健康すまいる 2023 vol.28
キーマンコラム
医療・介護福祉施設における環境整備の重要性
- 笹原 鉄平
- 自治医科大学医学部 感染・免疫学講座 臨床感染症学部門 准教授 自治医科大学附属病院 感染制御部 部長
※本記事は、「健康すまいる vol.28」(2023年1月発行)に掲載した内容です。所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
医療・介護福祉施設における感染対策の基本
医療・介護福祉施設における感染対策の基本として、最初に「感染経路」について学ぶと思います。特に施設内では「空気感染・飛沫感染・接触感染」の3つが重要であることは、皆さん十分にご承知でしょう。「接触感染」は、非常に多くの種類の微生物が運ばれる感染経路のため、常に注意を払う必要があります。接触感染をさらに詳しく見ていくと、微生物を運ぶ一番の原因は施設スタッフの「手指」であることから、手指をいつも清潔に保つ「手指衛生(手指消毒や手洗い)」が対策の基本となります。また最近では、施設内の様々な環境が微生物によって汚染されていることも接触感染の背景として重要視されるようになりました(図1)。施設スタッフや患者・利用者さんが頻回に触れる環境は「高頻度接触面(図2)」と呼ばれ、特に清潔に保つ必要があります。
環境整備とは
施設内の環境には、大まかに「空気・水・環境表面・植物や動物」があります。空気・水の管理もとても重要ですが、今回は「環境表面」に焦点を当てていきます。環境表面には、壁・床・天井・水回りなどの構造・設備や、ベッド・椅子・リネン・聴診器などの家具・物品類など、あらゆるものが含まれます。これらの環境表面を清潔に保つための対策が「環境整備」です。環境表面を清潔に保つといっても、環境表面のすべてを消毒するような行為はコストもかかりますし、感染対策上も無駄が多いといえるため、効率的な環境整備が必須です。施設内の環境表面に対する適切な環境整備とは、筆者の理解では図3のような構造になっています。
環境整備における清掃の重要性
環境整備の基本は清掃です。一般的な清掃では、実施後の見た目の美しさを重視しますが、施設における清掃で重要なのは「ホコリ(埃)を除去する」ことです。微生物は自分で遠距離を移動できませんが、ホコリに付着して施設内に拡がります。このため壁や天井、棚の上などの高所は化学モップなどを用いてホコリを除去するようにします。ベッド周囲やドアノブ、手すりなどの手が届く範囲の環境表面は拭き清掃、床はモップを用いた湿式清掃を行います。
清掃においては「微生物を拡げない」工夫も必要です。特にモップ清掃、拭き清掃では、表1のようなポイントに注意して下さい。一般的な清掃では、モップやクロス(雑巾)をバケツ内で洗いながら何度も使用する場合が多いと思いますが、施設における清掃ではモップやクロスは汚れたら清潔な新しいものに交換しながら汚染の拡散を防ぎましょう(オフロケーション法と呼ばれます)。医療行為を行うエリアは最初に清掃する、トイレなどは最後に清掃するなど、清掃場所の順序は汚染度合いを踏まえて工夫することも大切です。除菌剤を含んだ施設清掃用の洗剤も数多く発売されているため、上手に活用しましょう。
高頻度接触面の定期的環境消毒
上述したように、環境表面のうち頻回に手指で触れる「高頻度接触面」は、特に清潔に保つ必要があります。最近では、この目的のために1日1回程度、高頻度接触面の環境消毒を行うようになっています。過去には環境消毒の方法としてアルコール消毒薬などをスプレーで噴射して拭き取ったりしていましたが、現在では吸引毒性のある消毒薬の噴霧は避けるべきとされ、消毒薬を含有した使い捨ての「環境清拭クロス」の利用が一般的です。洗浄剤を配合して汚れも落とせるようになっている製品では、拭き清掃と消毒が一度に実施できて非常に便利です。様々な特徴の製品が多数発売されていますが、「どの環境清拭クロスが良いかが分かりづらい」という意見もよく耳にします。これについては、拙著「ココが知りたい 清拭クロスを使った清掃・消毒:医療・介護福祉現場における環境消毒のコツ(ヴァンメディカル)」をご参照頂けたらと思います。日常的な環境消毒には、様々な素材に対して傷みが起きにくいこと、安価であることなどから、第四級アンモニウム塩やアルコール系消毒薬を含んだクロスが使用されることが多いように思います。
環境清拭クロスを使用する際にも、表1で示した「汚染を拡げない」工夫が必要です。すなわちクロスは適切に新しいものに交換しながら、きれいな部位から汚染されている部位に向かって一方向に拭く、という点に注意して下さい。
特殊な汚染に対する環境消毒
環境が排泄物・血液・体液によって汚染された場合には、特別な処理が必要となります。手袋などの個人防護具を着用して、これらの汚れをペーパー等で拭き取った後に、過酢酸や次亜塩素酸ナトリウム(またはペルオキソ一硫酸水素カリウム)を含む環境清拭クロスで拭き取ります。なければ0.5-1.0w/v%(5,000-10,000 ppm)の次亜塩素酸ナトリウム液を接触させ、ペーパーで拭き取ることでも対応できます。
下痢や嘔吐がある患者・利用者さんの周囲の環境は、ノロウイルスをはじめとした消化管感染症を起こす微生物に汚染されている可能性があります。このため、高頻度接触面の環境整備には、これらの微生物に有効な過酢酸や次亜塩素酸ナトリウム(またはペルオキソ一硫酸水素カリウム)を含む環境清拭クロスを使用することが望ましいでしょう。これらの環境清拭クロスは、ノロウイルス感染症が施設内で流行している時期の(特に共用トイレ等における)日常的環境消毒にも有用です。
ターミナル清掃・ターミナル消毒
多剤耐性菌や病原性の高い微生物に汚染された部屋では、次に使用する患者・利用者さんがそれらの微生物にさらされるリスクが生じます。このため、これらの汚染があると考えられる部屋では、患者・利用者さんの退室後に環境表面を通常よりも入念に清掃・消毒するという方法がとられ、これをターミナル清掃・ターミナル消毒と呼んでいます。この場合には、過酢酸や次亜塩素酸ナトリウム(またはペルオキソ一硫酸水素カリウム)を含む環境清拭クロスや、紫外線照射装置などの非接触型環境消毒法(ノータッチ・メソッド)を使用する施設もあります。
まとめ
手指衛生と共に環境整備を行うことによって、施設内の感染伝播を減らすことができる。
環境整備の基本は、適切な清掃である。
高頻度接触面に対する環境消毒を加えることによって、環境整備の効果をより高めることができる。
状況や場面によって、環境消毒に使用する消毒薬・除菌剤を使い分けることが望ましい。

