HosCom

HosCom 2025 vol.22 no.1

聞いてみよう!となりの感染対策

手指衛生遵守率向上に向けての取り組み

仮重 喜代美
医療法人 徳洲会 大隅鹿屋病院 看護師長 感染管理認定看護師

※本記事は、「HosCom 2025 vol.22 no.1(2025年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

手指衛生の歴史は古く、19世紀中頃にイグナッツ・フィリップ・ゼンメルワイスが、妊産婦の診察前後に産婦の診察に関わる医師などへ塩素溶液で手の洗浄を行うよう指導した結果、産褥熱の死亡率を12%から3%に低減させたことから始まりました1‐3)。日本では疫病防止のために3世紀中頃~4世紀(古墳時代)に、神社に手水舎を作り、手洗いや口をゆすぐことを行ったといわれています。
医療現場における手指衛生のガイドラインは1985年にCDC(米国疾病予防管理センター)2)、1995年にAPIC(米国感染管理疫学専門家協会)4)、2009年にWHO(世界保健機構)3)がそれぞれ発行しています。また、WHOは1,000患者あたりの手指消毒剤使用量が15L/日以上で、院内感染防止につながると提唱しており、1患者あたり20mL/日の手指消毒剤使用量を推奨しています3)。これらのことからも、手指衛生は医療従事者が行うべき必要な行為であることがわかります。

手指衛生実施回数増加への取り組み

当院では、1患者あたりの手指衛生実施回数を2017年から調査しています。調査初年度は1患者あたりの手指消毒剤の使用量は7.5mL/日とWHOが推奨している使用量の半分以下でした。そこで、看護部を中心に1患者あたり使用量をWHOの推奨量まで増加させるための取り組みを、リンクナースと共に開始しました。
まず2017年には、使用量の測定方法を検討しました。その際、1患者あたりの使用量ではイメージが付きにくかったことから、手指消毒剤の使用量を実施回数に換算することにしました。

〈部署内での取り組み〉

  1. 使用後の手指消毒剤ボトルを一か所に集め、部署ごとで使用量を計測してもらう。

  2. 勤務前の残量と勤務後の残量を各人で測定し、その差を記入してもらう。

  3. 1もしくは2で計測した使用量をイントラネットで医療感染管理室へ報告してもらう。

1,2どちらの方法でも、部署内で取り組みやすい方法を選択してもらいました。
以上の方法で実施した結果、当院の1患者あたりの手指衛生実施回数は5.8回/日(7.5mL)ということがわかりました。
続いて、2018年の1患者あたりの手指衛生実施回数は6.6回/日(8.6mL)でした。目標値を明らかにせず、「もう少し手指衛生を行いましょう」と声をかけるだけでは、当然、実施回数は増えませんでした。そこで、まずは目標値を明確にし、切りの良い単位で「1患者あたり10回/日」としました。さらに、手指衛生実施回数の結果を院内感染防止対策委員会で共有し、病院全体で取り組みを始めました。
最初に取り組んだのは、手指衛生5つのタイミングを、全職員へ周知することでした。「なぜ手指衛生を行うのか」を知ってもらい、そのうえでどのようなタイミングで実施すべきかを伝えるために、感染全体研修で講義しました。また、全部署へ「5つのタイミング」のポスターを掲示しました。さらに、「ポスターを見ながらでしか手指衛生の実施タイミングを言えないなら、手指衛生が必要なタイミングを理解していない」と考えました。そのため、ICTラウンドでは院内ラウンド時に、各部署で職員へ「5つのタイミング」を、ポスターを見ずに言ってもらう取り組みを行いました。しかし、この取り組みでは、十分な周知が進まなかったため、全体朝礼で「5月5日は何の日ですか?こどもの日ですが、それは日本だけでのことです。WHOでは5月5日(両手を出し)を、世界手指衛生の日としています。今日から当院では、毎月0と5が付く日は手指衛生の日とします。」と呼びかけ、手指衛生5つのタイミングを唱和する取り組みを行いました。さらに、毎朝行われているリーダー会議では、前月の手指衛生実施回数が最も多かった(1位)部署と最も悪かった(ワースト)部署の発表を行いました。
このような取り組みを続けたことで、2019年には、1患者あたりの手指衛生実施回数は一気に14.6回/日(18mL)となり、目標値を達成しました。そこで、新たな目標値を20回/日(25~30mL)へ変更しました。しかし、目標値は一旦達成したものの、個人別使用量にばらつきがありました。使用量が少ない職員へ聞き取り調査を行うと、多くの職員が「手荒れ」の問題を抱えていることが分かりました。そこで、手の状態によって手指消毒剤を選べるように種類を増やしました(写真1)。

図1 当院の1患者あたりの手指衛生実施回数 平均回数5.8回(2017年度)

写真1 手の状態によって選べる手指消毒剤の種類

通常使用はアルコールベースのジェルタイプですが、その他にも「少し手にやさしいタイプ」、「低アルコール2種類:ミストタイプ・泡タイプ」、「ノンアルコール2種類:両方泡タイプ」の計6種類を導入しました。通常使用のアルコールベースのジェルタイプについては資材課へ請求できますが、それ以外は医療感染管理室で管理し、申請・許可制にしました。
2020年には、コロナ禍の影響もあり、実施回数は17.1回/日(22mL)と少し増えました。また、「PPEの着脱訓練と手指衛生」のミニレクチャーを全部署で実施しました。このミニレクチャーは半年間で50回以上行い、どんな場面でも「手指衛生は感染対策の基本である」ことの周知に努めました。ミニレクチャーを行ったことで、手指消毒剤を個人で携帯する職員が急激に増えました。個人携帯用には、リールやポシェット(シングル・ダブル・トリプルタイプ)を導入し、職員が使いやすいものを選択してもらいました。2021年、コロナ禍が継続している中、さらに手指衛生の実施回数が増えてきました。各部署での取り組みをポスター掲示し、「新型コロナウイルスによるクラスターを発生させない」を目標に取り組みを継続しました(写真2)。
また、手指衛生のポスターを毎年変更し、ポスターが風景化しないような取り組みも行いました。
2023年、手指衛生の実施回数は1患者あたり42.5回/日(55mL)になりました(図2)。今後は、正しいタイミングで実施できているかの精度管理が重要だと考えています。

写真2 各部署での取り組みをポスターで掲示

図2 1患者当たりの手指衛生実施回数(2017~2023年度 推移)

まとめ

当院はこの7年間で、手指衛生の実施回数が1患者あたり5.8回/日から42.5回/日と約7.3倍に増えました。この成果には、徐々に導入した下記の「仕掛け」が重要な役割を果たしていると思います。

  1. 一気に高い目標は立てない・・・「それくらいならできるかな?」と思わせる目標値を設定する

  2. 病院上層部に働きかける
    1)手指消毒剤の種類を増やす(コスト管理)
    2)朝礼で唱和(院長・看護部長・事務長も巻き込む)

  3. 感染管病院上層部に働きかける一人で頑張らない
    リンクナースと一緒に、目標値や取り組み方法を検討する

  4. あきらめない

コロナ禍を経験したことで、「感染対策の基本は手指衛生である」ことは医療従事者以外も知ることとなりました。しかし、どれだけ手指衛生の回数が増えても感染症は0になりません。これからもあきらめず病院全体で手指衛生に取り組んでいきたいと思います。

引用・参考文献

1)AM Butz, BE Laughon, DL Gullette, EL Larson. Alcohol-impregnated wipes as an alternative in hand hygiene. Am J Infect Control. 1990 Apr;18(2):70-6.
2)満田年宏監訳. 医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン. 国際医学出版 https://www.imp-kokusaiigaku.com/support/download/CDC_handhygiene.pdf. Accessed December 8, 2024.
3)World Health Organization. WHO Guidelines on hand hygiene in health care. First Global Patient Safety Challenge Clean Care is Safer Care. https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/44102/9789241597906_eng.pdf?sequence=1. Accessed December 8, 2024.
4)ハンドハイジーン研究会. APIC実践ガイド:感染予防のための手指衛生プログラムガイド. https://www.goodhandhygiene.jp/basic/apicjapan/. Accessed December 8, 2024.

hoscom22-1-nextdoor.pdf