」といわれています3)。M1型の中で、2010年代に英国で流行した株は「M1UK株」と呼ばれ、他のM1型株と比較して毒素の産生量が約9倍多く、感染力も強いとされています5)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)

急激、劇的に進む症状

STSSは、通常無菌の部位(血液、脳脊髄液等)に毒素産生株のレンサ球菌が感染することで発症します6)。急激かつ劇的な病状の進行が特徴で、初期症状は咽頭痛や四肢の痛み、発熱、消化管症状、血圧低下等ですが、発病後数十時間で軟部組織の壊死や、循環不全、呼吸不全等の多臓器不全が生じ、ショック状態に陥ります2, 4, 6)。死に至ることも多く、致死率は約30%とされています2)

発生動向

2024年のSTSS報告数は8月11日時点で1,304例です7)。これは、1999年に感染症発生動向調査が開始されて以降最も多い報告数です5)。STSSおよびA群レンサ球菌咽頭炎の報告は、世界的に新型コロナウイルス感染症対策が緩和された2022年以降多くの地域で増加が確認されており4)、2024年のA群レンサ球菌咽頭炎報告数も過去5年間の同時期と比較して高くなっています7)
2024年(6月19日まで)のSTSS患者から収集されたA群レンサ球菌のうちM1型が半数以上で、そのうち約88%がM1UK株という結果でした5)。2018~2023年のSTSS患者から収集されたA群レンサ球菌M1型のうちM1UK株は約23%で8)、M1UK株の検出割合が増加しています。ただし、STSSの増加と、A群レンサ球菌咽頭炎の増加およびM1UK株との関連は現時点では不明とされています5, 8)

STSSの感染経路と対策

2024年(6月16日まで)のA群レンサ球菌によるSTSSの報告によると、感染経路不明な症例が35%、その他推定感染経路は創傷感染44%、飛沫感染9%、接触感染4%等でした5)。STSSのリスク因子として高齢者やケガ等がありますが6)、健常者が突然発症する例もあり2)、誰でも発症する可能性があるので注意が必要です6)。2023年7月以降は30代以上で届け出数が増えています5)。発症した場合には致命的な転帰をたどる場合が多いため、感染しないための対策が重要です。日頃から手指衛生や個人防護具着用等の標準予防策を施設で徹底し、傷口は清潔にしましょう4, 5)。利用者やご家族への感染対策の啓発も重要です5, 8)。感染者に対しては接触、飛沫予防策を実施しますが6)、迅速な治療が必要になるため、怪しいと思ったら直ぐに医師に相談しましょう。

参考文献

1)中山浩次. レンサ球菌. 吉田眞一, 柳 雄介, 吉開泰信 編集. 戸田新細菌学 改訂34版. 南山堂. 2015. 245-56.
2)国立感染症研究所. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは. 2013年2月8日. https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/341-stss.html:2024年8月23日現在.
3)中川一路. 連鎖球菌の病原因子:古典的な因子からゲノム解析から見えてきたこと. 日本食品微生物学会雑誌. 2019. 36(2). 94‒9.
4)厚生労働省. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137555_00003.html:2024年8月23日現在.
5)国立感染症研究所. 国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について (2024年6月時点). https://www.niid.go.jp/niid/ja/tsls-m/2655-cepr/12718-stss-2024-06.html:2024年8月23日現在.
6)国立国際医療研究センター 国際感染症センター. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針. https://dcc-irs.ncgm.go.jp/document/manual/stss_20240621.pdf:2024年8月23日現在.
7)国立感染症研究所. IDWR 2024年第31‒32週(7月29日~8月11日).
8)国立感染症研究所. A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について. 2024年1月24日. https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html:2024年8月23日現在.

kenko34-infection.pdf