HosCom 2026 vol.23 no.2最新号
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環境消毒薬の有効性評価指針 2025 改定のポイント
- 継田 雅美
- 新潟薬科大学 医療技術学部 臨床検査学科 臨床感染症研究室
※本記事は、「HosCom 2026 vol.23 no.2(2026年7月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに(環境消毒薬の評価指針とは?)
医療関連施設では環境消毒に多様な消毒薬が使用されています。日本では、2020年まで環境消毒薬における標準化された有効性評価指針がなく、メーカーが独自に試験を実施して有効性を示してきたので、それぞれの消毒薬を比較することができませんでした。一方、欧米ではすでに消毒薬の評価方法が確立されていて、米国では環境消毒薬は米国環境保護庁(EPA)、生体消毒薬は米国食品医薬品局(FDA)の管轄で評価されており、欧州では欧州標準化委員会(CEN)によるEN規格に基づく試験により評価されています(日本の環境消毒薬の中には、『欧州規格EN16615:2015で定められたワイプ試験の要求事項を満たしました』と書かれているものもあります)。そのような背景の中、2020年、欧米の基準を参考に日本環境感染学会の消毒薬評価委員会により、日本初の環境消毒薬評価指針である「環境消毒薬の評価指針 2020」(以後、「評価指針2020」)が策定されました1)。医療現場において環境に適した真に有効な消毒薬を選択するために役立ててもらいたい、という思いで作られたわけです。
環境消毒薬の評価指針 2020の概要
「評価指針2020」では、どのような微生物をどれくらい減らせれば「有効性あり」と言ってよいか、という評価基準が設けられました(表1)。試験に用いる細菌は、黄色ブドウ球菌や緑膿菌の他、MRSAやCREなどの薬剤耐性菌も用います。ウイルスは、ノロウイルスの代用となりうるネコカリシウイルスとアデノウイルス、芽胞はクロストリディオイデス・ディフィシルが対象とされています。これらについては、「環境消毒薬の有効性評価指針 2025」2)も同様です。試験法としては、サスペンジョン試験とサーフェス試験が設けられました(図1)。
サスペンジョン試験
消毒薬と微生物、負荷物質を混ぜて、経時的(1、5、10分間など)に生き残っている微生物数を測定します。清浄条件と、羊血球を添加した汚濁条件で実施します。
サーフェス試験
微生物液をシリコンディスクやステンレス板などに滴下して乾燥させ、その表面に消毒薬を滴下して、経時的(1、5、10分間など)に生き残っている微生物数を測定します。
サスペンジョン試験は消毒薬そのものの殺微生物効果を評価するものなので必須です。サーフェス試験は、より実使用に近い試験法ですので実施すべきですが、「評価指針2020」策定当時は“望ましい”という表現に留まりました。
表1 環境消毒薬の評価基準の変遷
環境消毒薬の有効性評価指針 2025改定のポイント
「評価指針2020」の発表と同じ時期に新型コロナウイルス感染症の流行があり、その経験から得られた知見や欧米の評価法、有効性基準改定を踏まえて本指針の改定を行うことになりました。
まず、「評価指針2020」では、誰がこの試験を行うのか少し混乱していたところがあったので、目的を明確にしました。つまり、この指針における試験評価は医療施設(ユーザー)が行うのではなく、消毒薬メーカーが実施し公開するものであること、様々な製品の中から自施設に適切な消毒薬を選定するために活用されることを目的としていることを明記しました。試験法としては、サーフェス試験は“望ましい”から“基本的に実施する”との記載に変更されました。また、サスペンジョン試験、サーフェス試験に次いでワイプ試験を取り入れました。
ワイプ試験
合成樹脂素材やプラスチックシャーレの表面に微生物液を塗り広げ、乾燥させます。その後に消毒薬を含浸させたワイプで清拭し、任意の作用時間経過後にエリアの表面に生き残っている微生物数を測定します(図2)。ワイプ試験は新しい試験法ではありますが、現在、医療現場はワイプ製品が多く使用されているという実情を踏まえ、サーフェス試験の代用になりうるものとして記載することになりました。
評価基準については、「評価指針2020」と異なる点として、サスペンジョン試験とサーフェス試験およびワイプ試験の要求基準に差をつけました。これは、消毒薬そのものの有効性を確認するサスペンジョン試験は、サーフェス試験やワイプ試験のような乾燥状態の微生物を対象とする試験よりも1ランク高い要求基準とすることが臨床的に妥当と考えられたからです(表1)。
その他、「評価指針2020」では試験法が複雑でわかりにくかったので、本文に概要として、まとめの表を載せ、各試験の詳細については別表1~3にA4サイズ1枚で見やすく収まるよう記載しました。
雑品の扱いについて
医療現場や介護施設など、消毒薬を扱う場所では、医薬品以外のいわゆる雑品に分類される消毒薬が、ワイプ製品などの形で広く使用されています。本指針はあくまでも医薬品である消毒薬が対象であり、医薬品であればこの指針に則って有効性をうたうことができます。しかし、雑品については薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などの法律により有効性を表示することはできません。今後、環境用の医薬品としての消毒薬が新たに上市される可能性は低く、ワイプ製品などの雑品が主流になると考えられる中で、効果が不確実な製品との差別化を図る意味がこの指針にはあります。指針に則った試験を行っているということが、製品選択のエビデンスに繋がるよう、ユーザー側も適切に選定していくべきと思います。また、雑品に関しては、法的制約がある中でもメーカーとして十分な評価をしていることを理解していただくため、補足として「日本の業界団体における雑品の試験方法」を掲載しました。
おわりに(指針の使い方)
消毒薬評価委員会では、消毒薬における標準化された有効性評価基準として、「生体消毒薬の有効性評価指針:手術野消毒 2013」、「生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生 2023 第2版」を発出し、このたびは「環境消毒薬の評価指針 2020」の改定として「環境消毒薬の有効性評価指針 2025」を発出いたしました。これらは医療現場で使用する消毒薬の均質で信頼性の高いエビデンスとして、抗菌薬におけるMICブレイクポイントのような有効性の指標として活用されることが望まれます。そのためには、まず、みなさんに指針の存在を認知していただき、施設内での適切な消毒薬選定に活かしていただければと思います。
参考文献
1)一般社団法人日本環境感染学会 環境消毒薬の評価指針2020,一般社団法人日本環境感染学会消毒薬評価委員会,日本環境感染学会誌35巻3号 PS1-S5(2020.05)
2)一般社団法人日本環境感染学会 環境消毒薬の有効性評価指針2025,一般社団法人日本環境感染学会消毒薬評価委員会,日本環境感染学会誌41巻1号 PS1-8(2026.01)

