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HosCom 2024 vol.21 no.3

特集

マスギャザリングにおける感染対策~大阪・関西万博に向けて~

加來 浩器
防衛医科大学校 防衛医学研究センター長 併 同広域感染症疫学・制御研究部門 教授

※本記事は、「HosCom 2024 vol.21 no.3(2024年11月発行)に掲載した内容です。執筆者の所属および記事内容は掲載当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

はじめに

マスギャザリングとは、「一定の期間、限られた地域で、同じ目的の人が多く集まる状態」と定義されている。期間は、数時間〜数日の場合もあれば、1週間〜数週間、1か月以上〜半年程度となる場合もある。場所についても、大型客船、駅、空港、イベント会場などが挙げられ、災害時の避難所や海外での難民キャンプなども該当する。その集まりの目的は、国際会議、音楽・スポーツ行事、フェスティバル、商業活動、宗教行事、政治・抗議行動、避難など様々である。これらの状況では、交通渋滞や公共交通機関の混雑、群衆転倒事故、感染症の発生に加えて、テロを含むさまざまな健康危機管理事態の発生が予期されるため、その兆候の把握、早期対応、被害軽減策などの対応が重要である。
国内でのマスギャザリング・イベントとしては、音楽フェスティバル、野球やサッカーなどのスポーツ大会、夏の花火大会、ハロウィーン・イベントなどがある。国際的なマスギャザリング・イベントとしては、2023年の英国王チャールズ3世の戴冠式や、2024年の夏に開催されたパリのオリンピック・パラリンピック大会、さらに2025年に実施が予定されている「EXPO 2025 大阪・関西万博」などがこれにあたる。感染症は、イベント開催地域に持ち込まれることもあるが、むしろある一定時間経過後に他の地域で突然発生することも想定される。特に同期間中には、国内各地で多くの外国人が集うイベントが企画されることから、地方の医療施設等において通常見ることがないような輸入感染症に遭遇する機会も増えることだろう。そこで本稿では、大阪・関西万博の開催にあたり、どのような感染対策の備えが必要となるかなどについて、その特性を踏まえながら概説したいと思う。

大阪・関西万博のマスギャザリングの特性とは

大阪・関西万博は、2025年4月から10月までの半年間、大阪ベイエリアに位置する人工島である夢洲で開催される予定である。ボランティアは20,000人、来場者見込み数は2,820万人とされており、経済効果予測は全国で2兆9,155億円の規模である。多くの観光客が大阪市周辺に宿泊し、航空機、電車、バスなどの公共交通機関を利用して周辺地区、さらに遠隔の地方都市を訪問されるものと期待されている。このうち約350万人がインバウンド誘客(おもに中国や台湾を中心にアジア、アメリカ、イタリア、ドイツ、中東地域など)であると見込まれている1)。この期間中には、自然発生的な感染症に加えて、大規模災害やバイオテロの発生を想定した備えが必要である。

感染の3要素から見たリスク

大阪・関西万博が開催される際のマスギャザリング・イベントに関連した感染症のリスクをその成立の3要素から見てみると、感染源となる病原体は、1)輸入感染症の病原体、2)季節流行性感染症の病原体、3)大規模災害に関連する感染症の病原体、4)バイオテロなど意図的な病原体などが挙げられる。感染経路としては、3密(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声する密接場面)による飛沫感染、エアロゾル感染、空気感染などの呼吸器を介した感染や、直接・間接接触による感染のリスクが高くなるといえる。さらに空調やその他の建築物環境の曝露によるもの、屋外での活動に伴う蚊やダニ媒介感染症のリスクも高まるであろう。特に地方への誘客によって自然探索の機会が増えると、つつがむし病や日本紅斑熱、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などが潜伏期間後に他の地域へ移動後に発症することも考えられる。宿主としては、様々な免疫状態の方(感受性が高い方、免疫力が低下した方、重症化リスクが高い方)が混在しているので、発症や重症度の差が出てくる。なかにはワクチン接種が禁忌となっている方がいるなど一律な対応が難しいこともある。また、不慣れな外国人への医療対応によって診断や治療の遅れが出てくることが懸念される。このように大阪・関西万博の開催中はもちろん、その前後の期間にわたって、都市・地方にかかわらず国内すべての医療機関において、感染症対応の検討を進めておくことが重要である(図1)。

図1 感染成立の3要素から見たマスギャザリング関連感染症の特徴

大阪・関西万博の際に注意すべき疾患

感染の成立から見た感染症のリスクから、国内で国際的なマスギャザリング・イベント時において特に注意しなければならない疾患は、1)ひとたび発生するとアウトブレイクとなる可能性があるもの、2)呼吸器感染症など感染伝播が増強されるもの、3)バイオテロ病原体として使われる可能性があるもの、4)重篤となり1症例でも調査及び(又は)対策が必要となるもの、5)主催国では通常は見られない輸入感染症、6)イベント参加者が免疫を有さない土着性の疾患(風土病)、感染性が強い疾患、国際保健規則IHR(2005)の基に報告義務がある疾患といった特性を有している。具体的には、図2のような疾患群を挙げることができる。

図2 国内で国際的なマスギャザリング・イベント時に注意すべき 疾患(加來浩器.輸入感染症.医療関連感染. 12:72-77, 2019を一部改編)

大阪・関西万博の輸入感染症

大阪・関西万博では、東・東南アジアなどの近隣諸国はもちろんのこと、パビリオン出展を予定している多くの国々からも来訪者が見込まれている。したがって、これらのインバウンド増加に伴う輸入感染症は、1)来訪者の国での流行状況、2)イベント参加者の免疫状態、3)イベント開催地などでの組織的な対応策の状態に依存するといえるだろう。たとえば、南半球からの来訪者によって夏の大阪地区にインフルエンザが持ち込まれてくる、中東のMERSやアフリカ中央部の髄膜炎菌感染症が、あるパビリオンを訪問した者の中で拡がるという具合である。国内で流行がみられる感染症であっても、HIV/エイズ、B型肝炎、エムポックス、麻疹、風疹、ノロウイルス、結核、梅毒などの発生が増加することも考えられる。したがって、国際的な感染症の流行状況に関する情報は常にキャッチしておく必要がある(図3)。

図3 輸入感染症として注意すべき疾患の海外での流行状況( 加來浩器監修. 国際イベントに参加する一般市民のためのマスギャザリング感染症ナビ(シオノギ製薬)を一部改変)

おもな感染症の最近の動向

1 麻疹

麻疹は、発熱性発疹性のウイルス感染症であり、空気感染によって拡がる疾患である。潜伏期間は12日程度である。日本は、2015年に世界保健機関(WHO)から麻疹排除認定を受けたが、世界では、予防接種率が低い国において流行が続いている。特に新型コロナウイルス感染症の流行によって、ワクチンプログラムが中断・遅延し、その傾向が強くなっている。国内ではしばしば海外旅行者からの輸入感染が報じられ、公共交通機関を共にした方に対して健康観察と早期の受診について注意喚起が行われている。国内では麻疹・風疹ワクチンの接種が、第1期(生後1歳以降)と第2期(小学校就学前)の2回で行われている。2018年の接種率は、全国的に第1期が98.5%、第2期が94.6%であったが、2022年度にはそれぞれ95.4%、92.4%と低下している。特に第2期の接種率が目標の95%以上に到達した自治体は香川県の1県のみであり、85%以上から90%未満と特に落ち込んでいるのは3道県(北海道、鹿児島県、沖縄県)であった2)。このような状況で、万が一麻疹が持ち込まれた場合に、未罹患・未接種者においては典型的な麻疹(カタル症状、口腔粘膜のコプリック斑、2峰性の発熱、全身の発疹)を、1回接種のみの者においては潜伏期間が延び、典型的な臨床像を呈さない修飾麻疹を発症する可能性がある。特に医療機関に知らずと患者が来院した場合には、医療スタッフや外来患者・入院患者において二次感染が起こりえるので要注意である。

2 結核

かつて国民病とも呼ばれていた結核は、2021年にはじめて年間の新規患者発生数(罹患率)が10万人対で10を下回る9.2となり、日本は「低まん延国」の仲間入りをした(図4)。しかし、WHOによると、2022年には世界で年間約1,060万人が発症し、内130万人が死亡(16万7,000人がエイズを合併)、41万人が多剤耐性結核で5名のうち2名しか必要な治療が受けられないという疾患である。結核の感染者は、アジアとアフリカに集中しており、8か国(インド、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン、ナイジェリア、バングラデッシュ、コンゴ民主共和国)で全感染者数の2/3を占めている(図4)3)。2022年の国内の新規患者数は10,235人、罹患率は8.2であり、欧米諸国に比していまだに高い状況である。その罹患率には地理的なばらつきがあり、大阪府、大分県、長崎県、徳島県、和歌山県で高い傾向にある(図5)。70歳以上の高齢者が全体の65%を占めている。なかには多剤耐性菌保有者も少数ながら(26人中14人が外国出生患者)確認されている4)

図4 2022年の世界の全結核の発生状況 (WHO Global Tuberculosis Report 2023 より引用)

図5 2022年の国内の全結核罹患率(公益社団法人 結核予防会結核研究所 疫学情報センター全結核罹患率地図 より引用)

3 侵襲性髄膜炎菌感染症

侵襲性髄膜炎菌感染症は、ヒトの鼻腔に存在する髄膜炎菌が飛沫感染によってヒトーヒト感染を起こす疾患である。莢膜の多糖体の抗原性の違いによってA群、B群、C群、Y群、W群、X群などの菌株が知られている。国内では、従来Y群が最も多い菌株であったが、コロナ以降はB群の占める割合が増加してきている(図6)。髄膜炎菌そのものは、寒冷や乾燥に弱く、自然界の条件では生存できないために、3密などの条件下で感染が拡がりやすい。潜伏期間は2〜4日である。日本では幸いなことに年間の発生数は50名以下にとどまっているが、ひとたび発症すると分〜時間単位で重症化が進行し、髄膜炎、敗血症、電撃性紫斑病、Waterhouse-Friderichsen Syndrome(WFS)を発症し死に至ることがある。好発年齢は青年層と高齢者層である。国内では発症防止のためにA,C,Y,W群の4価ワクチンが使用可能であるが、近年ワクチンでカバーできないB群の割合が増加傾向である。米国では、B群を含む5価ワクチン(A,B,C,Y,W)が承認されているが、最近Y群による患者数の増加を受けて、2024年3月25日に米国疾病予防管理センター(CDC)が医療従事者に対して必要なワクチン接種を行うように勧告をおこなった5)。東京2020オリンピック開催時には、選手村、競技会場内で海外からのアスリートなどの診療に従事する医療スタッフ(医師、看護師、歯科医師、歯科衛生士)に対してワクチン接種が行われた6)。感染症法に基づく医師からの届け出によると、2013年から2024年の間に282名の感染者が報告されているが、15件以上の報告があった都道府県は東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、兵庫県、千葉県の6都府県であり、国内の多くの医療機関は症例を経験していない(図7)。輸入感染症としての本疾患に対する認知度を高めていく必要がある。

図6 世界各地での髄膜炎菌感染症の流行株(Epidemiology of invasive meningococcal disease worldwide from 2010- 2019 : a literature review を一部改編)

図7 都道府県別にみた侵襲性髄膜炎菌感染症の発生状況(2013年〜2024年)

4 デング熱

デング熱は、ネッタイシマカ及びヒトスジシマカが媒介するウイルス感染症である。潜伏期間は3〜7日で東南アジア、南アジア、中南米、アフリカなどの熱帯・亜熱帯地域で流行しているが、感染した者の内80%は不顕性感染であり、20%が発症し、発熱、頭痛、関節痛、発疹の症状を呈するといわれている。ウイルスは1型から4型まで4種のウイルスに分類されており、それぞれのウイルス型に対しては終生免疫が獲得されるが、他の型に対して一過性の交差免疫が作用するものの、その免疫力が低下したときに感染するとむしろ重症化するといわれている。近年、地球温暖化や都市化の影響から、流行地において例年よりも多い患者数が報告されており、ウイルス株の変化にも注意をしておく必要がある。国内でも2014年に70年ぶりに国内で感染したと思われるデング熱の発生がみられた。のちの解析によって、代々木公園で開かれたタイフェスティバルに関連して、不顕性感染者が土着のヒトスジシマカに吸血を受け、感染力を獲得した蚊によって感染が拡大したものと思われた(図8)7)

図8 2014年の国内で感染・発症したデング熱の発生状況(加來浩器,医療インバウンドにおける課題 受け入れ外国人増加に伴う感染症対策,特集インバウンドに備える,診断と治療,108(7),873‐879.)

5 マラリア

マラリアは、夜間吸血性のハマダラカによって媒介される発熱性の原虫疾患である。原虫の種類は5種類(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、サルマラリア原虫)あり、潜伏期間、臨床経過、予後が異なっている。この中で、熱帯熱マラリアは診断・治療が遅れると重症化し、死亡することがあるので注意が必要である。2001年には流行国の数が108国、有病者数が2億5,000万人、死亡者数89万人であったところ、マラリア対策が順調に進み、2019年には流行国の数は87国、死亡者数が57万人まで減少していた。しかし、新型コロナウイルス感染症の発生によってマラリア対策が中断したことにより、有病者数が2億4,700万人、死亡者数62万人に増加している。さらに近年の媒介蚊の生息域の変化によって、新規にマラリアが流行、または増加した国々がある。アフリカ角と呼ばれるアフリカ北東部に位置するジブチでは、2013年頃から南アジアで生息していたハマダラカの種であるAn. stephensiが定着し、それによって熱帯熱マラリアの大きな流行がみられるようになった(図9)。国内での輸入症例数は、例年50例であるが、新型コロナウイルス感染症による渡航制限のためほとんど発生をみない状態が続いた。今後は、インバウンドの増加に関連して国内各地で、マラリアの患者を診る機会が増えるものと思われる。

図9 ジブチにおけるマラリアの流行状況 (Gideon infectious disease より)

大規模災害やバイオテロなどの発生時の対応

2024年8月8日、宮崎県で発生した地震に関連して気象庁は、南海トラフ地震の可能性が一段高まったとして「臨時情報」を発表した。今後とも巨大地震の発生に備えた対応が必要となる。万博会場では、大規模災害やバイオテロなどの発生時において交通機関の麻痺による帰宅困難者や、宿泊施設の閉鎖などによる混乱が予測される。一時避難所では、さらなるマスギャザリング状態となるために3密状態となり、感染リスクが高まる。
大阪・関西万博は、国際的に関心が高いイベントであるために国際テログループによる恰好のターゲットとなりえる。テロには、明示的攻撃(Overt Attack)と秘匿的攻撃(Covert Attack)の場合がある。明示的攻撃の場合には患者の除染、予防内服、健康観察などの措置が取られるが、秘匿的攻撃の場合には潜伏期間後の散発的な発生による気づきで探知されるため後手に回る可能性が高い。すなわち患者の発生が確認された場合には、すでに多くの被害者が存在していることになる。いずれの場合も、のちには医療機関に患者が殺到し、医薬品、検査試薬の不足が予測される。

インバウンド医療を行う際に共通して注意すべきこと

海外では、国内でみない薬剤耐性菌が出現しており、有症者はもちろんのこと、無症状保菌者となっている方も多く存在していると考えられる。邦人であっても海外渡航歴があり、当地の医療施設を利用したことがある人は、無症状保菌者となっている可能性を考慮して、感染対策を行うことが重要である。

おわりに

医療の最前線である病院、診療所においては、本稿で取り上げた疾患だけでなく、海外各地での流行状況についてアンテナを高くし、国、自治体、医師会などからの輸入感染症に関するニュースについては、必ず目を通すよう気を付けてほしい。しばしば、初発症状は発熱、倦怠感、食欲不振といった非特異的症状であることが多く、のちの経過で特徴的な発疹が出現してくることがあるので、継続して診察する体制が重要である。各種感染症を病原体ごとでなく、症候群別にまとめて、潜伏期間、特異的な症状、ワクチンの有無、必要な感染対策などをまとめておくと便利である。

参考文献

1)トラベルボイス. 万博2025を軸にしてインバウンドの地方への誘客を図るには?. https://www.travelvoice.jp/20231106-154544. Accessed August 11, 2024.
2)厚生労働省. 麻疹風疹予防接種の実施状況, https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html. Accessed August 11, 2024.
3)WHO, Global Tuberculosis Report 2023, https://www.who.int/teams/global-tuberculosis-programme/tb-reports/global-tuberculosis-report-2023. Accessed August 11, 2024.
4)公益社団法人結核予防会結核研究所 疫学情報センター,年報 2022 令和4年結核速報集計結果について, https://jata-ekigaku.jp/nenpou/. Accessed August 11, 2024.
5)米国CDC, Cases of meningococcal disease are increasing in the United States, https://www.cdc.gov/ncird/whats-new/meningococcal-disease-cases-increasing-us.html. Accessed August 11, 2024.
6)国立感染症研究所. 大規模国際イベント開催時における予防接種‐東京2020オリンピック・パラリンピック競技会で医療に従事する医師等を対象とした髄膜炎菌ワクチン接種, IASR, https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2567-related-articles/related-articles-509/11334-509r03.html. Accessed August 11, 2024.
7)加來浩器, 医療インバウンドにおける課題 受け入れ外国人増加に伴う感染症対策, 特集インバウンドに備える, 診断と治療,108(7),873‐879. https://doi.org/10.34433/J00697.2020331345. Accessed August 11, 2024.

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