健康すまいる 2024 vol.33
キーマンコラム
感染対策ラウンドで見つけた社会福祉施設のヒヤリ・ハット事例 その2~菌・ウイルスを広げやすい環境~
- 四宮 聡
- 箕面市立病院 感染制御部 副部長/感染管理認定看護師
※本記事は、「健康すまいる vol.33」(2024年5月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
筆者が実際のラウンドで見つけた社会福祉施設のヒヤリ・ハット事例を3回に分けて紹介します。前回は、施設で汎用される消毒薬の1つである次亜塩素酸ナトリウムを取り上げました。今回は、施設内の菌・ウイルスを広げやすい環境について紹介します。
手と感染症がうつる道の関係
読者の皆さんは、1回の勤務で、利用者に何度触れているか数えたことはあるでしょうか。おそらくないと思います(私もありません)。しかし、50回や100回程度ですまないことはすぐに分かると思います。
では、感染症がうつる道で一番頻度が高いとされているのはどの道(経路)でしょうか。それは、触る道(接触と表現します)です。我々医療・福祉の仕事において、対象者に触れることは非常に多くの意味と必要性がありますが、感染症がうつることを理由に手を使わずに介助することは考えられません。この、「数えきれないくらい触れる」手が最も菌・ウイルスをうつしてしまう現実を認識し、うつさないようにするための感染対策に無理のない範囲で効果的に取り組むことが施設での大きな課題なのです。
危険な場面をイメージする
手は最も感染症をうつす道(感染経路)であることから、利用者と自分を感染症から守るためにきれいにすること(手指衛生)は大切です。これは、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)や、ノロウイルス胃腸炎、インフルエンザ、疥癬(ダニの感染症)、薬剤耐性菌(抗菌薬が効きにくい菌)による感染症などすべてに共通することです。では、施設内で感染症をうつす危険性が高い場所はどこでしょうか。それは汚物処理室です。その名のとおり、施設内の汚れが集まる場所ですが、汚れには菌・ウイルスが必ず含まれていると考えておおよそ間違いありません。そして、排泄介助に使用した物品には、薬剤耐性菌(ESBLsやMRSA)やウイルスが含まれている可能性があると考えられます。菌・ウイルスは自分で移動することは絶対にありません。移動手段は手や共用する物品です。そのため、手や共用物品をきれいに保つことが感染対策ということになります。では、例として汚物処理室に行く場面を想像してみましょう。①介助を終えて汚物処理室に入る(汚物処理室のドアノブに触れる)、②排泄物を処理する(汚物槽のフラッシュボタンを押す)、③ゴミを捨てる(ゴミ箱の蓋をつかむ)、④汚物処理室を出る(室内のスイッチやドアノブなどに触れる)といったタイミングで手を使うことになりそうです。これらの場面で触れる所のいずれかに菌・ウイルスが付着していると、菌・ウイルスが無意識に手についてしまいます。一方で、これらの場面に気をつけることができれば手はきれいに保つことができそうですね。
高頻度接触表面をマスターしよう
汚物処理室を例に手が汚れやすいタイミングを紹介しました。この「触れる」ことに対してどのような対策ができるでしょうか。まずは、優先してきれいにすべき場所を押さえましょう。菌・ウイルスがよく潜んでいる場所は、「高頻度接触表面」と呼ばれます。字のごとく、職員と利用者がたくさん(高頻度に)触れる所です。ドアノブ、スイッチなどの例を上げなくても読者の皆さんはすぐにイメージできると思います。この知識を基に、さらに環境面からも感染対策を強化するために筆者がお勧めするのは、タッチフリー、ダストフリー、ゾーニングです。
タッチフリーは、触らないことを指しています。触るから汚れてしまうのであれば、触らないようにするという考え方です。対策の代表例は、おむつ廃棄容器のフットペダル化です(図1)。これで汚物処理室の場面例③は気にせずにすみますね。
次はダストフリーです。ダストはほこり(汚れ)で、普段からの清掃が大切なことは分かっていても…なかなか手が回らないのが現実。しかも菌・ウイルスは見えないため、高頻度接触表面を意識して清掃することで効率よく効果的に感染対策ができます。最後がゾーニングです。この用語だけだと、「新型コロナの時のあれ?」となるかもしれませんが、そのずっと前から感染対策として使われてきた言葉です。きれい(清潔)と汚い(不潔)を明確に区別することで、菌・ウイルスを交わらせない(交差感染防止)ための技術です。新型コロナでは、陽性者の居室をレッドゾーンとし、その周囲にグリーンを安全地帯として設定されたのではないでしょうか。これを汚物処理室に使う場合には、消毒後の清潔な物品と汚物槽や消毒前の物品といった不潔な場所を区別することが重要になります。方法に決まりはありませんが、(汚物槽やシンクからの水の飛び跳ねを考慮して)不潔になる範囲(境界線)を決め、その範囲内には清潔物品を置かないようにします。これは、左右でも上下でも物理的な遮蔽物を用いても構いません。施設で上手に工夫されたゾーニングの写真を紹介しますので是非参考にしてください(図2、3)。皆さんで境界線を検討し、設定することがスタートです。皆さんの施設でもタッチフリー、ダストフリー、ゾーニングの観点でラウンドしてみませんか。
まとめ
菌・ウイルスを広げやすい環境の危険性とその対処法について紹介しました。改善に着手する前に施設内を点検し、リスクを共通認識することから始めましょう。具体的で守りやすいルールは施設ごとに異なります。
感染対策に強い環境を目指すきっかけになれば幸いです。

