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HosCom 2025 vol.22 no.2

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輸入感染症への備え、できていますか?

椎木 創一
沖縄県立中部病院 感染症内科 部長

※本記事は、「HosCom 2025 vol.22 no.2(2025年7月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

渡航者の増加・渡航者との接触の増加

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行後、減っていた訪日外国人および出国日本人数はこの数年で急激に増加して2024年には年間合計4,988万人に達し、COVID-19流行以前の状況に戻っています1)。 また、日本で生活する在留外国人数も2024年に376万人余りとなり、過去最高となりました2)。その中には留学生や外国人労働者も含まれ、彼らが国外の故郷に戻り、友人や親族と会うVFR(Visit Friends and Relatives)では、マラリアやA型肝炎、結核など現地で流行している感染症に罹患する可能性が高いことが指摘されています3)。こうした日本社会の変化は大都市だけでなく地方でも起きており、扉を開けて入ってくる患者が渡航後であったり、渡航者と接触歴があったりすることは、どの医療機関であっても不思議ではなくなっています。

輸入感染症のピックアップと感染対策初動の重要性

2018年、沖縄県で101人の麻疹罹患者が発生しました4)。その最初の1人は国外からの旅行者であり診断前に症状があるにも関わらず県内を移動しており、結果的に四次感染者まで発生しました。この患者は当院救命救急センターを受診しましたが、当時沖縄県で麻疹の発生は報告されておらず、最初は麻疹とはわかりませんでした。しかし、原因が明確でない発疹と気道症状から、救命救急医師が麻疹を鑑別診断として挙げて空気予防策を迅速に開始してくれたことで、院内で職員や他患者に感染は起こりませんでした。つまり、いかに早く疑いを持つことができるかどうかが、輸入感染症対策の最大の鍵といえます。
このときから当院では、救急外来受診者への渡航歴聴取をルーチンで行うこととしました。どのような主訴で来院した患者についても受付で「発熱」「発疹」「海外渡航歴」の有無を確認し、そのうち2項目以上該当する場合には速やかにトリアージ担当看護師に声をかけ、医師と相談することにしています(図)。そこで具体的な鑑別診断を挙げることで、確定診断がついていなくても必要な感染対策を開始することに役立ちます(表1)。
渡航歴の聴取は難しい作業ではありませんが、外来での日常診療に組み込まれていないことが多いようです。病院だけでなくクリニックでも来院患者への聞き取り項目として活用できると、輸入感染症の早期診断につながるだけでなく、疑いを持った時点で感染対策を開始し、院内での二次感染者を減らすことができると考えます。

図 トリアージに使用する問診票(「発熱」「発疹」「海外渡航歴」の有無を確認)

表1 受診申込書のチェック項目(海外渡航歴、発熱、発疹)が2項目以上該当する場合の主要鑑別診断と感染対策
下線:急速に重篤になりうる感染症 赤字:比較的コモンな感染症

「やばい」輸入感染症を見逃さない

渡航歴のある患者でも、国内で曝露した感染症や、インフルエンザやCOVID-19などのコモンな感染症であることが多いので、まずはそれらを念頭にワークアップします。その上で渡航関連疾患を考えた場合、渡航歴から推察される潜伏期間は有益な情報です(表2)5-6)。また、数多くの輸入感染症がありますが、まずは頻度が高いものを想起することが有用です。例えばアジアへの渡航歴があれば「Asian Big 5」と言われる疾患を想起します。これには「マラリア」「腸チフス」「デング熱」「リケッチア症」「レプトスピラ症」が含まれ、悩ましいときにはまずはこれらからチェックしていくとよいでしょう。
さらに輸入感染症として注目する必要があるのが薬剤耐性菌です。世界的に薬剤耐性(Antimicrobial resistance : AMR)対策の必要性が高まっていますが、国際旅行はそのリスクになるという指摘があります。旅行者の約30%が薬剤耐性菌を獲得していたという報告もあり、特に抗菌薬使用歴、渡航先(例 : 薬剤耐性大腸菌は東南アジアや南アジア、北アフリカで多い)、そして旅行者下痢症の発症が薬剤耐性菌の獲得との関連性を指摘されています7)。渡航地で医療サービスを受けた患者については、便による耐性菌スクリーニング検査などを考慮してもよいかもしれません。
そして、すぐに専門医に相談したほうがよい輸入感染症も存在します。特に、意識障害や出血症状を伴う感染症には注意が必要であり、髄膜炎菌敗血症やウイルス性出血熱がこれに該当します。また日本脳炎や狂犬病、黄熱、アフリカトリパノソーマ症、そして熱帯熱マラリアなども意識障害をきたし、非常に重篤になり得ます8)。これらの感染症が疑われる場合には、接触・飛沫予防策を十分行いながら速やかに専門医と連携する必要があります。感染対策向上加算に関連して、算定施設には新興感染症への対策についてシミュレーションを含めた訓練が求められていますが、こうした危険な疾患を想定して疑い事例への対応を日頃から準備しておくことも有意義だと考えます。

表2 主な輸入感染症の潜伏期間

世界とつながる日本:Epidemic intelligenceの重要性

ヒトの移動が活発化している現在では、他国で発生している感染症が日本に入りこむ頻度は増え、スピードも速くなっています。そのため、事前に備えをする必要がありますが、適切に対応するためには国内だけでなく国外で発生している感染症についてもタイムリーに情報を入手しておく必要があります。
国内発生については感染症発生動向調査に基づく定点報告や全数把握の対象疾患のデータがJIHS(Japan Institutefor Health Security : 国立健康危機管理研究機構)や保健所から提供されています。このように常時発生している感染症について継続的にその状況をモニタリングする方法をIndicator-based surveillance(IBS)と呼びます。一方、国際的に発生している感染症について、WHOなどの国際機関や信頼できる感染症情報収集機関・報道からの情報を収集する活動はEvent-based surveillance(EBS)と呼ばれます9)。特にこのEBSは医療機関が地域の保健行政機関と連携して、今後強化していく必要があると考えます。
現在ではインターネットを通じて世界から幅広い情報を素早く収集し、AIを活用して翻訳することも簡便にできるようになっています。表3のような国際機関や信憑性の得られたサイトを活用してIBSやEBSのようなEpidemic intelligence活動を行うことも、感染対策担当者の重要なミッションになってきていると感じます。拡がるスピードを増している感染症の脅威に対して、ヒトもこうした情報ツールと地域で培った常日頃のネットワークを活かして迅速に対抗することが求められています。
2025年4月1日、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの2つの組織が統合し、JIHSが設立

表3 世界的に問題になる感染症のチェックサイト

参考文献

1)国土交通省 官公庁. 訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移(日本政府観光局JNTO)https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shutsunyukokushasu.html Accessed April 29, 2025.
2)出入国在留管理庁. 報道発表資料 令和7年3月14日 令和6年末現在における在留外国人数について https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00052.html Accessed April 29, 2025.
3)Matteelli A, et al. Visiting relatives and friends (VFR), pregnant, and other vulnerable travelers. Infect Dis Clin North Am. 2012 Sep;26(3):625-35. doi: 10.1016/j.idc.2012.07.003. PMID: 22963774.
4)外国人観光客を発端とした麻しんアウトブレイクの行政対応-沖縄県. IASR Vol.40 p53-54: 2019年4月 https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/8734-470r02.html Accessed April 29, 2025.
5)Suh KN, et al. Evaluation of fever in the returned traveler. Med Clin NorthAm. 1999 Jul;83(4):997-1017. PMID: 10453260.
6)Control of Communicable Diseases Manual, 21st Editionz
7)Paquet D, et al. Fever in the Returning Traveler. Dtsch Arztebl Int. 2022 Jun7;119(22):400-407. doi: 10.3238/arztebl.m2022.0182. PMID: 35469592;PMCID: PMC9492913.
8)Lo Re V 3rd, et al. Fever in the returned traveler. Am Fam Physician. 2003 Oct 1;68(7):1343-50. PMID: 14567489.
9)WHO. Early detection, assessment and response to acute public health events: implementation of early warning and response with a focus on eventbased surveillance(2014) https://www.who.int/publications/i/item/WHOHSE-GCR-LYO-2014.4 Accessed April 29, 2025.

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