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HosCom 2025 vol.22 no.2

聞いてみよう!となりの感染対策

NICU・GCUにおける感染対策

中村 明世
奈良県立医科大学附属病院 看護部/感染管理室 感染管理認定看護師
徳谷 純子
奈良県立医科大学附属病院 看護部 看護師長/感染管理室 感染管理認定看護師
笠原 敬
奈良県立医科大学附属病院 感染症内科教授/感染管理室 室長
水本 珠美
奈良県立医科大学附属病院 総合周産期母子医療センター 看護師長
角谷 哲基
奈良県立医科大学附属病院 総合周産期母子医療センター 助教
内田 優美子
奈良県立医科大学附属病院 総合周産期母子医療センター 病院教授

※本記事は、「HosCom 2025 vol.22 no.2(2025年7月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

当院は、奈良県で唯一の総合周産期母子医療センターです。新生児集中治療部門(NICU21床 ・ GCU24床)では、新生児専門の医師および看護師が24時間体制で、早産児、極低出生体重児、病的新生児の治療に従事しています。そのため、NICUの医師や助産師 ・ 看護師に加えて、他診療科の医師やさまざまな部門の職種が新生児医療に関わっており、看護師を中心に標準予防策および感染経路別予防策の徹底を図ってきました。しかし、2022年春、NICU ・ GCU部門では、従来のゾーニングや手指衛生推進活動を継続する中で、さらに感染対策の効果を高める必要があると認識しました。そこで、NICU ・ GCUと感染管理室で話し合い、感染対策の見直しとして次の3つの柱を掲げ、活動を進めました。

感染対策見直しの3つの柱

  1. 感染対策に関する曖昧な知識や認識を明確にするためのルール作り

  2. 手指衛生の推進活動

  3. 業務改善(物品の見直しやタスクシフト)

1. 感染対策に関する曖昧な知識や認識を明確にするためのルール作り

感染対策に関する現場での知識や認識の曖昧さを解消し、誰もが共通理解して実践できるルールを策定しました。特に、WHO手指衛生多角的戦略へ取り組むためのツールの1つ「WHO手指衛生自己評価フレームワーク (2010年)」1)をNICU ・ GCU部門における多角的かつ戦略的なアプローチとして活用し、組織全体での評価と改善に取り組みました。これまでWHO手指衛生多角的戦略の5つの要素(図1)の内、【3の要素:測定評価】に該当する直接観察は、これまでも手指衛生の遵守率向上を目的に、平時や耐性菌のアウトブレイク兆候がある時から実施してきましたが、十分な改善がみられませんでした。観察結果をスタッフにフィードバックした後、直接観察を担当する職員と現場スタッフの間で、「患者ゾーン」と「医療エリア」の認識にズレがあることが分かりました。
特にNICUでは、保育器の内部のみを「患者ゾーン」と捉えるスタッフと、児が触れることのない保育器の外側にある医療機器を含めたエリアも「患者ゾーン」と認識するスタッフが混在していました。現場からは、「保育器の内外でゾーンを視覚的に明確に区別したほうがよい」という意見も出ましたが、NICU ・ GCUでは頻繁に医療処置やケア、アラーム対応があり、医療機器にも患者由来の微生物が付着している可能性が高いため、話し合いの結果、保育器外の医療機器を含めた領域全体を「患者ゾーン」と定め、ゾーンの明確化を行いました(写真1)。このルール策定後、NICUのICT委員が中心となり、【2の要素:研修教育】に基づき「手指衛生の5つの瞬間:5Moments」についてNICU ・ GCUに出入りするスタッフ全員を対象とした教育を行い、知識の統一と現場での実践強化を図りました。

図1 手指衛生多角的略の5つの要素

写真1 NICU・GCUの空間:当院の医療エリアと患者ゾーン

2. 手指衛生の推進活動

改めて手指衛生の重要性を全職種で共有し、観察とフィードバックを通じて実践力の強化を図りました。特に、WHO手指衛生多角的戦略1)の【5の要素:組織文化】に基づき、NICU ・ GCUの全スタッフが「Point of Care」で確実に手指衛生を行えるよう、センター長および師長が宣言を行い、手指衛生推進活動を開始しました。その一環として、全スタッフの手指消毒剤の携帯を徹底しています(写真2)。当院では、NICUをローテーションした医師が他部署に異動後もポーチで手指消毒剤を携帯し、積極的に手指衛生を行う姿が見受けられます。また、患者家族にもPoint of Careにおける手指衛生のタイミングを理解し、実践していただけるよう、診療部門 ・ 看護部門ごとのチームが【4の要素:現場提示】として「手指衛生の5つの瞬間:5Moments」をわかりやすく示したポスターを掲示し、親しみやすいデザインを取り入れた啓発活動を実施しました(写真3)。さらに、手指衛生推進キャンペーンへの参加や、家族参加型の手指衛生活動として、患者家族がPoint of Careで手指衛生を実践できるよう、手指消毒用自動ディスペンサーを設置し、面会時や医療処置前後の手指衛生の重要性も伝えています(写真4)。これらの取り組みにより、手指消毒剤の使用量および遵守率は徐々に向上しましたが、その一方で【1の要素:物品設備】としての課題も明らかになりました。院内全体で採用している手指消毒剤が体質に合わず、「手荒れがひどく手指衛生をしたくない」「手洗いの方がまだ良い」といった声が挙がるようになったのです。この課題に対しては、手荒れ予防への啓発や適切な消毒方法の直接指導を行うとともに、NICU ・ GCUにおいてサンプル調査した結果を委員会に提出し、承認を得て先行的に複数種類の手指消毒剤を採用しました。これにより、個々のスタッフが自分に合った製剤を選べるようになり、手指消毒剤の使用量や遵守率が低下することなく推進できています。現在も、NICU ・ GCUは院内で手指消毒剤の使用量 ・ 遵守率ともに最も高い結果を維持しています。

写真2 スタッフの手指消毒剤携帯の徹底

写真3 手指衛生の5つの瞬間:5Momentsをわかりやすく示したポスターを掲示

写真4 患者家族がPoint of Careで手指衛生を実践できるよう、手指消毒用自動ディスペンサーを設置

3. 業務改善 物品の見直しやタスクシフト

NICU・GCUの児は、皮膚バリアや免疫機能が未熟であることに加え、侵襲的な処置や医療器具の使用、広域抗菌薬への曝露が多いことなどから、常に感染リスクの高い医療環境にあります。感染リスクを低減するため、児が使用する物品や物品配置を見直し、役割分担の最適化を進め、業務の効率化を図りました。 NICU ・ GCUで使用される保育器や人工呼吸器は、さまざまな部品や付属品で構成され、その構造は非常に複雑です。適切な清掃や消毒が行われないと、微生物汚染によるアウトブレイクが起こることも報告されています2)。特にNICU ・GCUで問題となりやすい黄色ブドウ球菌や緑膿菌は、環境表面に付着すると、乾燥した状態でもそれぞれ7日〜7か月(黄色ブドウ球菌)、6時間〜16か月(緑膿菌)もの間、感染性を維持することが知られています3)。このようなリスクに対応するため、使用する器具 ・ 備品を再検討し、共用物品を減らして個別専用化を進めました。また、共用物品については、薬剤部門の協力により、内服薬(常備薬)や浣腸薬を個別処方に切り替えました。さらに、布製品や消耗品(布製ミトン、洗浄後再使用していた特殊な布製品や備品)は、滅菌済みの統一パッケージ製品を導入し、運用方法を明確にしました。ミルク分注や哺乳瓶洗浄は栄養部門が担当し、保育器の洗浄 ・ 消毒は専門スタッフ(障がい者雇用スタッフ)を配置しました。これらの業務 ・ 役割の再編や効率化により、看護師の負担が軽減され、日常ケアや環境整備に必要な時間を十分確保できるようになっています。その結果として看護や環境整備の質が向上し、感染対策の強化につながっています。さらに、新型コロナウイルス対策として導入した紫外線(UVC)照射装置を活用し、追加的な殺菌対策を行っています。具体的には、薬剤耐性菌などの感染リスクが高い児に対しては、使用した保育器や医療機器などを対象に密閉空間で紫外線照射を実施することで、より効果的な殺菌を行っています。

おわりに

NICU ・ GCUでは、これまでの感染対策の取り組みを振り返り、その効果を高めるためにNICU ・ GCUと感染管理室が協力して対策の見直しを行いました。特に、

  1. 感染対策に関する曖昧な知識や認識を明確にするためのルール作り

  2. 手指衛生の推進活動

  3. 業務改善(物品の見直しやタスクシフト)

という3つの柱を軸に活動を進めたことで、現場の感染対策に対する意識や実践が大きく向上しました。NICU ・ GCUは、早産児や重症新生児が長期間にわたって入院する特性上、感染管理が極めて重要です。スタッフ全員が同じ認識のもとで標準予防策を徹底し役割分担を最適化することで、安全で安心な医療環境の提供を目指してきました。今後も、職種を超えたチームで協働しながら日々変化する状況に柔軟に対応してより質の高い感染対策を継続し、赤ちゃんやご家族にとって安心して過ごせるNICU ・ GCUであり続けられるよう努めてまいります。

引用・参考文献

1)AMR臨床リファレンスセンターHP:WHO Hand Hygiene Self-Assessment Framework 2010(WHO手指衛生自己評価フレームワーク2010年)https://amr.ncgm.go.jp/pdf/medic-m1.pdf. Accessed March 10, 2025.
2)S.Eldirdiri et al, Outbreak of gentamicin-resistant, meticillinsusceptible Staphlococcus aureus on a neonatal unit, Journal of Hospital Infection 2018 Apr 98(4), 419-424.
3)Axel Kramer et al, How long do nosocomial pathogens persist on inanimate surfaces? A systematic review, BMC Infect Dis. 2006 Aug16(6), 130.

hoscom22-2-nextdoor.pdf