健康すまいる

健康すまいる 2023 vol.30

キーマンコラム

環境消毒における非接触型自動消毒システムの活用

笹原 鉄平
自治医科大学医学部 感染・免疫学講座 臨床感染症学部門 准教授 自治医科大学附属病院 感染制御部 部長

※本記事は、「健康すまいる vol.30」(2023年9月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

環境整備・環境消毒のおさらい

前号までで、医療施設や高齢者施設などの福祉施設における環境整備・環境消毒の重要性や、環境整備に用いる消毒薬・除菌剤の使い分けについて触れてきましたが、ここでざっとおさらいです。患者さん・施設利用者さんの周囲の環境を清潔に保つ「環境整備」は、手指衛生と並んで、日常的かつ基本的な感染対策(標準予防策)の一つです。環境(環境表面・空気・水など)整備の中心となる清掃ですが、さらに最近では、人々が良く触れる場所(高頻度接触面)の拭き清掃に加えて拭き消毒も行われるようになっています。適切な拭き消毒を実施することで、特に薬剤耐性菌による施設内感染・伝播を制御できる可能性が示唆される研究が報告されています1,2)

環境表面の拭き消毒の問題点

薬剤耐性菌や病原性の高い微生物を持つ患者さん・施設利用者さんが使用したエリア(病室・居室など)では、環境中にそれらの微生物が生存しています。このため、このエリアを別の患者さん・施設利用者さんが使用する場合に、それらの微生物が環境表面を介して伝播する恐れがあります。したがって、薬剤耐性菌や病原性の高い微生物に汚染されているエリアについて、患者さん・施設利用者さんが退室した後に、環境清掃・環境消毒を通常よりも入念に行う施設も増えてきているようです。これをターミナル清掃・ターミナル消毒と呼んでいます。ターミナル清掃・ターミナル消毒は、微生物による汚染をリセットして患者さん・施設利用者さんが使用する前の状態に戻すことを目的として実施される徹底的な清掃・消毒なので、コストと手間がかかります。また、確実な微生物除去を担保するためには、手作業で行う拭き消毒の限界についても注意する必要があります。つまり拭き消毒は人力で行う作業なので、その実施レベルは作業者によってかなり差が生じる可能性があり、拭き残しなどが生じた場合にも確認方法がないのが現状です。実際、筆者も作業を見せて頂いたことがありますが、人によって実施手順や拭く方法なども統一されていない様子でした。また、高頻度接触面の中にも、ベッド柵のように拭き取りに大変手間のかかる部位もあります。さらに消毒薬の毒性の問題も無視できないでしょう。作業効率や安全性の面からも、拭き消毒がベストな方法かどうかを検討する必要がありそうです。

環境消毒における非接触型自動消毒システム

最近では上述のターミナル消毒のような状況において、No-touch automated disinfection systems(非接触型自動消毒システム)が利用可能となり、その有効性が注目されています3)。これは手作業の拭き消毒と異なり、人間が環境表面に直接触れずに機器を用いて自動で環境消毒を行うものです。様々な原理を応用したシステムが試みられていますが、現在利用できるものは①消毒成分の蒸気を用いたものと、②紫外線ライトを用いたものの2つに大別できます。いずれのシステムも、表1のように拭き消毒にはない多くのメリットがありますが、使用器材の価格が高いため、経済性・実用性については施設ごとに十分な検討を行う必要があります。
消毒成分の蒸気を用いたシステムでは、過酸化水素の蒸気を用いたものが有名です。蒸気化過酸化水素は芽胞形成菌を含む広範囲な微生物にスペクトルを有し、蒸気が環境表面の隅々まで行きわたって消毒効果を発揮します。2001年米国炭疽菌テロ事件の際には炭疽菌に汚染された建物の消毒処理、日本では2020年の新型コロナウイルスに汚染されたダイヤモンドプリンセス号の内部環境表面の消毒処理に活躍したとされています。環境表面中の芽胞形成菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)など、様々な薬剤耐性菌汚染にも有効であり、これらのアウトブレイクの制御にも効果があったとされています。デメリットとして、蒸気を室内に充満させるための目張りが必要で手間がかかること、過酸化水素は最終的に水と酸素に分解するため有毒な副産物は残りませんが、実際には使用後に蒸気そのものをエアレーションで除去するために時間がかかることが挙げられます。過酸化水素のほかに、過酢酸を用いたものも利用されているようです。
一方、紫外線ライトを用いたシステムは、人体に有害な波長の紫外線は出さず、微生物に対して殺菌効果を示す短い波長の紫外線(UV-C)を安定かつ効率的に照射できる水銀式またはパルス式キセノンランプが利用可能となったことから、臨床現場でも広く用いられるようになりました。この紫外線も、芽胞形成菌を含むほとんどの微生物に対して有効とされ、臨床現場においても施設におけるディフィシル菌(Clostridioides difficile)感染症や多剤耐性グラム陰性菌感染症を減らすことが期待されています。日本の医療施設からも、ICUにおける多剤耐性菌の獲得低減と汚染除去に有効であるという報告が出ています4)。紫外線照射時間は10分程度なので、1エリアにおける合計作業時間が数十分と短いのが長所といえるでしょう。紫外線が直接当たらない部分には効果が期待できないので、照射時の物品の配置を工夫する必要があります。また、導入コスト・ランニングコストが比較的高い点にも注意がいるでしょう。

表1 No-touch automated disinfection systems(非接触型自動消毒システム)の特徴

非接触型自動消毒システムを活用する

非接触型自動消毒システムは、ターミナル消毒の場面以外でも広く活用されています。例えば、海外では複数の機器を稼働させて、手術室の環境消毒に利用している施設もあるようです。
手術部位感染症を減らし、医療費の削減につながった事例もあり、今後注目すべきポイントかもしれません。また、国内では新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけになり、非接触型自動消毒システムを導入した施設も多いようです。隔離エリアや発熱外来などの環境消毒に活用しているという話も伺っています。今後、様々な場面における活用例の有用性、コスト・ベネフィットなどについての情報が出てくることが望まれます。

まとめ

  • 環境整備の基本は、適切な清掃である。

  • ターミナル消毒の場面において、拭き消毒には実施後の客観的評価・作業効率・安全性の面などから、いくつかの問題点が挙げられる。

  • 非接触型自動消毒システムは実施者に依存せず一定した環境消毒効果が期待できるが、コストとのバランスを考慮する必要がある。

  • わが国では非接触型自動消毒システムとして、消毒成分の蒸気を用いたもの、紫外線ランプを用いたものが利用可能である。

  • ターミナル消毒以外の場面でも、非接触型自動消毒システムを活用できる可能性がある。

参考文献

1)Garvey MI et al. Wiping out MRSA: effect of introducing a universal disinfection wipe in a large UK teaching hospital. Antimicrob Resist Infect Control. 7: 155. (eCollection). 2018.
2)Gavaldà L et al. Control of endemic extensively drug-resistant Acinetobacter baumannii with a cohorting policy and cleaning procedures based on the 1 room, 1 wipe approach. Am J Infect Control. 44: 520-524. 2016.
3)Marra AR, Schweizer ML, Edmond MB. No-Touch Disinfection Methods to Decrease Multidrug-Resistant Organism Infections: A Systematic Review and Meta-analysis. Infect Control Hosp Epidemiol. 39: 20-31. 2018.
4)Morikane K, Suzuki S, Yoshioka J, Yakuwa J, Nakane M, Nemoto K. Clinical and microbiological effect of pulsed xenon ultraviolet disinfection to reduce multidrug-resistant organisms in the intensive care unit in a Japanese hospital: a before-after study. BMC Infect Dis. 20: 82. 2020.

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