健康すまいる 2023 vol.28
施設で気になる感染症のはなし
(感染対策上)いい湯かな?
※本記事は、「健康すまいる vol.28」(2023年1月発行)に掲載した内容です。所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
福祉施設の浴室は、多くの人が利用するため長時間湿潤環境になりやすく、グラム陰性菌やカビが増殖しやすい環境です1,2)。さらに体を洗う際に排出された角質や皮脂などが残留し、その汚れや水分を微生物が栄養にして温床化する可能性があります。これらの微生物が接触や水の跳ね返りにより粘膜や創部から侵入すると、高齢者などの抵抗力が弱い人は感染症を引き起こすことがあります。福祉施設では、グラム陰性菌であるレジオネラ属菌に汚染された浴槽水が感染源となった入所者死亡事例も発生しています3)。今回は、浴室の衛生・感染管理について振り返りましょう。
浴室チェックポイント!
こんなところが感染リスクに…
1. 椅子・ストレッチャー
浴用椅子の裏面は、水が流れ込み乾燥が難しく、さらに目視しにくいため、清掃が行き届きづらく汚れやカビが発生しやすいです2)。また浴用椅子/車椅子やストレッチャーなどの入浴介護用品に使用されることの多いスポンジ様材質は多孔性構造で、洗浄・消毒が十分に行き届きにくく、微生物が増殖しやすいとされています1,2,4)。
2. ボディソープ・シャンプー
継ぎ足すことにより、グラム陰性菌が増殖する可能性があります1)。
3. 排水溝
毛髪や石けんカス、垢などがたまりやすく、また清掃が行き届きにくく乾燥しづらいため、微生物の増殖や臭気の原因になります2)。
4. 浴槽
表面が凹凸した素材や構造の浴槽は洗浄・消毒が難しく、ぬめり※の形成やレジオネラ属菌の増殖が起きやすいとされています4)。また、福祉施設の浴槽は、主に非循環式と循環式の2種類に分けられます3)。非循環式浴槽は、浴槽水を循環させず入浴後は完全に排水する方式で、濾過器や加温装置はなく、比較的小さな浴槽や機械浴槽に多いとされています1,3)。循環式浴槽は浴槽水をポンプで循環させながら濾過や加温(保温)をする方式で、運転中は常に入浴に適した温度が保たれます。循環式浴槽は濾過器や加温装置などへ浴槽水を送るため配管が長くなり、濾過器や配管の内壁等にレジオネラ属菌などの微生物がぬめりを形成しやすいことから注意が必要です1,3,5)。東京都の調査では、特別養護老人ホームの循環式入浴設備のうち6割以上からレジオネラ属菌が検出されています3)。
※バイオフィルム。これにより、微生物は消毒剤から保護され増殖しやすくなる4, 5)
衛生・感染管理方法
浴室の衛生・感染管理方法を一部ご紹介します。自施設の浴室の特徴を踏まえながら、以下のような管理を心掛けましょう。
日常の環境整備
毎日、浴室内の床や壁などの環境表面を洗浄剤と清掃用具を用いて清掃します1,5,6)。石鹸の油脂成分は水道水の金属成分や皮脂と反応して付着し、時間が経つほど除去が困難になるため、こまめな清掃を心掛けます2)。微生物の増殖や定着を防ぐため、清掃時はぬめりを残さないよう注意します3,4,6)。日常清掃でのぬめりの除去には、洗浄剤を用いたブラシ洗浄が効果的であったとの報告があります4)。洗浄剤は、消毒を兼ねた洗浄が行える両性界面活性剤が勧められます2)。排水溝は最終の入浴後に汚れを取り除き、清掃します1)。微生物の増殖を予防するため、浴室の定期的な換気・乾燥も重要です。換気が難しい場合は、清掃後に乾燥したタオルなどを使用し水気を拭き取ります2)。
循環式浴槽は、濾過系統に設置されている集毛器を毎日清掃・消毒します3-5)。濾過器は週1回以上逆洗浄して汚れを排出するとともに、循環配管を含めて消毒します。
浴槽水の管理
浴槽水は塩素系薬剤で消毒し、浴槽水中の遊離残留塩素濃度を通常0.4mg/L程度に保ちます3-5)。浴槽水は、常時満水状態にし、新しいお湯で水面に浮かんだゴミが排水されるよう努めます。非循環式浴槽は毎日、循環式浴槽は原則毎日で最低でも週1回は換水(完全に湯を落とし、清掃した上で浴槽水を入れ換える)を行います3-6)。
物品管理
ボディソープ・シャンプーは使い捨てにするか、詰め替える場合は容器を洗浄・乾燥させ、適切に管理しましょう。浴用椅子/車椅子やストレッチャーなどの入浴介護用品はスポンジ様材質を避けることが望ましく1,2)、使用後は洗浄剤などで洗浄・消毒し乾燥させます1)。浴室に設置する物品は必要最低限とし、清掃や乾燥の妨げにならないようにしましょう2)。
参考文献
1)渋谷 智恵 編. INFECTION CONTROL 2018年夏季増刊 環境整備ICTマニュアル. メディカ出版. 大阪. 2018.
2)市江 希. 浴室&シャワー室. INFECTION CONTROL 2020; 29(12): 35-9.
3)東京都福祉保健局. 社会福祉施設管理者のための環境衛生設備自主管理マニュアル. 2005年2月. https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/eisei/yomimono/shakaifukushishisetu/shakaifukushishisetu-manyuaru.html. 2022年11月9日現在.
4)厚生労働省. 入浴施設の衛生管理の手引き. 2022年5月13日. https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000961757.pdf. 2022年11月9日現在.
5)厚生省生活衛生局長. 公衆浴場における衛生等管理要領等について. 生食発1210第1号. 2020年12月10日. https://www.mhlw.go.jp/content/000704519.pdf. 2022年11月9日現在.
6)厚生労働省老健局. 介護現場における感染対策の手引き 第2版. 2021年3月. https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000814179.pdf. 2022年11月9日現在.

