健康すまいる

健康すまいる 2023 vol.29

キーマンコラム

環境整備に用いる消毒薬・除菌剤の使い分け

笹原 鉄平
自治医科大学医学部 感染・免疫学講座 臨床感染症学部門 准教授 自治医科大学附属病院 感染制御部 部長

※本記事は、「健康すまいる vol.29」(2023年5月発行)に掲載した内容です。所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

環境清拭クロスに含まれているのは、除菌剤? 消毒薬 ?

前号で、環境表面の清掃・消毒の重要性について解説し、「環境清拭クロス」の利用が便利であることを紹介しました。環境清拭クロスを選ぶ際に、どんな有効成分(消毒成分・除菌成分)が含まれているのかが気になるところですが、成分の表現として「消毒薬」や「除菌剤」などを目にされたことがあるでしょう。世の中には「殺菌」「消毒」「除菌」「抗菌」などの紛らわしい用語があふれていて、混乱の原因となっています。「殺菌」は、微生物を殺すことそのものを表し、その程度(強さ)についての基準はありません。「消毒」は、物体や生体に存在する病原性微生物を死滅または除去させ、害のない程度まで減らす、あるいは感染力を失わせることを表します。「殺菌」「消毒」ともに法律(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律:以下、薬機法)に基づく用語であり、薬機法の対象となる「医薬品」や「医薬部外品」で使用できますが、「雑品」の分類に含まれる製品については使用できません。このため「雑品」では「除菌」「抗菌」などの用語が使用されています。「除菌」や「抗菌」という用語には規制や定義がなく、客観的指標がないため、除菌剤を含有している環境清拭クロスについても「どのような種類の除菌剤か」「どのようなデータがあるか」をユーザー自身が確認する必要があります1)。市販の環境清拭クロスに含有される除菌剤(消毒薬)が、それぞれどのような特徴を持っているかを表1にまとめてみました。

表1 環境清拭クロスに使用されている代表的な除菌剤(消毒薬)の特徴と利用例

次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水は違うもの?

筆者も高齢者福祉施設とのかかわりができるまで、あまり目にすることのなかった「次亜塩素酸水」ですが、次亜塩素酸ナトリウムとは全く異なるものです。
次亜塩素酸ナトリウムは、家庭用塩素系漂白剤でもおなじみであり、強い酸化作用・漂白作用を持ち、様々な微生物に対して広く殺菌効果・不活化効果を示します。次亜塩素酸ナトリウム溶液(塩素の水酸化ナトリウム溶液)は、消毒薬として医療施設・福祉施設等で広く使用されていますが、その酸化力の強さから、接触により腐食する物品(特に金属製品)があるため注意が必要です。
一方、次亜塩素酸水は、次亜塩素酸を主成分とする水溶液で抗微生物作用を持ち、わが国では食品添加物として使用(主に食材の微生物を除去する目的)されています2)。電気分解などの手法で比較的簡単に作成できる溶液で、新型コロナウイルス感染症流行初期には、新型コロナウイルスに対する消毒効果が製品評価技術基盤機構によって示され3)、品薄となったアルコール消毒薬等の代替品として使用されることも多くあったと聞いています。アルコール消毒薬より比較的安価に入手できること、他の消毒薬と比較しても刺激性・臭気・毒性が少ないなどの特徴が、「福祉施設でも扱いやすい」として広まったのかもしれません(筆者の感想です)。さて、福祉施設等における日常的な環境表面の拭き取りに次亜塩素酸水を使用するのは一つの方法だと思います。しかし、次亜塩素酸水は安定性に乏しく、有機物との反応や、時間経過によって分解されやすい特徴があります。医療施設で次亜塩素酸水を使用しづらい理由は、この濃度管理の難しさにあるように感じています。また、使用時には他の消毒薬・除菌剤同様に、物理的な汚れを事前に除去することが原則となりますので、まずは一般的な拭き清掃を行い、そのあとで次亜塩素酸水を用いた拭き取りを再度行う必要があります。さらに、拭き取りごとに使用するクロスを交換するなどして、清潔を保ちながら作業を続けることも重要です。洗浄成分と除菌剤(消毒薬)が配合された市販の環境清拭クロスと比較する際には、これらの作業の手間も併せて総合的に判断しましょう。空間噴霧については吸引による長期的な有害性が不明であるため、筆者は避ける立場をとっています。

微生物に効果を持つ その他のアレコレ

福祉施設等では、次亜塩素酸水の他にもアルカリ性電解水、亜塩素酸水、オゾン水等、様々なものが使用されているのを目にします。これらは医療施設の環境整備に一般的には使用されませんが、一度ここで特徴や注意点をおさらいしたいと思います。

アルカリ性電解水

アルカリ性電解水は、塩化ナトリウム水溶液を電気分解することで、陰極側に生成される溶液です(ちなみに陽極側に生成されるのが次亜塩素酸水です)。皆さんも清掃をする際に、浴室などの皮脂汚れを落とすためにアルカリ性の洗剤を使用されることと思います。アルカリ性電解水は、汚れを除去する作用によって清掃の場面で活躍しています。pHが高いものは微生物に対する効果も有していますが、人体への傷害性が強いので取扱いに注意が必要です。

亜塩素酸水

次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水とは異なる溶液です。亜塩素酸水は、食品添加物として、主に食材・食品の微生物汚染に対して用いられるようです。医療や介護福祉の現場での使用に関する知見はほとんど存在していないので、福祉施設等であっても環境整備の用途での使用はお勧めしません。

オゾン水

強い酸化力を持つオゾンは、常温では気体であり、様々な微生物に対して広く殺菌的に作用することが知られています4)。オゾンはリネン消毒や下水処理のほか、食品添加物として食品衛生の分野で活用されており、オゾンを溶解したオゾン水は主に食材・食品に付着する微生物の殺菌のために使用されています。使用後の洗浄が不必要なこと、食材の鮮度・味覚を変化させないことなどが利点のようです。国内では、医療施設向けのオゾン発生装置またはオゾン水生成装置が発売されていますが、感染対策への応用にはまだまだエビデンスが不足しているのが現状です5)。効果と安全性を両立させたオゾンの濃度管理など、いくつかの明らかにすべき点が残っているものの、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに環境整備等での活用が模索されており6)、将来的には環境消毒の方法の一つとして活用される可能性があります。

まとめ

  • 「除菌」や「抗菌」という用語には規制や定義がなく、客観的指標がない。

  • 次亜塩素酸水は、濃度管理が必要である。

  • 次亜塩素酸水を環境整備に使用する場合、事前に一般的な拭き清掃を行う必要がある。

  • また、拭き取りごとに使用するクロスを交換するなどして、清潔を保つ必要がある。

  • オゾン水は、現時点では医療分野におけるエビデンスが不十分であるが、将来的な実用性を持つ可能性がある。

参考文献

1)笹原鉄平.ココが知りたい 清拭クロスを使った清掃・消毒: 医療・介護福祉現場における環境消毒のコツ. ヴァンメディカル. 2022.
2)厚生労働省. 大量調理施設衛生管理マニュアル. 2017.
3)製品評価技術基盤機構. 新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~. https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html(2023年3月22日リンク確認)
4)Cai Y, et al. Ozone based inactivation and disinfection in the pandemic time and beyond: Taking forward what has been learned and best practice. Sci Total Environ. 2023;862:160711.
5)赤堀幸男, ほか.オゾン水の殺菌効果と院内感染予防への応用. 日集中医誌 2000;7:3 -10.
6)Irie MS, Dietrich L, et al. Ozone disinfection for viruses with applications in healthcare environments: a scoping review. Braz Oral Res. 2022;36:e006.

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