HosCom 2025 vol.22 no.1
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草案から読み解く!CDC隔離予防策ガイドライン
- 矢野 邦夫
- 浜松市感染症対策調整監・浜松医療センター 感染症管理特別顧問
※本記事は、「HosCom 2025 vol.22 no.1(2025年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
はじめに
COVID-19の影響を受け、CDC(米国疾病予防管理センター:Centers for Disease Control and Prevention)は隔離予防策ガイドラインの改訂に向けて動き出しました。「医療現場における病原体の伝播を防ぐための2024年ガイドライン(草案)」(以下、隔離予防策ガイドライン草案)を公開し、各方面からの意見を求めています1)。現時点では草案であるため、様々な変更がなされてゆくと思われますが、その基本的な考え方については草案から読み解けるのではないでしょうか。ここでは、CDCおよびWHO(世界保健機関: World Health Organization)が既に公開している文書の内容を加えて、草案から読み取れるメッセージを明らかにしたいと思います。
メッセージ①:飛沫感染と空気感染という二分法は解消される
これまでの隔離予防策ガイドラインでは、飛沫は伝統的に5μmを超えるサイズとして定義されてきました。そして、飛沫核(浮遊している飛沫の乾燥によってできる粒)は5μm以下のサイズとして定義され、空気中に長時間浮遊できることから空気感染に関連するとされてきました2)。しかし、COVID-19のパンデミックにおいて、「空気感染」、「飛沫感染」、「エアロゾル感染」という用語がさまざまな関係者によって異なる方法で使用され、この病原体(SARSCoV-2)が空気を介して人々にどのように伝播するかを伝える際に混乱を招きました。そのため、WHOと4つの公衆衛生機関(アフリカ疾病予防管理センター、中国疾病予防管理センター、欧州疾病予防管理センター、米国疾病予防管理センター)の間で用語に関する合意が共有されました3)。ここでは「感染性呼吸器粒子(IRP: infectious respiratory particle)はサイズの連続スペクトル上に存在しているため、小さい粒子と大きい粒子を区別するために明確なカットオフポイントを適用すべきではない。サイズの連続スペクトルを認識することで、「エアロゾル」(一般に小さい粒子) と「飛沫」(一般に大きい粒子)などの従来のよく知られた用語の二分法から脱却できる」と記載されています。隔離予防策ガイドライン草案でも同様に、「大きな飛沫による飛沫感染と小さな粒子による空気感染というこれまでの二分法は解消され、粘膜表面への沈着や吸入を介して伝播する『連続した粒子サイズ』が存在することが認識された」と記載されています4)。すなわち、これまで親しんできた「飛沫感染」「空気感染」という感染経路の概念は消失し、「連続した粒子サイズ」という概念のもとで「空気を介した伝播」を考えることになります。
メッセージ②:空気を介した伝播を防ぐための感染経路別予防策には日常的空気予防策、特別空気予防策、強化空気予防策がある
飛沫予防策と空気予防策は、伝播の連続性をより適切に反映するため、3つのカテゴリーに分割されました(表1)1)。「日常的空気予防策(routine air precautions)」は、短距離で拡散し、個人とその地域社会がある程度の免疫を持っている可能性が高い、一般的(しばしばエンデミック)な呼吸器病原体の伝播を減らすことに重点を置いています。「特別空気予防策(special air precautions)」は、軽症以上の症状を引き起こし、免疫(またはワクチン)も効果的な治療法もなく、長距離(換気システムなどを通じて)での効率的な拡散がみられない新興呼吸器病原体を有する患者に適用されます。「強化空気予防策(extended air precautions)」は、室内の空気を封じ込める必要がある(例. 廊下への病原体の移動を防ぐ)など、長距離および長時間にわたって効率的に拡散する病原体を有する患者に適用されます。
メッセージ③:介護施設の多剤耐性菌対策では接触予防策ではなく、強化バリア予防策を実施する
隔離予防策ガイドライン草案では接触を介した伝播を防ぐための感染経路別予防策として、接触予防策に加えて「強化バリア予防策(enhanced barrier precautions)」が記述されています(表2)。強化バリア予防策は、熟練介護施設(入院患者のリハビリや治療のために医療従事者が配置された施設)における多剤耐性菌の感染予防を目的としています1,5)。
介護施設の入居者は、多剤耐性菌による保菌や感染症を発症するリスクが高まっています。実際、介護施設の入居者の50%以上が多剤耐性菌を保菌している可能性があり、介護施設が多剤耐性菌のアウトブレイクの現場となっています。もし、介護施設が多剤耐性菌対策として接触予防策を実施しようとするならば、「多剤耐性菌の伝播を防ぐための個人防護具の使用と部屋の制限」と「入居者の生活の質」のバランスを取らなければなりません。接触予防策では入居者は、医学的に必要なケアを除き、自分の部屋に閉じ込められ、グループ活動への参加は制限されるからです。そのため、多くの介護施設では、入居者が多剤耐性菌に感染して治療を受けている場合にのみ接触予防策を実施しています。しかし、活動性感染症のある入居者だけに焦点を当てても、多剤耐性菌を保菌している入居者からの継続的な感染リスクに対処することができません。多剤耐性菌の伝播を防ぐための接触予防策はほとんどの介護施設にとって実施不可能なのです。
介護施設において多剤耐性菌対策を実施するならば、「ケアの特殊な状況(例. 家庭のような環境)」および「多剤耐性菌に感染または保菌した入居者に対する接触予防策実施の問題点」を考慮する必要があります。また、多剤耐性菌の保菌は長期間 (たとえば、数か月から数年)持続することがあります。接触予防策で推奨されているように、入居者が自分の部屋から出ることを制限すると、長期にわたる隔離につながり、全体的な健康と福祉が損なわれることになります。そのためには、介護施設では接触予防策ではなく、強化バリア予防策が推奨されるのです。
メッセージ④:個人防護具は制御法の階層構造の最後にある
労働安全ではハザード対策の階層構造が用いられており、それらは5つの階層に分けられています。CDCはこの階層構造を感染対策の領域に持ち込みました1,6)。医療環境での感染性病原体の伝播リスクを下げるためには複数の制御法があり、それらを5つの階層に分けたのです(図)。この階層構造は、効果の大小に基づいて優先的に実行される順序で構成されます。
制御法の階層構造
排除(elimination):例えば、COVID-19を医療施設内に持ち込まないように、直接受診ではなくバーチャル受診するなど、施設への病原体の侵入を防止します。
置換(substitution):置換とは、危険物のより安全な代替を使用することです。労働安全での一例として、溶剤ベースの印刷インクの代替として植物ベースのインクを使用することが挙げられます。通常、置換は感染性病原体には適用されませんが、適用するならば危険性の高い病原体をより危険性の低い形態で置換することになります(毒素産生性 Clostridioides difficileを非毒性へ置換するなど)。
工学的制御(engineering controls):工学的制御には、機器や作業スペースの改造、防護壁の使用、換気などが含まれます。工学的制御は、管理制御や個人防護具よりも初期コストが高くなる可能性があります。しかし、複数の作業者を保護する場合は、長期的な運用コストが低くなる傾向があります。
管理制御(administrative controls):管理上の制御により、曝露の期間、頻度、程度を減らすことができます。医療現場では病原体への曝露や病気を防ぐ作業方針と手順が挙げられます。医療従事者のワクチン接種も管理制御に含まれます。
個人防護具(personal protective equipment):病原体の曝露と拡散を防ぐために使用します。具体的には、手袋、ガウン、マスク、ゴーグルなどが含まれます。
排除、置換、工学的制御は、人間の影響を受けずに曝露を制御できるので効果的です。一方、個人防護具を適切に使用するには使用者に依存し、診療現場での状況に左右されます。そのため、効果が安定せず、階層構造の最後にあります。
おわりに
現在、CDCは隔離予防策ガイドライン草案を公開していますが、その内容に大きく関連している資料が既に公開されています3,5)。これらの関連文書の内容も加味して草案を読んでみると、さらに理解しやすくなると思います。この草案で特に注目される内容が「飛沫感染と空気感染の二分法からの脱却」と「熟練介護施設における強化バリア予防策」だと思います。
これらは日本における感染対策に大きな影響を与えるものと推測されます。
参考文献
1)CDC. Draft 2024 Guideline to prevent transmission of pathogens in healthcare settings.https://www.cdc.gov/hicpac/media/pdfs/draft-2024-guideline-toprevent-transmission-of-pathogens-2023-10-23-508.pdf (Accessed Nov 2, 2024)
2)CDC. Guideline for isolation precautions: Preventing transmission of infectious agents in healthcare settings, 2007. https://www.cdc.gov/infection-control/media/pdfs/Guideline-Isolation-H.pdf (Accessed Nov 2, 2024)
3)WHO. Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air. https://www.who.int/publications/m/item/global-technicalconsultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-thattransmit-through-the-air (Accessed Nov 2, 2024)
4)CDC. A CDC Update on the part one draft update to the guideline for isolation precautions: Preventing transmission of infectious agents in healthcare settings. https://blogs.cdc.gov/safehealthcare/draft-2024-guideline-toprevent-transmission-of-pathogens-in-healthcare-settings/ (Accessed Nov 2, 2024)
5)CDC. Implementation of personal protective equipment (PPE) use in nursing homes to prevent spread of multidrug-resistant organisms (MDROs). https://www.cdc.gov/long-term-care-facilities/hcp/prevent-mdro/ppe.html (Accessed Nov 2, 2024)
6)CDC. About Hierarchy of controls. https://www.cdc.gov/niosh/hierarchy-of-controls/about/index.html(Accessed Nov 2, 2024)

