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HosCom 2026 vol.23 no.1

エキスパートに聞く

糖尿病性足病変とフットケア

高山 かおる
済生会川口総合病院 皮膚科 主任部長

※本記事は、「HosCom 2026 vol.23 no.1(2026年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

糖尿病性足病変は、患者のQOLを著しく低下させるだけでなく、下肢切断や生命予後にも影響する重要な合併症です。多くの場合、突然発症するのではなく、皮膚の乾燥や胼胝(べんち)※1、爪のトラブルといった軽微な変化から始まり、本人が気づかないまま放置され、医療者の介入が遅れることで進行していきます。日常的に患者と接する医療・介護従事者が、靴下を脱がせて足を観察し、初期変化に気づくことは、重症化予防において極めて重要な役割を担っています。
※1 胼胝:一般的に「たこ」と呼ばれ、足裏、くるぶし、足の指の付け根などに発症し、芯はなく扁平であることが多い。発症部位周囲の皮膚が黄色味を帯び、圧迫しても無痛~軽度の痛みである。

糖尿病性足病変の疫学

糖尿病患者における足潰瘍の有病率は、近年のシステマティックレビューにより世界全体で6.3%(95%CI 5.4-7.3%)と報告されています。地域別では北米が13.0%と最も高く、アジアでは5.5%とされています。日本では大規模疫学調査は限られていますが、国民健康・栄養調査において、糖尿病患者の0.7%に足潰瘍の合併が認められています。一方で高齢化の進行により、末梢神経障害や末梢動脈疾患(PAD)を合併する糖尿病患者は増加しており、小規模研究では末梢神経障害は約50%、PADは1.5~10%に認められると報告されています。足潰瘍を発症した患者の7~20%が下肢切断に至ることから、早期発見と重症化予防の重要性は極めて高いといえます。なお、これらの数値は日本フットケア・足病医学会による「重症化予防のための足病診療ガイドライン(2022)」1)に基づいています。

糖尿病性足病変を構成する主な病態

糖尿病性足病変は、末梢神経障害、足の変形、末梢血流障害といった基礎的因子に、皮膚バリア機能の低下や外的刺激が重なって発症・進展する複合的病態です(図1)2)

1)皮膚病変

糖尿病性足病変の多くは、皮膚の乾燥、胼胝・鶏眼※2、白癬、爪の変形といった日常的な皮膚トラブルを入口として発症します。高血糖状態が持続すると皮膚の角質機能や修復力が低下し、皮膚バリアが脆弱化するため、わずかな刺激でも皮膚損傷を起こしやすくなります(図2)。胼胝や角質肥厚は神経障害を背景に高度化しやすく、潰瘍形成へと進展する危険があります(図3)。また、爪の変形や肥厚は血流障害を伴う場合、骨髄炎へと進展することもあります(図4)。これらは感染の入口となる重要なサインです。
※2 鶏眼:一般的に「うおのめ」と呼ばれ、圧迫や摩擦の繰り返しにより足裏などの皮膚が部分的に厚く円形に皮膚が硬くなり、中心の芯を押すと強い痛みを生じる。

2)末梢神経障害

末梢神経障害により痛みや違和感を自覚しにくくなり、靴ずれや熱傷、異物による外傷などが見逃されやすくなります。さらに足趾変形やアーチ低下による圧集中は、胼胝や潰瘍形成の要因となります。

3)末梢血流障害

末梢血流障害は創傷治癒を遅延させ、感染の重症化を招きます。小さな皮膚損傷であっても急速に悪化することがあり、血流評価を含めた早期アセスメントが不可欠です。特に透析患者では高度な血管石灰化を伴うことが多く、注意が必要です。

4)細菌感染症

皮膚バリア破綻と血流低下を背景に細菌感染が加わると、蜂窩織炎や骨髄炎、壊死性筋膜炎などの重篤な感染症へと進展します。感染は単独で起こるのではなく、既存の足病変を急速に悪化させる要因となります。

図1 糖尿病性足病変の要因(文献2より一部改変)

図2 踵に過角化があり、厚い鱗屑がむけている。側縁では小さな亀裂から潰瘍化している。

図3 末梢神経障害合併例 胼胝様の結節を呈している(左)が、削ってみると一部潰瘍化しており、排膿があった(右)。

図4 末梢血流障害の合併例 爪甲は黄濁肥厚して、内側縁はやや陥入して発赤していた(左)。冷感が強く爪甲をどけてみると爪床に瘻孔ができて膿汁がでてきた(右)。末梢動脈の石灰化がみられた。

重症化予防におけるフットケアの実際

糖尿病性足病変は軽症段階での介入により重症化を防ぐことが可能です。乾燥、胼胝、爪の変形といった初期所見に早期に対応し、潰瘍形成や感染へ進行させないことが重要です。

1)洗浄・保湿

足部を清潔に保ち、皮膚の乾燥を防ぐことは基本的なケアです。爪周囲や趾間はブラシを用いて洗浄し(図5)、洗浄後は十分に水分を除去したうえで、足趾から踵まで保湿剤を使用します。また、足浴が難しい場面では、ベッドサイドで簡便に足を清浄化できるフットワイプが有用です。フットワイプは、短時間で足を清潔に保つことができ、物品準備や管理に手間がかからないという利点があります。

2)爪ケア

肥厚爪、巻き爪、陥入爪は圧迫創や感染の原因となります。洗浄後に爪ゾンデ※3を用いて爪周囲の角質を除去し、爪による圧迫や爪床の小外傷がないかを確認したうえで、適切な長さに整えます。
※3 ゾンデ:爪と皮膚の隙間の汚れや角質を除去したり、爪の角を整えるために使用する先端の細い専用ケア器具。

3)免荷

胼胝や潰瘍の発生・再発予防には免荷が不可欠です。靴の適合確認やインソール、フェルトによる除圧など、患者の生活に即した支援が求められます。

図5 やわらかいブラシを使って爪の周りや趾間部を洗浄する

多職種連携の必要性

糖尿病性足病変の予防と管理には、診療科や職種の枠を超えた医療・介護現場全体での連携が不可欠です。医師や看護師による専門的評価に加え、介護職員、リハビリスタッフ、栄養士、装具や靴に関わる職種など、日常生活を支える多くの関係者が関与しています。病院、施設、在宅といったさまざまな現場において、足部を直接観察できる機会をもつ職種が、皮膚の乾燥、発赤、浸軟、臭気、滲出液といった感染の兆候に気づくことが、重症化予防の第一歩となります。これらの情報を共有し、早期に医療へつなぐ体制を整えることで、感染の拡大や足病変の進行を防ぐことが可能となります。糖尿病性足病変の重症化予防は、「気づく」「伝える」「つなぐ」という現場レベルの連携によって支えられています。

おわりに

糖尿病性足病変は、適切なフットケアと医療・介護現場における連携により、感染を防ぎ、重症化を予防することが可能な合併症です。高血糖状態では皮膚バリア機能が低下し、わずかな皮膚損傷から感染が拡大しやすくなるため、足を清潔に保つことは感染対策の基本といえます。日常的な洗浄と乾燥、適切な保湿、爪や角質のケアといった基本的なケアの積み重ねは感染の入口を断ち、患者の安全を守る重要な取り組みです。医療・介護現場の関係者一人ひとりが、清潔と衛生の視点をもって足を観察し、異変を早期に共有することが、患者の「歩き続ける未来」を支えることにつながります。

参考文献

1)日本フットケア・足病医学会編集:重症化予防のための足病診療ガイドライン.南江堂. 2022.
2)一般社団法人日本フットケア学会編集:フットケアと足病変治療ガイドブック第3版. 第7章 足のアセスメントと検査. P39‐48. 医学書院. 2017.

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