健康すまいる

健康すまいる 2024 vol.33

施設で気になる感染症のはなし

その下痢なんの下痢?クロストリディオイデス・ディフィシル

※本記事は、「健康すまいる vol.33」(2024年5月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

鉄壁の鎧を作り出す厄介者、クロストリディオイデス・ディフィシル。フシギなこの子の生体を覗いてみましょう。

プロフィール

クロストリディオイデス・ディフィシル(長いのでCDとします)は酸素嫌いの細菌(偏性嫌気性グラム陽性桿菌)で、生育に適した状況と不利な状況でモードチェンジする「芽胞形成菌」です1-4)
生育に不利な状況では、鉄壁の鎧である芽胞を作り(芽胞形成)、鎧をまとって休眠モードの芽胞型になります1, 2)。このモードでは増殖できない代わりに防御力が格段に上昇し、アルコールなど多くの消毒薬、酸素、熱、乾燥などへの耐性を持ち、数か月生存できます1-3)。生育に適した腸管などの環境に戻ると、鎧から出てきて(発芽)、増殖可能な活動モードの栄養型に戻ります1)
CDの中には毒(トキシン)を撒き散らす子がいて、この毒が感染症を引き起こします1, 2)。CDによる感染症(CDI)の症状は多彩で、下痢が主症状ですが、発熱や腹痛、まれに中毒性巨大結腸症や腸管穿孔、イレウスを伴うことがあり死亡例もあります1, 2, 4)。腸の粘膜に偽膜を形成する場合もあります(偽膜性腸炎)。※重症例では下痢を認めない例もあります。

CDの旅路

CDは、環境中や自然界、人・動物の腸管などに存在し、手などで運ばれて口から取り込まれます1, 2)。芽胞は胃酸にも耐えるので、胃を通過して腸管にたどり着きます1)。腸管に入っても、腸内細菌叢が安定していれば排除されるか、症状を出さずに定着します1)。しかし抗菌薬の使用や免疫状態の低下などで腸内細菌叢が不安定になっていると、増殖し、CDIを引き起こします1-3)。成人での定着率は<2~15%程度で、入院環境(約30%)、長期介護施設(約50%)では定着率が高いとの報告があります1, 2)。発症するかどうかは、様々な因子が絡んでいますが、高齢者や抗菌薬の使用は多くの研究で発症リスクとされています2)。なお、2歳未満では定着率が高いとされていますが、CDIの発症はほとんどみられていません1, 2)

感染対策

日頃の感染対策

発症リスクの高い高齢者は複数の医療機関や施設間を移動することが多く、CDIは地域で感染対策を考えるべき感染症です4)。一般的なCDの伝播は、CD感染者(症状がない人も含む)との接触や医療機関の利用が主な経路とされています2)。CDは感染しても症状のない人が多いため、知らぬ間に感染が広がることを防ぐためには、手指衛生や環境整備、個人防護具の着用などの標準予防策を日頃から徹底することが重要です4)。なお、症状がなければ、検査も治療も不要です1-4)
☆オムツ交換時の感染対策は前号をチェック!

CDI疑い患者や確定患者がいる場合

ブリストルスケール(便の性状の国際的な指標)で5以上の下痢症(24時間以内に3回以上or平常時よりも多い便回数)がみられ、感染性を否定できない場合は、CDIの検査と感染対策の実施が推奨されています1, 2)。感染対策のポイントは「CDが運ばれるのを阻止する」ことです。CDが運ばれるルート、すなわち感染経路は「接触感染」なので、CDI疑い患者や確定患者には接触予防策を追加します1-4)(表)。CDは糞便に多く含まれているので、下痢が続いている間は接触予防策を継続し、可能であれば下痢が治ってから少なくとも48時間は接触予防策を継続します1, 2)
芽胞は防御力が格段に上昇した状態で、アルコールもへっちゃらです。そのため、消毒や除菌には注意が必要です。患者接触後は、石けん手洗いで物理的に手からCDを洗い落とします1-3)(他の病原体の伝播防止のため、アルコール手指消毒剤の併用も検討します1))。患者の居室は高頻度接触表面を重点的に1日1回以上清掃・消毒し、患者が退室した後は、後から入室した人にCDをうつさないために、徹底的に清掃・消毒します1, 2)。消毒には0.1%以上の次亜塩素酸ナトリウムや紫外線照射装置などの殺芽胞効果が期待できる製品を使用します。なお、治ったかを確認するための検査は不要です2)

表 接触予防策の例

参考文献

1)日本環境感染学会 Clostridioides difficile感染対策ガイドライン策定委員会編.  Clostridioides difficile感染対策ガイド. 環境感染誌2022; 37(Suppl. II).
2)日本化学療法学会・日本感染症学会CDI診療ガイドライン作成委員会編. Clostridioides difficile感染症診療ガイドライン2022. 日化療会誌2023; 71(1):1-90, 感染症誌2023; 97(Suppl):S1-S96.
3)国公立大学附属病院感染対策協議会編. 病院感染対策ガイドライン2018年版. じほう. 東京. 2018.
4)国立感染症研究所. 日本のClostridioides difficile感染症. 2020年3月31日. https://www.niid.go.jp/niid/ja/tsls-m/tsls-iasrtpc/9501-481t.html:2024年3月1日現在.

kenko33-infection.pdf