HosCom 2025 vol.22 no.1
地域連携
すべての病院の感染対策のレベルアップをめざす“千葉ネット”の活動
- 猪狩 英俊
- 千葉大学医学部附属病院 感染制御部 部長
※本記事は、「HosCom 2025 vol.22 no.1(2025年3月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。
千葉ネットとは
千葉県院内感染対策 地域支援ネットワーク1)(以下、千葉ネット)の目的は、千葉県内の医療機関の院内感染対策支援です。千葉県から千葉大学医学部附属病院(以下、当院)へ委託され、参加する病院等の医師、保健所長、歯科医師、薬剤師、看護師、臨床検査技師等で構成する協議会を設置して、実地支援や相談、研修会、情報提供等の活動を行っています(図1)。平たく申し上げると、顔の見える関係を構築し、率直な意見交換を通して感染対策上の課題解決を図り、千葉県内の病院の感染対策向上を目指しています。千葉ネットは2006年に発足されました。医療安全・感染対策の重要性が強調されて、ICD(Infection Control Doctor)*1やICN(Infection Control Nurse)*2が配置された頃になります。2012年以降は、保険診療の感染対策関連加算が大幅に増額されて、組織的感染対策が強化されました。この結果、病院間連携による情報共有、アウトブレイク発生時の他施設からの支援などは、現在では一般的になっています。
*1 ICD制度協議会が認定する資格で病院感染対策を実践し、感染制御の専門的知識を有する医療従事者
*2 地域や施設で感染制御活動などを行う看護師
ネットワークの法的根拠
医療法では、院内で感染症のアウトブレイクが発生すると、自施設の感染対策委員会や感染制御チーム(ICT)で適切な対策等を講じることが求められます。それでも新たな発生があった場合、保健所に報告する基準に至らない段階で「地域のネットワーク」等に相談することになります(図2)2)。千葉ネットは、地域のネットワークに相当します。モットーは、「行政の立ち入り調査ではない、仲間として支援する、時には厳しい言葉も」です。
千葉ネットの参加施設と役員
千葉県内には290病院が存在し、その中で59.0%に相当する171病院が千葉ネットに参加しています(表1)。感染対策向上加算(以下、加算)1を算定している病院の参加率は90.4%で、千葉ネットを牽引する原動力です。加算2、3算定病院は、比較的小規模病院が多くなるため、参加率は低くなり、加算を算定しない病院からの参加率は46.9%とさらに低くなります。このような病院にこそ、千葉ネットに入って欲しい、という気持ちは大いにあります。千葉ネットは16名の代表幹事で運営しています。医師、歯科医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの多職種から選任しています。更に、地域別にも選任しています。
千葉ネットの活動の4本柱
すべての病院の感染対策のレベルアップを目指すことを目的に、1:地域の医療機関からの院内感染対策に関する相談対応、2:アウトブレイクが発生した医療機関等に対する実地支援、3:研修会等の開催、4:院内感染対策の実践者の育成等となります(表2)。個人的には、2と4の優先順位が高いと感じています。
活動1:地域の医療機関からの院内感染対策に関する相談対応
メール相談になります。基礎的な相談の場合は、事務局と当院感染制御部で回答しています。複雑な相談の場合は、各代表幹事の意見を集約して回答しています。
活動2:アウトブレイクが発生した医療機関等に対する実地支援
直近の2年間の支援実績を原因微生物で分類すると、バンコマイシン耐性腸球菌が3、耐性アシネトバクターが1、MRSAが1、C型肝炎ウイルスが1施設です。いずれも加算1または2を算定する病院からで、自施設で初動を行うも、改善に至らず支援要請となりました。支援要請を千葉ネットが受理すると、アウトブレイクの内容を把握し、事案にふさわしい支援スタッフを選任します。7人から9人の多職種で編成されたチームは、当該医療機関でほぼ1日を費やして、実地指導、現場ラウンド、意見交換、スタッフミーティングを行い、簡単な講評を行います。後日、詳細な報告書を作成します(図3)。
活動3:研修会等の開催
年2回研修会を開催しています。地区代表幹事が主体的にテーマを決めて行う当番制です。最近は、活動2の実地支援を受けた病院からの改善報告の場を設定しています。当事者にとっては苦い思い出ですが、アウトブレイク事例を共有し、再発予防のために行っています。
活動4:院内感染対策の実践者の育成等
10年を1世代と考えると、恒常的な人材育成が求められます。COVID-19のパンデミックで、院内感染対策担当者への注目が集まりました。しかし、平時は少人数での感染対策を行っているのが実情でしょう。活動3の研修会もその場です。そして、CHI-IC-NET(千葉ネットの看護師のネットワーク)では、年2回の研修会を開催しています。
まとめ
図4は診療報酬改定2022で提示された感染対策ネットワークです。地域のクリニックや保健所も包含するもので、千葉ネットはこれを先取りする形で運営されてきたことになります。
診療報酬改定2024では、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が入ってきました。JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス)、J-SIPHE(感染対策連携共通プラットフォーム)等のサーベイランス基盤も整備され、中小の病院でも参加することができるようになっています。このような情報を利用して、“千葉ネット”の活動は次のステップに入っていくと考えています。それでも、“すべての病院の感染対策のレベルアップをめざして”という目的は堅持します。
参考文献
1)千葉県院内感染対策 地域支援ネットワーク. https://www.ho.chiba-u.ac.jp/dept/kansen/about/network/. Accessed November 11, 2024.
2)厚生労働省医政局地域医療計画課長通知 医政地発1219第1号 平成26年12月19日 医療機関における院内感染対策について https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0640&dataType=1&page. Accessed November 11, 2024.

