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HosCom 2025 vol.22 no.3

特集

日本版CDC(JIHS)の概要と果たすべき役割

堀井 久美
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 看護部 院内感染管理室 副看護師長 感染管理認定看護師
窪田 志穂
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 看護部 院内感染管理室 副看護師長 感染管理認定看護師/感染症看護専門看護師

※本記事は、「HosCom 2025 vol.22 no.3(2025年11月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

2019年末に中国で肺炎患者が発生し、2020年1月以降世界中に感染症が広がり、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)パンデミックが発生しました。これにより、世界中でパンデミック対策が講じられました。
医療機関では患者の受け入れを進める中、COVID-19ということで、受診したくても受診できない患者や、重症患者の受け入れ先が見つからないといった事態も発生しました。
COVID-19パンデミックの教訓を活かして重大な感染症危機に備えることを目指し、「国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security 以下、JIHS(ジース))」が設立されました。

JIHS設立の目的

内閣感染症危機管理統括庁 ・ 厚生労働省感染症対策部に科学的知見を提供する「新たな専門家組織」として、国立感染症研究所(以下、NIID)と国立国際医療研究センターの2つの組織統合により、2025年4月にJIHSが設立されました。

JIHSの組織

JIHSは、NIIDと国立国際医療研究所の2つの研究所、国立国際医療センター(以下、NCGM)と国立国府台医療センターの2つの総合病院、看護人材の育成を担う国立看護大学校、臨床研究センター、国際医療協力局の7つの事業部門と、それら事業部門を支える統括部門という体制であり、DMAT※事務局もJIHSに移設されました(図1)。
※DMAT(Disaster Medical Assistance Team):「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、医師、看護師、業務調整員(医師 ・ 看護師以外の医療職や事務職員)で構成され、専門的な訓練を受けた医療チーム

図1 JIHSの組織図 出典:JIHSホームページ「組織図」より改変

JIHSの役割(4つの機能)(図2)

1 情報収集・分析・リスク評価機能(Disease Intelligence)

サーベイランスや情報収集 ・ 分析の実施、国内外の関係機関との協働 ・ 連携により、感染症インテリジェンスにおけるハブとしての役割を担います。科学的知見を政府に迅速に提供するとともに、国民にわかりやすい情報提供を行っていきます。

2 研究・開発機能(Research, Development and Innovation)

平時より世界トップレベルの研究体制を確保し、基礎研究、シーズ開発から臨床試験まで戦略的に進められる組織を目指します。感染症危機の際には、国内外の機関等と連携し、臨床試験を含め研究開発のネットワークハブとして迅速に対応します。

3 臨床機能(Comprehensive Medical Care)

感染症危機にJIHSの持つ機能を十分に発揮するためには、高度な臨床能力が不可欠です。そのため、国立国際医療研究センターが担ってきた総合病院機能を引き続き備え、さらに高めていくことにより、人々の健康を守ります。

4 人材育成・国際協力機能(Human Resource Development, International Cooperation)

産官学連携や国際的な人事交流などを通して、医療従事者 ・ 研究者 ・ 公衆衛生実務者など多様な専門家の育成 ・ 確保に努めます。また、グローバルヘルスに貢献する国際協力を進めていきます。

図2 JIHSの機能 出典:厚生労働省ホームページ「JIHSの目的・機能」より改変

平時の活動

AMR臨床リファレンスセンター

薬剤耐性菌が増加しつづければ、医療の継続が困難になるため、日本政府ではその対策として、初版の薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを2016年4月に発表しました。NCGMでは、AMR対策を推進するため2017年4月にAMR臨床リファレンスセンターを設置し、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランに基づく取り組みを行っています。
AMR臨床リファレンスセンターの主な活動は、臨床疫学事業、AMR対策情報 ・ 教育支援事業、そしてAMR対策の研究の3本柱となっています。
臨床疫学事業としては、医療施設内での感染症や抗菌薬使用量など、AMRに関連したサーベイランスである感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology : 以下、 J-SIPHE)を構築し、国内の感染症に関する情報収集や、データを地域連携等で活用できるよう支援しています。また、AMR対策に係る基本的な問題解決スキルの習得を目的とした医療疫学講習会(NIID共催)も開催 ・ 運営し、人材育成にも力を入れています。AMR対策情報 ・ 教育支援事業では、医療従事者の研修やガイドライン作成、国民向けの啓発資料作成など幅広く情報 ・ 教育に係る業務を行っています。AMR対策の研究としては、AMRについて十分に解明されていないことも多く、より効果的なAMR対策を確立するための研究も行っています。
NCGMは感染対策向上加算1を取得しており、地域連携カンファレンスでは、J-SIPHEデータを用いて、薬剤耐性菌の検出状況や抗菌薬の使用状況について連携施設間にて共有し、また、診療所における抗菌薬適正使用支援システムのOASCIS(診療所版J-SIPHE)データを用いて、外来感染対策向上加算取得施設の抗菌薬の使用状況や使用理由を共有するなど、地域の感染症流行状況などを把握するためにデータを活用しています。

国内アウトブレイク時の対応

国内アウトブレイク発生時には医療機関や保健所からの依頼で耐性菌アウトブレイク対策実地支援等も行っています。
AMR臨床リファレンスセンターでの活動や、厚生労働省委託事業である国際感染症危機管理対応人材育成 ・ 派遣事業や国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 国際感染症センター(Disease Control and Prevention Center : 以下、DCC)による感染症対策支援サービス(Infectious Diseases Response Service : IRS)事業の一環として、国内外の感染症危機管理について、その予防 ・ 迅速対応 ・適切な医療の提供 ・ 評価 ・ 共有を行うために、医療機関や行政 ・ 学校等からの相談への対応や情報 ・ 技術支援を行っています。他施設で薬剤耐性菌によるアウトブレイクが発生した場合には、NIID職員とNCGM職員が合同で当該施設へ出向いて現状把握し、改善が必要な場面には改善活動へのアドバイスや提言を行っています。また、他施設からの支援者とも合同カンファレンスを行い、問題点の共有や改善策の新たな提言を通じて、アウトブレイクの終息に向けた活動を行っています。さらに、感染対策向上加算の連携病院やその他の病院から寄せられる、感染対策情報全般についてや、薬剤耐性菌、COVID-19などのクラスター発生対応に関する多岐にわたる電話 ・ メール相談の対応も行っています。

国際感染症危機管理委員会の発足

NCGMは国内に4施設10床しかない特定感染症指定医療機関の1つで、感染症病床を4床有しています。特定感染症指定医療機関のため、1類感染症や2類感染症に加えて未知の感染症発生時にも患者を受け入れる施設となっています。新感染症への対応は、感染症科や院内感染管理室だけでは対応はできず、多様な診療科や看護部、コメディカルの協力が必要となります。このような経緯から、2025年3月に院内感染防止対策委員会の下部組織として、国際感染症危機管理委員会を発足しました。その中で、運営チーム、事務局、重症部会、CBRNE部会、看護部会、小児産婦部会、精神疾患部会、多文化部会、検査部会を立ち上げ、様々な部門が関わり患者対応ができるようにしています。まだ、発足したばかりのため発展途上段階ではありますが、委員会として活発に議論を重ね、受け入れ準備を進めているところです。
特定臨床研究の枠組みで特殊な感染症に関する治療薬を準備しており、当該患者が入院 ・ 治療が必要になった際にすぐに薬物治療が行えるように薬剤部とも密に連携を取り、治療体制を整えています。
※CBRNE:C:chemical化学的、B:biological生物学的、R:radiological放射線、N:nuclear核、E:explosion爆発、をまとめて表記したもの

国際感染症危機管理対応推進センター

昨今、感染者数の増減を繰り返すCOVID-19や2022年にアウトブレイクを引き起こしたMpoxやウガンダにおけるスーダン型エボラウイルス病などの経験から、感染症危機管理の体制構築、ならびに対策整備が喫緊の課題となっています。
国際感染症危機管理対応推進センターは、COVID-19発生初期の経験を活かし、今後、海外で国際的に脅威となりうる新たな感染症の発生に備えるため、2022年12月にDCC内に開設されました。
国内の感染症専門家が海外で円滑に業務を行えるよう必要な能力や技術の向上に努めるとともに、海外の感染症危機管理に携わる協力機関とのネットワーク強化を使命として活動しています。この使命を達成するために、感染症専門家を対象とした研修や情報共有の機会を提供するとともに、海外の協力機関との連携強化に資するカンファレンスやシンポジウムを開催し、感染症危機管理対策に貢献します。また、国際保健機関(WHO)のGlobal Outbreak Alert and Response Network(GOARN)という枠組みを通し、国際的な貢献も行っていきます(写真1)。

写真1 National Emerging Special Pathogens Training and Education Center(NETEC)の職員の皆さんと記念撮影

人材育成 ・ 国際協力

職員を海外へ長期派遣、短期派遣等行い、技術協力や緊急援助などを行っています。また、グローバル保健医療人材を育成する活動として、JICA(Japan International Cooperation Agency)などと連携し、海外からの研修生を国際医療協力局へ多く受け入れています。研修生は、病院長、医師、看護師、検査技師などの医療関係者や、保健省大臣など行政職員の参加もあり、感染症に関する研修を行っています(写真2)。
NCGM所属の私たちですが、国際医療協力局とも連携し、外国人向け研修のひとつである「院内感染管理指導者養成研修」で講師を担当し、感染管理に関する講義や実習を行っています。

写真2 JICA AMR研修の様子

特定感染症指定医療機関

前述したように、NCGMは、特定感染症指定医療機関としての病床(以下、特定感染症病棟)や、結核をはじめとする2類感染症までを受け入れることが可能な病床を有しています。
特定感染症指定医療機関は、未知の病原体による新感染症の所見がある者、またはエボラ出血熱等の1類感染症、中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome:以下、MERS)等の2類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者等を受け入れる医療機関として、厚生労働大臣が指定している病院です。全国に4医療機関あり、NCGM(4床)の他には、千葉県の成田赤十字病院(2床)、愛知県の知多半島りんくう病院(2床)、大阪府のりんくう総合医療センター(2床)があります。いずれも国際線が乗り入れる空港や港が近い場所に設置され、海外で発生した新感染症等の患者を受け入れることもできるような場所に設置されています。NCGMでは、過去に重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome : SARS)やMERS、エボラ出血熱の疑似症や、新型インフルエンザA/H1N1、COVID-19の初期の患者の受け入れを行いました。

特定感染症病棟の特徴

NCGMの特定感染症病棟は、一般病床とは棟が異なる場所に設置され、新感染症を発症した重症患者や産婦も受け入れることができるように、特殊な設備になっています(写真3)。病室は陰圧に設定されており、一般的な廊下から病棟内の廊下(前々室)、前々室から前室、前室から病室へとそれぞれ各-10hPaの陰圧で、病室は計-30hPaの陰圧となっています。扉は、病室の扉と前室の扉といった、続いている複数の扉が同時に開かないようなインターロックシステムを導入し、人の出入りにより病原体が漏れ出ないような構造になっています。また、病室内空気を取り込む吸入口と外気へ排出する排気口にはHEPAフィルターが設置され、病室で使用した水は高圧蒸気滅菌処理され下水に排出、廃棄物は室内に設けられた高圧蒸気滅菌装置で処理してから外へ排出を行うなど、病室の外に病原体がでないようにする設備も備わっています。

写真3 特定感染症病棟の病室

新興感染症への備え

特定感染症病棟での平時の取り組み

特定感染症病棟の4床は、通常は使用しておらず、有事のときに行政とNCGMの院長、および特定感染症病棟の責任者が協議し、必要に応じて病棟を開棟します。スタッフは、医師が感染症科、呼吸器内科、救急科、集中治療科、腎臓内科、産科等の約20名、臨床経験が豊富な副看護師長レベルの看護師25名、臨床検査技師4名、放射線技師4名、臨床工学技士2名が併任し、普段はそれぞれの部署で勤務していますが、新感染症等の受け入れで特定感染症病棟が開棟するとなった場合には、特定感染症病棟で勤務を行うこととなります。
新感染症はいつ発生し、特定感染症病棟で受け入れることになるかわかりません。したがって、急に患者を受け入れることになっても対応できるように、日頃から院内感染管理室と併任者は協働で準備を行っています。
平時の取り組みとして、まずはどの職種も個人防護具(Personal Protective Equipment : 以下、PPE)の装着練習を行っています。PPEは新感染症を想定し、タイベックスーツにガウン、手袋(2重)、N95マスク、ゴーグル+フェイスシールド、シューズカバー+ブーツといった通常の病棟では装着しない装備になります(写真4)。エボラ出血熱に曝露した医療従事者の多くはPPEの脱衣時に曝露し、PPE着脱のトレーニングを行う仕組みがなかったといわれています1)。したがって、定期的にPPE着脱のトレーニングを行うことはとても重要となります。NCGMでは、PPE着脱手順をチェックリスト化し、それを元にトレーニングを5回以上行うとライセンスが取得できるようにしています。しかし、ライセンスを取得していても、実際の患者受け入れ時には焦りから着脱手順がわからなくなるリスクもあるため、PPE着用方法と脱衣方法の別々のポスターを該当の場所に掲示し、手順を忘れた場合でも確認しながら着脱が行えるような環境に整えています(写真5)。
2つ目の平時の取り組みとしては、併任者の定期的なミーティングを行い、国外の感染症の発生状況やエボラ出血熱等の病態といった知識面に関することから、新感染症患者の清潔ケアや吐物処理、開棟時の物品等の準備といった技術面に関することなどを習得する機会を設けています。

写真4 特定感染症病棟で装着するPPE例

写真5 PPE脱衣方法 ポスターの掲示(特定感染症病棟 病室の前室)

有事を想定した訓練

NCGMの特定感染症病棟の併任者は、前述のようなPPE着脱等の平時の取り組み以外に、有事を想定した訓練も実施しています(写真6)。訓練は、主に病院内の医師、看護師、放射線技師、検査技師、事務職員など多職種が参加して実施する訓練と、空港等の検疫所や保健所、自衛隊、NIID等の行政や他施設と合同で行う訓練があります。
病院内の多職種が参加する訓練は、入院の病室準備から開始し、患者の病室への搬送とレントゲン撮影や検体採取などを行う内容や、救急外来から特定感染症病棟への患者搬送訓練、患者の急変対応訓練、ご遺体のケアおよび搬送訓練など、実際に特定感染症病棟に患者を受け入れた場合に起こりうる様々なシチュエーションを想定しています。訓練には、事前にシナリオを参加者に公開してから実施する「シナリオ訓練」と、参加者に進行やシナリオを事前に与えず、想定のみを伝えて行う実践的な「ブラインド型訓練」があり、それぞれ年1回ずつ実施しており、院内の職員だけでも年間最低2回は訓練を行っています。病院外の職員と合同で行う訓練では、他施設での患者発生から特定感染症病棟への受け入れの実際の協議や患者搬送を含む入院受け入れ訓練を年1回以上実施しています。それ以外にもNETECとの合同訓練など、国外の施設とも訓練を実施することもあります。
訓練は、併任者が日頃の学びを実際の受け入れに活かせるかを実践を通じて振り返り、学ぶ場にもなります。それと同時に、自施設のマニュアルや運用上の課題を見出すことができる貴重な場となっています。

写真6 患者対応訓練の様子

新興感染症対応に関する人材教育

JIHSは、新興感染症などの重大な感染症危機に備えるための人材育成の役割を担っているため、前述したような新興感染症への平時からの備えや対応訓練を通して得たリソースを、他の医療施設へ広める活動も重要となります。現在は、各研究班の活動の一環として、日本における新興感染症の備えを向上させることを目的に、1類感染症セミナーの実施や第一種感染症指定医療機関とのワークショップなどを実施しています。それ以外には、国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業の一環として、他施設の新興感染症受け入れ時の設備や運用に関する助言なども行っています。

今後の課題と展望

JIHSはまだスタートしたばかりです。日本の新興感染症等をはじめとする重大な感染症危機の備えを向上させる役割を担うためには、

  1. 今後は、国内外の感染症のサーベイランス結果や感染症および感染対策に関する最新の知見などを周知し、自施設の対策に活用してもらえるようなシステムの充実を図る

  2. 特定感染症病棟等で得られたリソースや感染対策をより多くの施設に周知し、新興感染症対応や感染対策を行える人材育成に貢献する

以上の2点が課題と考えます。そして、その課題を達成するためにも、前述したような様々な部署や事業が今後も連携を密にして、それぞれの活動やその成果、課題を共有し、他の医療施設に活用してもらうリソースをさらに充実させていきたいと思います。

参考文献

1)Centers for Disease Control and Prevention:Ebola virus disease in health care workers- Sierra Leone, 2014. MMWR 2014;63:1168―71.

hoscom22-3-feature.pdf